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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
2年生編②
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62話 バイト(居酒屋)

期末テストも終わり、ティタニア、花火、秋穂のそれぞれがどうにかこうにか乗りきったようで、全科目赤点回避はできなかったものの、ちゃんと勉強してきたおかげか点数自体はよかった。


ティタニアは数学をしっかり勉強したのにも関わらず、ケアレスミスで赤点になったらしい。


彼女いわく、「計算間違いを見つけて直してホッとしたら他の間違いを見落としちゃいました〜(泣)」らしい。


こちらに向かってすごい剣幕で迫り、「ごめんなざい和人くん〜」と言いながら肩を掴まれ前後にぐわんぐわんされたので「これからは見直しをもっと徹底しような」くらいしか言えなかった。


ちなみに英語は100点らしい。嬉々としてこちらに見せてきたのは印象的だった。褒めて褒めてオーラ全開だったし。



そして今日は特に用事もない……わけでもなく、バイトがあるので部活には顔を出さず、すぐさま帰宅していた。


「あんたも大変よね。ティタニアに泣かれて。」


隣の千華がこちらに視線を向けてくる。その瞳には同情の色がうつっていた。


「あーやっぱ知ってたか。」


「そりゃあんだけ騒がれたらわかるわよ。ティタニアの心の声がいきなり大音量できたからびっくりしたわ。」


千華の言葉に苦笑する。それは確かにびっくりするだろうな。


「というか今日は部活に行かなくてよかったのか?」


「なんでよ?」


「だって無理に俺と一緒に帰ることないんだし、冬とかと話したかったんじゃないかなって思ってさ。」


「はぁ……あんたって馬鹿なの?」


「えっ……」


急に千華に毒を吐かれて困惑する。


「彼氏を優先するのなんて彼女だったら当然でしょ。……私はあんたの事を優先したいし。それともなに、あんたは私の事優先してくれないの?」


「優先するに決まってるだろ。」


「つまりはそういうことよ。」


千華の言葉に「なるほど」と納得してしまう。


「そういえば、あんたって居酒屋でバイトしてたのね。家庭教師のバイトが目立ってたから聞いた時へぇーってなったわ。」


「あぁ、母さんの知り合いの人のやってる所で働かさせてもらってるんだ。夫婦でやってる店なんだけど、どっちも明るくて元気な人だよ。」


「へぇーお義母さんの……そうなんだ……」


「どうしたんだ千華、そんなに考え込んで?」


「別に。ただ、お義母さんってどんな人だったのかなって思っただけよ。その話してもらったことないし。」


「……じゃあ今度話すか。俺の覚えてる限りのことだけど。」


「ふふっ、期待してる。」


千華は柔らかく微笑むと、嬉しそうに俺の隣を歩く。



一旦家に帰り、バイトの準備を軽くしてから家を出る。


「じゃあ夕飯の用意はアンヘルと頼むな。」


「わかってるわよ。あんたは気をつけてね。怪我とかされたら困るし。」


「千華から貰ったお守りあるし気をつけるから大丈夫だよ。じゃっ、いってくる。」


「いってらっしゃい。」


千華と軽く話した後でバイト先の居酒屋に向かう。


そこは、家から歩いて15分の距離にあった。商店街の一角に並ぶ『居酒屋 舞』に入ると元気な声が出迎える。


「いらっしゃい和人。今日もよろしくね。」


活発でサバサバしている印象をうけるこの女性は、ここの店主の妻の飛田舞(とびた まい)さん。


その性格から常連客に人気の看板女将だ。


「おっ、和人。今日もよろしくな!」


こっちの威勢のいい声の持ち主が店主の飛田守(とびた まもる)さん。筋骨隆々でガタイがよく、中学時代からずっとラグビーを続けていて、今は趣味程度に楽しんでいるようだ。


「こんにちは守さん、舞さん。今日もよろしくお願いします。」


「おうよろしくな!でもそんなにかしこまらなくてもいいぞ。」


「そうそう。和人の働きにはいつも助けられてるし、守にはため口でいいよ。」


「なんで俺だけなんだよ!?」


いつもの夫婦のやりとりを聞きながら準備を済ませ、開店準備を手伝う。



それからしばらくしてお店が開店する。


開店と同時に常連客の1人が入り、お酒を頼み始める。


時間が経つにつれてどんどんお客さんが増え、いつの間にか満席になるほどの盛況ぶりをみせる。


「和人、3番テーブルにこれ持ってって。」


「はいわかりました。」


俺は給仕係として必死に働く。デカいジョッキに入ったお酒とおつまみを持ってテーブルに届けては戻り、届けては戻る。


基本的に俺の仕事はお酒やおつまみなどの配膳、店内の掃除などだ。


会計や注文とりは舞さんと協力して行う。


この店は結構な人気店なので、仕事としては大変だが、慣れてくると楽しい。まかないもでるし。


「ありがとうございましたー」


1組の会計を済ませて、すぐさま注文をとりにいく。


そんな時だった。


「あれっ、和人くんじゃないか。」


聞き覚えのある優しい声に思わず振り返る。


俺の後方、お店の入口に立っていたのは天夜さんだった。


「こんな所で会うなんて奇遇だね。」


「そうですね。天夜さんは飲みに来たんですか?」


「まぁそんなところだよ。色気のないデートなんだけどね。」


天夜さんは隣の女性を見て苦笑する。隣の女性は婚約者の里海さんだ。


仕事終わりにそのまま来たらしく、どちらもスーツ姿だ。


「あはは、とりあえずゆっくりしていってください。」


「ありがとうございます和人さん。」


「それじゃあ里海、席に行こうか。」


天夜さんと里海さんは仲睦まじく店内を歩いていった。




時刻は夜の8時、まだまだ忙しい時間帯だ。


「注文をどうぞ。」


「ビール2つと枝豆と唐揚げと……」


俺はテーブルと厨房を行ったり来たりしていた。忙しくて目が回りそうだ。


「はいご注文の品です。ごゆっくり。」


「すみませーんちょっといいですか。」


「はいただいま!」


「和人、これ5番テーブルにお願い。お会計の方どうぞ〜」


「お待たせしました、ごゆっくり。」


ワイワイと賑わう店内を必死でまわす。店内の人口密度が増えたせいか、熱気におそわれる。動いてるせいもあるだろうけど。


「ふぅようやく落ち着いてきたね。」


「そうですね。これなら少し休めそうです。」


新しい客足がストップしたことでひと息つける。今のうちに水分補給をしておきたいところだ。


俺が店の端っこで水をちびちび飲んでいると、天夜さんに呼ばれる。注文の追加かな?


「どうしました?」


「和人くん、今は大変だろうから手短に話すね。明日放課後理事長室に来てくれないか?少し話したいことがあるからね。」


「はいっわかりました。」


天夜さんに明日のことを伝えられる。なに話されるんだろ……?


「時間を使わせて申し訳ない。お詫びと言ってはなんだがビールを追加で頼もうかな。」


「天夜さん……あまりお酒の飲みすぎはいけませんよ。明日も仕事ですし。」


「ははっ、そうだね。それじゃあ枝豆を追加で貰えるかい。」


「わかりました。」


「あと焼き鳥も追加でお願いします。天夜さんまだ食べ足りないでしょうし。」


天夜さんと里海さんから追加の注文をうける。



この後も濃密な時間を過ごし、そして、バイトが終わった。


「お疲れ様和人。これまかないね。」


舞さんが労いの言葉とともにまかないの焼き鳥丼を運んできてくれる。


今はもう12時をまわったところだ。もう千華たちは寝ているだろう。


「ありがとうございます。」


俺は舞さんに感謝をしつつ、食べ始める。バイトで疲れきった体に喝が入る……そんな気がする。


「大丈夫、疲れてない?」


「そうですね。最初の方は終わったあとちょっときつかったですけど、今はもう慣れたんで大丈夫です。」


「そっかー。あの文香の子供がこんなに丈夫だと、あの子も安心だろうね。」


「そうですね……そうだといいんですけど。」


「いや絶対思ってるね。私は断言できるよ。文香ったらしょっちゅう私に和人の写真送ってきて惚気けてたから。」


「……そうだったんですね。」


「文香自体が体弱かったから自分の子供ができたこと自体が嬉しかったんだろうね。」


母さんの溺愛ぶりに苦笑する俺を見て、どこか懐かしさを混じらせた声で話す舞さん。


「和人って文香の学生時代の話とかって知ってる?」


「いや、知らないですね。」


「それならちょうどいいや、ちょっと昔ばなししようか。」


そう言って舞さんは楽しそうに話し始めた。

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