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85話 羽の生えた女性

闇とともに強い風が吹きつける。


相手が見えないが、その存在感ははっきりと感じられる。


そしてそれは、どんどんと大きく、押し潰されそうなほど膨れ上がっていく。


直感でわかる。人じゃない……


そして風がやみ、辺りがいつもの景色になる。


するとそこには……


「……」


羽を生やした女性がいた。


見るものを虜にするような美貌に黒い羽があいまって、決して触れてはいけないような禁忌の果実を連想させる。


それにも見惚れたが、それよりも……


彼女の紫色の髪から視線が動かなかった。


あの時の夢に見た髪と同じだ……


「やっと見つけた。」


俺がなにも言葉を発せないでいると、彼女が愛おしそうに声を出した。


視線を顔にうつす。彼女は嬉しそうに口角を上げ、オレンジ色の瞳はいっそう輝いているように感じた。


「これから遠くへ行きましょう。そこで詳しいことは話すわ。」


彼女は自然な足取りで近づき、俺の手をとる。


「ちょっと待って!あなたは一体?」


夢でしか見たことのない、初対面の彼女に対して疑問がたくさんあった。誰なのかはもちろん、どうしてアンヘルから出てきたのか、なんで俺を探していたのかは絶対に聞かなきゃいけない。


彼女の手を振りほどこうとするが振りほどけない。女性とは思えない力だ。羽があるってことは人じゃないのか、彼女は?


「ねぇ……暴れないで。少し大人しくして。」


「急にどこかへ連れてかれそうになってるんだから暴れるに決まってるだろ!あなたはいった__」


そこで言葉は途切れた。腹に重い衝撃がはしる。殴られた、そう思った時にはすでに膝を着いていた。


「カハッ、ゲホッゲホッ」


「時間がないから少し手荒になるけど許してね。後でちゃんと説明してあげるから。」


優しい言葉だが確かな実力差を感じた。さっきの状況で彼女の手の動きが全く見えなかった。


彼女がその気なら、俺はとっくに殺されてた。その事実が重くのしかかる。抵抗しても無駄ってことなのか……


「それでも、一つだけ聞かせてほしい。あの時、あの言葉をアンヘルに言わせたのはあなたか?」


それでもできる限り足掻いてやる。ティタニアなら気づいて来てくれるはずだ。


「あぁ、あの時のね。そうよ、だって邪魔者がいなかったから。」


アンヘルと2人で買い物に行った時の帰り、あの時聞いたのは確かにアンヘルの声だったのだ。アンヘル自身は言っている自覚がなかったが。


「さぁ、答えたことだし行きましょうか。」


彼女の手が近づいてくる。さて、頼むぞ。


その時、ごうっという風を切る音とともに彼女にむかって刃を振るうものが現れる。


ティタニアだ。よかった……駆けつけてくれた、その安心感もつかの間、


「邪魔」


彼女はティタニアの振るう刃を難なく受け止めると、蹴りをいれる。その衝撃でティタニアは数メートルほど後ろに下がる。


「くっ、強い……」


「当然でしょ?だってあなたたち人間とは格が違うもの。」


さっきので実力差を感じとったのか、ティタニアは脂汗をたらす。


「和人くん、ひとまず安全な場所に逃げてください!この人は私が止めます!!」


「わかった、無茶だけはするなよ!」


「はぁ……逃がすわけないでしょ。」


俺が駆け出した瞬間、彼女が霞のように消える。


そうなんどもやられてたまるか。


彼女の拳を間一髪のところで(かわ)す。


速いのは充分わかった。だったら予測して動くだけだ。


俺はアナライズを前もって発動させておき、彼女の体の重心、表情などからわかる気持ち、運動性能を解析して、次攻撃がくる場所を予測しておいた。


そうすることで体は動きやすくなるし、レスポンスが早くなる。結果どうにか捌くことができる。


(とはいえ、短時間だけしか通用しない立ち回りだから早めに決着つけないと。)


この戦闘スタイルだと相手の動きを予測するのでかなりの情報負荷がかかる。なので、すぐオーバーヒートしてしまう。


(でも今はこれでやるしかない!これが1番俺が足でまといにならない方法なんだ。)


彼女の猛攻を右へ左へ、躱していなして殺す。


「ふぅん……あなた面白いね。ただの人と変わらないのにこんなに戦えるなんて。それに、」


「やぁっ!」


「あなたもいいね。魔力を使った身体強化、この時代で使える人がいるなんてびっくりしちゃった。」


平然とティタニアの攻撃を受け止める。彼女が褒めようともこの状況がいい方向へ向かうわけじゃない。ティタニアも苦い顔をしていた。


「和人くん、心苦しいですけど囮、引き受けてもらえませんか?」


「……いいよ。ただし、なにがあってもやめるなよ?」


家族からの真剣な願い。断る理由なんてない。抑えられるならこの身なんて簡単に捧げよう。


ティタニアは強く頷くと、彼女を見据え、構える。


俺は彼女に向かって駆け出す。相手に攻撃をあたえるのが目的じゃない。あくまで陽動。ティタニアが攻撃しやすいように動け。


「あなた、あんまり抵抗しないでくれる?」


「無理に決まってる!あなたを抑えてどうにかアンヘルを取り戻す!」


「あの子なら戻ってこないわよ。だってもう出てこれないように縛っておいたし。」


それでも、アンヘルを、我が家の風景の大事な1ピースを失う訳にはいかない。諦めるな。


「!?」


彼女の攻撃を対処していくなかで、俺に対する手加減をみたので、それを利用することにした。


相手のティタニアと対峙した時よりもほんの少しだけ大きな隙をつく。靴で地面を強く蹴りあげ、舞い上がった砂で視界を遮る。


さらに、彼女に向かって拳をくり出す。が、もちろんカウンターを受ける。


でもそれも織り込み済みだ。


相手はどうしても俺を殺せない。なぜだかわからないが、それを利用しない手はない。


「ティタニア!」


あえて攻撃を受ければ、その分ティタニアの攻撃に対する対処の時間を奪える。1秒でもいい、とにかくティタニアに絶好の機会を。


ティタニアは一瞬で彼女に肉薄し、短剣の刃を届かせようとする。


だが、

「姉さん……」


彼女の声色が突如としてアンヘルのものになる。ティタニアの動きが一瞬鈍りかけて、


「とまるな!」


それでも鈍らなかった。アンヘルの体だろうと今は抑えないと話にならない。傷つけることに躊躇するな。


「はぁぁ!」


ティタニアはすれ違いざまに鋭い斬撃をあびせる。彼女から血華がさく。


「あなたたちちょっとうざいね。」


彼女は苛立ちを隠せないでいた。


「まずはあなた、少し黙ってて。」


気づいた時には彼女の脚が眼前に迫っていた。さっきより早い、避けられない……


受け身を誤れば1発で戦闘不能になる……その予感が脳を支配していた。


だが、

「ちっ!」


彼女の蹴りは直前で壁に遮られた。結界だ。でもティタニアは驚いた顔をしているし、一体誰が……?


「まったく……しょうがないご主人だにゃ。」


その人物を見て、衝撃を受けた。

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