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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
2年生編②
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68話 クリスマス~前編~

クリスマス当日の朝は穏やかだった。外の空気は冷たいながらも澄んでいて、とても気持ちがいい。


今日は彼とのお泊まりデートだ。準備は全て千歳さんが関わっているけど。


そのせいか、今日泊まるホテルはそういうところだ。そのことを彼はまだ知らない。この事実いつ伝えるべきなの?


服装もまた千歳さんセレクトだ。テーマは『ちょっぴり大人なコーデ』らしい。


千歳さんいわく、「千華ちゃんのイメージだとこんな感じにすれば、和人はいつもと違う千華ちゃんにドキッとするはず」、らしい。


大人っぽさをだしつつ、かといって冷たくなりすぎないように温かみもだしている今の状態をみて、自分でもちょっとびっくりしている。


それもそのはず、なにせ今の私は髪をおろしているのだから。いつもはしっぽ髪の部分をおろし、その髪が肩にかかっているのだから。印象が違う。


「おまたせ千華……ってすごい似合ってるよ。とても綺麗だ。」


支度を終えた和人が私の元へやって来てそんなことを言う。


その言葉を聞いただけでも、今日の為に頑張ってよかったと思ってしまう。


「……それじゃ、行きましょうか。」


「うん、そうだね。」


私たちは遊園地へと向かった。道中はところどころ会話を挟みながら。


それでも、時折できる不自然な間からいつもと比べて私も彼も緊張していることがわかってしまう。これもクリスマスのせいだろうか?


「それにしても楓さんにはあとでお礼しないとな。遊園地のチケットに加えてホテルの予約までとってくれるなんて。」


「えぇ、そうね。」


ホテルはいかがわしいけどね。


「千華は遊園地ってどのくらい行ったことある?」


「私は今までで5、6回ってところね。あんたは?」


「恥ずかしい話、今まで1度も行ったことない。」


「あっ、そっか……そうよね……」


考えてもみれば彼は今までの人生のほとんどを過酷な環境で生きてきたのだ。遊園地なんか行けるはずがない。


「だからエスコートとか下手かもだけど許してな。」


「別にそんなのいらないわよ。私はあんたと一緒に楽しめればそれでいいし。」


「そっか。」


彼の笑顔を見て胸がドキドキしてふわとろになってしまう。いけないいけない、まだ始まってもないのにこんな気持ちになるな私。


私は自分にそう言い聞かせて遊園地への道を進んだ。



バスを使って30分、ようやく目的地に着く。


「ようやく着いたわね。早く入っちゃいましょ。」


そうして遊園地に入場して固まる。その場には多くのカップルがおり、比率としておそらく9:1であろうカップルがイチャイチャしたり手を繋いだりしながら歩いていた。


「……」


「すごいな、さすがクリスマス。」


絶句する私とは違って彼は辺りを見回して、その光景を感心したように見ていた。


「とりあえずなにかに乗ろうか。まずはなにがいい?」


「あんたなんでそんなに平常心でいられるのよ?私はそんな風にはいられないのに。」


恥ずかしさと色々な心の声が聞こえてくるうるささで私はいつものように振る舞うことが難しかった。人口密度が多いせいかノイズが多すぎて気持ち悪くなってきた。


「……そっか、それじゃあ……」


彼はそう言うと、私の手に自分の手を絡ませ、恋人繋ぎをしてきて、


「俺の声だけ聞いてればいいから。他に気を使う必要なんてどこにもない。」


と陽だまりの笑顔でなんの恥ずかしげもなく言ってくる。


「はっはぁ?そういうのやめなさいよね?……恥ずいし。」


「そっか、でも千華が辛そうだったから元気づけてあげようとしたんだけどな。失敗かな……」


なんでそこ鋭いのよ……


「別に失敗じゃないわよ……ありがと…」


「うん、それならよかった。」


やっぱり彼といるとおかしくなる。あまりに幸せで、恥ずかしくて、ドキドキと穏やかな気持ちでいっぱいになってしまう。


「ひとまずここにいるのもあれだから、なにかに乗りましょう。あれとか、」


私が指さしたのはコーヒーカップだった。最初だし平和なものに乗りたい。


「そうだね、行こっか。」


彼は私の手をひいていく。


こうして、特別なクリスマスデートが始まった。



コーヒーカップは楽しく、雰囲気づくりはバッチリだった。


「デートする時に必要なのは雰囲気づくり。最初にどれだけ自分たちの世界をつくれるかが成功への鍵」らしい。デートの前に千歳さんから色々教わったうちのひとつだ。


確かに雰囲気づくりをしっかりしたからか、いつもより話が弾んで穏やかな空間になった気がする。


よし、この調子でいくわよ。



……と思ったのも束の間、次に乗ったメリーゴーランドが想像の斜め上にいった代物だった。


「え〜カップルの皆様は2人でひとつの馬に乗ってください。その際はしっかり密着してください。イチャついても構いません。」


今日がクリスマスということもあり、カップルに焦点をあてたアトラクションになっていたのだ。


「……まじで抱きつかなきゃ駄目なの?」


「そうしないと危ないし、抱きついて。……後ろは見ないから。」


彼は私の恥ずかしさと振り向くなという強い意志を感じたのかそう返す。


私はおそるおそる彼の背中に抱きついた。彼の大きくて安心する背中に触れるとドキドキしてしまう。なんで他のカップルはこんな事な平気でやってるのかしら……


やがてアトラクションが回りだす。私は落ちないように彼を強く抱きしめ、密着する。この状態は恥ずかしいが和人も恥ずかしいのだろうか……?ちょっと心の声をよんでやろ。


……普通に恥ずかしがってた。なんか……こっちも余計に恥ずかしくなってきてしまう。


ちなみに他のカップルに目をやると、堂々とキスしたりイチャついてたりして、格の違いを見せつけられた。


「すごかったな……色々と。」


「えぇ、そうね。」


終わったあとの私たちは、気恥ずかしさからか会話をあんまりしなかった。このままじゃまずいわ。なんとかホテルに入るまでにいい雰囲気にしておかなくちゃ。


「ねぇ、次はお化け屋敷とかどお?」


「そこってカップル用になにか仕掛けてありそうだよな。」


「別に私らはカップルなんだから気にする必要ないのよ。むしろ楽しめばいいんだから。」


「そうかもな。じゃあ行こうか。」


彼と共にお化け屋敷を楽しもうとする。


ここのお化け屋敷はカートに乗り込んでホラーテイストの町を進んでいくというもので、普通のものとはまた違った良さがあった。


「え〜彼氏の方は、彼女さんをしっかりと引き寄せて守ってあげてください。お化けに連れていかれても私たちは責任を負いませんので。」


なるほど、暗いところで密着してイチャつかせるのが目的か。なんか響きだけ聞くとエッチね……


まぁでも和人ならそんなことはしないだろうから安心だけ


「ほら千華、そばにいて。(ぐいっ)」


どおぉぉぉ!?えっ!?なんで!?どういうこと!!?


今の私は彼に引き寄せられて密着していた。密着2連打は聞いてないわよ!


「ちょっ、なんでこうなってるのよ!?」


「いや、だってむしろ楽しめって千華が言ったから。」


しまったー失言だったー!!


「それにこうしてる方が幸せだし。」


……それは反論できない。


「それでは皆さん、行ってらっしゃい〜!!」


いや待って無理無理無理無理!心臓がもたない!!


私の思いとは裏腹に、無情にもカートは暗黒へと進んでいった。



「楽しかったな千華。」


心臓が破裂しそうなほど幸せな時間を過ごした私は、彼の顔を直視できなかった。


まったく、こいつは楽しそうね。私も充分すぎるほど楽しいけど!


「次どれ乗ろっか?色々と乗ってみたいのがあるから迷っちゃうな。」


「あんた元気ね、子どもみたい。」


「遊園地自体が初めてだし、そこは別にいいだろ?」


時間が経ったおかげで少し落ち着いた。今のところは順調……のはず!


「次はあんたの乗りたいものでいいわよ。」


「そっか。それじゃあここにしよっか。」


彼と過ごす時間は計画なんてどうでもよくなるくらい楽しくて幸せだ。


彼と一緒に、次に乗るアトラクションに向かう道中、待ち時間ですらもなにか満たされている。



これじゃあ時間は早く過ぎちゃいそうね。今日が人生で特別な日になりますように……

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