83話 新生徒会始動
冬休みも終わり、新たな気持ちで新学期に臨む。
冬休み明けは新年ということもあり、夏休み明けとはまた違ったものがある。
「おはよう三宅、今日も寒いな。」
俺は隣の席の住人である三宅に声をかける。彼は変わらずいつも通りに勉強をしていた。
「あぁおはよう柊。今日は昨日より2度低いらしいから防寒対策はしっかりとした方がいいぞ。なんせ受験はもう始まっているといっても過言ではないからな。」
三宅はメガネをちゃきっと直す。
「3学期が終わったらすぐ受験や就活で忙しくなる。だから今のうちからしっかりと準備しておくんだ。まぁ柊はわかっていると思うが。」
「そうだな、ここからあっという間だもんな。」
そういえばまだ進路決まってないんだよな……進学は決めているんだけどいまいちどこに行くべきかで迷っている。
やっぱり三宅は凄いな。高一の頃から行きたい大学に焦点を当てて今まで努力してきたんだから。勉強量の多さは知ってる中じゃ一番だろう。
俺も早く進路決めなきゃ……
こうして3学期が始まった。
最初は始業式を行い、それに付随する形で新生徒会の任命式が行われる。
前会長こと湊さんから新会長へと生徒会が受け継がれる。
湊さんから新生徒会会長の名前が呼ばれる。
「鈴木蒼音、前へ。」
「はい!」
凛々しい声が体育館中に響く。呼ばれた女子生徒は、緊張なんて言葉は知らないといった足取りで壇上にあがり、湊さんの前まで来る。
鈴木蒼音、彼女は2学期まで副風紀委員だった。彼女の凛とした姿勢と人前での萎縮のしなさが生徒会長に相応しかったのだろう、湊さんからの推薦で会長を務めることになった。
容姿もよく、長くのびた綺麗な黒髪も相まって、千華たちと同レベルで人目を惹く存在だ。
また、あの耀音さんの妹ということもあり、かなり歓迎されている状態だ。
「これからの生徒会、頼んだぞ。」
「もちろんです。」
蒼音は堂々と言い放つ。その瞬間わっと歓声があがった。すごい人気だな……
体育館を巡る歓声は耳から入ってすぐ抜けていった。
放課後……俺は生徒会室にいた。
今日は引き継ぎをするだけでPSY部の協力は要らなそうなのだが、なぜか湊さんに呼ばれた。
「__以上が業務のやり方だ。これはあくまで基礎だから各々が工夫してやってくれ。予算及び直近の決め事はこのプリントにまとめてある……落ち着くまでこれを活用してくれ。次に___」
湊さんの話はとても細かく、抜けがないようにしてあって俺でも仕事ができそうだ。
新生徒会役員もメモをとったり頷きながら聞いている。
「__そして最後になるが、柊及びPSY部は人手が足りない時に使ってもらって結構だ。部長の緋色から許可は貰っている。」
そんなのいつ貰ったんだ……聞いてないぞ。
「これで話は終わるがなにか質問はあるか?」
全員がシーンとする。
「それではこれで引き継ぎを終了する。これからこの学校をよくしていってくれ。」
「そこに関しては問題ありません。私がしっかりと行います。」
蒼音は自信たっぷりに話す。きっと、風紀委員として見てきてるからこの学校に足りないものがわかっているんだろうな。
「それでは本日は互いに連絡先を交換して終了します。次集まる日はlineで決めましょう。」
蒼音の指示で物事が進む。
「それと柊くん、あなたも私と連絡先交換してもらうわ。……一応ね。」
「わかった。はいこれQRコードね。」
「電話番号にしてもらえるかしら。lineが必ず繋がるとは限らないのよ?それに番号を登録すればlineだって登録できるから。QRコードは二度手間だってわからないの?」
「うん……ごめん。」
俺はただ謝るしかなかった。蒼音って怖いんだよな……中学の時からずっとこうだもん。
蒼音とは中学からの同級生なのだ。小学校は姉と同じ奏町の学校だったようだが、中学はなぜか柏崎に来た。
中学でも蒼音は風紀委員として活動していて、よく恐れられてたっけ。俺も学校に行く度に注意されたな。
「さて、終わったわね。これから本格的に活動していくから皆、生徒会としての自覚をもって業務に励むように。」
「「はっはい!」」
他の役員たちは戸惑いながらも返事をしていく。耀音さんとは真逆だから「ほんとに妹か?」って思ってるのだろう。
終わったしさっさと帰ろう。
そう思って部屋を出ると蒼音が着いてきて隣に並ばれる。
お互い無言でとても静かだ。なに話していいのかわからない。
「なにも話さなくていいわ。一緒にいるからってなにかを話していないといけないなんて決まりはないもの。」
見透かされてた。それにしても冷たいトーンだ。
「じゃあなんで並んだんだ?追い越したかったのか?」
「そんなわけないでしょ。ただ私があなたに一方的に話があるだけよ。」
「話?」
「あなたの力、借りるつもりはないから。」
いきなり豪速球を投げられた。じゃあさっき連絡先交換した意味ってなに?
「そりゃあ俺たちの協力がなくて成功させられるならいいけどさ……」
「違うわよ、あなたたちじゃなくてあなた個人の力を借りないってことよ。」
「なんで俺だけ……?」
「それはあなたのことが嫌いだからよ。」
そんなことをすっぱりと言われた。冷たい棘が刺さる。
理由を聞いても俺のなかで疑問は増え続けるばかりだった。どう頑張っても「なぜ?」は増える。なにかした覚えはないんだが。
「じゃっ、私の要件はそれだけだから。」
そうして蒼音は足早に去っていく。俺はその後ろ姿を目で追った。敵意を持たれているのはわかるんだけど、どうしてそうなったのかがわからない。
「……やっぱり不安だ。」
どうしてもその言葉は蒼音を見ていると離れない。
薄暗くなり始めた空、かげに消える彼女は、とてもよく似合っていた。




