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88話 金の弾丸

結論から言って彼女は人間の手に負える相手じゃなかった。一つ一つが強大で、強烈で、なおかつ美しいと思えてしまう。


「はぁ……はぁ……」


全力ではないのに彼女の攻撃を捌くので精一杯だ。


既に体はボロボロで、愛用の短剣も折れて、今や彼女の皮膚1ミリをも切り裂くこともできない。


(銃弾も術も効かないし、本格的に不味い……)


このままやっても絶望的な最期を迎えるのは想像にかたくなかった。


それでも……まだ諦めるわけにはいかない。


「あなた、殺すのがもったいないわ。この状況でもそんな目をできる人なんて滅多にいないもの。」


「だったら大人しくしてください。」


「でも、それでも邪魔をするのなら殺す。」


彼女はまっすぐに殺意を向けてくる。空気がピリピリして今にも逃げ出したくなる。


「ねぇ、最期に教えて……どうしてそこまでできるの?」


そんなの……ずっと前から決まっている……


「だって私はお姉ちゃんだから……妹を、家族を、守らなきゃいけないから……」


「……いいね、そう思えるのは。今の私にはなにも無いから……眩しく見える。」


彼女はどこか羨ましそうな眼差しでこちらを見る。


「私のことはいくら恨んでもらっても構わない。でもそれはあの世でやって、」


そう言って爆ぜるように動いた。すかさず私は愛銃であるコンテンダーを抜く。


いくつもの戦場で培ったクイックドロウ、反応としては今までで一番よかった。


だがそれは無情にも空を切り、お返しといわんばかりに彼女の剣が肉薄する。


咄嗟にコンテンダーに魔力を流して防御するが、難なく弾かれてしまった。剣のギラつく光が目の前で止まる。


「じゃあ、さよなら。」


「それは、」


「無理だにゃ!!」


ラムちゃんの叫びとともに彼女は炎に呑まれる。とてつもない温度の炎が彼女の全身を食い荒らす。


「助かりましたラムちゃん!」


「でもあいつには全然きいてないにゃ!あいつどれだけ位が高いんだにゃ!」


彼女が指を鳴らしただけで、彼女を襲っていた炎が消える。


「別にそんなの関係ないでしょ?さぁ、続けましょ?」


「ラムちゃん援護お願いします!」


「任せろにゃ!」


私は力を振り絞って彼女と対峙する。





__うっすらと音が聞こえる。過激で不安な音、戦闘音だ。


一気に意識が覚醒する。数秒で今の状態を認識、確認する。


体はあちこち痛いけどまだ動ける。ティタニアとラムレーズンが頑張ってはくれているが、もう時期崩される。


彼からの贈り物は……これか。俺はいつの間にか右手に握られていたものを凝視する。


それは、金の弾丸だった。なにか不思議な力を感じる。どうやらただの弾じゃないようだ。


これを彼女に撃ち込めばいいのか。ティタニアの銃を使わないと……


それはすぐ見つかった。弾かれたのだろう、彼女から遠くの位置にぽつんと置いてあった。


急いで回収し、金の弾丸を装填してみる。意外なことに、弾はすんなり入った。まるで最初からこの銃を使うことをわかっていたみたいに。


「ふぅぅ……」


一旦深呼吸を挟んでから撃鉄を起こす。弾は1発、外しても駄目だし、撃つ前にやられても駄目だ。


勝負は一度きり、なんとしてでも勝つ。


俺は意を決して彼女へと駆け出す。


「悪い待たせた、加勢する!」


「和人くん!!」


ティタニアの表情がぱぁっと明るくなる。


「援護するにゃご主人!」


突如として湧き上がる万能感、ラムレーズンによってまた身体強化をかけられる。


「終わらせよう、一気に。」


「りょーかいです!」


彼女の鋭い攻撃をどうにか躱す。隙を見つけるんだ。終わりは見えている。


もっとだ……もっとよく見ろ、目を凝らせ。1秒でも早く見極めろ。


一撃の為に思考はフルスロットルで回転する。情報量はどんどん多くなっていき、


「!!?」


そして、ある一点に到達した。音の全てが半オクターブ下がり、自分も周りもスローモーションで動く世界。


泥臭い生存か慙死か(デットオアアライブ)】、その言葉が深く脳裏に刻まれる。


今の状態なら彼女の一挙手一投足全てが見える。


彼女の剣による攻撃をギリギリの間隔で躱すと、彼女に銃口を向ける。


困惑した彼女の顔を見ながら、銃と彼女との距離がゼロになった瞬間、引き金をひく。


火薬のはじける音と共に、銃弾が発射される。


が、本来上がるはずの血しぶきは上がらず、その銃弾は彼女をすり抜けていった。


やばい……脳が早急に警鐘を鳴らす。


だが、その危機感は彼女の顔を見た瞬間、一気に消え去った。


「あっ……」


なぜなら、彼女は涙を流していたからだ。その表情はとても戦闘を続行できるようなものではなかった。


「そっか……ずっと居てくれてたんだね、あなたは。」


彼女は1人で涙を流し続ける。ただただ、嬉しくてたまらないといった様子で。


「あなたたち、ごめんね。そしてありがとう。私はもう行かなきゃ、ここにいる意味がもうないや……」


俺も2人も、ただ黙っていた。なにを言ったらいいのかわからなかったし、なによりも、驚きが強すぎたからだ。


「この子は返すね。ほんとに、今までごめんなさい……」


彼女を淡い光が包む。


そして……


「アンヘル!」


オレンジ色の髪に白い肌、いつも見ているアンヘルが戻ってきた。


ティタニアが急いで駆け寄り、アンヘルを抱きしめる。ティタニアはアンヘルのことを何度も何度も確かめるように触れ、


「アン……ヘル。よかった……ほんとによかった……」


安心したのか泣いてしまった。


よかった……戻ってきて。アンヘルが戻ってきたという事実を飲み込むと、俺も泣きそうになった。


だが、その前に嫌なものに水を差された。


頭痛に加え、気持ち悪さや平衡機能の低下が襲ってきた。久しぶりに感じる能力の使いすぎによる弊害だ。


たまらず倒れ込む。今回のはかなり強めだ。どうやらさっきの状態も能力の一部な様だ。普段だと、ここまで酷くならないから。


「ご主人だいじょぶかにゃ!?」


ラムレーズンが駆け寄って来てくれているが、返事をする元気がない。世界が回っていてなんだか吐きそうだ。


それに、極度の緊張から解放されて疲れもどっと出てきた。


これ、また意識失うやつだ。


「ご主人、あとは任せるにゃ。ひとまずゆっくり休むといいにゃ。」


なにかを悟ったラムレーズンの優しい言葉を最後に、俺は眠りについた。

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