54話 パイナップル
昼休憩が終わると再びタクシーに乗り込み、次の目的地のパイナップルパークへと向かう。
「次はパイナップルパークですよね。試食とかってできるんでしょうか。」
「さっきあれだけたくさん食べたのに、まだそんなこと考えてるのかよ。」
「いいじゃないですか。パイナップルは沖縄の名産ですし。美味しかったらお土産に買いましょうね。」
「それだとたくさん買うことになりそうなんだけど。」
ティタニアがやってる試食を全て回ると考えたらここでかなりの買い物をするんじゃないかと思ってしまう。
「大丈夫ですよ、しっかり私が厳選しますから。」
「それなら安心……なのかなぁ?」
「なんで疑問系なんですか!」
「いや、なんか不安なんだよ。」
「なんでですか!?私はそこまで心配されるような人じゃないですよ!」
「……」
「……」
「なんで2人ともそんな、『いやそれはない』みたいな顔してるんですか!?私これでも結構迷惑かけないように頑張ってるんですよ!?迷子にならないように1人で行動しないようにしたり、道順を頑張って覚えたり、ドジしないように気をつけたり、迷惑をかけるにしても対象をできるだけ和人くんに集中させたり。」
「最後が問題だろ!」
「痛い痛い痛いです!ごめんなさい!」
俺はティタニアに対してヘッドロック(少し優しめだがしっかり固定できるように)をきめ、頭をぐりぐりする。
ティタニアは半べそかきながらじたばたして葉月に助けを求める。
「葉月ちゃん助けてください〜」
「うーん私には無理かな。頑張れっ!」
葉月から救援をやんわり断られ、捨て犬みたいな顔をする。
「和人くん、あとでご飯あげるので許してください。」
「いや食べ物で釣るなよ。てか釣れたとしてもお前ぐらいしか釣れないよ。」
「酷いです!辛辣!鬼!」
「なんでそこまで言われなきゃいけないんだよ。」
ため息と共にティタニアを解放する。
解放されたティタニアは、この狭い車内で俺から距離をとろうとして葉月にくっつく。
「私は和人くんから逃げます。」
「ていってもまだ車内だから逃げられないけどね。」
「そうですけど、パイナップルパークに着くまでに和人くんからの攻撃に対処するにはそれしかないんです。少しでも距離をおかないと。」
「和人、危険人物みたいにされてるね。さっきので警戒されてるじゃん。」
「これはこれでやりにくいな。普段は結構距離感近いから急に遠くなると違和感がすごい。」
「だろうね。でも少ししたら戻ると思うよ。ティタニアのことだし。」
葉月のその発言に、なぜか納得してしまう自分がいる。
その十数分後、
「和人くんこれすごく美味しいですよ。食べてみてくださいよ。」
葉月の言葉通りに人懐っこい笑みを浮かべて俺と話すティタニアの姿があった。戻るの早いな。
パイナップルパークに着いた俺たちは、まず初めに、様々な種類のパイナップルがたくさん植えられている植物園から見て回った。
聞いたことないような種類のパイナップルがたくさんあり、素直に驚かされる。
その後、買い物をするためにたくさんの商品を物色したり、試食したりして買うものを決めていた。
「ティタニア、お前俺から逃げるんじゃなかったのか?」
「えっ……あぁ、そういえば!危ないところでした。もう少しで和人くんから攻撃をもらうところでした。」
「いや攻撃しないから。あれはお仕置きだし。」
「いえ、それでも油断できません。私が……痛い思いを……しないためにも、こうするのが最善なんです(もぐもぐ)。」
「試食品食いながら話すな。」
「和人くん、このカステラ美味しいので買いませんか?どうやらかなり人気商品みたいですよ。」
ティタニアの言葉をうけて、俺もそのカステラの試食をしてみる。確かに美味しい。
それに、どうやらこのカステラ、通販でも沖縄でもかなりの売れ行きをしているらしく、口コミをざっと調べただけでもその人気ぶりがうかがえた。
「それじゃあ2つほど買うか。」
「わかりました。私が持っておきますね。あとチョコとかもありますよ。」
「買うにしてもちゃんと吟味してからな。荷物増えるし。」
「はーい。」
元気な返事とともに試食コーナーを回るティタニア。どんだけ食べるつもりなんだ。
「和人、これが終わったらちょっとカフェで休憩しようよ。おっきなパフェもあるみたいだし。」
「パフェですか!?行きましょう!」
「ティタニア、飛びつくの早いよ。」
「まったく、まだ2時だぞ。君はどれだけ食べるんだ。」
「三宅、それにいちいちツッコんでたらキリないぞ。」
「で、どうするんですか?もちろん行きますよね?」
「まぁ全然時間もあるし、急ぎの予定もないから行くか。」
「わーい!」
買い物が終わったあと、同じ施設内にあるカフェに寄ることになった。
ティタニアは葉月と一緒に楽しそうに話しながらお土産を選んでいる。
レジに行くのはもう少し待たないとな。ゆっくり待っていよう。
それから10分後、買い物が終わり俺たちはカフェにいた。
「パフェパッフェ〜♪」
ティタニアは上機嫌で、変な歌を歌っていた。それほどパフェが楽しみらしい。
「お待たせ致しましたー」
その言葉とともに店員さんがパフェを持ってくる。
俺はそれを見て驚愕してしまう。葉月も三宅も同じように驚く。
それもそのはず、ここのパフェは高さ37センチのビックパフェだからだ。
「うわぁ〜すごいですね!美味しそうです。」
ティタニアだけはとても嬉しそうで、しっぽがあったらブンブン振っているであろうほど興奮していた。確かにパイナップルづくしで美味しそうではあるけどね。
「いただきま〜す。」
ティタニアは早速食べ始める。
ひと口食べてとても幸せそうな顔をする。すごく美味しいみたいだ。
「〜♪」
ティタニアは一切手を休めることなくパフェを食べ進めていき、パフェはどんどんティタニアの胃に吸い込まれていく。
なんかブラックホールみたいだ。
「ごちそうさまでした。」
あれからものの数分で30センチを超えるパフェは跡形もなく消えていた。
俺は改めてティタニアの食欲に驚かされた。
「美味しいものも食べましたし、最後の場所に向かいましょう!」
パフェを食べたおかげか、より一層元気になったティタニアを引き連れて最後の場所へ向かう。
最後は少しゆったりとした時間を過ごしたいということで名護城公園に行くことにした。
ここは、とても広い場所で、しっかり回ろうと思ったらこの時間じゃ足りないほどだ。
また、ここは春の桜の名所にもなっており、春になるとたくさんの綺麗な桜を見ることができる。残念なことに、今は季節じゃないが。
「ティタニア、写真撮ろ〜」
「いいですよ。」
元気な2人は絶賛写真撮影中だ。この空いた時間でたくさん写真を撮るのだろう。
「なぁ三宅、今日はどうだった?」
俺はふと、三宅に気になったことを伝えてみる。
俺は三宅が今日、しっかり楽しめたかが気になってしょうがなかった。
この班行動は、全員が楽しめなきゃ失敗な気がしてしまう。
俺自身、みんなの意見をできる限り反映したし、みんなに楽しんでもらえた自信はあった。
でもやっぱり言葉で伝えてもらわないと不安だ。特に三宅の場合は。
あの2人は見てるだけで楽しかったのが伝わってくるから聞かなくてもわかる。
「そうだな……今日は学ぶことも多かったし興味のそそられる歴史も知れた、だから言葉で表すなら楽しかったといえる。」
「そっか……」
「よかったー」と心の中で安堵してしまう。これでひと安心だな。
「かっずと〜一緒に写真撮るぞー!」
「三宅くんも一緒に撮りますよ。」
「午前中撮ったから遠慮しておきたいんだが。」
「そんなこと言ってもこいつらは諦めないよ。大人しく写った方がいい。」
「……確かに、そうだな。」
「そう!和人の言う通りだよ!」
「一緒に撮ってくれないと駄々こねますからね。」
「「それはめんどくさい……」」
「ほらっ、わかったら撮る!」
「わかったよ……」
俺たちは、しぶしぶながらもどこか楽しい気持ちに浸り、写真に写った。




