70話 その後
朝__びっくりするほど優しくて綺麗な朝。
冬の朝ということもあり、眩しいがほんのり暖かみのある日差しに澄んだ空気が感じられる。
また、外では一日の始まりを思わせる音で満ちていた。電車の音、車の音、工事の音……色んな音が混ざりあっている。
いつもの朝を感じさせるそれらの要素を持ってしても今日の朝はとても異常だった。
私は彼の隣に裸で寝ていた。もちろん彼も裸だ。
朧気な意識も現実を認識するとすぐさま覚めてしまう。
(そうだ、私ついにやっちゃったんだ……)
私は昨日、無事彼と熱い夜を過ごすことができた。できたのだが……
(あれからの記憶がほぼない!1回戦目までの記憶はあるのに……)
どうやら途中で意識を失ったらしく、何回戦やったのかの把握ができてない。あとどんなプレイをしたかとかも。
(どうしよう……私変なことしてないかしら……?それに私マグロだったし、和人に不満を持たれてないかも心配だし……うぅ、なんで覚えてないのよ……)
私はついつい自分を責めてしまう。沈んだ気持ちのまま顔を彼の方へ向けると、彼は穏やかな表情で、すやすや寝息をたてていた。
この場合は満足してもらったってことでいいの?わからない……
「……着替えておきましょ……すぐ出れるように。」
私は素早く着替えて顔を洗い、彼を起こすためにまたベッドに戻る。
「ほら朝よ、起きなさい。」
彼の体をゆすって彼の意識を現実に引き戻す。
「んぅ……おはよう千華。」
彼は起き上がって伸びをする。そのせいで筋肉質の体が丸見えだ。
私は、それが好きな人の体ということもあり、ついついじっと見てしまう。
「千華、ちょっと席外してくれるか?着替えるから。」
「あっえぇ、もちろんよ。」
席を外してから数分後、私と彼は昨日コンビニで買っておいた朝食を食べ始めた。
私は昨日の出来事のせいか、彼とまともに話すことができなかった。というか顔すら直視できなかった。
「えっと……昨日のことって覚えてる?」
「……1回戦が終わったところまでしか覚えてない。」
「そっか……だろうな。」
「なに、その言い方。気になる。」
「いや、千華が1回戦の途中で目が焦点むすんでないぐらいには意識がやばいなってわかってたんだ。けど、終わったあと少ししたら急に甘えてきてさ、積極的に求めてきたんだよね……」
「は……?」
彼の言葉はとてもじゃないが信じられなかった。
「あれ多分寝ぼけてたんだろうなって思ったんだけど、どうやら正解みたいだ。」
「いや私そんなことしてない。」
「千華って寝ぼけると甘えてくるようになるから、覚えてないのも無理ないよ。」
「まじでしてたの……?」
彼は少しほころんだ顔で頷く。
その瞬間、私は恥ずかしさにやられた。
「あぁでもそこまで変なことはしてなかったから大丈夫だよ。」
「……ほんと?私どんなことしてた?」
「……体をたくさん擦りつけてきたり耳元で甘く囁いたり、最終的に俺にまたがってきて自分から動いてた……」
「ああぁぁぁぁ!!」
「ちょっ、1回落ち着いて。その時の千華すごく可愛かったから。」
「そんなこと聞いてないわよ!!あぁもう、私なにやってんのよ!!」
テーブルに額を押し当て、わぁぁと叫ぶ。覚えてないのが幸いなのかわからない。
この後、彼が私を落ち着かせてくれ、私はなんとか平常心を取り戻した。
帰りは穏やかだった。バスの中では世間話に花が咲き、時間を忘れそうになったほどだ。
バスを降りてからも、家までの距離を歩くのに、私たちは恋人繋ぎをしてお互いが離れないようにしていた。
家に帰ると、元気な声に出迎えられた。
「おかえり2人とも!どうだった?」
「あっおかえりなさい和人くん、千華ちゃん。お土産とかあります?」
「ただいま、お土産はないよ。すげぇ楽しかったけど。」
「むぅ……ちょっと期待してたんですが。」
「もう姉さん、お2人のデートでお土産を期待しないの。」
「アンヘルもただいま。そっちは昨日どうだった?大変じゃなかったか?」
「昨日は珍しく大丈夫でした。葉月さんが家事を手伝ってくれたので。」
「私も手伝いましたよ!」
ティタニアはぐいっと迫ってきて、なにかを期待する眼差しを向けてくる。褒めてほしいんだろうか?
「……そうなんだ、えらいぞティタニア。」
「えへへ〜それほどでもありますよ。」
「葉月とアンヘルもありがとな。」
「お礼はチョコでいいよ。」
「私も食べたいです!」
「お前は食いついてくんな!」
「あはは……」
騒がしいながらも温かい我が家に帰ってきた事が嬉しい。千華と2人の時もよかったけどな。
「そういえば先輩、昨日私たちでクリスマスパーティーをやったんですよ。ケーキとローストチキンとシャンメリーを買ったんですけど、先輩方の分もあるのでぜひお昼に食べてください。」
帰ってきてから少しして、居間でくつろいでいると、アンヘルからそんな事を言われる。
「へぇそれは楽しみだ。」
「どんなのか見ますか?大きいサイズの美味しそうなやつを残しておいたので満足していただけると思いますよ。」
アンヘルは上機嫌で冷蔵庫に向かい、チキンを取り出す。
「あれ?おかしいな……」
その直後、彼女が疑問の声をあげた。なにかあったみたいだ。
「どうしたの?」
「いえ、それが……チキンが1本減ってるんです。昨日は3本あったはずなんですけど。」
「誰かつまみ食いしたんじゃないか?」
「……姉さん、食べた?」
「たっ食べてないよ!?」
楽しそうにテレビを見ていたティタニアは一転、びくっとして上ずった声で答える。あっ、犯人こいつだ。
「ほんとに?」
「ほんとだよ。私食べてないからね?」
「口の周りにタレついてるのに?」
「ふぇ!?ちゃんと拭き取ったはずなのに!……あっ……」
簡単にバレたティタニアは青くなる。なんかこういうの見るとティタニアって感じがするな。
「姉・さ・ん……?」
「ごめんなさい!!」
珍しくかなり怒っているアンヘルに、ティタニアは平謝りするしかないようだった。アンヘルがあんなに怒ったとこ初めて見た。
「先輩たちのだって昨日言っておいたよね?」
「それはそうなんですけど……その……」
「まぁなんだ、2本残ってるんだしその辺で許してあげてくれないか?俺は気にしてないし、千華もそうだろうから。」
「ほんとにすみません先輩。……今度から気をつけてね姉さん。」
「うん。」
許されてほっとしたのかティタニアはいつもの顔に戻る。
「そういえば和人くん、昨日はどうだったんですか?どんなの乗りました?」
「あっそれは私も興味あるのでぜひ教えてください。」
「アンヘルもまで食いついてきたのは意外だったけど、そっか、それならまずはあれから話そうかな。」
クリスマスも終わり、年の瀬も近づいて来た頃、俺は2人に楽しかった時間の共有をした。
2人の内の1人は楽しそうに、もう1人は微笑ましそうに聞いてくれた。
最愛の人と過ごした、楽しくて、温かくて、幸せなその時間を。




