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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
2年生編②
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74話 大晦日~前編~

気がつくと雨に降られていた。バケツをひっくり返したような土砂降りの雨にうたれながら、抱きかかえた男を見る。彼は眠っており、もう起きることはない。そのことを胸から腹にかけての深い傷が証明している。


どうして……その言葉を何度も何度も繰り返す。目の前には信じたくない光景があるから……夢だと信じたいから……事態を正しく認識するのにたくさんの時間を要した。


今の彼の姿を見て、私は後悔した。私の選んだ決断は間違っていたのだ。もっと上手くやれたはずだ……そうすればこんなことにはならなかったのに……


絶望感にうちひしがれていると、いつの間にかじんわりと熱いものが頬を伝っていた。そしてそれはぽたぽたと彼の顔へと落ちていき雨と混ざる。


「私は__」


冷たい彼の体を抱きながら呟く。そして雨はより一層強まっていく__




「あ……」


飛び起きた私はびっくりしてしまう。身体中に嫌な汗をかいていて、なぜか泣いているのだ。


「あの夢と関係あるのかな……」


私はさっきまで見ていた夢のことを思い出す。妙にリアルでびっくりしたな……


「未だに心臓がバクバクしてる。それにあの男の人って__」


そこから次を言おうとした時、突如「くしゅん」という音が耳に届く。視線を音の方へずらすと姉さんがだらしない顔で寝ていた。腕にはジンベイさんを抱いて。


姉さんの布団ははだけていて、一部分しかかかっていない。


「もう……風邪ひくよ」


姉さんに布団をかけてあげるととても幸せそうな顔をしていた。


「ジンベイさ〜ん……」


そんな寝言を言っていたが気にせず家事の準備を始める。先輩とご飯作らなきゃ。


そして、私はいつの間にか夢のことを考えるのを忘れていた。



大晦日の朝、起きると寒かったのかラムレーズンが布団の中に潜り込んでいた。今は体を丸めてすやすやと寝ている。


俺はそそくさと布団を出ると台所へと向かい、朝食の準備をする。


「おはようございます先輩。」


アンヘルは俺よりも先に起きて準備を始めていた。


「おはよう、早いんだな。」


「あっはい……色々あって。」


「そっか。んじゃ、早速朝食作っちゃうか。」


俺はアンヘルと協力して手早く調理を進めていく。しばらくの間は包丁がまな板を叩く音や汁物のぐつぐつ煮込まれる音が響いていたが、もう少しでできるというところで元気な子が起きてきた。


「今日のご飯はなんですか!?」


ティタニアは入ってくるなりそんなことを聞いてくる。いつものことなのでもう慣れたのだが。


「姉さん、朝からうるさくしちゃ駄目ですよ。」


「えへへ、ごめんね。」


「うっさいわよティタニア。少し黙りなさい……ふわぁ……」


千華は小さな欠伸を伴って現れる。寝起きかな?


「おっはようみんな。今日は大晦日だね。」


最後に葉月がティタニア同様に元気に登場する。


「あっ葉月ちゃんおはようございます。今日のそば楽しみですね。」


「あはは、気が早いよティタニア。」


ティタニアと葉月は朝から楽しそうなやり取りをする。


そして出来上がった料理をちゃぶ台に運んでみんなで食卓を囲む。


「あれ、そういえばラムレーズンは?」


「あいつなら私らの布団で幸せそうに寝てるわ。間抜け面晒してね。」


「ラムちゃん寝てるんだ……あとでこっそり触りに行こ。」


「まぁあんた避けられてるものね。」


「あとアンヘルにもそこまで近づいてないですよ。」


「そうなの?」


「あっはい、そうですね。なんというか避けられてるんですかね?この場合って。」


「まだ警戒してるんじゃないか?わからないけど。」


「まっ、今はそうなんだと思うしかないかな。そのうちみんなに懐くって。」


「そうですよね!そしたらたくさん抱っこしてあげるんです!」


「……ティタニアには時間がかなりかかりそうだね。」


目をキラキラさせるティタニアを見て苦笑する葉月。


「まぁそこら辺の話は置いておいて、食べよっか。」


「いただきます!」


ティタニアは1人元気よく手を合わせる。そこから幸せそうにごはんを食べる姿を見てなんともほっこりしてしまう。


ティタニアは朝でもたくさん食べるため、用意しておいたご飯は綺麗に完食されたのだった。1人で半分くらい食べたなあの子。


朝食が終わると食器を洗って片付ける。


さらにそれが終わるとラムレーズンが起きてきたのでごはんをあげる。


「にゃん♪」


嬉しそうに尻尾を左右に揺らしながら食べるその姿に葉月とティタニア(主にティタニアなのだが)はメロメロだった。


ラムレーズンって今のところ俺か葉月のあげるエサじゃないと1回必ず警戒するか文句言ってるみたいなんだよな。


千華とはあの仲だからわかるけど、アンヘルを警戒する理由ってなんだろ?なにかあるのかな?


「あのあの和人くん!私これからラムちゃんと遊んでいいですか?いっぱいお触りしたいです。」


「今日は大掃除あるんだから駄目だ。触りたいなら終わってからにしな。」


「うぅ〜ラムちゃん……」


今日は大晦日ということでうちの大掃除をしたくてはならない。去年は葉月とうだうだ言いながらやっていたが、今年は頭数が増えたので単純に早く終わるだろう。


「さっ、とっとと終わらせて年越しの準備するわよ。」


「だね、仕事終わりのみかんの為に頑張りますか。」


「なんか社会人みたいだな。今年は頑張ってくれよ葉月。」


「アイアイサー。」


てことでそれぞれの持ち場に着く。俺とティタニアは道場近くの倉庫、アンヘルは居間、葉月と千華は空き部屋の担当だ。他の場所は予め掃除しておいたので問題ない。


「道場あるなんて凄いですね。あとで入ってみたいです。」


「へいへいわかったよ。とは言っても基本的に普通のやつと変わらない殺風景なとこだよ。」


「いやでもかっこいいですし!道場って響きが良くないですか!?」


「あはは……」


名前から判断してたのね。かっこいいって思って貰えるのは道場も嬉しいだろうけどさ。


「ここが倉庫なんですね。なにが入ってるんですか?」


「色々だよ。改造エアガンとか竹刀とか木刀とか的とかな。」


「思ったより殺伐としてますね。あわわ、覚悟しておかないと。」


ティタニアは青ざめて身構える。ちゃんと安全に保管してあるから大丈夫なんだけどな。


俺は倉庫の鍵を使って扉を開ける。すると倉庫ならではの独特な匂いが鼻腔をくすぐる。久しぶりに嗅いだなこのにおい。


「うわぁ薄暗いですね。あっでも中広いですね。」


中に入るとティタニアのテンションが高くなるのがわかった。探検してるみたいで楽しいんだろうな。


補足だが、うちの倉庫は学校の体育倉庫並に大きいので中も当然広めだ。倉庫の隣に並んで立ってるから道場のものがしまわれてたりもする。竹刀とかまさにそうだ。


「よし始めるぞ。とりあえず中の掃除と物品の整理だな。」


「はいわかりました。頑張ります!」


俺は、やる気満々のティタニアと一緒に倉庫の掃除に取り掛かるのであった。

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