45話 メイド長は耳かきをして本音を漏らす
「できました〜!」
しばらくして、ティタニアが歓喜の声をあげる。どうやらオムライスが出来上がったらしい。
運ばれてくるそれを見たとき、素直に美味しそうと思ってしまった。
綺麗な卵色からチキンライスがはみ出していないのに加えて、卵の端も綺麗に内側にまいてあるのでお店で出るものと遜色ない。
「それじゃあここから和人のやつにケチャップかけるね。」
葉月はノリノリで俺のオムライスにケチャップをかける。
「美味しくなーれ♪美味しくなーれ♪たくさん食べなよ千華の彼氏!」
「おいなんだ最後のやつ!?」
最後の言葉に反応しながらも、書いてある文字を見ると千華LOVEとあった。こいつやりやがった。
「葉月、馬鹿なこと書くんじゃないわよ。」
「ごめんねメイド長。だって和人は千華のことめちゃめちゃ好きだから、つい書いちゃったんだ。」
「だからその呼び方やめなさいよ。」
千華は眉をひそめて嫌そうな顔をしていた。
「てかそんなこと前からわかってるわよ。こいつは私の事大好きだし。そうじゃなかったらぶっ飛ばしてるわよ。」
「そうだよね〜2人は相思相愛だもんね。」
「ふふっ、見てて羨ましいです。お2人はほんとにお似合いなので。」
「確かにそうですよね。和人くんと千華ちゃんを見てるとほっこりした気持ちになりますからね。」
「そういうのはいいから。早く食べるぞ。」
「あっ、もしかして照れてる?」
「別に照れてない。」
まぁ、気恥ずかしくはなったけどさ。
そんなことを思いながらもオムライスを食べ始める。その様子を見た葉月たちも次々に食べ始めた。
そのオムライスはとっても美味しく、食べる手が止まらない。気がつくと、綺麗に完食していた。
「ごちそうさま、美味しかったよ。」
「よし!やったねティタニア。」
「はい!和人くんを喜ばせられました。これでさっきの失敗を帳消しにできます。」
「とは言っても今日2回やらかしてるから実際はマイナスよ。」
「うぅ〜メイド長は厳しいです。」
「だから違うって……」
「それじゃっ、洗い物は私たちでやるから和人はくつろいでていいよ。」
「あぁ、よろしく頼むな。」
洗い物を葉月たちに任せて、俺はボーッとテレビを見ている。こういう時、やることなくてそわそわしちゃうんだよな。読書もし終わっちゃったし。
「あんた今、やることなさすぎてどうしようって顔してるわよ。」
千華は洗い物が終わったのか、俺に話しかけてくる。
「ん?そんな顔してたか?」
「思いっきりしてたわよ。あんた読書以外にやることないの?」
「勉強……は今やることじゃないし、その他だと……運動、とかかな。」
「ふーん、どういうことするの?」
「ランニングしたり技の確認をしたりかな。」
「いや技って……そんなことしなくていいんじゃないの?それってその……あんたが望んで手に入れたものじゃないでしょ。」
千華は俺の事を配慮してか、オブラートに包んだ発言をする。
「確かにそうだけどさ、俺はこの力を忘れたくないんだ。望まない形で手に入った力だけど、この力にはなんの罪もないから。」
「それに、」っと続ける。
「もしかしたらこの先千華や葉月たちのためにこの力を使う日がくるかもしれない。お前らを守るためにも、その日がくるまでこの力を研ぎ続けるよ。」
「……私はそんな日がこないことを祈るばかりだわ。」
「あんたや葉月たちが傷つくのは嫌だし」っと神妙な面持ちで話す千華。俺は一番千華に傷ついてほしくないんだけどな。
「まぁでも今日はそれも駄目。怪我されたら困るし。」
「そうなのか。それだと俺やることないな……」
「そうね……あっそうだ、」
千華がなにかを思いついた様な顔になる。なんだろ……すごく気になる。
「しょうがないから私が耳かきしてあげる。感謝しなさい。」
千華の急な耳かき発言に、思わず固まってしまう。
なにも言わない俺を見て、千華は「なっ、なによ?」と戸惑う。
「いやすごい嬉しくてさ。千華にしてもらえるなんて思ってなかったからちょっと固まっちゃった。」
「別に私だってあんたに耳かきぐらいしてあげるわよ。減るもんじゃないし。」
「そっか……」
赤くなってそっぽを向く千華を見ていると、思わず笑みがこぼれてしまう。やっぱり千華ってすごい可愛いんだよな。
「可愛いとか言うな!」
こちらの思考をよんで、千華が照れ隠しのためかこちらをポカポカと叩いてくる。
「ごめんって、いたいいたい。」
割と本気のポカポカに驚きながらも、笑顔で対応する。その様子に千華はぐぬぬと悔しそうにこちらを睨みつける。
「あんたなんでそんなにヘラヘラしてんのよ。」
「千華が可愛いからかな。見てて癒される。」
「癒されてんじゃないわよ。」
千華はため息をつくと、本来の目的である耳かきをしに俺を連れて自室へと移動する。
「さっ、早速始めましょうか。」
そう言って正座をする千華。
「ここに頭おきなさい」と言って、千華はぽんぽんと自分の膝を叩く。つまりは膝枕。
「うん、それじゃあよろしくお願いします。」
俺はゆっくりと千華の膝に頭をおく。その膝は柔らかく、いい匂いがしていて、いつまでもこうしていたかった。
「それじゃあまずは右からね。どのぐらいあるかな〜」
耳の中の状況を覗き込む千華。その周りには標準的な木の耳かきや綿棒、ティッシュにごみ箱があり、本格的に耳かきする気満々だった。
「あー結構溜まってるわね。これはやりがいあるわ。」
声からしてうきうきなのがわかる。そういえば耳掃除なんて半年ぐらいやってないな。
箱からカチャカチャと耳かき棒を取り出すと、まずは外側の溝をカリカリとかいていく。
「溝の方からやってかないとね。ここって結構溜まるし。」
千華の耳かきは優しく、耳を傷つけないように配慮していたものだった。
「私の耳かきはどお?て言ってもまだ外側だけど。」
「今のところ気持ちいいよ。」
「それならよかったわ。」
俺の言葉を聞いて上機嫌になる千華。
「よし、ひと通り外側はやり終わったわね。かなり綺麗よ。次、中に入れるわよ。」
千華はその言葉のあとに、ゆっくりと耳かき棒を中に入れていく。そこから優しく耳垢をとっていく。
「大丈夫?痛くない?なにか注文あれば受け付けるわよ。」
「そうだな、ひとつ言うならもう少し強くしてもらってもいいか?」
「あんた少し強めが好きなのね。いいわ、やったげる……ご主人様♪」
不意に耳元で囁かれて思わずビクッとなってしまう。正直それはずるい。
「ふふっ、あんたようやく戸惑ったわね。にしてもあんたの反応面白いわ。顔赤くなってるし。」
「だって急に耳元で囁かれたら誰だってビクってなるだろ。」
反射的にそう反論するが、千華は愉悦の表情を崩さない。
千華は、カリカリカリと耳垢を一つ一つ丁寧にとっていく。それが心地よくて、つい眠たくなってしまう。
「なんか眠そうね。別に寝てもいいわよ。」
「いや、大丈夫。さすがに今日なにもしてないのに、こんなところで寝るわけにはいかないし。」
「なにその無駄なプライド。」
千華はジト目で呆れ半分になりつつも、「奥の方にいくわね」と言ってゆっくり奥に入れていく。
カリカリコリと、鼓膜近くで気持ちいい音が踊る。なんというかゾクゾクしてしまい、ずっと聞いていたくなる。
今ならASMRが人気な理由がわかる気がする。こういう気持ちいい音が手軽に聞けるんだし、そりゃ人気になるわけだ。
「どぉ?痛いとかない?」
千華はからかいのためか雰囲気作りのためかわからないが、耳元で囁いてくる。なんかこそばゆいな。
「あぁ、むしろ気持ちいいよ。今のところ問題ない。」
「そっ、それならいいわ。」
千華との静かな時間がどんどん過ぎていく。なんか、こういう時間がすごく幸せに感じるな。
千華は、ひと通り耳垢をとり終わると、綿棒で仕上げをする。丁寧に細かいのをとっていき、耳の中を綺麗にしていく。
「右終わったわよ。次は反対ね。」
反対の方を掃除してもらうために体の向きをかえる。
今の状態だと視界いっぱいに千華の体がうつる。いい匂いも強くなった気がする。
「あんま見んな。」
「あっうん、ごめん。」
千華はあまり見られたくないようなので目でも瞑っておこう。
「じゃあ、こっちも始めるわよ。」
千華のその言葉で反対の耳の掃除が始まる。
手前の溝から丁寧に、少しずつ奥へと進んでいく。
カリカリ、カリカリという音が暗闇の世界で響く。その音が、その耳かきが心地よくて眠たくなってしまう。朝あんなに寝たのになんでだろ……
「あっ、奥におっきいのある……ゆっくり取るから痛かったら言ってね。」
千華はそう言うと、慎重に耳かき棒を扱い大きい耳垢を取りにかかる。
カリカリ、コリ……コリュッカリカリ
「あっとれた。」
千華の声は嬉しそうで、今顔は笑っているのであろうことがわかる。
「まだまだあるから動かないでね。」
千華の言葉が反響していく。周りの音がワンオクターブ低くなる。
少しずつ意識が朦朧としてくる。これ、起きてるのが辛い。気を抜いたら寝ちゃうなこれ。
「さっ、終わったわよ。」
耳かき棒と綿棒を使った入念な耳かきによって、彼の耳はとっても綺麗になった。見ていて誇らしい。
彼は私の膝で寝たまま微動だにしない。
どうしたんだろ?と思い彼の顔を覗き込むと、彼はすやすやと寝息をたてていた。
「結局寝ちゃったのね。変なプライド持ってたくせに。」
寝ている彼の顔はとても気持ちよさそうで、見ていて飽きない。
「それにしても……」
私は彼の寝顔を凝視して困った顔をする。
「なんか今の状況、すごくチャンスよね……」
そうなのだ、今のこの状況は私にとって美味しい展開なのだ。
「今ならこいつに認識されずに色々できるのよね。軽くほっぺつねったり匂い嗅いだり、頭撫でたり……とか。」
今の彼は寝ているので、いつもはできないことができるのだ。いつもなら恥ずかしくてできないことも。
(大丈夫よ私!今の和人なら変な恥ずかしさはないわ。つまり、頭を撫でる程度のことなど簡単にできる!)
そう思って彼の頭を撫でようとするが、
(あぁぁぁ無理!今こいつが私の膝の上で寝てるって状況だけで充分恥ずかしい!!ただ和人が私の膝の上で寝てるってだけでどうしてこんなにも恥ずかしくて幸せなの……)
私は恥ずかしさからか顔が熱くなる。おそらく赤くなっているであろう。
(落ち着きなさい雪原千華……今こいつは寝ている!つまり起きてないから別に恥ずかしくない!!ほんの少し……ほんの少しでいいから勇気を出すのよ私!!!)
心拍数が上がっていくのを感じながら、右手を彼の頭にもっていく。今にも心臓が破裂しそうだ。
そして次の瞬間、ゆっくりと彼の頭を撫でる。その瞬間は恥ずかしさと達成感が7対3の割合であった。
(よし!次は……)
私はドキドキしながらも、起きる様子のない彼にある言葉を囁こうと顔を近づける。
(大丈夫……私なら言える!)
彼の耳元に顔を近づけると、意を決して口を開く。
「……大好き。」
なんとかして喉から捻り出した声。いつもは刺々しい言葉の影に隠れている私の本音。
(あぁ〜言っちゃった〜///いくら和人が寝てるからってこんなこと言って……恥ずかしくて死にそう///)
彼はまだ起きる気配はない。そんなに私の膝の上が心地よいのだろうか。
(そもそも、私をこんなに好きにさせたこいつが悪いのよ!!)
起きたらほっぺつねってやる……そんなことを心に決め、彼の寝顔を見るのであった。




