5話 PSY部と風紀委員長 ~後編~
さて、図書室で風紀委員長と会った俺達は、話をすべくPSY部に移動した。
部室に入ると千華と冬が本を読んでいた。
「……失礼する。」
「あっ、久木野瀬先輩どうしたんですか?」
(うわぁなんか変なことになってるわね。)
(ゆっくり話を聞くのにはここが一番いいと思ってな。)
(私帰っていい?)
(そこは好きにしていいんじゃね?)
部室に入った俺達はソファに座り、話始めた。
「……そういえば自己紹介をしていなかったな、俺は久木野瀬伊月、風紀委員長をやらせてもらっている。ところで話とはなんだ?」
冷静で落ち着いた雰囲気の男、久木野瀬先輩はそう言って俺たちを見た。
「いや単刀直入に聞きたいんですけど、久木野瀬先輩って何か特別な力を持ってたりするんですか?」
葉月は久木野瀬先輩の問いに対してそう答えた。いや結構直球だな。
(すごいわね。)
(あぁ、もうちょい話をしてから聞くのかと思った。)
久木野瀬先輩は少しの間をとってから口を開いた。
「……今この場所だからこそ話そう。俺はお前らと同じ能力者だ。」
「えっ!?」
「うぇっ!?」
「……!!(案外驚いてる)」
(マジで!?)
(………いや、マジみたいね。)
(あれ?千華は驚いてないのか?)
(前々からそうなんじゃないかって思ってたし。てかテレパシーで先取りしてた。)
(ほんとに便利だなその能力。)
俺達は久木野瀬先輩のカミングアウトにびっくりしていた。ていうかほんとに能力者だったのか。
「どんな能力なんですか!?私すっごく気になるっす。」
花火は興奮した様子で聞いてきた。こいつさっきからテンション高いな。
「……あまり言いたくはないのだがな……空間支配、それが俺の能力だ。」
なんかスッゴいチートっぽいのがきたんだけど。
「簡単に言うと俺の周りの空間のあらゆる要素を支配でき、俺が対象に直接触ればその対象を固定できる……そういう能力だ。」
「完璧チートじゃないですか!すごいっす。」
「だがこの能力は射程が短いがな。3メートル程度だったか。」
欠点はあるが十分に強い能力だった。近づくことができなさそうだな。
(なんかすごい能力がきたな。)
(戦闘に関しては最強クラスよね。)
「…俺の能力についての話はこれくらいにしてくれ。」
「そうっすね。あんまり深く聞いてもあれですし。」
「そうしてくれると助かる。…代わりといってはなんだが…」
久木野瀬先輩はそこまで言うと、俺を見つめて、
「柊和人、お前に話がある。」
そういった。
それを聞いたとき、俺は少し硬直した。
なぜなら、久木野瀬先輩から俺に話すことに心当たりが全くないからだ。
「……なんですか…?」
俺は久木野瀬先輩をしっかりと見据えてそう言った。
何も悪いことはしてないのだから動揺することはないだろう。
「……お前に前々から会わせたい人物がいる。今から時間はあるか?」
「!?」
その瞬間、少し、ほんの少しだけ嫌な予感がした。
でも逃げるわけには行かない。
「…ありますよ。ちなみに誰ですか?その人物というのは。」
強気の姿勢は崩さずに久木野瀬先輩にまっすぐ尋ねる。
「……それは移動しながら話そう。なにせ、彼は多忙なのでな。」
そう言うと久木野瀬先輩は立ち上がり、出口へ向かう。
俺もそのあとを追う。
部室から出ると、本館へ向かって歩いていく。
「これから柊に会わせたい人物はお前も知っている人物だ。」
前を歩く久木野瀬先輩はそう言った。
「俺も知ってる人ですか?」
俺は思わず聞き返した。
「あぁそうだ。彼は、理事長は入学式や推薦試験であっているはずだしな。」
理事長、と久木野瀬先輩の口から漏れたとき、驚きとともに嫌な予感の正体を知った気がした。
(まさか理事長と話すときがくるとは。)
そう考えた瞬間、いつかに葉月が言った言葉がリフレインする。
(まさかな………)
俺のなかで嫌な予感が強まっているが、それを振り払うようにして久木野瀬先輩と話す。
「ちなみにどんな内容なんですか?」
「それはここでは言えないことだ。ついてから話そう。」
まじっすか、とそう聞いた瞬間思う。
ほんとどんな話されるんだろう?
そんな疑問を持ちながら久木野瀬先輩の後を歩き理事長室へと着く。
理事長室に着くと久木野瀬先輩はドアを2、3回ノックし中の応答を待つ。
するとすぐに中から「どうぞ」と男性の声が聞こえたので久木野瀬先輩が先に中に入り、俺も後に続いた。
理事長室の中には若い男性がいた。
歳は20代だろうか?黒髪短髪で優しい顔立ちをしており、かけている眼鏡はよりそれを引き立たせている印象のある高身長イケメンだ。
俺は最初、その人のイケメン具合より歳に驚いた。
理事長というものだから40代や50代の人を思い浮かべていたのだが、現実は若いイケメンであった。
「やぁどうしたんだい久木野瀬くん?何か変わったことでも……あぁ、そういうことか。」
理事長は会話の途中で俺を一瞥し、何かに納得したように話した。
「……前から話したがっていた柊を連れてきたぞ天夜さん。」
「あぁ、ありがとう。」
天夜さんと呼ばれた男は柔和な笑みを浮かべて応じた。
そうすると久木野瀬先輩は役目を終えたといわんばかりに理事長室から退散した。
「まずは自己紹介からしようか。私の名前は柏崎天夜、この学園の理事長なんだけど……印象に残っているかな?」
「えっと……すみません、正直分からなかったです。
特別推薦制度の時の面接では理事長代理を名乗る女性との面接でしたし、入学式は他の先生があいさつしてましたし……ハッキリいって一回も会ったことないです。」
「えっ!?そうだったかい!?………あっ、そうだった。」
天夜さんは最初驚いたような声をあげていたが少し考えた後、右手で顔を覆った。
(なんか……思ってた人と違うな。)
俺は心のなかでそう思いながらも、その期待が外れたことへの安心感というのか残念感というのか分からない感情を表には出さなかった。
「えっえ~っとそれじゃあ改めて、これからよろしく和人くん。」
天夜さんは一旦咳払いした後俺に向かって笑顔で言った。その笑顔はとても眩しかった。
「はいっ、よろしくお願いします。」
「早速なんだけど和人くん、君と少し話がしたいんだけど大丈夫かい?」
俺が少し戸惑いながらも天夜さんにあいさつをすると、彼は話がしたいと言ってきた。
「もちろんいいですよ。そのために来ましたし。」
ようやく本題入ることに対しての緊張を声に混ぜて話す。やっときたか。
「まず最初にどうして和人くんと話をするのかについてなんだけど、これからする話は別にきみだけに限った話じゃないんだ。
緋色葉月さんに雪原千華さん、夢宮冬さん、香坂花火さん、柳沼秋穂さん、成宮睦月さんにも関係ある話なんだ。
まぁつまりで言っちゃえばPSY部に関係することなんだ。」
「……なるほど。」
俺はPSY部に関係のある話と聞いたとき、能力者についての事だとわかった。
「あのっ、ひとつ疑問があるんですけど。」
だが、突如として湧いてくる疑問があった。
「なんで最初に俺に話すんですか?普通は部長の葉月に話すような気がするんですが?」
そうなのだ、別に俺にだけ関係のある話ならともかく、PSY部に関係する話となれば普通は部長である葉月と最初に話すべきなのだ。
別に俺にはなんの権限もないわけだし。
「その事なんだけどね……理由は2つあるんだ。
ひとつは君があの部員の中で一番話やすそうだったから。
そして二つ目が大事なんだけど、君と個人的に話をしたかったからなんだ。」
俺のそんな質問をうけて天夜さんはニコリと笑い言葉を放つ。
「個人的な話ですか?なにか話すことなんてありましたっけ?」
俺は天夜さんの言葉を聞いてでた疑問を素直にぶつける。
俺は天夜さんと関わるのはこれが初めてだし心当たりが無さすぎるんだが。
「……まぁそうだね。和人くん自信には心当たりがないのもむりはないよ。
……だって僕が君と話したいことは君のお父さん、柊雅人先生の話だからね。」
天夜さんは人当たりのいい笑みをうかべながら言った。
彼は俺をできるだけ刺激しないように言っていることは分かっているのだが、柊雅人の名前がでた瞬間俺の表情は曇った。
天夜さんは明らかに曇る俺の表情を見て、
「……すまないね。和人くんにとっては嫌な思い出しかない人物の話なんてしたくないのかもしれないが少しだけ話をさせてくれないか?」
そう謝罪をおりまぜて言ってくれた。
嫌な予感は少しあったけどまさかこの事とは。
俺は1回頭を落ち着かせてから口を開く。
「はいっ、大丈夫ですよ。
父さんのことは昔から大嫌いですけど、今は少し落ち着いてるんで。」
俺は天夜さんをまっすぐ見据えて話す。
天夜さんは少し驚いたような顔をしていたが、すぐに何か儚いものを見るような表情に変わって「そうか……ありがとう…」と呟いた。
「さてっ本題に入ろうか。
実は僕と雅人先生は知り合いでね、僕が学生の頃に3ヶ月ぐらい家庭教師として勉強を教わってた時期があったんだ。
その時に色んな話をしたものだよ。仕事の話とか政治の話、経済や経営の話なんかをね。
先生は僕からみたら仏頂面で取っ付きにくいように見えても話しやすい人に思えたんだ。
そして、いつものように先生との勉強が終わってひと段落ついた時、僕は聞いたんだ。先生の家族のことを。
最初は軽い好奇心だった。」
「けど……」とそこまで話すと天夜さんは少し重い顔つきになる。
「けどね先生は家族構成は教えてくれたのに詳細なことは教えてくれなかった。ただひとつを除いては…」
「もしかしてそれって、」
「あぁ、和人くん、君のことだよ。」
天夜さんの言葉を聞いてまた俺の表情は暗くなる。
純粋に何を話したのか気になるが、父さんのことは嫌いで話を聞くのも嫌なくらいだ。
でも、少しでも乗り越えられるようにしないとな。
「君のことは少ししか聞いてないんだけどね。
先生が言うには優秀だけど今は心の支えが無くなっているから不安定で使えないとかまだまだ詰めが甘いとか色々言ってたよ。」
「なっ!?」
なんか割りとボロクソに言われた気がしてめっちゃムカついた。この怒りはどこにぶつければいいんだろうね。
俺がムカムカしているのを見ている天夜さんは苦笑いをしていた。
「まっまあ、色々言いながらも和人くんのことを誇らしく思ってたと思うよ。」
天夜さんは慌ててフォローしてくれるがムカムカは止まらない。
「えっと、話を続けようか。
先生は君のことを大切には思っていたよ。話を聞いてそこはわかった。
でも、先生は君と先生の奥さんに恨まれてるとも言ってたんだ。理由を聞いても固く口を閉ざしたままだった。
そして次の日からは仕事があるとかで来なくなってしまったんだ。」
天夜さんの表情は少し悲しそうに見えた。
「結局何があったのか分からなくてね。
そのときの先生の表情は今でも覚えてるよ。なんというかどこか寂しそうな感じがしたんだ。
和人くんと先生の間に何があったのかは分からない、無理に話せなんて言わないし話したくなったら話してくれていい。
でも、僕は1人の人間として和人くんのような能力者達が幸せになってくれるように手助けをしたいと思うんだ。
だから、定期的にこうして話してくれないか?進みたい進路のことや、やりたいことは僕達が可能な限り手助けすると約束するよ。」
そう言うと天夜さんは穏やかに微笑んだ。
この人ってとってもすごい人なんだと思った。
「あのっ質問いいですか?」
「あぁ、いいよ。」
「特別推薦制度って俺たちみたいな人のためにあるんですか?前からひっかかってたんですけど。」
「うん、そうだね。特別推薦制度は君達能力者をとるために新しくつくったんだ。
うちに入ってくれればいろいろ支援できるからね。」
やっぱりそうだったんだ。
俺は少しの驚きと天夜さんに対しての感謝を感じていた。
ここに来なかったら千華や冬なんかにも会えなかったんだよな。
「あとは肝心の能力者を見つけるための方法なんだけど、僕は先代や自分で築いてきた情報網を使ったりしてるんだ。
あと他にも他にも方法はあるんだけど………それはまた今度ということで。」
「もう時間だし」と天夜さんは視線を壁掛け時計に移す。
現在時刻は5時をまわっていた。そろそろ帰った方がいい時間帯だろう。
「じゃあ和人くん、気をつけて帰ってね。」
「はいっ、今日はありがとうございました天夜さん。」
俺は短く会釈をするとその場をあとにしようとする。
「他の人達にも、僕ができる限りの手助けをすると話しておいてくれると助かるよ。」
不意にそう投げかけられた言葉に俺は微笑を浮かべて、
「えぇもちろん。」
そう答えた。
理事長室を後にして部室に戻り、一通りの事情を説明しながら帰路につく。
外に出ると雨は弱くなっていて少し明るくなった気がした。
とはいえ傘を差さないと濡れるので傘を差して駅に向かう。
その途中で葉月は綺麗に咲く紫陽花を見つけ、かなり上機嫌だった。一人で鼻歌を歌っている程度には。
そんな様子を見て俺は無意識に微笑んでいた(千華から『何笑ってんの?キモ。』とテレパシーでいわれるまでは)。
やがて、雨が止む頃には家に着いた。
そこからはいつもの通りだ。ご飯をつくり、食べ、お風呂に入り、寝る準備をする。
こういう何気ない日常もいいもんだな。
そんなことを思っていると不意にとある写真立てに目がいく。
そこには1枚の写真があり、幼い頃の俺と笑っている母さん、いつものように仏頂面になっている父さんが映っていた。
確かに今でも父さんは嫌いだ。
8年前、母さんが死んだあの日に父さんは泣かなかった。それどころか「ふん……死んだか。」と冷酷な顔で言ったのだ。
思えばあの時から俺は父さんに対して明確な強い殺意を抱くようになった。
今での地獄の日々は全て父さんを殺すためにやってきたようなものだった。
痛くて、辛くて、逃げ出したくなるような日々。
だが父さんも2年前に亡くなった。死因は中東の紛争地域に傭兵として行ったせいであった。
そこからの俺の生活は何を目標にして生きればいいのか分からなかった。
言ってしまえば灰色の世界になっていたのだ。
それを心のどこかでは認めたくなくて、俺は安定した生活をしたいと思うようになった。
でも、今は少し、ほんの少しだけ変わってきている気がする。
柏崎学園に通ったおかげで少しずつ皆といることが楽しくなってきた。葉月がいて、千華と冬がいて、生意気な秋穂と元気な花火と少し楽しそうな睦月がいる……そんな光景が好きになりつつある。
俺の中で今日聞いた天夜さんの言葉がリフレインする。
将来のこと、ちゃんと考えてみるか………
俺はそう考えながら襖を開け夜空を見上げる。
その時の夜空は雲がそれほどなく月がハッキリと見えるほどのものだった。




