96話 解放
人が滅多に寄り付かない広大な地下墓地、そこでは人知れず人外の戦いが繰り広げられていた。
「やぁ!! 」
私が剣を縦にまっすぐ振り下ろすと、とてつもない風圧とともに相手の魔力障壁を斬る。
「面白い、『爛れろ』」
「させない、『壊れろ』」
アンドラスは呪いのような魔術を行使するが、スカルがすぐさま打ち消す。
そしてお返しとばかりに氷結地獄を顕現させる。
「ふはは、」
アンドラスはそれに臆することもなく、灼熱地獄で相殺する。
冷気と熱気がぶつかり合い、一面真っ白になる。爆発にも似た衝撃がこの場を襲う。
「そこっ! 」
キラッと光った白銀の光を叩き切る。視界不良は一気に晴れ、私の攻撃によって吹っ飛ばされたなにかが壁に激突する。
「ふふっ、なかなかやるね……」
アンドラスはゆっくりと立ち上がる。その顔はまだまだ余裕そうで、ダメージはあんまりなさそう。
「あまり出したくはなかったが仕方ない……『汝の絶望のために私は唄おう・鴉とともに』」
アンドラスがなにかを唱えた次の瞬間、まずいと本能が訴える。
増幅する魔力、黒く変化していく羽に体。威圧感は増大し、魔王を連想させた。
鴉の頭、真っ黒な羽、手に握るは長く鋭い剣。ソロモン72柱のアンドラスが本気になった瞬間だった。
「これがアンドラスとしての真の姿だ! さぁ蹂躙してやろう、貴様らの希望も絶望も全て! 」
「やはりそういうの隠してたか。メルさん、僕が前に出るから援護お願い! 」
「えっちょっとそれ役割逆じゃない!? 普通は私が前だし、それに私は魔術の適性がないからろくなもの使えないんだけど」
私はなぜかことごとく魔術と縁がないらしく、魔力錬成と魔力障壁、身体強化しか使えない。
「えっそうなの!? ……それじゃあ一緒にいくよ! 」
「えぇ、そっちの方がしっくりくるわ!! 」
私とスカルは逃げることなく力を解放したアンドラスに向かっていく。
だが、
「その程度で勝てると思ったか! 」
アンドラスが手に握る鋭い剣のひと振りで私たちは吹き飛ばされる。
「なんて馬鹿力よ。あれどうにかして抑えられない? 」
「無理かな……抑えようとしたらそこに全ての力を注がないといけないし。あと確かあいつは眷属として狼を召喚できるんだ。それもかなり強いやつ」
「これのことか? 」
アンドラスは凶暴そうな狼を何匹か召喚する。魔力量が凄まじい……これは厄介そう。
「……『突き立て』」
スカルの詠唱によって影がいく千もの針となって彼らを貫く……はずだったのだが、アンドラスが押しとどめているため無傷だ。
「やっぱり効かないか」
「……行け」
狼たちはとんでもない速さで襲いかかる。私の体は無意識的に動く。
弾けるように動いた腕は狼を二つに斬っていた。狼の体の、銀色の光がキラリと光る箇所、そこに斬撃をいれると瞬時に消滅する。
「なんだと!? まさか『紫電』お前はあの境地に…… 」
「知らないわよ」
キラッと輝いたそこに剣を振るう。アンドラスは間一髪というところで持っていた剣を間に合わせて受ける。
「ぐうぅ、フォルメル! 私を殺していいのか!? 私はお前の仲間だったんだぞ!! 」
「確かにそこで迷ったわよ。でも、あなたを殺さないことの方が問題なのよ! あなたは罪のない誰かを殺す、自分の欲の為に……そんなことは天使である私がさせない!! 」
1センチ、2センチと剣を押し込む。いける、今なら殺れる。
「そっそうか……なら、」
フッとアンドラスの体は消える。
「死ぬしかないな! 」
気づけば後ろに回っていたアンドラス。速い、幻術……じゃない。
「くっ……」
私は彼の剣をギリギリ受け止め……られない。私の防御の隙間を縫ってくる濃厚な死を、青白い魔力障壁が受け止める。
火花が散ってものすごい風圧が一直線に駆け抜ける。
「スカルか……」
「言っただろ、彼女を殺したかったら僕を殺してからにしろって。……本気でいくよ」
スカルの言葉になにか違和感を感じる。据わりながらも時折悲しそうな輝きを見せる目のせいだろうか。
スカルは自分を傷つけて血を流すと、自分の腕に血の文字を書いていく。
私はその行動にある種の恐怖を感じた。
「スカル! それをやって大丈夫なの!? 」
「大丈夫、ただちょっと本気を出すだけだから」
スカルは私に向かって優しく微笑む。次の瞬間、
『我は人の子であり吸血鬼・それでも、それだからこそ我は不完全・心の奥底は鎖に囚われ・護りたいものは目の前にあり・故に、その為なら捨てさろう・今こそ鎖を全て引きちぎらん!』
詠唱とともにスカルの力がどんどん増していく。それと同時に不穏な魔力も高まる。
彼の銀髪はのび、どんどん別人のような雰囲気に変わっていく。
「それが君の本気か、素晴らしい! それをズタズタにした時にはどんな快感が襲ってくるのだろう……考えただけで鳥肌ものだよ!! 」
「この状態になると手加減はできない。無惨な死だけは覚悟しておいてくれ」
スカルは言い終わると同時に消える。
その半瞬後、アンドラスが壁に叩きつけられる。半瞬前、アンドラスがいた場所にはスカルが正拳突きの構えで残心していた。
「ガハッ、なんて力だ……流石にガープを圧倒できるなこれは……認めよう、君は強い……だが、」
アンドラスは私の方を一瞥すると、黒い剣を何本か飛ばしてくる。
スカルは影で剣をつくり、真一文字に振り抜く。すると黒い剣はバラバラに砕ける。
「馬鹿め、本命はこっちだ! 」
アンドラスは私に向かって狼五匹と神速の斬撃を放つ。
速い……けどなめるな……銀の光は見えてる。
今の私には斬るべき箇所が完全に見えていた。銀の光はさっきより強く光っている。
交錯の後の一瞬の硬直……残心する私に対して、アンドラスたちからは血が吹き出す。
「な……に……」
「炎槍、『復讐の炎』」
スカルは追い打ちとばかりに魔術を放つ。地面から伸びる炎の槍がアンドラスを突き刺すと、大出力の爆発が上に向かってのびていく。
あまりの威力に地下墓地の天井がなくなってしまう。上からは外の光が差し込む。
とは言っても生憎の曇り空で、今にも泣き出してしまいそうな空模様だが。
「はぁ……はぁ……これだけの火力を一瞬で……」
「年貢の納め時だ、アンドラス」
スカルはアンドラスを油断なく見据える。アンドラスはかなり弱っているし、これは誰が見てもスカルの勝ちだろう。
「やはり君は強いな……だからこそ、君はシースターなんだ。もう、もたないだろ? 」
「『五月蝿い』」
スカルは銀の剣を創り出し、四方八方からアンドラスの体に突き刺す。
「ガハッ、僕の負けだけど……恐らく僕の勝ちだ……」
アンドラスは、最後にそれだけ言い残すときれいに消えてしまった。
だが、まだ空は重たい曇り空だった……




