52話 2日目、朝
2日目、朝起きるとスマホが通知まみれになっていることに気づく。
どうやら葉月がlineを使ってスタンプを連打したらしい。
lineを開くとたくさんのスタンプがトーク画面を埋めつくしていた。一体どのぐらい送ってきたんだあいつ。
今の時間は6時ぴったりで、もうすぐ起床時間なことを考えたら準備しておいた方がいいだろう。
俺はとりあえず葉月に『朝から元気だな』と送って顔を洗いに行く。
冷たい水が顔にぶつかり眠気が急速に覚めてくる。さて、今日も頑張ろう。
やがて、起床時間になると先生が各部屋に「起床時間だぞー」と言って回る。先生も朝から大変そうだ。
俺はその3分前に起きた三宅と余裕を持って準備する。確か7時に朝ごはんだったな。
「柊、そろそろ時間だし2階に降りよう。」
「そうだな。早くしないと混んじゃうし、少し急ごうか。」
俺たちはエレベーターを使って8階から2階へ下がる。
案の定、食堂にはすでにたくさんの生徒が列を作っており、朝食を貰って席に着くのは時間がかかりそうだ。
「やっぱり混んだか。」
「うちの生徒は140人はいるから当然ではある。これは並びそうだ。」
食堂の席としては全生徒分あるので問題はないのだが、朝食を貰うまでが長い。
やっとのことで朝食を貰うと適当に空いてる席を見つけ、そこに座る。
そして、会話は控えめにして食べ進める。
ここの朝食はパンにオムレツ、ベーコンにサラダだ。どれも中々に美味しく、朝からたくさん食べられそうなほどにはすんなり入る。
「あっ、和人くんおはようございます。」
こちらの席を通りがかったティタニアに挨拶される。
「おはよう……朝からそんなに食べるの?」
俺の視線は彼女の手元にあった。彼女はどれも大盛りにしており、よく朝からそんなに食べられるなと思ってしまう。逆にこっちの食欲が失せてきた。
「えー普通ですよ。むしろ和人くんたちが食べなさすぎで心配になっちゃいます。」
いやお前の食べる量がおかしいだけだからな。俺らは一般的に見て普通だぞ。
「それより、今日の自由行動楽しみましょうね!それじゃっ!」
そう言い残して向こうへ行ったティタニアを見送ったあと、近くに座っていたティタニア派の男子に絡まれる。
「おい柊、お前雪原さんというものがありながらティタニアちゃんとあんなに親しく話してるんじゃねー!!」
「そうだそうだ!!お前ばっかりモテやがってズルいぞ!!」
「いや待っ……そんなこと言われても部活で一緒だししょうがないだろ。」
「しょうがなくねーぞこの野郎!」
「俺たちが普段どれだけ頑張ってあの4人に話しかけてるかわかってるのか!」
「俺たちはなぁ……1秒でも長く彼女らと話したくて苦労してるのに、それをお前というやつは!」
「なんの苦労もしないであの娘たちと話やがって!!」
「しかも話しかけてもらってる頻度も多いじゃねぇーか!!」
「「だから俺たちはお前を許さない〜(泣)」」
彼らはヒートアップしていき、ティタニア派だけでなく葉月派や千華派、冬派までも参加してきて、果てには号泣していた。これどうやって収拾つけよう……
「ちょっとみんな盛り上がってるところごめんね。これから今日のことで打ち合わせがあるから和人借りるね。」
そんな時に登場したのが頼れる幼なじみこと葉月だった。
彼女は俺の腕を掴むとそそくさと食堂を後にする。
その途中、後ろを振り返るとティタニアがアワアワしていたが、すぐに千華と冬が彼女とご飯を共にしたため、大丈夫だろう。
葉月に引っ張られるまま1階に避難すると、自販機の前で解放される。
「さっきはすっごい絡まれてたね。だいじょぶ?」
「あぁ、葉月のおかげでなんとかな。」
「それならよかった。なんか奢ってくれていいんだよ?」
「現金だな。飲み物無くなったからここに来たの?」
「いや、なんとなく。私のオススメは緑茶だよ。美味しいし。」
「……奢ろうか?」
「あっ、まじ?嬉し〜さすが和人。」
ちょうど今手持ちがあったのでさっきのお礼ということで葉月に緑茶を奢る。
「いやーちょうどこの時間に買おうと思ったら財布部屋に忘れてきちゃってさ〜助かったよ。」
「どういたしまして。こっちも助かったからいいよ。」
「やっぱり和人からはご褒美として奢られるのがいいんだよね。それ以外で奢られるのはなんかやだ。」
「お前ほんと変なこだわりもってるよな。俺以外からはそういうのないのに。」
そうなのだ、なぜか知らないが葉月が俺から奢られる時は、きまってなにかのご褒美として奢られるのだ。それ以外は嫌な顔をして避けようとする。
俺以外からはそんなことないのに。
ほんとに謎なんだよな。なにか理由があるんだろうか。
「うんでさ、今日のことなんだけど。」
「それは本当に話したかったんだな。」
「もち。今日はたくさん写真撮るから覚悟してねって言いたかったんだ。」
「そんなことわざわざ言わなくてもよくないか?」
「だって言わないといざ撮るって時にあんた、うわっまじか……みたいな顔するじゃん。」
「いや、それは俺が葉月たちと一緒に写真に写ってもいいのかわからなくてさ。」
「いいんだよ!むしろ一緒に撮ってくれなきゃティタニアも私も駄々こねるよ!!」
「こどもかお前ら!?」
真剣な表情で少しおかしいことを言う葉月に、安心するようなため息つきたくなるような。
「ともかく、一緒にたくさん写真撮って、色んなもの見て、美味しい物食べて、一生忘れられない思い出作ろうね!」
「わかったよ。」
一生忘れられない思い出を作る、そこに関しては同感なのでスムーズに首を縦にふる。
「わかればいいんだよ。それじゃっ、またあとでね!」
葉月はそう言って元気よくこの場を去る。
俺もまた、葉月が見えなくなったタイミングで部屋に戻り始める。
それから約1時間後、ホテルから出発する時間になる。
俺たちは荷物をまとめると、外に出て班行動を開始する。
この時間はタクシーに乗って目的地を転々とする。
「最初は今帰仁城跡だね。結構遠いから暇な時間がたくさんあるね。」
「それならたくさんおしゃべりしましょう。あとお菓子もあけましょうか。」
「それこぼすなよ。タクシー内だからめんどくなるぞ。」
「はーい。」
タクシーは順調に進んでいく。一般道から高速にのり、ずんずん進む。
「ここからまだまだ長いんですよね?」
「あぁ、こっから30分ぐらいはかかると思うぞ。」
「はぇー長いですね。しりとりでもしませんか?」
「いきなりしりとりは救いがないだろ。それってやることない時の最終兵器だと思うんだが。」
「えっ、そうですか?私は普通のやつだと思ってるんですが。だってよくやりません、しりとり。」
「価値観は人それぞれだとして、ここはあえて中間をとって手遊びでいいんじゃない?」
「あーいいかもな。」
「あのいっせーの、1っとかやるやつですよね?他にも色々種類のある。」
「そうそう。それなら暇つぶしになるしよくない?」
「いいですね!やりましょう!」
ティタニアは目を輝かせて食いつく。
「あっでも三宅くん前の席だから一緒にやるの難しそうだね。どうしよう?」
「僕のことなら気にしなくていい。3人でやっていてくれ。」
三宅はそう話すと、英単語帳を開いて勉強し始める。
「すごいね、こんな所でも勉強できるなんて。私だったらできないよ。」
「そりゃそうだろうな。」
三宅の平常運転ぶりに感心しながらも、こちらはこちらで手遊びの相談をする。
「うんじゃあ最初はなにやる?」
「真っ赤っか!」
「指増やしゲームみたいなやつがやりたいです!」
とりあえず聞いてみたが、葉月とティタニアのやりたい遊びが違っていた。
「……どうする?」
「そうですね……これだったらいっそ、和人くんに相手を務めてもらうのがいいんじゃないですか?」
「それだ!!」
「それだじゃないわ!」
つまりは2人が気の済むまで俺が相手をしないといけないということだ。できれば遠慮したいんだけど。
「和人なら思いっきりはたいてもいいから名案だね。」
「それが理由で名案と思うのやめろ!」
「和人くん、レギュレーションはどうしますか?」
「なに?そんなのにレギュレーションとかあんの!?」
遊びが始まる前からツッコミどころ満載で疲れる。
「よーしまずは私からいくよ。」
最初は葉月の相手をする。
葉月はほんとに容赦なく俺の手をはたいてくる。普通に痛い。
「やったー私の勝ち!」
事前に決めたルールで、勝利条件が3回はたいたら勝ちというものなので、葉月の勝利になる。
3回とも全力ではたかれた……左手がじんじん痛む。
その次にティタニアと『指で攻撃したらその指の数だけ相手の指が増えるゲーム』をする。あれの正式名称わからないから『指増やしゲーム』と呼ぼう。
事前に分裂は2回までと決めておいた。分裂が無限にできると一生ゲームが終わならそうな気がするし。
「やぁ!」
「ほいっ、」
「てやっ!」
序盤は分裂を使いながら上手くさばいていったティタニアだか、分裂を使い切るとすぐに右手が死んで、左手も死んだ。
こいつ、このゲームかなり弱ぇ……
「もっもう一回です和人くん!」
ティタニアは悔しさを露わにして再戦を申し出た。まだ時間あるし付き合うか。
「いいよ、もっかいやろうか。」
てことでまた『指増やしゲーム』をやる。
でもやっぱりティタニアは弱く、分裂使い切ったらすぐ死んだ。
「うぅ、また負けました。」
「ティタニア落ち込まないで、私がその分仇をとるから。」
葉月は力強くニカッと笑うと俺に向けて人差し指を向ける。
「それじゃ、やろうか。」
「いやかっこいい感じ出さなくていいから。」
「……そこはのろうよ。」
俺がツッコムと、葉月は調子を狂わされたのかジト目で不満そうにしている。
「うん、なんかごめん。」
「わかればいいんだよ。それじゃあ気を取り直していざ勝負!」
こうして、やる気満々の葉月との勝負が始まった。
こうしている間にも、タクシーはしっかりと目的地に向けて走っていた。




