80話 顔合わせの終わり
その場の全員がテーブルの料理に手をつけていく。といっても、下座の俺たちは少し遠慮しなければ嫌味を言われるのでそうするのだが。
その反対に、上座の社長一家は遠慮などせず次々と料理に手をつける。
そして、その社長はというと、
「それで、今年はどのくらい業績が伸びそうなんだ?」
食事の最中でさえ会社の話をしていた。
「はっ、我が社は前年比よりも2.3%プラスできそうです!」
「私の会社は5%プラスできそうです!」
「私のところは3.7%プラスできそうです!」
「ふむ……本当ならもう少しプラスが欲しいところだが、マイナスにならないだけいいとしよう。我らはこの調子でグループを大きくする!柏崎や伊川なんぞに遅れをとるな!」
「「はっ!!」」
柊グループはなぜか柏崎と伊川のグループを必要以上に敵対視している。そのせいか、いつも激励の言葉は決まって「柏崎と伊川に負けるな!!」だ。
それだけなら別に構わないのだが、さらに問題がある。
「それにしても……和人、お前はなぜ一流高校に行かず、あんな負け組の学び舎なんぞに行ったのだ。あそこは柏崎(我らが敵)の学校だろ!」
そう、このように柏崎や伊川と関係を持つだけでここまで言われるのだ。正直理解できない。千華も明らかにひいていた。
「そうだよな、なんだってあんな学校に行ったんだよ?あぁ、頭が足んねぇからか。」
「そうに決まっているだろう弘幸。和人は俺たちとは違う。故に向上心や柊家の誇りが欠如しているんだ。」
「ほんとにどうしてこんな子が我が一族に生まれてしまったのかしら。」
それに、ここに来ると毎回否定される。人格も、学歴も、生き方も。だからここに来るのは憂鬱で仕方がない。
「で、その子のスペックを教えて貰える?あんたは腐っても柊家の一員だからね、正当な娘じゃないといけないよ。」
「……彼女は俺と同じ学校に通うごく一般家庭の人です。」
「はぁ!?そんな子駄目に決まってるだろ!最低でも有名大学卒業できるほどのスペックを持っていないとうちの一員とは言えないよ!!」
予想していた通りの回答を受けて、思わずため息がでる。来るべきじゃなかったかな。
でも、予想していたはずなのに、実際にその言葉を受けると怒りがこみ上げてくる。彼女をそんな風に判断するなよ……
「俺はあなたたちとはほぼほぼ無関係です。それを言ったのは……由恵さん、あなたでしょう?」
「そうは言ったけどね、一族の恥が変なことしないか見張るのも私の役目なんだよ!私がふさわしい見合い相手を見繕ってやるからそいつとは別れな!」
「それはご遠慮します!」
俺は由恵さんの言葉をすっぱり切った。千華には目で謝罪をしておく。
「とにかく、話はそれだけですか?それなら俺たちはお暇させていただきますけど。」
「おい和人、お前がいくら言っても俺たちはそいつを認めないからな!!」
「そんなこと百も承知ですよ!それでは失礼します!!」
俺は千華の腕を少し強引に引っ張り客間を後にした。
電車の中の俺たちはとにかく無言だった。
千華は俺に配慮してくれているようだが、俺はなんてきり出せばいいかわからずにいた。
「……その、今日はごめんな。」
そして、悩んだ末に出した第一声がそれだった。
「わざわざ嫌なところに連れてっちゃってごめん。最後の方はもう俺が我慢できなかった……千華のこと悪く言われたから。」
「私は気にしてないから大丈夫。むしろ和人がそれだけ怒ってくれた事が嬉しい。」
千華の優しい声にひとまず安心する。そろそろあの人たちとの関わりを考えないといけないな……
「私はあんたが心配よ。毎年あの場所に行ってるとか、私だったら精神削られすぎておかしくなりそう。」
「確かに、千華ならありえるな。でもまぁ2人だし、おかしくはさせないよ。」
「……あんたってそういうこといきなり言ってくるわよね。反則だと思うわ。」
千華がため息をつく。普通のこと言ったんだけどな。
「それにしても疲れたわね。肩凝っちゃった。」
「それなら帰ったらマッサージしてあげるよ。昔よくやってたし。」
「ふふっ、お願いするわ。」
その後も千華と他愛のない話をしながら帰る。安らぐことのできる我が家に。
和人くんと千華ちゃんは帰ってきて早々に自分たちの部屋に閉じこもってしまった。遊びたかったのに。
今日は朝から大変そうでしたし、ちょっと労いの声をかけてあげよう。ジンベイさんと遊べば疲れも吹き飛ぶはず。
私はこう見えても気が利くんです。エッヘン。
和人くんの部屋に差し掛かると千華ちゃんの声が聞こえてきた。
「あぁっ、ちょっと待って……激し……//」
「!!?」
千華ちゃんの艶のある声を聞いて驚いてしまう。もしかしてエッチなことをしてるんですか!?
私は最近アンヘルから子どもの作り方を教えてもらった。(別に知らなかったわけじゃないですよ。少しは知ってました。……ほんのちょっとだけ。)
その記憶が新しいので、真っ先にそのことを連想してしまう。
(あわわ、こんな昼間からなんて駄目ですよ……)
襖を開けようか悩むこと10秒、私は意を決してそれを開けた。
「和人くんなにやってるんですか!!?」
「?、どうしたのティタニア。」
「ふえ?」
そこで私が見たものは、布団に寝転んだ千華ちゃんが、和人くんにマッサージされている光景だった。だが声の通り、千華ちゃんの顔は赤くなっており、息も荒くなっている。
「あの……ほんとに確認なんですけど、なにしてるんですか?」
「なにってマッサージだけど。」
和人くんはさも当然のように話してくる。これってもしかして私の勘違い?だとしたら恥ずかしい。
「でも千華ちゃんがそんな顔になってるなんてありえるんですか?」
「いや、その……ティタニア、こいつマッサージめちゃくちゃ上手いわ。私が完全になめてた。」
まだまだ息が整わない状態で話す千華ちゃんによって和人くんの無実が証明された。
「わっ、わあぁぁぁ!!ごめんなさい!変な勘違いしてました!!」
「えっ、なんで謝るの?」
「私、和人くんが部屋でエッチなことしてるんじゃないかと思っちゃったんです!すみません!!」
「なるほど……」
和人くんはなにか納得した様子で頷く。
「いや全然いいよ。俺も誤解されるようなことしちゃったわけだし。」
「和人くん……ありがとうございます〜(泣)」
「私も声抑えようと頑張ったけど、出ちゃったのよね……肩軽っ……」
許してもらったけど、和人くんになにかしてあげたいな……
「和人、今度は私がマッサージしてあげる。」
「いいのか?じゃあお願いするよ。」
あっそうだ……
「和人くん、それなら私もマッサージしますよ!さっきのお詫びもかねてどうでしょう!」
「ん?そうか?それならお願いするけど……あまり張り切りすぎないでいいからな?」
「はい、お任せ下さい!」
「激しく不安だわ……」
私は布団に寝転ぶ和人くんに近づくと嬉々としてマッサージを始める。
その後、和人くんが絶叫とともに「……背中が死んだ」と遺言を残して、しばらくの間動けなくなるとは、今の私には知る由もなかった。(これがきっかけとなり、今後私がマッサージを行うことが禁止とされた。)




