61話 テスト勉強
修学旅行も終わり、もうすぐ冬休みというところだが、それと同時に迫る期末考査にむけて俺たちは勉強していた。
「うぅ〜勉強疲れました〜」
ティタニアが若干涙目でぼやく。
「確かにそうですよね。ちょっと休みません?」
「そうっす。私お菓子食べたいです。」
秋穂と花火がそれに同調する。
「お前らまだ初めて10分だぞ。」
部室内の時計を見ると長針が60度しか動いていなかった。
「もう少し頑張れよ。」
「「えぇー……」」
3人は沈んだ声を発する。
今の部室には俺たち以外いないので勉強にはもってこいの環境だが、この3人にはやる気がない。
「秋穂に花火、お前らは二学期の中間もやばかったんだから頑張れよ。進級にひびくぞ。」
「「うっ……」」
「ティタニアはこいつらより頭いいんだから全教科平均点以上を目指そうな。」
「うへぇ〜無理ですよ〜」
半泣きでテーブルに沈むティタニア。
元々留学生としてうちの学校に転校してきたティタニアは、実は成績は並で、その他の点が評価されてここに推薦されたらしい。
いわく、万人を惹き付ける人当たりの良さ、コミュニケーション能力、更には端正なルックスで選ばれたらしい。
確かにそういう所はあるけど、実際そんな長所を帳消しにしてしまうほど短所に恵まれている。素直にティタニアの将来が心配だ。
ちなみにアンヘルは成績優秀で、しっかりしているのでなんの違和感もなく留学生をしている。
「お前なら平均点ぐらいとれるだろ?まぁ……数学以外はだけど。」
「やっぱりわかってるじゃないですかー!」
ティタニアの成績は並なのだが、ただ1つ例外がある。それが数学だ。
彼女のおっちょこちょいな性格が災いして、よくケアレスミスを連発する。
そのため、数学はティタニアの苦手教科になっている。
「数学はできる限り落ち着いてやる事を心がけとけ。それだけでも違うと思うぞ。」
「やってるんですけど、本番になるといつも緊張しちゃって。」
「うんじゃあ深呼吸しとくのは?」
「前に一度やったんですけど、その時なぜかむせちゃったので結果が悲惨な事に……」
「それは予想外だわ。」
そうこられると頭を抱えるしかない。なんで深呼吸してむせるんだよ。
「ティタニア先輩って自分のスペックを生かしきれてませんよね。」
「確かに。なんか自分と一緒な感じでもったいないっす。」
「花火が本気出したら地球がどうなるかわからないからやめてくれ。」
花火は地球を滅ぼす可能性があるので一番危険だ。葉月や睦月、久木野瀬先輩がかわいく見える。
「むぅーなんか思いっきり暴れてみたいっす。」
「花火が暴れたら私たちも地球もジッエンドだからやめてね?」
「ただ言ってみただけっすよ秋穂。」
「……私たち、勉強なんてしてる場合じゃないんじゃないでしょうか?」
「はい?」
「勉強よりももし花火が暴れた時の事を考えて事前に対策を練るべきなのでは?」
「そう言って勉強をサボろうとするな。」
「ちぇっ、先輩のケチ。」
「秋穂と友恵ちゃんってほんとに姉妹か?ここまで勉強に対する意欲が違うと疑うんだけど。」
「友恵は勉強が好きみたいなのでしょうがないですよ。なんか最近やる気にみちている感じなんですよね。」
「そうなのか?」
「はい。最近やけにはりきってて、理由を聞いたらなんか勉強が楽しくなったとかなんとか。」
「ふーん、いい事じゃないか。友恵ちゃん、これからかなり伸びるんじゃない?」
「まっ、私よりは伸びるでしょうね。なんたって優秀な妹ですから!」
まるで自分の事のように言う秋穂。
「じゃあその優秀な妹に負けないように頑張らないとな。」
「うげっ、それは勘弁です!」
「即答かよ。」
「だって私は友恵と違って勉強嫌いですもん!やりたくないです。」
「でもやらないで赤点とったら冬休み補習だぞ。それは嫌だろ?」
「うっ……」
「花火とティタニアもちゃんと最低限の事はやっておこうな。それで赤点回避できれば安いものだろ?」
「「うぐっ……こっちにまできた。」」
あからさまに嫌そうな顔をする2人。
「……俺もできる限り協力するから頑張れ。」
「まぁそうですね。和人くんがせっかく教えてくれてるのにそれを無下にはできません。」
「確かに。それでいい点取れたら褒められるっすからね。」
「私も冬休みたくさん遊ぶために頑張りますよ。」
一応3人ともやる気を出してくれたようだ。もうひと頑張りかな。
「それじゃあ休憩はこのくらいにして、続きやってくぞ。」
「「はーい」」
それからしばらくの間、部室内で勉強会が催されるのであった。
「疲れたっすーふあぁ……眠。」
時刻も5時を過ぎ、部室を後にした俺たちは駅に向かって歩いていた。
「頭使いすぎてなんか痛くなってきたんですけど。早く帰ってゲームしたい。」
「頑張ったらお腹空いてきました。今日のご飯なんですか?」
「今日は千華が作るからな。俺にはわからん。」
「それじゃあ千華ちゃんに聞こ……あっどうやら今日はつみれ汁とムニエルとサラダみたいです。」
「そっか。千華の料理は美味しいから楽しみだな。」
「そうですね。千華ちゃんも料理上手ですから、うちのご飯は毎回楽しみです。」
「うちはなにっすかね。カツ丼とかがいいなー」
「私の家ではなんと、友恵が手伝ってくれたおかげでお鍋なんですよ。すごくないですか?」
「鍋か〜うちでは全然作ってなかったな。今度作るか。」
「本当ですか!?私お鍋大好きなんです!やったー!!」
「おいおい、はしゃぎすぎ。」
「いいっすね鍋。私お肉がごろごろ入ってるやつ好きです。」
「私は全部好きです!」
「ティタニアは知ってた。」
「ご飯も待ってますし、早く帰りましょう。」
秋穂の言葉によってティタニアと花火がちょこちょこ走り出した。
その後ろを秋穂がついて行く。俺も追わないとな。
この寒空の下、元気な後輩と同級生がかけていく。
空気は冷たいが、彼女らの心身は温まっていた。
「お疲れ様。」
俺が自室で勉強に集中していると千華が温かいコーヒーを入れてきてくれた。
「ありがとう千華。」
「あんたも大変ね。秋穂たちの勉強教えて自分の勉強して、体調崩さないでよ。」
「大丈夫。そこはしっかり考えてるから。」
俺は一旦休憩をとるために、コーヒーに口をつける。
ほどよい苦味が、身体にとりついていた少しの眠気を祓う。
「美味しい。これ千華が淹れてくれたの?」
「いや……アンヘルだけど。私コーヒー淹れたことないし。」
「そっか。後でアンヘルにお礼言わないとな。」
「で、勉強の進み具合はどうなの?」
「かなり順調だよ。これならまた10位以内は入れるよ。」
「ふーん、私は5位以内入るけどね。」
「流石だな。」
俺は微笑みながらコーヒーを啜る。千華ってやっぱり頭いいんだよな。ちょっとわからないとこ教えて欲しいかも。
「……別に教えてあげてもいいけど?いつもお世話になってるし。」
俺の思考を読んだ千華は、特に嫌そうな顔をせず、そんな提案をしてくる。
「ほんとか?それならぜひ頼む。」
「はいはい、どこ教えればいい?」
「それじゃあこの問題の、ここなんだけど……」
ここでは、また違ったメンバーでの勉強会が始まっていた。
千華と距離を近くする。まだ残っているコーヒーから出た湯気が、匂いがこの空間をつつむ。
そこは、とても温かな空間だった。




