46話 オセロをやって誕生日プレゼントは色々
不覚にもあれから寝てしまった俺は、起きた時には畳に転がっていた。(ちゃんと薄い布団はかけられていた)
なんかちょっと腰が痛い。
「千華はもうご飯の準備とかしてるのかな。今の時間はっと……」
今の時間を確認するために壁掛け時計を見る。現在時刻は4時をさしていた。
「うわぁ、わりと寝てたんだな。なんか時間を無駄にした気がする。」
ついつい後悔の念が強くなってしまうが、そもそも今日はみんなが家事をやってくれる日なのでこの過ごし方でいい……はず。
「ひとまず居間に行くか。やることないし。」
今の俺には暇になった時の過ごし方がわからない。あとで色々模索してみよう。
居間に入ると千華とアンヘルが夕食の準備を始めていた。ティタニアは動物のテレビ番組を楽しそうに見ていた。
「あっ和人くん起きたんですね。」
「あぁ、情けないことに無駄寝をしてた。」
「私の膝で寝たのが無駄だって言いたいの?」
「いや、そういう訳じゃないんだよ。千華の膝で寝れたのはすごく嬉しいんだけど2時間以上寝ちゃったのは正直後悔してる。」
「それなら別にいいんじゃない?私は無駄なんて思わないし。」
「そうなのかな……」
「私も無駄じゃないと思いますよ。だって和人くんの寝顔中々かっこよかったですし。」
ティタニアはそう言って写真を見せてくる。
「ちょっ、なに勝手にとってんの!?」
「和人くんがずっと寝てるので、千華ちゃんの膝から動かす時にこっそり撮りました。ちなみに複数枚取ったんですけど、全て千華ちゃんに送信済みです。」
「あんたの間抜けな寝顔の写真を手に入れられて私も満足だわ。」
こういう写真を撮られるのはすごく恥ずかしいんだよな。寝顔は操作できないし。
千華は勝ち誇ったような顔を浮かべ、ティタニアは天真爛漫な笑顔を見せている。俺は写真を消してと頼んでも無駄だと悟り、諦める。
アンヘルはそんな俺たちの様子を見て苦笑をこぼすのであった。
「そういえば葉月はどこ行ったんだ?」
「葉月なら買い物に行ってもらってるわ。もちろん私服に着替えてね。」
「あーそうなのか。」
葉月がなにか他の事をしてるようなら手伝いに行こうかなとか思ったが、そもそも今日は家事をさせてもらえないので無駄だな〜っと気づく。
「あのっ和人くん!暇なら一緒に遊びませんか!?」
俺が暇を持て余しすぎていると、ティタニアが遊んでほしそうにこちらに詰め寄る。目を輝かせてうずうずしている様子から、遊び盛りの子犬を想像してしまう。
「特にやることもないからいいよ、遊ぶか。」
「やりましたー!」
ティタニアは嬉しそうに飛び跳ねる。メイド服で飛び跳ねたら転びそうだけどな。
「それでは遊ぶものを用意するのでちょっと待ってくださいね。」
ティタニアはそう言い残すと、すぐさま居間を出ていった。なにやるんだろ……
数分後、戻ってきたティタニアが抱えていたのはボードゲームだった。
「和人くん、持ってきましたよ。」
「オセロか……」
ティタニアが持ってきたのはオセロだった。白と黒の石を使っておこなう定番のゲーム。最終的には自分の色の石の数を競うというシンプルながらも奥の深いものだ。
俺何年ぶりにオセロやるだろ……多分11年ぶりぐらいか?
「さぁ和人くん、勝負です!」
ティタニアは自信満々にそう言い放つ。よっぽど強いのかな?
「あっ、1つ言い忘れてましたけど、能力使うのなしですからね。」
「それはわかってるよ。さすがに使ったら狡だし。」
「わかっていればいいんです。それじゃあジャンケンして順番を決めましょう。」
順番を決めるためのジャンケンはティタニア勝った。彼女は有利な後攻を選択する。
ちなみに石は俺が黒でティタニアが白だ。
「ふっふっふっ……実は私、中々オセロには自信あるんですよ。」
「へぇーそうなんだ。」
「はい、アンヘルよりも強いですよ。なので和人くんに勝っちゃうかもです。」
「ははっ、お手柔らかに頼むよ。」
意外にもティタニアがオセロ強いことに驚きながらも、軽い気持ちでうっていく。
~十数分後
「なんでですか!?」
ティタニアはすごく悔しそうにオセロ盤を見ている。
そこには、黒34、白30で俺の勝ちの盤面があった。
「和人くんなんでそんなに強いんですか!?」
「そんなこと言われてもな……軽い気持ちでやったら勝っただけだし、偶然だよ。」
「むむむ、偶然でも悔しいです。」
「姉さんオセロはなぜか強いんですよ。そんな姉さんに勝つなんてすごいです。」
「うぅ〜悔しいのでもう1回です!今度は勝つので。」
ティタニアは盤面をリセットして次戦の準備を進める。
「次は私の先攻でいいですよね?」
「いいよ、それじゃあお手柔らかに頼む。」
てことで2戦目が始まる。
そして10分後、
「よし!今度は勝てました!!」
割と圧勝気味な結果の盤面と、しっぽがあったら絶対フリフリ振っているであろうティタニアがいた。やっぱ負けたか。
「和人くんに勝ったので私のおかず増やしてください千華ちゃん。」
「いや待てそれ初耳なんだけど。」
「ご褒美みたいなものですよ。まぁでも今思いついたことなので断られてもなにも言えませんが。」
「いいわよ、和人の分からひいてあげる。」
「えっ、ちょっと!?」
「冗談よ。それはできないけど次やる時はなにか賭けてみたら?そっちの方が面白いんじゃない?」
「他人事だと思ってそういうこと言うなよ。こいつが変なこと賭けてきたらどうするんだよ?」
「その時はその時よ。」
千華は軽い感じで賭けを持ち出してきた。ティタニアはその手があったかと言わんばかりの顔をしている。うわっ、食いついてきたよ。
「それなら次勝った人が負けた人になんでも言うことを聞かせるって言うのはどうですか?」
「ほんとに変なの持ち出してきやがった!」
「姉さん、あんまり先輩を困らせるのは駄目だよ。」
「もちろんわかってるよ……そうだ、せっかくだしアンヘルがやったらいいんじゃない?」
「えっ……私が?」
台所で作業をしていたアンヘルは突然のことに首を傾げるしかない。
「そう!私が変わるし、休憩がてら遊んでていいよ。」
「えっ、でも姉さんまたやらかさないか心配なんですけど。」
「私もそれ思ったわ。」
「2人とも酷いです!」
「ただいま〜」
前科があるせいで信用されないことに、ティタニアがショックを受けていると、葉月が陽気な声とともに帰ってくる。
葉月は帰ってきて早々オセロに気づく。
「あれ、オセロだ。これどうしたの?」
「さっきまでティタニアと遊んでたんだよ。2回やったけどすごい強かったぞ。」
「へぇ〜そうなんだ。」
「ちょうどよかったわ。葉月、こっち手伝って。アンヘル休ませるから。」
「はーい、了解〜」
「私は!?」
「あんたは午前中とお昼に頑張ったから休んでていいわよ。」
「なんか私危険視されてる気がするんですが。」
「まぁどっちもの意味で事実だし、しょうがない。」
「うぅ……それじゃあ私、アンヘルのお助け役になります!」
「それ狡くない?」
「狡くないです。」
ティタニアはルンルン気分でアンヘルを俺の対面に座らせる。アンヘルは若干困惑気味だった。
「えっと……よろしくお願いします。」
「うん、お互い気楽にやろう。」
アンヘルとならば負けたとしても変なことにならないので気負うこともない。
「アンヘル、大丈夫だからね。私がしっかりサポートするから。」
「姉さん、駄目だよ?私は1人でやりたいんだから。ちゃんと見てて。」
「うん……わかった。」
ティタニアはしょぼんとして大人しく座る。
「それでは始めましょう。」
柔らかく微笑むアンヘルと一緒に楽しい時間を過ごす。
オセロは途中まで互角だったが、最後の方で逆転をゆるして俺が負けた。
ティタニアはコロコロ表情を変えており、見ていて面白かったが、アンヘルが勝った時は笑顔になって彼女に抱きついた。
「ちょっと姉さん!?」
アンヘルはかなり困惑していたが、本人は別に嫌そうではないのでそのままにしておこう。なんか大会で優勝した雰囲気になってるけど。
「じゃあアンヘルが勝ったからなんでも1つ言うこと聞くよ。」
「いいんですか?私はそんなつもりはなかったんですけど。」
「いいんだよ、アンヘルにはいつも家事手伝ってもらってるし。それにティタニアの事もあるしな。」
「私も手伝ってるんだけど。」
「私いつも迷惑かけてばかりって思われてるの心外なんですけど。」
「千華もありがとな、あとでなにかお礼するよ。ティタニアはその……しょうがないと思うよ。」
「むぅー!!」
「あはは……」
怒るティタニアをしょうがないなといった様子で眺める。
「それじゃあお願いは考えておきますね。」
「うん、わかったよ。」
「みんなーご飯できたよ。早く食べよう。」
葉月は千華と協力してできた料理を運ぶ。
「おぉーよくできてるな。美味しそう。」
「でしょ?なんたって千華がこの日のために色々調べた献立だもん。」
「ちょっ、それは言わない約束でしょ!!?」
葉月の言葉に顔が若干赤くなる千華。なんだろう……すごく嬉しくて泣きそう。
そんな俺の様子を千華が呆れ顔で見ていた。言いたいことはわかる、「なんでよ……」か「あんたは親か」の2択だろう。
その後、ご飯を食べ、食後のお茶を味わう。
「さて、ご飯も食べたことだし、ここでプレゼントを渡そうか。」
葉月がそう言うと、みんな一同にプレゼントを持ってくる。
「まずは私からね。はい、和人の好きなペンギンのぬいぐるみ。」
「好きっちゃ好きだけどなんでぬいぐるみ?」
「手触りいいしインテリアとしても使えるからいいかなって。」
「和室にペンギンって……アンバランスだろ。」
葉月からぬいぐるみを受け取って抱いてみる。あっ、なんかいいかも。
「あとお姉ちゃんからこの枕、お兄ちゃんからブックカバー、楓さんからはかなり高品質のシャーペンとボールペンが届いてるよ。」
すごいありがたいなと思いながら受け取るが、千歳さんからのプレゼントは完全にからかいのためとしか思えなかった。
なぜなら、この枕にはYesとNoという文字が入っていて、完全にそれ用のものだったからだ。
「添えられた手紙を読むと、千華ちゃんと使ってね♡だって。」
「あの人は……」
千歳さんの通常運転に頭を抱える。これどうしろと?
千華の方を見ると、「使わないからね……」と目で訴えていた。大丈夫、わかってるから。
「さっ、気を取り直して次行こう。」
「はい、次は私からですよ。」
ティタニアからプレゼントを渡され開けてみる。
「ネックレスか……」
「はい!和人くんに似合うと思って買いました。それに、それはただのネックレスじゃないんですよ。」
「それってどういう?」
「なんとそれには私が厄除けの術をかけたので、身につけているだけで悪霊が寄り付かなくなる代物なんです。」
ティタニアからの説明を受けて、改めて貰ったネックレスをまじまじと見つめる。結構ありがたい代物だよなこれって。
「ありがとう、ちゃんと持ち歩くな。」
「首からさげてくださいね?じゃないと効果発揮しないので。」
「えっ、うん……」
使う機会……今のところなさそう。うちの学校こういうの駄目だし。私服でもつけるの躊躇っちゃうな。
「えっと、次は私です。先輩お財布ボロボロなので新しいの買いました。」
「ありがとうアンヘル。そろそろ財布も新しいのにしないとって思ってたからこれはすっごく嬉しいよ。」
「はい!気に入ってもらえてよかったです。」
「最後は私ね。ほらっ、マグボトル。」
千華から貰ったものはちょっとよさそうなマグボトルだった。
「私は最高級のものなんて買えないし、あんたの事だから実用性の高いものがいいだろうからそれにしたわ。」
「ありがとう、ずっと使うな。」
「いや、5年ぐらいしたら買い換えた方がいいわよ。」
「そこで正論挟まなくてもいいだろ。」
みんなから貰ったプレゼントを今一度抱きしめる。誕生日をこんな風に祝ってもらったことなんてそこまでなかったから嬉しいな。
「これにてプレゼントを贈るのは終わり!あとは自由時間。千華〜お菓子食べよ〜」
「ティタニアと食べればいいでしょ?私はいらないわ。」
またいつもの時間に戻ったみんなを見て思わず笑みがこぼれる。柏崎に入れてよかったな……
「あのっ、先輩。ちょっといいですか?」
感慨に浸っていると、不意にアンヘルから声をかけられる。
「あぁ、どうした?」
「お願いごとを思いついたので話そうと思って。」
「そっか……それで、どういう事をしてほしいんだ?」
「はい、それは__」
アンヘルが放った言葉に、俺は思わず目を見開いてしまった。




