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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
2年生編②
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49話 平和学習

バスに乗った俺たちは、戦争の悲惨さを知るために平和記念館へと向かっていた。


沖縄は戦争の被害を大きく受け、町が戦場になったのは誰しもが知っていることだろう。


今回は、当時の状況をより深く知るためにそこへ向かう。


まぁ今回の修学旅行の目的は戦争当時の被害や町の状況、人々の生活を知るっていうことだし、こういう所へ向かうのは普通だ。


むしろこういう所へ行かないとただの旅行になってしまうからな。俺はそれでも全然楽しそうだと思ってしまうが。学校側が許さないんだろう。



バスが走ること数十分、ようやく目的の場所に到着する。


「とうちゃーく!」


「葉月、お前元気だな。」


「当然!だってまだお昼だし、私は元気だよ!」


「……そうか、わかってるとは思うけど館内では騒ぎすぎるなよ?」


「そこはわかってるよ。TPOをわきまえてこそクラス委員長ってものだからね。」


葉月は偉そうに薄い胸を張る。どうやら大丈夫っぽいな。


「そういやティタニア、」


「お前もあんまり騒ぐなよ」と言おうと振り返ると、そこには手を合わせて祈るティタニアがいた。


「なにしてんだ?」


「あーいえ、ここにはたくさんの霊がいるので祈ってたんです。成仏してくださいって。」


「そうなのか。悪いやつもいるのか?」


「少しだけいますね。でも大半がいい霊なので心配しなくても大丈夫ですよ。」


ティタニアのその言葉を聞いてホッとする。沖縄って戦場になった場所だし、ヤバそうなのたくさんいるかもしれないって思ってたからちょっと安心した。


「でも、」とティタニアが続ける。


「ガマとかの場所ではかなりすごいのがいるので注意してくださいね。」


「あっ、うん……」


やっぱりか。でもティタニアと一緒にいれば大丈夫だよな……?


「危ない場所は私も注意を促すので安心してください。」


「そうそう。今はそんなことより早く館内を見て回ろ?」


「……わかったよ。いざとなったら頼りにしてるよティタニア。」


「はい、お任せ下さい!」


元気な2人とともに館内へ足を踏み入れる……前にクラスで写真を撮る。


館内の前には記念碑があるのでそこでみな並んで撮る。記念碑前で撮るのってなんか複雑なんだが。怒られないかこれ?


写真を撮り終わると、自由に館内を見て回る時間になるので走る元気娘2人を追いかけて中に入る。


中は当然のごとく落ち着いた雰囲気で、ガラスケースの中には当時の写真や日記、戦争で用いられた武器や船などの模型などがズラリと並んでおり、興味をそそった。


中でも1番興味を持ったのは、

「硫黄島での戦いってこうなってたんだな。」


硫黄島での戦いの記録だった。


硫黄島、あまり聞きなれない単語でもあるしそこが戦場になったなんて知らなかったが、内容をよく見ると、日本側の損害よりも、アメリカ側の損害の方が大きかった稀有(けう)な戦いだというのがわかった。


当時の戦力は、日本兵は約2.3万、アメリカ兵は11万の兵力と、およそ5倍の戦力差に加えて、アメリカ側には空母や巡洋艦、駆逐艦などもあったので日本が不利なのは明白だった。


それなのにアメリカ軍に日本を上回る損害を与えたのは戦い方を工夫したからであった。


日本軍は硫黄島の地下を掘り進め、広範囲にわたる坑道を作り上げたのであった。それによって艦砲の射撃や爆撃に耐えたのだ。


また、少人数で行われた夜襲は、アメリカ軍の物資にかなりの打撃を与えたことも記述されていた。


「和人くんは勉強熱心ですね。」


俺が資料を熱読していると、ティタニアがいつの間にか隣にいた。


「別に、これくらい普通だろ。」


「いえいえ、普通メモまではとらないと思います。」


目線を自分の手元に落とすと、無意識のうちにメモをとっていた。


「心に残る内容だったからつい、な。」


「わかります。戦争の記憶って絶対忘れちゃいけませんよね。」


珍しく神妙な顔で語るティタニア。そんな彼女を見て少し安心してしまう。


「ティタニアもちゃんと考えてたんだな。なんか意外だ。」


「そこに関しては心外ですね。誰しも戦争なんて起こってほしくないと考えてるに決まってるじゃないですか。」


「だって、」と真剣な顔で続ける。


「戦争始まったら食べたい時にたくさん食べられないですし。」


「結局そこなんだな。」


「いいじゃないですか、この理由だって。それに他にもありますし。」


「なんだよ?言ってみろ。」


「それはですね……みんなと一緒にあたりまえの時間を過ごせなくなるのは辛いからっていうのが一番の理由です。」


「……今回ティタニアがまともすぎて調子狂うな。」


「なんか酷いこと言われたんですけど!?それじゃあまるで私がいつもまともじゃないみたいじゃないですか!!」


「いやいつもそうだろ。だっていつもシャケ〜♪︎とかマグロ〜♪︎とか言ってるじゃん。」


「言ってませんよ!私をアホの子みたいに言うのやめてください!というかなんで海鮮ばっかりなんですか!?私はお肉がいいです!」


「なんでそこに意見しちゃうんだよ!?」


いつもの調子が戻ってきたティタニアに少しだけ寂しさを感じてしまうのは気のせいだろうか。


「それはともかく、戦争なんて起こったらいつもの日常なんて簡単に壊されるんだから、ちゃんとこういう場で随時(ずいじ)戦争の怖さを知っておかなきゃいけない。」


「ですね!あっ、そうだ。」


なにかを思いついたのか、ティタニアはスマホでこの場の写真を撮る。


「なにしてるんだ?」


「アンヘルに送る写真を撮ってるんです。今日はここに行ったよ〜って。」


「なるほどな。」


今日から家に1人でいるアンヘルに写真を送るのはいいな。あの子も喜ぶだろうし。旅の思い出にもなるしな。


「あっ、せっかくですし一緒に写真撮りましょう!いい思い出になりますよ。」


「……ここで撮るのはやめた方がいいだろ。」


ここで記念撮影は場所的にふさわしくないだろうことは容易にわかる。だって後ろに戦争の資料あるし。


「それなら外行った時に撮りましょうか。絶対撮りましょうね。」


「わかってるよ。」


あとで葉月や千華とも撮ることになるだろうな。……なんか、楽しみだ。


「それにしてもティタニア、お前スムーズにカメラを使えるようになってたんだな。」


「ふふん、当然ですよ。私はこの日のためにたくさん練習しましたから。」


自慢げに豊かな胸を張るティタニアを見て少し嬉しくなってしまう。俺は今、子供の成長を目の当たりにした親の気持ちになっている。


「和人ーかなりの時間ここにいたんだね。」


目の前の機械音痴の成長に喜びを感じていると、葉月に声をかけられる。


「まぁ、ちょっと気になるものがあったからさ。メモとってたんだ。」


「へぇ〜メモとるんだ。勉強熱心だね。」


葉月にティタニアと同じことを言われた。


「それはいいとして、早く他のところに行こうよ。他にもたくさんあるみたいだしさ。」


「だな、そろそろ移動しよう。」


てことで俺たちは館内をどんどん進み、展示品の数々を見ていく。


そのなかで、たくさんのことを知ることができた。


今回ここに来れてよかったと思う。戦争の痛々しい記録を知ることができたから。あと、まともなティタニアを見れたしな。



見学時間が終わって外に出ると、バスに乗る前に3人で写真を撮ることになった。


「お別れ前にとるぞー」


「いえーい」


陽気な2人に連れられて、他の人の邪魔にならないところで写真を撮る。


「はい、笑って笑って〜特に和人。」


「はいはい。」


「なんか笑い方ぎこちないですよ。もっと笑顔で。こんな感じですよ……にぱー☆」


そう言って満面の笑みを浮かべるティタニア。


今の俺はティタニアに頬を密着されている状態のため、笑える状態じゃなかった。


だってティタニア派の連中から鋭い視線を向けられるし。これ笑ったら殺されそう。


「……まぁしょうがないか。それじゃ撮るよーハイ、チーズ。」


上手く状態を察してくれた葉月がすぐさま写真を撮る。葉月……すっごい助かったよ。流石幼なじみだ。


「いい写真撮れましたね。」


「だね、それじゃあバスに戻って次に行こう。」


「おぉー」


葉月とティタニアのあとを追って俺もバスに乗り込む。


確か次は自由時間だっけか……


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