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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
2年生編②
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63話 昔ばなし

「私と文香は中学からの仲なんだけど、その時からあの子は凄かったわ……色んな意味で。」


「まず恵まれた容姿。美しく、艶のある黒髪に透き通るような黒瞳(こくとう)、肌は白くて、整った目鼻立ちは大和なでしこを思わせるようだったわ。それに、スラリとしている四肢もあいまって、あの子だけ別世界の人間のように思えたわ。

実際男子から絶大な人気があったからね。」


「でも、それだけじゃなかった。」


「……虚弱体質ですか?」


「そうね、あの子は体がびっくりするほど弱かったからしょっちゅう体調を崩してたわ。

体育の時間はもちろん見学、日差しを長く浴びすぎると体調崩すからって日傘をいつも持ってて、あと、夏と冬は歩いて登校すると大体熱出すから車で登校してたわね。あの子の家はお金持ちだったからお手伝いさんが一緒に登校してた。」


「それだけ不自由だったんですね。」


「そうね、私らから見ても不自由で、不憫でしょうがなかった。」


「けどさ、」と舞さんは続ける。


「文香は、あの子はいつも笑顔だった。自分の体質なんか気にしてないって感じで私たちに接してきた。私たちと同じことをしようとしてた。その結果倒れたり体調を崩したりしてたけど、その姿に私たちは酷く驚いちゃったんだよね。

あぁ、私たちは勝手に文香のことをかわいそうな子だって思ってたんだって。あの子自身、自分をそんな風には微塵も思ってないんだって。」


「……確かに、母さんはいつも笑顔でした。どんな時でも笑顔を、楽しいことを忘れてはいけないって言ってた記憶があります。」


「文香らしいや。あの子、室内での体育は参加してたからね。開始5分でぶっ倒れてそのまま保健室に運ばれるって流れが定番だったけどね。」


「あはは……なんか、その光景が容易に想像できますね。」


体育をやるぞーっと意気込んで即座に力尽きる母さんは脳内再生余裕でなんか心配になる。


「修学旅行なんかでも本当は1人だけ違う部屋なのに、先生に無理やり頼み込んで私たちと一緒の部屋になって恋バナとかしてる最中に倒れてお手伝いさんに運ばれてくこともあったな。」


「なんか……ほんとすみません。うちの母親が無茶しすぎて。」


「確かにあれは楽しいんだけど、本気で心配になるからね。いつもハラハラしてた。」


そう話す舞さんの顔は苦笑い一色で、申し訳なさが大きくなってしまう。


「まぁでも文香自身がとっても楽しそうだったからいいんだけどね。」


舞さんは仕事終わりのビールを開け、一口あおる。


守さんも少し遅れてくる。


「舞の友達の子ってめっちゃ美人だったよな。俺、舞と一緒に結婚式に参加した時びっくりした。『うわっなんだあの美人さんは!』って。」


「あー確かにあの時の文香はめちゃめちゃ綺麗だった。守ったら当時私ともう結婚してたのに鼻の下伸ばしちゃって……男ってつくづく美人に弱いんだなって自覚した。」


「いやっ違うからな!俺は鼻の下なんて伸ばしてないから!ちゃんと舞のこと、当時から愛してたから!」


「どーだか。帰ってきてからも文香の話題ばっかりだったくせに。」


「そっ、それはだな……」


「しかも文香が私のところに挨拶に来た時、あんた妻を横にしてデレデレしてたわよね!忘れたとは言わせないから!」


お酒が入ってるせいか、いつもより強い態度で守さんにあたる舞さん。守さんはその対応におわれてあたふたしている。



「まぁ、この話は後でじっくりするとして。文香は結婚してからも楽しそうだったわ。毎日和人のお父さんのことを惚気たり、子供ができてからは、あなたのことを親バカ丸出しで報告してきたわ。なんかブログみたいだった。」


「あー……」


あの時見つけた日記を見る限り、確かに母さんは俺に対して甘々だった気がする。


「体が弱いから直接は来なかったけど、毎日送られてくる和人の写真を見て『今が本当に幸せなんだな〜』って思っちゃったもん。」


「……そんな文香も病でなくなっちゃった。あの時私は、何度もお見舞いに行ったけど、あの子はいつも決まって『和人に会いたいな……』って窓の外をぼんやり眺めて呟いてたわ。」


「……」


「和人にも色々事情があって行けなかったってのは知ってる……知ってるけど……それでも、その時ばかりは最初と同じ気持ちになった。とってもかわいそうだって。」


今にも泣きそうな表情になる舞さんを見て俺は目を伏せる。


俺も行きたかったです……一刻も早くあの人の顔が見たかった、言葉を交わしたかった、触れたかった……けど、あの時は……


そうして思い出すのは痛くて、痛くて、痛い、虚ろな記憶。


そして、灰と赤の混ざった風景。


「だから、この言葉は絶対伝えておく!……ある日、お見舞いに行った時、文香がふと自分の夢を話したの。『あのね、私は昔から子供を産むのが夢だったんだ。こんな体だから、難しいことは充分わかってるんだけど……もし産んで、その子を抱きしめて、一緒に暮らしたら……とっても楽しいだろうなって。……そう思ったんだ。だから私、今こんな状態だけど、すっごく幸せだよ。

だって……あんなに元気で、丈夫で、優しい子を授かれたんだもん。』って。


わかる?あなたは文香にとって本当に大切な宝物だったんだよ。

だから、あの子が安心して見ていられるような人間になってほしいって私は思う。」


丁寧に、それでいて真剣に言葉を紡ぐ舞さん。


その言葉を聞いて、改めて母さんの愛を実感する。


俺があの人に見せられるのは、もちろん……


「大丈夫です。俺は、ちゃんと母さんを真っ直ぐ見据えられるぐらいにはなってますから。」


「……ふっ、言うね。」


俺の顔を見てなにか納得したような舞さんは、可笑しそうに笑う。


「まっ、それならだいじょぶかな。さっ、守!とっとと店じまいするよ、明日もあんだから!」


「わかってるよ!……ったく、舞のやつ急に元気になったな。さっきまでしんみりしてたのに。」


「そうですね。それじゃあ俺もここら辺で失礼しますね。」


「おう、今日もありがとな。気をつけて帰れよ!」


「はいっ、お疲れ様です。」


俺は守さんに挨拶すると居酒屋を出て家に帰る。


時刻が時刻なので明かりはほぼ街灯のみだが、構わず近道を通って帰る。時折冷たい風が吹きつけ木々をざわめかせる。早く帰ろう。


そして、家に着くと静かに戸を開け、暗闇の廊下を進む。


やっぱりもうみんな寝ているようだ。軽くシャワーを浴びたら俺も寝よう。


浴室で、柔らかな明かりに包まれながらシャワーを浴びる。今日も疲れたな……


シャワーで汗を流し、体を洗うと、すぐさま出て寝巻きに着替える。


「よし、寝るか。」


そうして部屋に行くと、千華がすやすやと寝息をたてていた。ちゃんと布団は半分空いていて、なんだか嬉しい気持ちになる。


布団の中に入ると千華が抱きしめてくる。


「かずと……」


待ってましたと言わんばかりに千華は、体をこすりつけてくる。


そしてそれが終わると満足したように「ふふっ」、と笑って深い眠りにつく。


俺はそんな彼女を抱きしめ返して一言、

「ただいま、千華。」


そう言ってから眠りについた。

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