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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
2年生編②
55/171

55話 砂浜で

自由時間も終わり、今日泊まるホテルに移動する。


そこは、昨日泊まったホテルよりも大きく、豪華だ。


さらに、ホテルの目の前は砂浜と海が広がっており、窓からは綺麗な海が見れる。


内装の綺麗さに見惚れながらもエレベーターに乗って9階に進む。


そして、自分の部屋を開けて荷物を置いてから夕食の時間までリラックスして過ごす。



やがて、夕食の時間になると、10階の食堂に集まってバイキング形式の夕食をとる。


「ハグハグ、もぐもぐ……」


当然のごとくティタニアは誰よりも食べており、その食欲に限りはなかった。


「ティタニアちゃん、俺がご飯持ってきてあげるよ。」


「いやいや、ここは俺が。」


「それじゃあ2人にお願いしますね。余ってるやつを適当に持ってきてください。」


「「任せろー!!」」


また、ティタニア派の2人が給仕係を自ら志願し、せっせと働いている。なんだこの光景……


視線を他にスライドさせると、友達と楽しそうに食事をとっている千華と冬の2人がいた。


楽しそうにしている千華を見てホッとする。ちゃんと楽しめているようだ。


とはいえ、千華の周りには千華派の連中がいるため大変そうではあるが……



夕食が終わると部屋の風呂を使って体を洗い、あとは自由時間になる。


(この時間どうしようかな……)


この寝る前の時間というのはどう過ごしていいのかわからない。


クラスの男子はみな、喋りながらスマホゲームをやっているが、俺はそもそもゲームをあまりやらない。


大人しくテレビでも見ていようかな。


そう思っていたが、ふと窓の外を見てみると、月とともに現れた星が目につく。


「そうだ。せっかくだし外に出てみるか。」


なにもやることがないので思いつきで行動してみることにした。


エレベーターを使い下に降り、外へ出る。


するとそこは暗く、明かりは前方の月明かりと後方から照らす人工的な光のみだった。


これなら星もたくさん見れそうだ。


月明かりに照らされた海は白銀に輝いていて、思わず見とれてしまう。


波打ち際に近づいてみると、大きくも優しい波のさざめきがむかえてくれる。


時折吹く潮風は風呂で火照った体をいい塩梅に冷ましていく。


俺は今、自然の美しさを体全体で感じている。


この景色を見て、気の利いた言葉なんて出てこない。


ただ壮大で、美しくて、尊いものだという言葉しか出てこないが、それほどに心奪われていたことだけは誰の目から見ても明らかなのだろう。


そうだ、写真でも撮っておこう。あとで千華にも見せたいし。それに、アンヘルにもこの空を見せたいから。


俺はスマホを取り出すと、目の前の景色と星空にそれぞれピントを合わせて写真を5、6枚撮る。


「上手く撮れたな。あとはアンヘルに写真を送ってと……よしこれでオッケーだな。」


アンヘルに写真を送り、反応を期待する。喜んでくれるといいんだけどな。


その時、いきなり横から声をかけられる。ゆとりがありながらもどこかミステリアスなその声に、誰かの判別は容易だった。


「こんばんは和人さん。良い夜ですね。」


「こんばんは。どうしてここに凪さんがいるんですか?」


その人物はやはりというか、凪さんだった。俺としてはどうしてここにこの人がいるのかわからない。


「そうですねー強いて理由をあげるとするなら、心の赴くままにブラブラしていたらここに着いてしまったんです。いいですよね、この場所。」


「……そうですね。」


よくわからない理由だった。この人ほんとにわからない。


「和人さんはどうしてここに?」


「俺はすぐそこのホテルに泊まるんですけど、今の時間暇なので景色見に来た感じです。」


「あら、そうなんですね。あのホテルに泊まれるのは羨ましいです。私泊まったことないので。」


「そうなんですね。そういえば凪さんはどこにどこに泊まってるんですか?」


「私は友達の家に泊まってます。ここからだと車で30分といったところでしょうか。」


「いや、なんでここまで来ちゃったんですか。」


「ふふっ、きっとここに来るためだったのでしょうね。」


凪さんは柔和に笑って話す。


「ここに来ればこんなにも美しい景色を見れて、和人さんにも会える。これって運命、じゃないですかね?」


「運命って言いすぎじゃないですか?」


「言いすぎではないですよ。ここでの出来事は偶然とはいえないと思いますし。」


「それに、」と続ける。


「偶然と運命は表裏一体なんですよ。偶然だって思ってることでもそれは運命なのかもしれませんし。」


「てことは運命だって思ってることは実は偶然の可能性もあると?」


「あっ……そうですね。やっぱり難しいですねーこういうことは。あんまり上手く言えません。」


「……」


「確かに和人さんの言う通り、個人の見解によって変わりますね。」


「あのっ占い師なのにさっきみたいな調子で大丈夫なんですか?すっごい心配なんですけど。」


「ご心配には及びませんよ。私はちゃんと占えるので。」


ニッコリとこちらに微笑む凪さん。


「そういうことじゃないんですけど……」


「あっ、どうせなので今後の人生を占いますよ。もちろんお代はいりません。」


「えっ、いやいいですよ。」


「いえいえ、遠慮なさらずに。私最近タロット占いにハマっているので占わせてください。」


「水晶じゃないんですか?」


「水晶は持ち運びに不便なので、いつもタロットカードを持ち歩いています。いつでも占いできるように。」


サッとタロットカードを取り出す凪さん。やる気満々のようで、なにを言っても無駄なようだ。


「で、俺はなにをすればいいんですか?」


「あっ、占わせてくれるんですね。ありがとうございます。それでは、まずはこの22枚のカードを混ぜまして……ここから好きなカードを1枚ひいてください。」


凪さんはよくカードをきると、1枚ひくように促す。


こういう瞬間って結構ドキドキしてしまう。


「さぁさぁ和人さん、悩まず自分の心に従ってぐいっといっちゃってください。」


「あの……その言い方なんとかなりません?なんかお酒勧められてるみたいでやりにくいんですけど。」


「そうなんですか?やりやすいと思って声をかけたのですが、どうやら逆効果みたいですね。すみません。」


……なんか調子狂うな。


「それじゃあひきますよ。」


シンプルに1番上のカードをひく。


気になる絵柄は、暗くて見にくいが、どうやら塔のカードらしい。


「これは塔の逆位置ですね。今後よくない予感が的中し、なにかを失ってしまうような窮地に立たされてしまうかもしれません。なので警戒心はMAXで生活することをオススメします。」


占いの結果はとんでもないものだった。すっごい不安になるんだけど。


「でも大丈夫です!そのよくないことから逃れる鍵を教えますので。」


凪さんはそう言うと、残りのカードの中から無造作に1枚とってこちらに見せる。


「これは戦車の正位置です。意味としては強い意志。なので、鍵は強い意志ということになります。」


「……なるほど。」


これを信用していいのかわからないが、心に留めておこう。なにかの役に立つかもしれないし。


「それにしても、カードの向きバラバラなんですね。いつ変えたんですか?」


「それは秘密です♪最初からかもしれないし、混ぜてる最中かもしれないし、それ以外かもしれないですね。」


その事についても秘密なようだ。ほんとに謎が多い人だとつくづく思う。


「水晶よりは当たりませんが、それでも十分心に刻んでおくのをオススメします。あなたにはそういう運命を感じるので。」


「それってどういう……」


「あっ、こんなところにいたんだね和人。」


凪さんから不穏な言葉が聞こえてきたので聞き返そうとしたところ、鈴の音のようなとおりのいい声が伝わってくる。


「冬、どうしたんだ?」


「窓からの海が綺麗だからちょっと散歩しようかなって思って来たら、和人が見えたから来たんだ。和人も散歩?」


闇夜に負けない銀の髪の冬が、こちらを向いて微笑んでくる。


「そんなところだ。さっきまでこの人と話してたんだ。」


「この人?誰もいないよ?」


凪さんがさっきまで居た場所には誰もいなく、俺は夢を見ていたんじゃないかという錯覚さえおぼえる。


「凪さんどこいったんだろ。」


「?、なにがあったかはわからないけど……とりあえず一緒に歩かない?」


冬に誘われ夜の散歩に赴く。


海からくる風を感じながら2人で歩く。


砂浜を踏みしめる音と、波が打ちつける音、風のなき声と、お互いの吐息以外なにも聞こえない。


ただ無言で、でもだからといって冷たさを感じるわけじゃなく、むしろ温かさを感じて歩を進める。


「和人、今日はどうだった?」


「今日は疲れたけど楽しかったよ。思い出もいっぱいできたし。そっちは?」


「うん、すっごく楽しかった。千華と一緒に色んなところ回れて、お昼に美味しい沖縄そば食べて、そして、今の時間は和人とこうして砂浜を歩けてるんだもん。今日は紛れもなくいい一日だったよ。」


「……そっか……」


幸せそうに語る冬を見てちょっぴり胸が痛くなる。


俺は自分の気持ちに正直になって冬を傷つけた。どっちかしか幸せにできないから、千華を選んだ。


この場になって思うのは、なんで2人も俺の事を好きになってしまったんだろうという事ばかり。


しょうがないこと、不可抗力とはいえ、冬を傷つけてしまったことは未だにどこかでつっかかっている。


「和人はまだ私の事で悩んでたの?」


気まずい顔になった俺を見て、冬は可笑しそうに笑う。


「あれはしょうがないことなんだし、気にしなくていいのに。そんなこと悩んでる暇があるなら千華の事、ちゃんと幸せにしないと駄目だよ?

……私だって次に進もうとしてるんだから。」


「……そうだな、冬の言う通りだ。」


冬のあっさりとした言葉を受け、今まで悩んでたことが馬鹿らしくなってくる。


冬は前を向いてるのに俺がちょいちょい後ろを振り返ってどうするんだよ。


「ありがとな、つっかかっているものが取れた気がする。」


「それならよかったよ。」


俺と冬はお互いを見合って朗らかに笑い合う。


「さっ、もう少し歩こうか。」


「だな。そうしよう。」


俺たちはもう少しだけ一緒に砂浜を歩いた。








「……」


私は突如先輩から送られてきた写真に釘付けだった。


その写真は沖縄の星空で、周りの街灯も最小限のせいかとても鮮やかで綺麗だった。


「綺麗だな……」


私もいつかこんな空を望みたい。


そして………


「あの人と一緒に……」


私はあの日、あの人に伝えそこねた言葉をいつか絶対伝えると誓った。


「待っててください。絶対……いつか、また再開してみせますから……」


私は、最初に心奪われたあの星空を思い出して、あの人への想いを強めていくのであった……

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