9話 行事のすきま時間ってわりと楽しいよね
行事のすごいところというのは合間の時間でさえいつもとは違う高揚感が漂っているので、楽しくて心に残りやすい。今回のクラスマッチの昼休みでもこの事が当てはまる。
クラスマッチも午前がすぎお昼になる。
昼休みは皆いつもよりも賑やかだ。まるで競技の時の熱気をそのまま引き継いでいるかのように。教室では男子が主に騒いでいた。
「ふぅ、疲れたね~。あっ和人くんもご飯を食べに来たの?」
俺はいつも通りに部室にご飯を食べに来たら、そこには冬といつもはこの時間いない千華がいた。
「あぁ、いつものように食べに来た。」
「そういえば、和人くんと冬はいつも一緒に食べてるんだよね?私は他の友達とお昼食べてるから冬と一緒に食べられないんだ……ほんとにごめんね?冬。(私だって冬とご飯毎日食べたいんだけど……)」
千華は冬に申し訳なさそうな声で謝罪する。冬は「気にしないで」と言いそうな雰囲気で首を横に振る。
(それだったらここで食べればいいんじゃないか?)
そんなことを思いながらいつものように冬の隣に座り、お弁当箱を開く。
(はあ?あんたそれ本気でいってる?確かにそうした方が私も幸せだし冬の安全も守れるけど、そうしたら私の立場上駄目なの!わかる!?)
(正直そんなわからん。確かに千華の一般的な印象って言ったら皆に優しい聖人って感じだけど……それと何の関係が?)
(関係大有りなの!私は皆に優しく、できるだけ平等に接しないといけないの!仮にもし冬と私の友達を一緒にしても、冬は人との関り合いが苦手だし心の負担になっちゃうの。逆に、冬と一緒に食べ過ぎても友達に嫌われるかも知れないし……)
(なんでお前ちょっと可愛いんだよ。あと人間関係に関してはビビりなの?)
(……はあ?ビビりで何が悪いわけ?私は能力上何もしてなくても人の心がわかるの。だから慎重に行動しないといけないわけ。
てかあんた可愛いってなによ!?私を口説こうとか身の程をわきまえなさいよ死ね!!)
(ひどくね!?)
千華は俺に対しては容赦がないが、他の人に対しては結構慎重なようだ。
(てかそんなに人間関係で悩んでるならなんで皆に優しくしてんだ?)
(そんなの私が気持ちいいからに決まってるでしょ?自己満足ってやつ。)
(自己満足って……理由がわりとしょうもない気がするんだが?)
(私にとってはしょうもなくないの。実際私は心の声が聞こえるわけだし、私にとっての悪い情報はできるだけなくした方がいいの。
そうするには皆に優しくして聖人キャラを演じるのが手っ取り早いって思ったからやってるの。
結果的にノイズは全然ないし、むしろ気持ちいい環境音が増えたしね。)
(ノイズって……まぁなんていうか……苦労してるんだな。後でなんか奢るよ、何がいい?)
(ふーん、それならブラックコーヒーとチョコでも買ってもらおうかな。)
(はいよ。)
なにはともあれ、千華が皆に優しくしている理由や悩みがわかってよかったと思う。俺にはなぜか千華の声はときどき漏れてるわけだし。たまには愚痴くらい聞いてやろ。
「やっほー、皆お疲れー!」
「葉月先輩、まだ睦月来てませんよ。」
「また屋上にいるんすかね?」
ご飯を食べていると不意にドアが開き、葉月と秋穂と花火が入ってくる。
急にどうしたんだ?と思っていると、
「遅くなりました~。コンビニが少し混んでたもので。」
睦月が商品が入ったレジ袋片手に入ってきた。
「よし、全員揃ったね。それじゃあ皆でご飯食べよう。」
「いや急にどうした?」
ご機嫌な葉月に対して俺は頭の上に?がでている状況だった。
「どうしたって……せっかくクラスマッチで盛り上がってるところの昼休みなんだし、皆でお昼食べようと思って。LINEでも送ったんだけど見てなかった?」
葉月がそう言ったので急いでスマホを開く。まじできてた。
葉月たちは俺達の向かい側に座り、それぞれのお昼ご飯を取り出す。葉月と秋穂は弁当で睦月と花火はコンビニ弁当だ。
睦月と花火は交互に電子レンジを使って弁当を温めている。なにげに皆でこうしてお昼を食べるのは初めてだな。
「いや~部室っていいですね~冷房あるから涼しいですし快適ですし、最高です。」
秋穂がハンバーグを飲み込んで言う。
「それはわかるな~。この部室ってなんとなく居心地いいからつい長居しちゃうんだよね。」
「そうなんです。それに結構いろんな物が置いてあるからわりと色々できますし楽しいんですよね。」
秋穂の言葉を聞きながら、俺は部室を見渡す。確かにこの部室には電子レンジや電気コンロ、小さめの冷蔵庫、薄型テレビ、サイクロン掃除機、本棚、しっかりとした作りのテーブルに今俺達が座っている四人がけのソファが二つと色々家具がある。家具以外だと段ボールに入っている小物がある。ここほんとに色々あるな。
「なあ葉月、そろそろ整理した方がいいんじゃないか?」
俺は葉月にジト目でそう言って、なぜかキッチンスペースに置いてある物に目を向ける。それは某ロボットアニメの緑色の量産型のプラモデルであった(しかも二体)。しかもなぜかポーズをきめているのがなんか腹立つ。
「特にあのプラモなんとかしようぜ?てかあれ誰のだよ?」
「ちょっそれ私のですよ先輩!捨てないでください!」
「いや秋穂、お前のかよ!」
「正確には睦月のです。私がもらって組み立てました。」
「睦月お前もかよ!?」
「まぁ買ったのは俺ですけど、あげてからは知らなかったです。あれだって葉月先輩がやったものだと思ってました。」
「私急に馬鹿にされた!?」
「とにかくあそこには置くなよ……置くならせめて他のところにしてくれ。」
「まぁ確かにそうですね。それじゃあテーブルに置きます?」
「そこも邪魔になりそうだからやめてくれ。」
秋穂は腕を組んで「むむむ」っと唸っている。てかどんだけあれ置きたいんだよ。
「それにしても睦月はすごかったみたいっすね。なんでも卓球の個人戦優勝とか。」
今までご飯を頬張ってろくに会話に参加できていなかった花火が、食べ終わってようやく口を開く。
「そうなのか?すごいなそれ。」
「当然の結果なので俺はあんまり嬉しいとは思ってないですね。むしろ退屈でした。」
睦月はため息をこぼして言った。実際、睦月は運動神経いいし、勝てて当然と思ってるんだろうな。
「俺は和人先輩と久木野瀬さんの野球が見たかったです。見たかったけど相手が長引かせるもんで見れなかったです。」
「なんで和人の試合なんて見たかったの?」
「だって、和人先輩の実力がどれ程の物か単純に気になったので。」
「だってさ和人、よかったね。」
「それは素直に喜んでいいのか?なんか戦闘に引きずり込まれるものじゃないのか?」
「まさか。今はそんなことしませんよ……今は。」
「それいつかはやるってことだよね!?」
やばいな、この後輩と戦ったら負けそうなんだけど。てか戦闘なんてしたら平和な日常から大きくずれる気がする。
「あと、葉月と花火ちゃんもすごい勝負だったって聞いてるけど。」
これからの先行きが不安な俺をおいて、千華が話を進める。
「確かにあれはいい勝負でした~。花火と葉月先輩はどちらも一歩も退かずに最後まで白熱した試合をしてましたよ。結局花火のクラスがギリギリ勝ったんですけどね。」
「確かにあれは悔しかった~すっごい惜しい試合だったんだよ。和人は見てないから分からないだろうけど。」
「そうだったんだな。俺も見たかったかも。」
実際花火と葉月はどちらもかなりの実力者なので、勝負はどっちが勝つか分からないところがあった。
「それにしても和人、あんたこそいいプレーしたってうちのクラスの子から聞いたよ。あんたなんだかんだ言ってちゃんとやったのね。」
「まぁ……そうだけど……。」
改めて今日のプレーのことを言われると少し照れくさい。
「私と冬は二回戦からしか見てないから、和人くんのすごいプレーを見れなかったのは残念だなぁ。」
「………」(すごく見たかったという眼差しを向けてくる。)
「和人今日を境に周囲の印象変わるかもね。」
「そんなに急に印象って変わるもんか?」
「案外急に変わるもんよ、人の印象って。」
葉月はふふん、と鼻を鳴らしている。俺がふと視線を横にすべらせると、冬は少し慌てた様子でいた。冬のやつどうしたんだ?
「もしかしたら和人くんに彼女ができたりするかもね。(てかとっとと冬以外のやつと付き合え“バ和人”!)」
「いやそれはないだろ。(無駄にごろよくすんな!)」
「えーわからないよ?和人くん優しいしかっこいいから簡単にできちゃうかもよ?(冬以外、ここ大事。もし冬と付き合ったら……覚悟しなさいよ?)」
千華はいたずらっぽく笑い、俺をからかう。
「あんまからかうなよ千華。(いや怖えーよ。)」
(てかあんた顔はいいんだから彼女の一人でもつくったら?もちろん冬以外で。)
千華にそんなことを脳内におくられながら、俺は話を変えようとする。
「そういえば、せっかく皆で昼休みに集まったわけだし、何かやらないのか?例えば写真撮影とか。」
話の内容としてはベタだがせっかく集まったので、何かやるぐらいはいいだろう。
「ふっふっふ、そう言うと思って用意してるんだなこれが!」
葉月は俺の疑問に対して明確な答えをもっているようだ。なんかすごい嬉しそうだし。頃合いをみて提案する気マンマンだったんだろうな。
「秋穂ちゃん!」
「はーい、カメラー。」
「三脚ー。」
そして、次の瞬間、秋穂と打合せしていたのか、バカっぽい言い方でカメラと三脚をだす。
「用意いいな……どっから持ってきたのそれ……」
「カメラは秋穂ちゃんの私物だよ。三脚は写真部から借りてきた。」
「ほんとよく借りれるな。」
葉月は顔がひろいし人気なので、他の部から借り物をすんなりできてしまう。
「それじゃあソファのところで撮ろうか。」
「いいですね。二年生が前で一年生は後ろですかね。」
写真を撮るために配置につく。俺と葉月はどうやら真ん中らしい。俺の右隣には冬がいる。
「なんで俺真ん中なの?」
「まぁいいからいいから。」
カメラのセッティングが終わると、セルフタイマーを起動して葉月も急いでソファに座る。
「ほら和人笑って。」
「痛だだだだ、ほっぺを引っ張るなよ!」
「あだだだだ、和人こそなんで私のほっぺを引っ張るの!?」
「お返しに決まってんだろ!」
「はははっ、二人ってほんとに仲いいですね。」
「私も混ざっていいっすか?」
「花火、もうすぐ撮れるから一旦待って。」
パシャ
「「あっ……」」
部室での記念写真の一枚目はとんでもなくグダグダな感じで撮れてしまった。カメラから確認するが、カメラの方を向いていたのは誰もいなかった。
「おい、これどうする?撮り直すか?」
「まだ時間あるしもっかい撮ろうか。」
「今度は配置自由でよくないですか?」
ということで次は好きな配置で撮る。これは長引きそうだな……
__七月の上旬のこの日、暑さとしてはまだまだだが、クラスマッチという行事の熱気は八月の夏本番のような熱をはらんでいた。
その行事の途中のひと休みの時間、冷房のきいた部屋で行った写真撮影という取り組みは時間ギリギリまで続く。
あのものは笑顔で、あるものは他の人にちょっかいをかけにいく。
途中から全員ではなく、数人で撮り始めたりもする。
写真としてはどれもそれほど締まらないものだが、なんというか、五年後か十年後か分からないが、いつの日かにふとその写真を見たらひどく懐かしくなるようなものだった。
まるで、どんなに離れていようが、どんな時でも、俺達はずっと繋がってると言っているような…………




