44話 主人公はメイドに家事を奪われる
「ねぇ、ちょっと協力してくれない?」
お風呂から出てきて部屋に戻ると、なぜかいた葉月に頼まれる。
その場にはティタニアとアンヘルもいた。
「なにを協力するのよ?」
急に言われても心当たりがまるでないのですぐさま了承、とはいかない。
「ふっふっふ……それはね……」
ドヤ顔の葉月は自信たっぷりに話す。
「明日は和人の誕生日でしょ?だから日頃の感謝を込めて私たちが家事をやろうと思って。」
「なるほどね、いい考えだと思うわ。」
「私にも協力させて」、と続ける。
明日の11月27日は和人の誕生日だ。彼には色々お世話になってるし、大事な人なのでちゃんとお祝いしてあげたい。
「私たちももちろん協力しますよ。ねっ、アンヘル。」
「はい、明日先輩を喜ばせてあげましょう。」
ティタニアとアンヘルもまた、葉月の意見に賛同していた。
どうやらみんなも同じく、彼に感謝の気持ちを何かしらの形で返したいらしい。まぁ、みんなここに居候してるようなもんだし当然か。
「よし決まりだね、それじゃあ明日のことを話すよ。和人がお風呂から出てくる前に。」
葉月はニコニコしながら私たちに詳細を話す。
最初は穏やかな気持ちで聞いていた私だが、途中から衝撃的なことを言われたため、だんだん顔が引きつってきた。
「マジでやるの……?」
「大マジだよ。やったら和人喜ぶし。」
一瞬ふざけてるのかと思ったが、葉月の言葉と顔に、本気で言ってるんだと悟る。どうしよう、できればやりたくない。
「……」
けど、あいつが喜ぶんだったら……しょうがなくやってあげないこともない……かもしれない。
「じゃあそういうことで明日はよろしくね!」
「えっ、ちょっと!?」
考え事をしていたら葉月が目をキラキラさせながら自分の部屋へ走っていった。明日の準備をやりにいったのだろう。
私が声をあげた時には遅く、葉月はもう部屋を出ていってしまっていた。
「ほんとにあれやるの……憂鬱。」
「しょうがないですよ、和人くんを喜ばせるためです。頑張りましょう。」
ティタニアの笑顔と慰めのセットを受けても私の気持ちは沈んだままだった。こんなんで大丈夫かな……
その日は遅く起きてしまった。いつもは起きる時間帯に起きれなかったことに疑問をもちつつも隣を見る。
隣には誰もいなく、千華はもう起きたらしい。
ひとまず体を起こして時間を確認する。もう9時か……なんか寝すぎたせいか体がだるい気がする。
「にしても昨日なにかやったっけ?こんだけ寝たってことはなにかやったはずなんだけど。」
起き始めた頭でうむむと考える。考えているうちに1つのことを思い出す。
「もしかして昨日葉月からもらった飲み物のせいか?あいつなんかニヤニヤしてたし。」
昨晩、風呂からあがると葉月が「お風呂あがりにこれ飲んで」といってコーヒー牛乳を渡してきた。
今思えば絶対あれになにか入ってたな。ちょっと味変だったし。
「あっ、ようやく起きたのね。」
不意に声をかけられる。聞いていて安心する千華の声。
声の方へ振り返ると、俺は思わず目を見開いて硬直する。
なぜなら、そこには天使がいたからだ。
黒と白を基調とした服で、ゆったりとしたロングスカートに目立たない程度のフリルで落ち着いた印象をあたえている、そう……2次元では1、2を争う人気のメイド服、それもクラシカルメイド服を身にまとった千華がそこにはいた。
「……なによ、言いたいことあるなら言いなさいよ。」
俺がなにも言わずに固まっていると、千華が口を尖らせる。
そうだ、ちゃんと言わないと。
「千華、すごく似合ってるよ。可愛すぎて一瞬天使かと思った。」
「あっそ、別にそんなこと言われても嬉しくないし。」
千華は頬をほんのり赤く染めながらそんなことを言う。どうやら嬉しそうだ。
「それにしてもどうしてメイド服なんて着てるんだ?」
「葉月に無理やり着せられただけよ。今日はあんたの誕生日だからって。」
「そうなんだな。」
千華も大変だな。俺は誕生日に千華のメイド服見れて嬉しいけど。
「そんなことより、さっさと朝ごはん食べにいくわよ。」
「うん、そうだな。」
俺は千華と一緒に居間へと向かう。
その途中で今日1日についての説明を受ける。
「__てことで、今日は私たちが家事やるから。あんたはぐでぐでしてなさい。」
「あっうん。」
まじか……今日の暇な時間なにして過ごそう。読書でもしようかな。
「あっ、和人おはよう。」
居間に着くと、元気な葉月がアホ毛をぴょこぴょこしながらこちらに駆け寄ってくる。
その奥では、ティタニアとアンヘルが朝ごはんの支度をしている姿が目に映る。
3人ともクラシカルメイド服を着ているのもあってか、なんだか新鮮だった。
「おはよう葉月。」
「それにしても和人、今日は珍しくねぼすけだね。」
「それは多分昨日のコーヒー牛乳のせいだと思うんだけど。なにか心当たりあるか?」
「あーバレちゃったか。」
なははと笑う葉月。どうやら当たりらしい。
「そうだよ、昨日和人が飲んだコーヒー牛乳に私がお薬を入れたんだ。睡眠促進剤?っていうのを。」
「睡眠促進剤ってなんだよ?」
「なんかティタニアが触媒を作ろうとして失敗した時に生まれたものなんだけど、効果は服用者の睡眠の質と時間を延ばすんだって。それも本人が日頃から疲れてれば疲れてるほどらしいよ。」
「変な薬を作ったなあいつも。」
「で、それを溶かしたものを和人に飲ませて今に至るってわけだね。いや〜昼過ぎまで寝るんじゃないかとヒヤヒヤしたよ。和人って日頃から疲れ溜め込んでそうだし。」
「そう思うならやめろよ。」
葉月の言葉に思わずツッコム。
「まぁまぁいいじゃない。それより今は朝ごはん食べようよ。」
葉月に促されテーブルに座る。
そして、ティタニアとアンヘルがご飯を運んでくる。
献立はご飯にみそ汁、焼き鮭と、シンプルなものだったが、それらはとても美味しそうだった。
朝に見合う優しい匂いが鼻腔をくすぐる。
まずは一口食べてみる。
「どうですか?美味しいですか和人くん?」
そわそわしながら聞いてくるティタニアを見ながら噛む口を動かす。
「うん、中々いけるよ。美味しい。」
「わぁーよかったです!やった〜!」
ティタニアはぴょんぴょん飛び跳ねて体で喜びを表現する。
「姉さん、あんまり飛び跳ねちゃ駄目だよ。私たちもご飯食べなきゃ。」
アンヘルは子供を注意する親のように話す。もうどっちが姉がわからなくなる。
やがてご飯を食べ終わると手持ち無沙汰になってしまう。
食器洗いは千華たちが担当しているからだ。今日は家事をさせてもらえないので、いつもより暇な時間が多い。
そうだ、読書でもしよう。ちょうどまだ読んでいない本があるし。
思ってからは早く、自室に戻って読みたかった小説を読み始める。
周りは静かな環境のため読みやすい。ついつい読書に没頭してしまう。
そこから1時間、読んでいた本がかなりいい所まで進んだところで、ちょうど外が騒がしくなる。
「ティタニア〜そんなに走ると転ぶよ!」
「大丈夫ですよ葉月ちゃん……ぐえっ。」
「あーティタニアが転んで洗濯物ひっくり返した!」
「ちょっ、なにやってんのあんた!」
声だけでも何が起こっているのか鮮明に想像できた。ティタニアってドジ踏みすぎじゃ?というかフラグ立ててから回収が早すぎる。
「とりあえず様子見に行こ……」
様子を見に廊下に行くと、ティタニアが洗濯物に埋もれていた。
「やっぱりか!」
「うぅ……和人くん見ないでください〜」
倒れたティタニアはじたばたしていた。
「あっち系の本だとこういう時ってご主人様がエッチなお仕置きするよね。」
辺りに散らばった洗濯物を回収しながら葉月は笑う。
「ふぇっ!?ということは和人くんは私に……駄目ですそんなこと!不埒です!」
「しねぇよそんなこと!早く立て。」
俺はティタニアの上の洗濯物をどけて、彼女を立たせる。
「ありがとうございます和人くん。いえ、ご主人様。」
「いやご主人様って言わなくていいから。」
「まったく、ティタニアのドジにも困ったものね。この服走りにくいんだから気をつけなさいよ。」
「ごめんなさいメイド長。」
「誰がメイド長よ。」
千華はジト目で冷静にツッコム。
今の千華は綺麗に畳んだ洗濯物を抱えていて、今の風貌からしてメイド長っぽかった。確かにティタニアの言っていることはわかる。
「私はメイド長じゃないっての。」
こちらの思考を読んでか、ジト目をこっちにまで向けてくる。
「しょうがないよ、千華はできる女って感じだし、それにメイド服が加わったらそりゃメイド長でしょ。」
「葉月まで、やめてよね。」
千華は呆れ顔で葉月を見ていた。
その後は特に何事もなく、時刻は12時をさす。
「うわもうお昼か。ひとまずあいつらの料理してる姿でも見に行くか。」
ということで早速居間に顔を出す。
そこではティタニアと葉月が料理をしていた。
「なに作ってるんだ?」
「オムライスだよ。メイドって言ったらオムライスってイメージ強いし。」
「それってメイドカフェのせいだろ。俺はオムライスのイメージはなかったんだが。」
俺と話す葉月をよそに、ティタニアはトントンと玉ねぎを切っていく。
「手際いいんだな。なんか意外だ。」
「ふふん、私は孤児院でアンヘルと一緒に料理を担当してましたから。このぐらい余裕ですよ。」
前の失態を取り返すかのようにいいところを見せるティタニア。確かにナイフも上手く使ってたし、刃物の扱いには慣れてるのか。
これなら大丈夫だろうと安心し、出来上がるまでニュースでも見てようとテレビをつける。へぇー東雲町で行方不明者がでたんだ、なにがあったんだろ。
俺がそのニュースに夢中になっていると、目の前を銀線が通過する。
まさかと思いつつ、ゆっくりと銀線が通っていった方へ顔を向けると、壁に包丁が刺さっていた。
「すみません和人くん、手が滑りました!」
「怖いわ!!」
あと数センチこっち側にズレてたら側頭部にぶっ刺さってたな。まじで死にかけた。
「疲れたー……ってどうしたのあんたら、騒がしくして?えっ!?なんで壁に包丁刺さってるの!?」
ちょうど他の家事から戻ってきた千華とアンヘルに状況を説明する。
「どう手が滑ったら包丁が飛ぶのよ。」
「先輩すみません、うちの姉さんが。」
千華は呆れ、アンヘルは姉の失態にただただ謝るだけだった。
「なんか……いつも通りだな。」
今日は俺の誕生日ということで、今日1日は家事をさせてもらえない。
そのせいかいつもと違う日常かなと思ったが、違うのは服装と状況だけで、中身は一緒だ。いつも通りすぎて笑ってしまいそうになるのはなんなんだろうね。
「こうなったら美味しいオムライスを作って、さっきの失敗を取り返します!」
ティタニアは落ち込むどころかむしろやる気を出していた。
やる気を出しすぎて、とんでもないことをやらかさなければいいんだが……




