72話 猫
私は今日は朝から友達と一緒に遊んでいた。
私自身そこまで乗り気ではなかったが、付き合いなのでしょうがないと割り切ることにした。
本当は彼の買い物に付き合いたかったのだが……
お昼の1時を過ぎた頃、私は友達と解散して帰り道を1人で歩いていた。
「寒っ、早く帰ろ。」
お昼なのにまだまだ寒い。帰ったら和人と一緒にお茶でも飲もう。
そんなことを考えながら家の近くの公園まで差し掛かった時、どこからともなく可愛い鳴き声が聞こえてくる。
辺りを見回すと、比較的新しめのダンボールが見つかった。その中には、
「にゃー」
猫がいた。捨て猫だろうか?
グレーの毛並みとオレンジというかカッパーというか……そんな色の瞳を持っていて、子猫って大きさではないので大人の猫だろう。
(猫か……好きな部類だけどさすがに飼えないわね。うちは人数いるし、それに犬みたいな子もいるし。)
「にゃー」
私が立ち去ろうとするとそれを引き止めるように猫は鳴く。そんなに鳴かれても飼えないんだけどな……
「にゃー(おいまてにゃそこの女)」
「……」
それでも立ち去ろうとする私に猫が抗議してくる。
テレパシーは人間以外の生物にも有効だ。あまりにも小さかったり、思考が読めない奴なんかは例外だが。
「(なによ?)」
「(にゃ!?いきなり声が頭の中で響いて……ってこれはお前の仕業か?)」
「(そうだけど?)」
私はダンボールの前で小さくかがんで猫に近づく。顔はかわいい……けど話し方からして生意気そう。
「(こうして話せるのにゃら話は早いにゃ。私を飼え人間)」
「(えっ、無理)」
「(即答!?少しくらい考えてくれてもいいんじゃにゃいか!?)」
「(いや、そんなこと言われてもそういうの決めるの私じゃないし。彼がなんて言うかわからないから)」
「(彼?、つがいがいるのか?)」
「(その言い方やめてくんない?)」
まさか猫からつがいとか言われる日がくるとは。もっとマシな言い方あるでしょ。
「(それならかけ合ってくれにゃいか?かわいい猫が困ってるって)」
「(あんたそれ自分で言う?少なくとも私には現時点であんたに対する評価は少し生意気、よ)」
「(にゃ!?失礼なやつだにゃ!私という高貴な存在に対してなんて口を聞くんだにゃ!)」
「(高貴って……捨て猫の間違いでしょ?)」
「(私は捨て猫ではないにゃ。ただちょっと事情があってここにいるだけにゃ)」
「(ふーん)」
この猫はそんなことを言っているが私にはただ捨てられてしまった猫にしか見えない。ダンボールには「拾ってください」って書かれてるし。
「(とにかく家まで着いて行っていいかにゃ?ここ寒いし)」
「(えー……)」
「(もし断るのにゃらここでずっと鳴いてやるからにゃ。助けてーって)」
「(うわただの迷惑。……しょうがないわね、ひとまず着いてきなさい)」
「にゃおーん♪(ありがとにゃ)」
猫は甘い声で鳴きながら私の足元に擦り付く。こいつ飼うのは私だったら躊躇うわ。
私と猫は家に帰り、玄関を開ける。
「ただいま。和人、ちょっといい?」
「どうしたの?」
私は家事をしているであろう和人に来てもらった。
彼は不思議そうな顔をしていたが、私の足元の猫を見るなりなにか納得した表情に変わる。
「その猫どうしたの?」
「拾った。ていうか着いてきた。飼え飼えうるさいの、うちじゃ無理よね?」
「そうだな……なんかこの猫懐かしい感じがするんだよな。」
彼はかがむとその猫の頭を撫でる。猫は気持ちよさそうに鳴き、彼の手に頭を擦り付ける。
「お前うちに住むか?て言っても先に病院で検査してもらうんだけど。」
「にゃん♪(もちろんだにゃ)」
彼の問いに対する猫の回答は元気なもので、声色からしてとても嬉しそうだった。
「えっほんとにいいの!?こいつ割と生意気よ?」
「ふしゃー!(なにを言うんだにゃこの女は!失礼なやつだにゃ!)」
「あんたこそ半ば無理やり着いてきたくせによく言うわ!」
「あはは……お前ら仲良くな?」
「先輩洗濯物干し終わりました、ってどうしたんですかこの猫、可愛いですね。」
アンヘルは猫を見つけるなり表情を綻ばせて撫でにかかる。
「(これが私の実力だにゃ。私の可愛さにひれ伏せ人間)」
が、当の猫はこんなことを思っているのだが……
「このバカ猫飼うのやめた方がいいんじゃない?」
「にゃ!?」
「まぁまぁ、猫がうちに来たらあいつらも喜ぶだろうし、このまま見捨てるのも忍びないから許してくれ。」
「にゃ〜(ご主人……いいやつだにゃ)」
「はぁ……とりあえずは病院連れていきましょ。異常あったら問答無用で保健所だけど。」
「にゃ!?」
保健所の単語を聞いた瞬間の猫は絶望の顔をしていた。絶対行きたくないとこちらにすがりついてくる。
「よるな鬱陶しい。」
「(なんて酷いこと言うんだにゃこの女は!)」
猫は怒って猫パンチを繰り出してくるが全然痛くない。心地よい力加減だ。
「とりあえず病院行こうか。アンヘル、悪いけど留守番頼むな。」
「はい、わかりました。なにも異常ないといいですね。」
葉月とティタニアは出かけていて、まだ帰ってきていないのでアンヘル1人で留守番だ。私もここに残りたい。けど拾った時の状況がわかるの私だけだししょうがないか。
「それじゃ行ってくる。」
「行ってらっしゃい先輩、千華さん。」
私たちは動物病院へと向かった。
目的地に着くと早速健康状態を診断してもらう。
「__そうですね……この子は特に異常ありませんね。至って健康です。」
気になる結果は健康だった。あからさまに猫がいい顔してるのなんなの?
「捨てられていた状況と健康状態から最近捨てられたと予測できますね。ペットを捨てるのは犯罪なのですが、心当たりとかあります?」
「……ないですね。この猫自体見かけたことなかったので。」
「なるほど、そうなるとどこか離れた家の方がその公園まで捨てに来た可能性が高いですね。
飼えなくなった理由は人それぞれですが、理由はどうあれペットを捨てることは許されません。あなたがたも飼う場合は責任をもって育ててください。」
「はい。肝に銘じます。」
彼は短く、それでいて真摯に、そう返答すると猫を抱きかかえて診察室を出る。
「帰りにペット用品買ってくか。トイレの砂とかご飯とか買わないとだし。」
「そうね。しょうがないから歓迎するわバカ猫。」
「(その呼び方やめろにゃ)」
猫が抗議してくるがそんなの気にしない。彼はそんな猫の不機嫌そうな顔を見てどこか楽しそうだ。
どこか忙しい年の瀬に、我が家には新しい家族が増えた。




