50話 千華と一緒に
バスに乗った俺たちが次に向かうのは国際通りだ。
国際通りは沖縄に来たら絶対行くべき場所で、ここにはたくさんのお土産屋さんがある場所だ。
俺たちは5時半までの間、ここで自由行動をすることができる。今朝千華と話してたのもここで一緒に行動しようと言うものだった。
「よーしお前ら、時間になったらちゃんとこの場所に戻ってこいよ。では、解散!!」
五十嵐先生の声とともに生徒は一目散に駆け出す。うわ、みんな行くのはやっ……
「なにボーッとしてんの?私たちも行くわよ。」
「あぁ、そうだな。」
俺が呆気にとられてる間に近づいて来た千華と一緒に、行動を始める。
「千華はどこか行きたい所ある?」
「私は無難に色んなお店を見て回りたいわ。どうせ最終日にも自由時間あるし。」
「そっか、それなら気になった店をどんどん見てって、気になったものがあるなら買う流れで行こうか。」
4時ピッタリに俺たちは行動を開始した。与えられた時間は1時間半だ。この時間でたくさん千華と話そう。これが終わったら暫く会えないし。
そういえば言い忘れていたが、この修学旅行は私服で来ているため、堅苦しさは全くない。
というか千華の私服やっぱり可愛い。見てるだけで癒される。
「あんまジロジロ見ないでよ。」
「あぁ、ごめん!」
千華に見とれてた自分を心の中でシバき、散策を開始する。
「それにしても国際通りってこんなにお土産屋さんが密集してるのね。これだとどこ行ってもあんまり変わらなそう。」
「確かに店はたくさんあるけどそれぞれ差別化はしてるだろ。似てるところはあれども、どこ行っても変わらないってことはなさそうだけどな。」
「……そうかもしれないわね。あっ、ちょっとあのお店見てもいい?」
「もちろんいいぞ。」
千華が気になった店に入り、店内を見て回る。
「なにか気になるものあったの?」
「いえ、ただ単純にここに柏崎の生徒がいないから選んだだけよ。」
言われて気づく。確かにここには柏崎の生徒は1人もいない。
「……お土産見るにしても他の生徒が近くにいたらこの口調で話せないから。それはなんか嫌だし。」
「千華……」
千華のその言葉を聞いて思わず嬉しくなってしまう。俺の前ではできるだけ素の状態でいようとしてくれる彼女が、ほんとに愛しく思えた。
「好きだよ、千華。」
「はっ、はぁ!?なによ急に!?」
いきなりの好き発言に困惑する千華。赤くなって慌ててるのもまた可愛い。
「…………」
「なんなのあんた……?」と言わんばかりの視線を受け、思わず笑みがこぼれてしまう。やっぱりまだ「好き」とか「可愛い」の免疫ないんだな。
「うっさい!」
千華から最後の抵抗として殴られる。結構力が入ってるせいか痛かった。
こういうのもこの子の愛情表現なんだよな。可愛い。
「いつまで可愛いって思ってんのよ!」
「ちょっ、掴みかかるのはやめよう!?」
顔を赤くして怒っているのか恥ずかしがっているのかわからない(おそらく両方だろう)千華をどうにか落ち着かせる。
落ち着いた千華は俺を警戒してか厳しい視線でこちらの「可愛い」を抑制してくる。そんなに嫌なのか?
「ノーコメント。」
こちらの思考を読める千華は、短く鋭い返答をしてくる。理由は言いたくないようだ。まぁでもなんとなく想像できるんだよな……
「あっ、これいいかも。」
千華はムスッとした表情を一変させ、目を輝かせる。
彼女が手に取ったのはメロメロ石と呼ばれる天然石を使ったストラップだった。
「確かにいいね。綺麗で興味を惹かれる。」
「これってかなり人気みたいね。ここにデカデカと書いてあるし。」
千華の指さす方に視線を向けると、目立つ色でしっかり書いてあった。芸能人とかも買っていくほどなんだな。
「いらっしゃいませ。なにをお探しですか?」
「あっ、えっと……ただどんなのがあるのか見てるだけなんです……けど……?」
店主の人が話しかけてきたので、そう返しながら振り返る。
そして、硬直する。
なぜなら、ここの店主の人は普通の服ではなく、ローブのような衣装で、顔の部分には薄いベールをしているという、ひと目で占い師を連想してしまう格好をしていた。
声のトーンや雰囲気からどこかで会ったことのある人物だと直感した。
そして2秒後、該当する人物を思い出した。
「あの時の占い師の人ですか!?」
「あなたはあの時の黒髪の……ここで会うとは偶然ですね。」
店主の人、もとい占い師さんは嬉しそうな声で応じる。
「どうしてこんな所にいるんですか?」
「ここは私の友達が経営してるお店なんです。ちょうど遊びに来た時に店番を頼まれまして、それでここにいたんです。」
「なるほど……」
「それにしてもあの時の茶髪の方まで一緒なのですね。」
「あっ、どうも。」
千華も同じく困惑していた。こんな所で会うなんて想像もしてなかったもんな。気持ちはわかる。
「お二人が一緒にいるということは、付き合っているのですか?」
「まぁ、そうですね。あの占いのおかげといえばそうなりますかね。」
「ふふっ、それは嬉しいです。私の言葉があなた方の助けになればそれに越したことはありませんから。」
占い師さんは嬉しそうに笑う。
「それに……茶髪の方、顔つきがスッキリしましたね。前会った時はなにか影がさしていた様な感じでしたが、今は幸せそうに見えます。」
「うっ……そう見えます?」
「えぇ、見えますよ。なんだかこっちまでほっこりした気分になってしまいます。」
「……」
千華はその言葉に苦い顔をする。やめろ、疑いの視線をこっちに持ってくるな。答えは占い師の人と変わらないぞ。
「あっ、そういえば自己紹介が遅れましたね。私のことはとりあえず凪と呼んでください。」
「柊和人です。よろしくお願いします凪さん。」
「……雪原千華です。」
凪さんと軽く自己紹介をする。とりあえずってことは凪っていうのは本名じゃなさそうだ。
「凪さんの本名ってなんですか?」
千華も同じことを思ったのか、ズバッと切り込んだ。
「ふふっ、それは秘密です♪︎女性はミステリアスな方が魅力的ですし。」
「むぅ……」
「それよりも、カップルならこのペアストラップなんかがオススメですよ。」
なぜか悔しがる千華と俺に、凪さんは愛想良く商品を勧めてくる。
勧めてきたペアストラップはシンプルなデザインでありながらも精巧であり美しさを感じた。
「凄いですね、これシンプルだから付けやすいです。」
「そうなんです、これはどんな方にも抵抗のないようにシンプルなデザインにしてますから、きっとお二人にもあうと思いますよ。」
「おぉーなるほど。」
凪さんの上手いセールストークに感心してしまう。千華も興味津々になっている。
「ただ……お値段がちょっと気になる部分ではありますね。」
そう言って凪さんが見せてきた値札には1万を超える数字が記載されていた。
「高っ!」
「結構こだわりのある作品なのでこのくらいしてしまうんです。本当なら値引きしてあげたいのですが、私は店長ではないので無理なんです。すいません。」
「これは流石に買えないわね。これ一つでかなり持っていかれるし。」
千華は諦めたような顔でため息をつく。もしかしてこのストラップ気に入ったのかな?
そして、思考すること10秒、考えた末に出した答えというのが、
「構わないですよ、買います。」
買うという結論だった。
「えっ!?ちょっ、はぁ!?」
千華は当然の事ながら驚いている。
「本当にいいんですか……無理してませんか?」
凪さんも俺が学生ということで、かなり心配してくれる。
「いえ、大丈夫ですよ。このストラップ本当にいいものですし、それに千華が喜んでくれるものをプレゼントしたい一心なので。」
俺の言葉を聞いて凪さんは柔らかな笑みを浮かべて「ありがとうございます」と丁寧に一礼する。
「ちょっ、私は欲しいなんて言ってないわよ!?」
「言わなくてもわかるよ。だって顔に書いてあったし。」
「……どんだけ見てんのよ私のこと……」
「たくさんとしか言いようないな。」
「それじゃあ半分払うわよ。」
「いいよ、これプレゼントなんだし。全部払うよ。」
「……カッコつけ。」
「いいだろ別に。彼女の前でぐらいカッコつけさせろよ。」
「あっそ。それじゃ私はその言葉に甘えるわ。」
そう話す千華は、仄かに顔を赤くして、口元を少し緩ませていた。結構嬉しいんだろうことがすぐわかる。
「お買い上げありがとうございます。またのお越しをお待ちしております。」
ペアストラップを買い、店を後にする。
落ち着ける場所(人通りのない場所)まで来ると、千華にプレゼントする。
「ありがとう、和人。」
「どういたしまして。できるだけ大事にしてほしいな。」
「はぁ……当たり前のこと言ってんじゃないわよ。そんなの言われなくても大事にするに決まってるでしょ。」
「そっか。」
「それより、あんたの方こそ大事にしないさいよ。初のペア物なんだから。」
「うん、ずっと大事にしてるな。」
俺の言葉に千華は「それならいいわ」と安心したように返す。
そんな千華を見てると笑みがこぼれてきてしまう。
千華はこの気恥しい空気を変えるために一旦咳払いを置いてから他の話題を話す。
「そういえばあの人からよく買う気になったわね。」
「まぁ、千華のことを喜ばせたかったからな。」
「だとしてもあの占い師さんから買う?私はどうも警戒しちゃうのよね。」
「確かにミステリアスな人だけど、信用できる人だと思うよ。」
「まぁ確かにテレパシー使った限りじゃ悪いこと考えてる人じゃなかったけど。もしかしたら粗悪品売りつけられてた可能性もあるのよ?」
「どんだけ凪さんに信用ないんだよ。俺だってちゃんとアナライズ使ってたんだぞ。だから品質は値段相応なことぐらいわかる。」
「へぇーそうなんだ。って、あんたもアナライズ使ってる時点で凪さんのこと疑ってるじゃない!」
「いや、一応だから……一応。」
「そう思いつつも、私と同じで占い師ってだけでいつもより身構えちゃうことぐらいわかるからね。」
「……バレたか。」
千華の言う通り、占い師ってだけでなぜかいつもより身構えちゃうんだよな。占い師自体が謎に包まれてるからかな?
「それでも凪さんは信用できるよ。接してたらわかる。」
「……なんとなくだけど」、その言葉を聞いて千華は「直感じゃない」とため息をつく。
「……まっ、あんたの方が正しいのかもね。私も凪さんと接して謎だけど危なくないって感じたし。」
「千華も感じたんだな。」
「ちょっとだけね。」
やっぱり千華と話すのは楽しいな……
千華と一緒にいるととても楽しいし幸せになる。
「さてっ、もうすぐ時間ね。」
だが、そんな時間も終わりを告げようとしている。
「早いな、時間が経つのは。」
「そうね、ほんとあっという間。」
名残惜しそうな表情の千華は、俺の服を掴んで「ねぇ、」と小さめの声をだす。
「抱きしめてくれない?」
「はい?」
「いや、だから……私を抱きしめなさいよ!」
「なんで!?」
いきなりの抱きしめなさい発言に戸惑ってしまう。普段の千華ならこんなこと言わないし尚更だ。
「だってこの時間が終わったら最悪最終日まで会えないし、充電しておきたいのよ。」
「あっ、そういうことね。」
ようやく状況を整理できた。
俺も千華に会えないのは寂しいし、充電しておきたい。
「わかった、抱きしめるよ。」
俺は千華を腕で優しく捕まえ、逃げられないように抱きしめる。千華も、自分の手を俺の背中にまわして、俺のことを抱きしめてくれる。
千華はこの時ばかりは大人しく、俺の胸に顔をうずめている。
千華の体の柔らかさと体温、いい匂いが伝わってくる。とんでもなく幸せだ。
また、この時ばかりは周りの時間が止まっているように思えた。
この時間がいつまでも続けばいいのに……




