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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
2年生編②
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47話 寝る前のひと時

その後、いつも通りの日常を過ごしていく。楽しくて優しい時間だ。


風呂から上がった俺は、火照った体で縁側に向かう。


縁側にはサイドテールをおろし、印象の違うアンヘルがいた。


「もう見てたんだな。」


「あっ、先輩。来てくれたんですね。」


アンヘルはこちらに気づくと、ティタニアの様な笑みを浮かべる。


「そりゃあいつも頑張ってるアンヘルの頼みだしな。それより、」


アンヘルの隣に座ってから続きの言葉を紡ぐ。


「一緒に星を見てほしい、そんな簡単なお願いでよかったのか?」


「はい、これでいいんです。これが……今の私にとって1番したいことですから。」


そう話すアンヘルの表情はいつにも増して真剣で、その姿にただ見とれるしかなかった。


「さっ、先輩、一緒に星を見ましょう。今日は晴れててよく見えますよ。」


「あっ、あぁ。」


さっきアンヘルが見せた顔はどこか儚げで、不安になってしまう。なんだろうこの感じ……普通に見れば目の前の星々に目を奪われただけなのに、なにか引っかかってしまう。


「なぁ、」


「見てください、ペガスス座のα星、β星、γ星にアンドロメダ座のα星を結んでできる秋の四辺形があそこにありますよ!それにあっちの方には夏の大三角形があります!」


アンヘルは縁側から飛び出して、満天の星を見上げる。


一旦このことは隅に置いとこう。珍しく目を輝かせてはしゃいでいるし。


「先輩も早く来てください。今日すごいですから。」


「あぁ、すぐ行くよ。」


俺はアンヘルの隣に並んで星を見上げる。確かに綺麗だな。


「ここからはよく見えますね。立地のおかげでしょうか。」


「だと思うぞ。この家、坂の上の高いところに建ってるし。」


アンヘルと話しながらも星を見上げる。ここは高いから町の光も届きにくい。なので星はよく見える。


「それにしても、アンヘルって星好きなんだな。」


「はい、すごく好きです。私……孤児院にいた時によく見てたんです。孤児院は街の端の方にあったので、そこでもよく見えたんですよ。」


「そうなんだな。」


「はい、あとロマンチックだから好きっていうのもありますね。ベタですけど今見てる星の光は何年も前のものだから、今はもうない星もあるってフレーズが好きなんです。なんとなくですけど。」


そう話すアンヘルは子供のような無邪気な笑顔見せる。さっきの様な変な感じは全然しない。


思い過ごしならいいんだけどな。


とはいってもアンヘルのことよく知ってるわけじゃないからな。この機会にアンヘルを知るのもいいかもしれない。


「なぁアンヘル、嫌なことを聞いたら申し訳ないんだけど、孤児院に入った経緯を聞いてもいいか?」


「……先輩、そういう重要なことをいきなり聞いてくるのはいけないと思うんですけど。ある程度の雰囲気にしないと嫌われちゃいますよ。」


「ごめん……急ぎすぎた。」


「ふふっ、先輩のしょんぼりしてる顔なんか可愛いですね。」


「可愛いって……なんかからかってないか?」


「いえいえ、からかってませんよ。正直に言ってます。」


「ほんとか?」


「ほんとですよ。それはそうと、座って話しましょうか。」


俺たちは縁側に戻り、そこで話をする。


「私は物心ついた時から孤児院にいました。」


「それって……」


「はい、私は生まれてすぐ捨てられたんです。」


その言葉を聞いてすぐさま後悔した。こんな簡単に聞くべきじゃなかった。


「あっ、ていっても苦い思い出とかじゃないですよ。親の顔なんてわかりませんし、捨てられたおかげで姉さんたちに会えましたから。」


「それならいいんだけど……」


「だからそんな沈んだ顔しないでください。近々先輩に話そうと思ってたんです。私のこと。」


「そうだったのか。」


「はい、ここに来てもうすぐ3ヶ月になるのに未だに私たちのことを深く話してなかったですから。姉さんと相談してたんです、近いうちに私たちのことを話そうって。」


それは知らなかったな。2人がそんなことを思っていたなんて。


「話を戻しますね。私が物心ついた時にはまだ姉さんはいなかったんです。姉さんが来たのは私が4歳の時、つまり姉さんが6歳のときです。」


「ティタニアってアンヘルよりも遅く入ったんだな。」


「そうですね。なので姉さんの方にはその経緯で嫌なことがあるかもしれません。だから聞く時は慎重にお願いします。」


「あぁ、善処するよ。」


アンヘルの言葉に俺は力強く頷く。


「それにしても、アンヘルもわからないんだな。ティタニアが孤児院に入った経緯。」


「そうですね、入ってきた当初の絶望した目が忘れられなくて、聞けないんです。」


「そっか……」


それは相当やばそうだ。俺や千華なんかと一緒の部類だな。


「脱線しちゃいましたね、すみません。孤児院での生活は大変でしたけどとても楽しいものでした。私たちのいた孤児院は教会も兼ねているので、シスターとしてそこの掃除や雑用をしたり、他の子の面倒や家事、一般教養を身につけるための神父様の授業と、やることはたくさんありましたけどみんなと一緒なので不満はありませんでした。」


自分の過去を語るアンヘルの顔に闇はなく、むしろ楽しい様子だった。


「姉さんも最初は覇気が全然なかったんですけど、私たちと接していくうちに元気になって笑顔が増えたんです。

そしてそこからどんどん時は経過して、中学2年生が終わる頃に天夜さんから留学生として柏崎市に招かれたんです。」


「あっ、そうか。海外では学校の始まりは9月なんだっけ。」


「そうですよ、なのでちょうどいい時期でした。」


「だろうな。」


「これで私の話は終わりです。なにか質問とかはありますか?」


「……アンヘルって過去になにかあったりしたか?」


「なにかってなんですか?」


「トラウマになるような事とかなんだけど。」


「ありませんよ、そんなこと。」


その表情はいつも通りで、不安感は一切ない。やっぱり思い過ごしなんだろうか。


「さぁ、そろそろ寝ないとですね。もういい時間ですし。」


「そうだな。」


俺は立ち上がると、未だに雲ひとつない夜空を見ているアンヘルに話しかける。


「まだ寝ないのか?」


「えっと……自分から言っておいてなんですけど、私はもう少しここで星を見てます。」


「そっか、あんまり長くいて風邪ひかないようにな。」


「はい、そこはしっかり気をつけますね。それじゃあおやすみなさい。」


「あぁ、おやすみ。」


縁側から離れると、自室に戻る。


自室にはすでに布団が敷いてあり、千華が顔を赤くしてなにかを抱きかかえていた。


「あれ、なんでその枕抱いてるんだ?」


千華が抱いている枕は千歳さんから貰った例の枕だった。


「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないのよ!私たちがいつも使ってる枕がどこにもないの!あんたなにか知らない?」


千華はかなり慌てた様子で俺に詰め寄る。


「俺も知らないよ。多分葉月がなにかしたんじゃないか?」


「やっぱり葉月か。あいつあとで説教しないといけないわね。」


「あんまり確証ないんだけどな。怒るのは確認してからでいいんじゃないか?」


「それは、そうね……」


「で、どうする?その枕しかないんだったら選択肢は2つだよな。それを使って寝るか、使わないで寝るか。」


「……私、枕がないとそわそわして寝れないのよね。」


「それじゃあ使うしかないか。」


「ぐっ……しょうが……ないのか……」


千華はとてつもなく嫌そうな顔で枕を睨む。


「言っておくけどまだNoだから!」


「わかってるから大丈夫だよ。」


恥ずかしいのか、千華は素早く布団に入りそっぽを向く。


俺も寝よう。電気を消して布団に入る。


目を閉じて意識を手放そうとしていると、横でごそごそ動く音がする。


やがて、耳元で千華の吐息が聞こえてくる。


「言うの遅れてごめん、誕生日おめでとう。」


千華は耳元でそう囁いた。その言葉のせいで幸せになって、眠気が吹っ飛んでしまう。


「ありがとう、それじゃあ俺からも1ついいか?」


「なっ、なによ?」


千華の方に向き、一呼吸おく。


そして、


「なっ!?」


「今日はこのまま寝たい。」


千華を優しく抱きしめて話す。彼女は俺の胸で酷く戸惑っていた。


「ちょっ、やめなさいよ。放して。」


「嫌なら振りほどいてくれて構わないから。千華さえよければこうさせてくれ。」


千華は最初は抵抗していたが、俺の言葉を聞いて大人しくなる。「そんなこと言われたら大人しくしてるしかないじゃない、反則よ」とでも言いたいのだろうか。


「あんた私の心よめるの?」


「当たってたんだ。」


ここからでは千華の表情は確認できないが、こちらを睨みつけているのは間違いない。


「まぁ、今日はあんたの誕生日だし仕方なく付き合ってあげる。感謝しなさいよね。」


「そうだね……ありがとう。」


「耳元で囁かないでよ。寝れないじゃない。」


「今日やられた分のお返しだよ。ていっても何回もされてるから全部返すにはもっとしないとだけど。」


「次やったら抱きしめさせないから。」


「わかってるよ。やらないから威嚇しないで。」


千華を落ち着かせるためにギュッと抱きしめて、頭を撫でる。


千華は恥ずかしそうな吐息をもらす。


「わっ、私はもう寝るから!おやすみ!!」


「うん、おやすみ。」


恥ずかしさを紛らわすように眠りにつく千華を抱きしめながら、俺も眠りについた。








「……」


先輩と別れたあと、私は星空に心を奪われていた。やっぱりいつ見ても星空は綺麗だな……


「それにしても、先輩はなんであんなことを言ったんだろ?」


私はさっき先輩が言っていたことを思い出す。


「私は苦い思い出とかないんだけどな……」


思い当たる節が無さすぎて、思わず苦笑してしまう。


「私は……私には……切ない恋の思い出しかないのに。」


私は薄く微笑みながら夜空を眺めていた。素敵なあの人のことを思いながらじっくりと。

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