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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
2年生編②
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48話 修学旅行へ

冷たい空気を孕んだ朝、いつもより少しだけ早く学校に来ていた。


今日は待ちに待った修学旅行の日だ。


今から学校の駐車場で一旦集まり、点呼と軽い持ち物検査をし、そこからバスに乗って空港へと向かうのだ。


「よーし旅行だ〜絶対楽しもうね!」


「そうですね、美味しいものたくさん食べます!あっ、アンヘルにお土産たくさん買ってあげよ。」


葉月やティタニアはいつもよりはしゃいでいて、テンション高めだった。そんなんで今日1日もつんだろうか?


また、千華もそうだが、他の生徒もみんなどこか浮き足立っていて、これからの旅行への期待にみちていた。


まぁ、俺もみんなと同じでこれからの旅行が楽しみではあるんだが。


「ねぇ和人、わかってるわよね?今日のこと。」


「もちろん。今日の自由時間一緒にまわろうな。楽しみにしてる。」


「ふんっ、それならいいわ。」


千華はいつもよりちょっとだけ弾んだ声色をしていた。いつもの表情なのにな。


「和人、おはよう。」


「おはよう冬。」


「あっ、おはよう冬。今日から4日間よろしくね。」


「うん、よろしく千華。一緒の部屋だから自由時間遊ぼうね。」


「もっちろんよ。」


千華と冬の間で柔らかな空気がながれる。2人とも楽しそうにしていた。


そんな2人の様子を傍から見ていた男子は幸せそうにすると同時に、俺に対して好奇と嫉妬の視線をグサグサ刺していく。


こういうのには慣れているとはいえ、やっぱりきつい。これにあと2人加わったらさらにきついな。命の危機を感じるほどだ。夜道には気をつけよう。


「よーしみんなクラスごとに集合しろー」


先生の呼びかけに応じ、規則正しく整列する。


点呼および荷物検査で10分程度ようする。


そのあとは学年主任の先生から少し話を聞く。修学旅行にはお決まりの、移動中や空港、ホテルでの諸注意が話される。みんなはそわそわしていたためか、話半分に聞いていた。


俺はこれが初めての修学旅行だ。中学生の時はその……行きたくなかったんだ。1、2年生の時まともに学校に来てなかった奴が、修学旅行に参加するのは違和感の塊で、場違いな気がしたから。


最初で最後の修学旅行、いい思い出ができるといいな……



朝の集会が終わるとバスに乗り、空港へ向かう。


バスの中は楽しい空気に包まれており、これからの予定についての話に花を咲かせていた。


「和人くん、お菓子食べますか?」


「ティタニアお前……お菓子食べるの早すぎだろ。」


俺の隣で、早くもお菓子の袋を開けるティタニア。持ってきたお菓子すぐなくなりそうだな。


「大丈夫です、この日のためにたくさん買ったので。ほらっ、」


ティタニアはそう言ってリュックの中身を見せてくる。中はほぼお菓子が占領していて、財布や筆入れ、旅のしおりは埋もれていた。なんかお菓子の海が大荒れを起こして、筆入れたちが巻き込まれて溺れてるって状況なんだが。


「……お前、大きめのリュックで来たなーって思ってたらこのためだったのか。」


「もちろんです。修学旅行にはお菓子はかかせませんからね。」


だからって多すぎでは?


すでに楽しんでいるティタニアと、それを見て疑問を隠せない俺を載せたバスはどんどんと空港へ向かっていく。



車ばっかりの景色から一変、空港が見えてくると菊池や坂田を筆頭に盛り上がる。


「あっ、空港が見えましたね(もぐもぐ)。」


「ティタニア、とりあえず食うのやめろ。」


もうバスから降りる寸前だと言うのに食べるのをやめないティタニアにやめるように促す。


ティタニアは今持ってるお菓子の中身を全て口に放り込むと、幸せそうな顔になる。そして、降りる準備を始めた。



バスが空港に到着すると、速やかにバスを降り、空港内で先生からチケットを貰う。


そこから搭乗時間まで待機し、搭乗時間が迫ってきたら飛行機に乗り込む。


「いや〜もうすぐ離陸だね。なんかどきどきしてきた。」


飛行機の席順は基本名前の順なので、俺の隣には葉月がいた。彼女はうきうき気分でなんだか嬉しそうだ。


葉月は窓際の席なので、外の景色がよく見える。なんか羨ましい。


「そうですね〜私も楽しみになってきました。」


席は名前の順のはずなのだが、なぜか俺の右隣の席にはティタニアがいた。


「思ったんだけど、なんでいんの?」


「和人くん酷いです……ただ私は先生から言われた席に座ってるだけなのに。」


「えっ、そうなの?」


「そうだよ。出発前に五十嵐先生に言われたんだけど、 ティタニアは和人がいないと危ないから隣にしといたって言われた。」


「それ聞いてないぞ!」


「和人には言ってないから、和人にはすまないけどよろしくって言ってた。」


「なんか丸投げされた気分なんだが。」


確かにティタニアを他の人に任せるより全然いいが、そういうことなら早くから伝えてほしかった。俺が断ることを危惧したのだろうか?


まぁ、今さらなに言っても変わらないのでこの状況を受け入れるしかない。


俺がそう考えていると機内アナウンスがながれる。どうやらもうすぐ離陸するようだ。


俺たちはアナウンス通りにシートベルトをしめ、スマホを機内モードに設定する。


その後、数分で機体はゆっくりと動き出し滑走路へ向かう。


「おおー」


葉月はもう窓からの景色に釘付けになっていた。まだ飛んでないぞ。


滑走路についた機体は一旦止まると、そこからどんどん加速していく。最初はのろのろだったのが、最終的には高速道路の車みたいに速くなる。


そして、離陸した。


機体は螺旋状に空を駆けながら高度を上げていく。機内ではジェットコースターの様なぐわんぐわんした感覚が味わえる。


激しめの感覚に、葉月は楽しそうにしていた。こっちは標高差のせいか耳がなんか変だ。耳の奥から空気がせり上がってくる様な感じがする。


やがて、機内が落ち着いてくると再びアナウンスがながれる。


機体が安定したのでシートベルトを外してもいいということだ。


「ねぇ見て和人!外めっちゃ綺麗。」


葉月はテンション高めに目を輝かせる。今の葉月は子どもっぽくて空の景色を堪能している。


「和人くん、お弁当きましたよ。はい、葉月ちゃんもどうぞ。」


「ありがとうティタニア。」


「よーしみんなで食べよう。」


お昼時なのでみんなで弁当を食べ始める。ティタニアはパクパクといつも通り景気よく食べていく。


「んぅ〜美味しいです。」


「やっぱよく食べるな。」


「だね〜」


俺と葉月は慌てずにゆっくり食べる。機内で食べる弁当はなにかいつもと違う格別なものがあった。


「こういうのってなんか楽しいよね。」


「まぁ、そうだな。」


「食べ終わったらトランプしない?」


「ここではやりにくくないか?やるなら部屋とかだろ。」


「つまりは女子部屋に来たいと?エッチだね〜和人、千華がいるのに。」


「俺は具体的な場所を言っただけで行きたいなんて言ってない。」


「わかってるよ〜。まぁでも私たちの部屋には来ていいからね。」


「そうですよ。来たら一緒にお菓子食べて遊びましょうね。」


「へいへい、あとで行くよ。」


ティタニアと葉月にそう返し、俺は空き時間用に持ってきた本を読む。飛行機で本を読んだら気持ち悪くなりそうだが、他にやることないし読んでいよう。




あれから何時間経っただろう。2時間くらいかな?


アナウンスによって集中状態から戻ってくる。どうやらそろそろ着陸するらしい。


機体がどんどん下降していく。初めはなだらかで少しゆっくりめに。


おおー降り始めたなーと思ったのもつかの間、一気に加速する。


下から上への圧力が強く、ジェットコースターの感覚が再来する。なんか耳痛くなってきた。


「うおぉーすごい!」


「もうすぐ沖縄、沖縄。」


葉月とティタニアは共にテンションが高く、それぞれこの状況を楽しみ、これからのことに期待していた。



飛行機が着陸すると、順番を守って機体から降りる。


「葉月、ティタニア、荷物忘れないようにな。」


「「はーい。」」


なんだろう……幼稚園児の引率してるみたいだ。


葉月たちと共に外に出ると、暖かい空気が出迎える。今の時期だと冷たい空気とばっか触れ合ってたので、沖縄の空気にはびっくりしてしまう。


着込まなくても寒くないどころか快適なのはすごいな。さすが沖縄。


「ついに来たぞ、沖縄ー!」


「いえーい!記念写真撮りましょう!」


「お前ら、バスに移動するんだから大人しくしろ!写真はあとでも撮れるんだから。」


着いて早々、みんなからはぐれそうになる葉月とティタニア。しっかりしてくれ……特にクラス委員長の方。


(まぁでも、こいつらの気持ちもわからないわけではないんだけどな。)


修学旅行でみんなとどこか遠くへ行く。それも飛行機に乗って沖縄とくれば、わくわくしてしまうのも必然だろう。海外に行きたいって人も多いだろうが。


今のこの状況、まだ沖縄の空港に着いただけでなにもしていないが、これだけでも全然楽しい。


今日はこれから平和記念資料館へと行くんだっけ。ちゃんとした場所だし、こいつらが変なことしないように見張ってないとな。


そんなことを考えながら、楽しそうに会話する葉月とティタニアを見ていた。


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