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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
2年生編②
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65話 後輩との勝負

一旦休憩を挟み、残る2人の測定にうつる。


葉月は歪曲を使い、的やマネキンを破壊したり、各部位を曲げたりしていた。


最初は余裕そうにしていた葉月だが、破壊した物が10を超えたあたりから辛そうにしていた。


そして、最終的には目を押えて痛そうに唸っていた。


「うぅ、めちゃくちゃ痛い。この状態になったの久しぶりな気がする。」


「草むしりの時はただ軽く回転させる感じだったから負担はあんまりなかったんだよな。」


「この目の痛みってしばらくひかないから結構辛いんだよね。」


「だろうな。俺も能力使いすぎてオーバーヒートすると、かなりの時間気持ち悪さと痛みやらなんやらが襲ってくるからその気持ちはわかる。」


「ちょっと寝てていい?」


「いいぞ。タオル敷いとくな。」


葉月を寝かせ、そろそろ測定が始まるであろう睦月の方を見る。


睦月は天夜さんにインタビューを受けている最中だった。



成宮睦月、彼はとんでもない天才だ。勉学はもちろん、スポーツから喧嘩の腕まで一級品だ。しかも、普通の能力者とも違う。


彼の話を聞く限りだと、今までの生活は余裕で勝ち続けたそうだ。だが、そのせいで周りから敬遠されるのは想像に難くない。


あいつもなにかキズを持ってそうなことはわかる。いつか話を聞く機会がくるといいんだけど。



「じゃあ、始めますね。」


睦月は一度深呼吸をして、呼吸を整えてから能力を発動する。


まずは重力操作で結界もろとも軋ませていく。


「お前ら、近づくとこっちにまで影響出るからちゃんと離れてろよ。」


「そこはちゃんとわかってるっす。睦月の能力危ないっすからね。」


「私睦月が本気出した時は近づきたくないです。」


「あの子ってとんでもないわよね。能力を複数持ってるんだもの。」


千華の言葉の通り、睦月は能力を複数持っている。冬も能力を複数持っているが、冬は2つに比べて睦月は6つある。


この数はかなり異常だ。これほど能力を持っている人間は世界に何人いるのだろうか……?いる気がしない。


「次いきますね。」


次に睦月が見せたのは透視。右目を瞑り、左目だけで見ると物を透けた状態で見ることができる。


逆に右目だけで見ると、対象を石化させることができる。


普通の生活では、右目だけで見れないだけで大した欠点はない。


そして睦月はどんどん能力を披露していく。


一定距離の物を自分の手元に引き寄せられる物体引き寄せ(アポート)、手で直接触れたものの残留思念を読み取れ、15分間の間憑依させることができるサイコメトリーと、くせがありながらもどこか有用性のある能力たちだ。


「うんじゃあそろそろあれ、見せちゃいますね。」


睦月はそう言うと、自分の右腕を力なく前に差し出す。


次の瞬間、彼の右腕から小さな炎が上がる。これが彼の6つ目の能力、発火能力(パイロキネシス)だ。


能力としては単純明快、炎を生み出して操ることができる。シンプルで故に強い能力。


睦月は炎を操って用意されたマネキンを燃やし尽くしていく。その精度はとても高く、鋭く、精緻で、見ていて惚れ惚れしてしまう。


「うーん……俺、今日調子いいです。先輩、勝負しませんか?本気の。」


睦月は俺に向かって不敵な笑みうかべる。


「……俺はそういうのは遠慮するよ。」


「いいじゃないですか。これだけの状況でやれるのなんてもう無いかもしれませんし。それに……俺はずっと先輩と戦いたくて仕方なかったんです。」


「お前な……」


目をギラつかせた睦月を見て、勘弁してほしいと思ってしまう。あんまりこういうことしたくないんだよな……。


「かわいい後輩の頼みくらい聞いてあげたら?別に減るもんじゃないんだし。」


「私も和人の全力見たいわ。」


「私も同じく。」


「千華たちまで……」


「まぁいいんじゃないかな。実践でのデータも参考になる部分があるかもしれないし。」


天夜さんにまでそう言われ、やるしかなくなってしまった。


「一応、やるからには勝つからな。」


「もちろんです。むしろその気もない先輩に勝っても嬉しくないですから。」


お互い構えて集中する。


「結界で天夜さんたちを護っておきますね。存分にやってもらって構いませんよ。」


ティタニアの言葉を聞き流しながらも睦月を見据える。


ゆっくりと相手の呼吸を探っていたその時、反射的に体は右へと跳んでいた。


俺が半瞬前までいた場所を炎が食い荒らす。


視線を睦月へと向けなおすと、第二、第三の炎が俺に襲いかかってきていた。


たまらず後ろに飛び下がり、その攻撃をしのぐ。


「いきなり激しいな!」


「当然です、本気ですから!」


睦月は不敵な笑みを浮かべて攻撃を再開する。俺はそれをどうにか(かわ)すしかなかった。




「防戦一方ね。大丈夫かしら……」


私は必死で避ける彼を見守っていた。傍から見ると2人の実力差はかなりのものだと思える。事実、彼はまだ睦月に攻撃すらしていなかったのだ。


「うーんどうだろ。和人が本気だしたとこって見たことないからなー。なんとも言えない。」


「葉月も見たことなかったの?」


「うん、まぁね。前に、本気だしたことある?って聞いたら『何回もある』って答えてはいたけどね。」


「おそらくそれは先生との訓練の時じゃないかな?それ以外で和人くんが本気をだす場面が想像できないよ。」


天夜さんの言葉を聞いて、心当たりがひとつだけあった。それと同時にあの時の彼の顔を思い出す。


暗くて濃厚な闇をおびたあの顔だ。彼が本気をだした相手っていうのは多分……


「おっ、和人の構えが変わった。」


葉月の言葉の通り、彼の構えが変わった。今までは合気道をベースにした半身の構えだったが、今は違う。半身から少し背筋を伸ばし、右手は軽く握り腰の前あたりにおき、左手は握る……というよりかはなにかを掴む様にして胸の前におく。


明らかな変化に睦月も固まる。


「なんですか、それ?」


「元々の俺の構えだよ。ちょっと歪かもしれないけど、こっちの方がしっくりくるわ。」


和人の物言いに睦月は警戒度MAXになる。これは和人が本気になったってことでいいのだろうか?


次の瞬間、彼は一気に睦月との距離を消し飛ばした。


「なっ!?」


泡をくった様子の睦月に彼は鋭い右ストレートを放つ。睦月はすんでのところで避けるが、体制を崩したところに彼の蹴りがはいる。


「速いですね……驚きましたよ。」


「それならよかったよ。じゃあガンガン攻めさせてもらうわ。」


彼は、彼を近づけまいと襲いかかる炎を掻い潜る。さらに、睦月が放つ攻撃に対して綺麗なカウンターを合わせる。


今の状況は誰の目から見ても彼が押していた。


「……すごい。」


私はその光景を見てこんな言葉しか出てこなかった。


「和人ってあんな動きができたんだね。ちょっとびっくりしちゃった。」


「和人くんの動きすごいですね。あれだけの動き、自衛隊やアスリートでもできる人はそうはいないですよ。」


「でも、あの動きを17歳で完成させているからこそ、過酷な環境だったことがうかがえてしまうね。」


天夜さんは複雑な表情をしていた。


「それにしても……和人くんのあの構えって合気道と自衛隊式格闘術をあわせたものですね。合気道の名残が各所に残ってますし。」


「確かにそうだね。でも、和人くんは他にも色んな武術をかじっていたって言っていたから他にも使えるものはありそうだけどね。」


そういえば彼の過去を聞いた時他にも色んな事をやってたって言ってたわね。


「でも睦月はどうしてあんなにやられてるんだろ?能力としては上なんだからもっと接戦になってもいいと思うんだけど。」


確かに葉月の言う通りだ。今の状態は彼が睦月の懐にはいって肉弾戦を仕掛けている状況だ。睦月は強力な能力を持っているのだから、いくら彼の身体能力がすごいといっても花火のような凶悪さはないので封殺するのは簡単だと思ってしまう。


「そうならないように、和人くんはちゃんと考えて戦ってるんだと思うよ。」


「考えて……ですか?」


「細かな位置取りや攻撃の限定化が目立ってるからね。成宮くんにとっては戦いにくいことこの上ないだろうね。」


天夜さんの言葉を受けて、彼らの方に視線をうつすと、その言葉の通り睦月は苦い顔をしていて、戦いにくそうなんだなって思えた。


「……やっぱり強いですね先輩。」


「そうか?睦月に言われると悪い気はしないな。」


「いつからわかってました?俺の能力の欠点について。」


「いつからって……ついさっきだよ。でも戦う前から予想はしてた。」


彼の言葉に睦月は嫌そうな顔をする。


「その炎、自分の周りじゃ使えないだろ?」


「いや、正確に言うなら使えるけどめちゃくちゃ小さい、かな。」


「……正解です。ちなみに予想はどこから。」


「それならさっき測定で見た時だよ。話には聞いてたけど見るのは今日が初めてだったからな。驚きの気持ちが強かったけど、少しだけ変だって思ってたんだよ。いつも自信満々なお前がなんであんな小さな炎から見せたんだろってな。なにかそうしないといけない理由があるのかな〜って勝手に深読みしてそれがたまたま当たっただけだからなんとも言えないけどな。」


「先輩って末恐ろしいですね。その予想が確信に変わったあとからは嫌な位置にいられることが多くなったので炎が使えませんでしたよ。」


ハハッとおかしそうに笑う睦月。


「まぁあの能力は厄介だったし、使わせないに越したことはないからな。上手いこと封じさせてもらったよ。」


「それに、」と彼は続ける。


「その炎、手元からじゃないと発動しないみたいだし、俺の横からいきなり発火っていうことはないみたいだから安心したよ。」


「そこもバレてましたか。やりにくいですね。」


「そんなこと言ってもお前、まだ本気じゃないだろ?重力操作とか使ってないし。」


「そうですね。そろそろ本気出して先輩を倒しにいきますね。」


睦月の言葉によってこの場の空気がさらに緊張感を増した。ここからが本番なのね。


2人の勝負はさらに続く。

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