95話 偽物
私は結局どちらにも疑念をもってしまった。ライさんはよくわからないところがあるし、スカルが本物であるという証明ができない。
「ライさん、さっきのことは本当なんですか? 」
「もちろん本当です。こんな時に嘘つくわけないじゃないですか」
念の為に確認をとってみるが、いつもよりも真剣な眼差しを向けられてしまい、本当と捉えるのが正解だと思えてしまう。
「メルさん、もうすぐ着くよ」
「えぇ、わかったわ」
あの情報のせいか不自然になってしまう。ぎこちなく見えていないだろうか。
私たちは目的の地下墓地にたどり着く。街の隅にある地下への階段を降り、そのまま道なりに進むと着くようになっている場所だ。
この場所は広大で、街の地下の7分の1ほどを占めているらしい。
墓地ということもあり、静謐な雰囲気が漂っている。今のところ悪霊の気配はないわね。
「ここに手がかりがあるかもしれないね。早速探してみようか」
「そうですね、スカルさんのお手並みを拝見させていただきます」
「そんなに期待されても困りますね。僕は別にそこまで大層な存在ではないんですけど……」
スカルは地面に手をつき、魔力痕を探しているようだ。私もなにか探さないと……
とはいえ、あるのはお墓ばかりで特に気になるものはない。
もう少し奥へ行ってみよう。
「フォルメルさん僕も行きますよ。なにがでるかわかりませんから」
「……別に大体の敵は私一人で対処可能ですけど。……あなたはここに残った方がいいのでは? 彼が偽物なら見張りが必要でしょう」
「確かにそうですね、じゃあなにかあったら伝えますよ」
ライさんはニコニコ顔で見送ってくれる。
今は1人の方が楽だ。2人を疑いすぎるのはよくない。それはわかっているのだが、ふとした時に湧いてくる。
「早くこの事件を解決しなきゃ。片方を片付ければもう片方に集中できる」
たとえスカルが偽物でも、事件解決を優先しよう。偽物だったら邪魔してくるだろうし。
地下墓地の奥を進むが、特に異常はなさそうだ。ほんとに手がかりがあるのかしら。
「ぐあぁ!! 」
「っ!? 」
ライさんの叫び声が聞こえる。まさか悪魔が来たんじゃ。
急いで彼の元へ戻る。魔力剣を錬成しておきいつでも戦えるようにしておく。
「ライさん!! 」
最初の地点に戻ってくると、そこには衝撃の光景が広がっていた。
血の水たまりに沈むライさんの傍に、血でローブを汚したスカルが立っていた。右手からはライさんのと思われる血が滴っている。
それを認識した瞬間爆ぜるように動く。
ギィン! 剣が甲高くなく。私は躊躇なくスカルに剣を振るっていた。
「スカル、ライさんになにをしたの!! 」
「ちょっと待って、これをやったのは僕じゃない! 話を聞いてくれ! 」
「話ってなに!? 状況から見てもあなたしかいないじゃない!! 気配もしなかった、魔力も感じられなかった、それなのに第三者がいたとでも!? 」
「僕もなにが起こったかわからないんだ。急にライさんが攻撃を受けて……僕はたまたま位置が悪くて返り血をもらっちゃったんだ」
スカルはそう言うが信じられない。私の中でもやもやした気持ちがどんどん大きくなる。
「あなたは何者なの!? 」
「僕はスカルだよ! 」
「そう……教える気はないのね。だったら殺して剥ぐ」
私はスカル? を睨みつけて戦闘態勢をとる。相手を本気で殺す気でいく。慈悲を持ち合わせている暇はない。
私は相手の喉元に神速で詰め寄った。相手の首を刈ろうと剣を振るう。相手にはギリギリで避けられ、魔術で距離をとられる。
「上等……スカルと偽ったことを後悔させてあげる」
私は偽物を殺すためにすぐさま駆け出した。こうなったら放たれた矢のように止まらない……
「えっ……!? 」
私が次に見た光景は予想と全く違うものだった。偽物の死体でも、私の死に様でもなく、スカルがライさんに向けて指をさしている光景だった。
私の目の前でギラりと光る剣の切っ先が、空中で止まっている。
「なにが……起こってるの? ライさんは死んだんじゃ……? それに……これは……」
「あっメルさん起きた? まぁ……してやられたよ。さっきまで僕もメルさんも幻術にかけられていたんだよ。それぞれ相手に対しての疑念が振り切れずに戦うって悪趣味なものがさ」
スカルの言葉が上手く呑み込めない。なんでそんな幻術をかけられたの……?
混乱する私をよそに、スカルが剣を遠くへ飛ばし、話を続ける。
「目的は僕たちの排除、幻術の内容と今の姿を鑑みるに思いあたる人は1人しかいないんだよね……」
「……」
「流石に悪趣味としか言いようがないぞライさん、いやっ……ソロモン72柱が1人、アンドラス」
「……やっぱり『反逆鬼』を騙すのは難しかったか……」
ライさんは喉で笑うと、子どものように反省を一つ一つ語っていく。
「『紫電』は殺れると思っていたのだが失敗、まさかここまで早く幻術が解かれるとは」
「ライ……さん? 嘘……ですよね? 」
「まぁ、君のその顔が見られただけよしとしよう」
ライさんからおぞましいほどの闇が溢れ出る。明らかに前に戦ったソロモン72柱とは違う。
「いかにも、僕がソロモン72柱、アンドラスだ。アンドロマリウスとは一緒にするな、あいつはそこまで強くない」
「あなたが悪魔なんだったらなんで天使の羽が生えてるの……? なんで……私たちと一緒に生活を……」
「簡単だよ、僕が堕天使だから羽がある。隠蔽魔術を使ってるから黒くないんだけどね。あと一緒に生活してたのは個人的な趣味だよ」
ライさん、もといアンドラスは楽しそうに語る。
「僕はフォルメルさんのような美しいものをズタズタにして殺すことに快感を覚えてしまう質でね。あの快感はたまらないんだ、美しいものを自分の手で壊してしまう感じ、癖になる」
「これはメルさんをおびき寄せるための罠だったってことか? 」
「まぁそんなところだよ。でもまさか君まで来るとはね。スカル、僕には同族の仇なんてどうでもいいけど、君も壊してみたかったんだ。だから殺すよ」
今まで接してきたライという人物はただの偽物だった。本物は、堕天使で、壊れている私たちの敵だ。
「……ずっと、騙してたんですか? 私も、みんなも……」
「騙すつもりはなかったよ。でも正体を明かしたら君たちは僕を殺す……だから仕方なかったんだ」
「ふざけないでください! あなたとは、少なくはない数の任務を共にしてきました……辛かったことも、くだらなかったことも……全部嘘だったんですか!? 」
「嘘ではないよ、あれは紛れもない真実だ。君が今感じているのは、本当の立場をわかってしまったからこそ生じる錯覚だよ」
ライさんの言葉に嘘はないと悟る。それでも、怒りとよくわからない感情が混ざりあって戦いに踏み切れない。
「メルさん、辛かったら下がってていいから。僕がやる」
「いいね、やろうか」
私は……敵を目の前にしてなにをやってるの……スカルにも心配をかけて……思い出はあるけど相手は敵、だったら剣を、振らないと……
「大丈夫……私もやる」
「メルさん……辛かったら言って。無理しすぎることはないから……」
スカルは私の手を握ると、辛そうな表情で訴える。
「ほぅ……スカル、まさか君は……」
「アンドラス! メルさんを殺したかったら僕を殺してからにしろ! 君は絶対殺す」
「いい……いいぞ! その殺意、その表情、癖になる。あとは壊すだけ……楽しもうか!! 」
アンドラスは心底楽しそうな表情で魔力を解放する。
今ここに、戦いの火蓋が切って落とされたのだった……




