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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
おとぎ話
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97話 銀と吸血鬼

戦いの後の静かな時が訪れる。勝ったはずなのに胸騒ぎがしてしょうがない。


「……」


スカルは無言、とにかくなにも喋らない。視線はどんよりとした空に向かっていた。


「ねぇ、なにかあったの? 」


「あぁ……悲しいことがある。場所を変えようか」


彼が指を鳴らすと私たちはどこかの平原にいた。周りにはとにかくなにも無く、まるで世界には私とスカルしかいないようだ。


「……結論から言うとね、もうさよならなんだ」


「えっ……どういうことよ? 」


さよならという言葉、それを聞いた時胸が締め付けられた。


長髪のまま、不穏な魔力のままなことに不安が募る。ズキズキと痛くてたまらない。


「元々この力は諸刃の剣でさ、使うほど理性が持ってかれて吸血鬼になっていっちゃうんだ」


「あ……あぁ……」


「僕自身今までかなり戦ってきたから、かなり危ない状態まできてたんだ。そして、さっきの戦いでこれを使っちゃったからもう人間の部分なんて全部持っていかれちゃった」


スカルは振り返らない。私を思ってなのか、それとも……


「ごめんね、メルさんにこんなこと頼みたくないんだけど……君になら殺されてもいいから」


振り返ったスカルからは大粒の涙が流れていた。


いつもよりも紅い真紅の瞳が、白銀の長髪が、最期の優しい表情(かお)が……私の目に焼き付く。


「殺してくれ……」


その言葉を最期に、スカルは死んだ。



「やぁぁ! 」


そこから先は地獄だった。スカルを傷つけたくないという思考とは裏腹に、躊躇すれば殺られるという現実がのしかかってくる。


彼の魔術を、体術を、魔眼をなんとかやり過ごす。


「動くな」


スカルだったものが目に魔力を集中する。短い言葉の中に不穏なものを感じ取って、咄嗟に後ろをとる。


すると黒い狼などの動物が襲い、下から影の針が伸びてくる。


その一瞬、普段なら避けるであろうそれを、その時は別の方法をとった。


「っ!? 」


見えるは銀の光、私は全てを斬っていた。


「……厄介だな、天使」


「スカルの姿で形で言葉を話すな……彼を穢すな」


「俺もスカルだ。止めたくば殺せ、でなければ俺がお前を殺す」


男の言葉に酷く苛立ちを覚えた。今ここで殺さないと駄目だ……迷いを捨てろ……


剣を握る手に力をこめる。これ以上スカルを苦しめてはいけない。


「あいつは最後までお前のことを気にかけていたな……あいつに会わせてやる、あの世でな」


「いい加減口を閉じろ吸血鬼、私はお前を許さない」


男は、私の怒りをやれやれと受け止める。


「お前はなにもわかっていない。俺のことも、俺たちのことも」


「どういうこと……? 」


「俺はあいつの別人格だ。吸血鬼の本能が混ざってはいるがな。そして俺たちは呪われた存在だ……愛そうとするな、破滅するぞ」


男は淡々と語っていく。全てが真実であると訴える。


「全てはあの男の仕業だ。あいつのせいで俺は……」


男の目は鋭さを増していった。なにかを憎んで仕方がない様子だ。


「フォルメル、お前には2つの選択肢がある。俺を殺すか、見逃してここから去るかだ」


「なに言ってるのあなた……? 」


「俺を殺すなら好きにしろ。スカルは戻ってこない、その怒りをぶつけるにはちょうどいいだろう。

怒りがあってもこの体を傷つけられないのであればここから去れ。俺はこれから決して少なくない数の人を襲うだろう……だが、その代わり始祖を殺すことを約束しよう」


「なんなの……その二択」


殺すか見逃すか、その二択をせまられる。確かに私はスカルだったその体を傷つけたくない、だがスカルをのみ込んだ目の前の男は許せない。


なんで、こんなに窮屈な道しかないんだろう……もっと広い視野からの方法もあっていいはずなのに……


「助けるってことはできないの? 」


「無理だ、スカルは消えた。それに、俺を助ける選択肢はないだろ」


「それはあなたにとっての最善でしょ? 私からだったらあなたを無力化したあとでスカルを取り戻す方法を探るわ」


スカルが消えたといっても、あらゆる方法を全て試したわけじゃない。もしかしたら戻ってくるかもしれない。だったら殺さないように無力化する。


「そうか……だったら戦うしかないな。俺はもう血の衝動を抑えられない……下手に戦うとお前が死ぬぞ」


男の魔力がどんどん不穏なものに変わる。さっきよりも吸血鬼の力が増している。


「本番ってわけか……これ、最悪死ぬかも」


アンドラスを簡単に倒したあの力より強いことがビリビリと伝わってくる。


でもスカルのためにやるんだ……


空は依然、今にも泣き出しそうなほど重い表情をしていた……




男の攻撃はとても激しく、捌くので精一杯だ。影から飛び出した黒い動物が強力な魔術が私を殺そうと牙を剥く。


「くっ……負けるかぁ!! 」


対する私は相手の攻撃を必死に捌く。斬って躱してまた斬って……どうにかして死の手から逃れる。


今これほどまでに耐えられているのは、銀の光が見えているお陰だった。そこを斬ると魔術は魔力の残滓となって消え、避ける男の皮膚に傷をつけることができた。


これは一体なんなんだろう……今はそんなこと考えてる暇はないけど、あとでちゃんと調べよう。


安堵する時間なんて一瞬もなかった。極寒の冷気が、体を食い荒らしにきた雷撃が、圧殺しようとする影の動物たちが、次々に私に襲いかかる。


だが、私の体は勝手に動いていた。今までで一番の流麗な剣技。全てを斬り伏せる。


「……」


男はひたすら無言で術を行使する。


この感じ……空間凍結ね。普通なら厄介だけど、今なら問題ない。


「ふっ、」


凍結のタイミングに合わせて剣を振る。そうすると、派手な音とともに魔力の残滓が霧散する。


空間ごと斬ったのだ。今の状態なら大抵の魔術を封殺できる。あとは、どうやって無力化するか。


斬ったら死んでしまうだろう……じゃあどうすれば……


無力化の方法を考えていると、男が特大火力の魔術を展開する。


あれは斬れない……でも、あれだけの魔術なら準備に時間がかかるし、詰めれば止められる。


私は地面を蹴ってものすごい速度で男との距離をゼロにする。


だが、男はそれを待っていたかのように空間凍結と影の針で対抗してくる。


そうくるか、でも対応できないわけじゃない……魔術を斬れば……


「……待ってた」


男からの言葉を聞いて全身の血の気がひく。なにをするつもり……?


その半瞬後、私は男を斬りつけていた。なぜか魔術を引っ込めた男の体には、再生することのない傷ができてしまった。



私は……彼を殺めてしまったのだ……

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