86話 助力
その人物は容姿から驚きの要素が連発だった。
くびれの部分まで届きそうな長い灰色の髪、カッパーの瞳、服は薄手の白い布、頭の上の方に三角の耳があり、尻尾が2本生えている。
寒そう……というかこいつまさか、
「ラムレーズンなのか?」
「ふふん、ご名答だにゃ。へくち……」
この人?はラムレーズンだった。この子ただの猫じゃなかったのか。
「えっと、とりあえず俺の上着貸すから。それじゃ寒いだろうし。」
俺は解かれた結界から走ってラムレーズンの元へ行く。
「ありがとうだにゃご主人!はぁ〜暖かいにゃ。」
ラムレーズンはゆるゆるとした顔になる。
「まさかそんなのまでいるとは思わなかったな。猫又を手なずけてる人間がいるとは思わなかった。」
「えっ、猫又……?」
妖怪とかそんなので聞いたことあるな。確か猫の妖怪だっけ。
「どうやらそうみたいですね。ラムちゃんのしっぽが2つあるのがなによりもの証拠です。」
ティタニアは彼女を警戒しながらこちらに下がってくる。危ない、今が戦闘中だって忘れるところだった。俺も警戒しないと。
「私は確かに猫又だにゃ。だが、そこら辺の雑魚と一緒にするにゃ!」
ラムレーズンはしっぽを逆立て、臨戦態勢に入る。
「大丈夫、侮ってないから。さっきのでわかったし。あなた、かなり力が上の存在でしょ。」
彼女の存在感がどんどん膨れ上がる。まだ上があるのかよ。
「嬉しいな……久しぶりにこれが使える。」
彼女は微笑を浮かべると、禍々しいナニカで形成した剣を握る。
「やっぱり相手は全然本気を出していないようですね。魔力を身体強化以外に使ってませんでしたから。」
「それはそうでしょ?だって人間相手にこの力使っちゃったら反則もいいところだし。それに、私は本気を出せないわ。まだこの体に慣れてないし。」
彼女の口から聞き捨てならない言葉が発せられる。あれはまだ本気じゃないってことは……今ここで抑えられなかったら……
「あの人を今ここで抑えないともう手がつけられないです。」
「うん、だよな。」
そうなったら元に戻すどころじゃなくなるし、最悪この世界も危うくなるってことだよな。
「そうなったら銀戦が動くことになりますけど……そこまでいったらアンヘルはもう戻ってきません。和人くん、ラムちゃん、力を貸してください!」
「もちろんだ。アンヘルのあんな顔を見て逃げる訳にはいかない。」
「よかろう。この場に天使がいること自体おかしいからにゃ、そこはしっかりと正さなにゃければ……」
「堕天使よ!」
彼女が動くと同時に、ティタニアも動く。2人とも動きが速すぎて全然追えない。
「俺……戦力にならない気がしてきた。」
「むっ、ご主人はちゃんと戦力になるにゃ。私が手助けするからにゃ。」
ラムレーズンはそう言うと、俺に向かってなにかの呪文を唱える。
次の瞬間、淡い光が俺を包み、不思議と力が湧いてくる。しかも2人の戦いが見えるようになっていた。
「身体強化の妖術を施したにゃ。」
「なるほど、だから体が軽いし動体視力も上がったのか。」
これならちゃんと戦いになる。
「そういえば、赤いのとご主人のつがいは無事だにゃ!中にいるように言ったから、存分にやってこいご主人!」
駆ける俺の背中に向かってラムレーズンが叫ぶ。その言葉が聞けただけでよかった。
「ティタニア、連携で叩くぞ!」
「了解です!」
俺はティタニアとスイッチをし、彼女の懐に飛び込む。
剣持ってようが関係ない。俺のやれることを全力でやるんだ。
「あなたほんとに死ぬわよ?殺したくないんだけど。」
「だったら大人しくしていてほしいんですけどね。」
前から拳打で攻める。剣が怖いからこそ攻め続ける。ただひたすらに捌かせて攻撃を殺せ。
ティタニアも側面や後ろから巧みに攻撃を仕掛けるが彼女に全て対応される。
でも攻撃はされてない……これなら、
「やばっ……」
一瞬感じた殺気と能力による攻撃予測により、死の手からかろうじて逃れる。
忙しない攻撃の中の一瞬の隙、それを簡単に使われる。彼女の剣による一閃、空間が軋むほどの衝撃が体を叩きつける。
ぎりぎり避けたけど、剣撃の余波がとんでもない。直撃してたら確実に死んでた。
(これ……家とかヤバいんじゃ。千華……)
一瞬後ろに目をやると、家は無事だった。俺たちを囲むように青白い光の壁が見える。
そっか、結界。ラムレーズンが戦いやすいように貼っておいてくれたのか。
ほっとしたのもつかの間、完全な判断ミスを知ることになる。
突如襲う体がバラバラになりそうな程の衝撃。剣の腹で殴りつけられた。そう思った時には結界にぶつかった衝撃による激痛が体を蝕む。
(クソっ……俺は戦闘中になにやってんだ)
「和人くん!?ぐっ……重っ……!」
(早く立たないと……ティタニアの援護しないと……動けよ体!)
烈火の如き思いとは裏腹に、体は悲鳴を上げて動かない。目の前でティタニアが苦戦してるのに助けにも行けない。
(意識……飛んでる場合じゃないのに……畜……生……)
どんどん視界が黒く染っていく。体の感覚もわからず、ただ、闇におちていく。




