42話 班決め
忙しつつも充実した文化祭が終わり、またいつもの日常が戻ってきたと思っていたが、どうやらそうもいかないらしい。
なぜなら、文化祭のすぐあとに修学旅行がひかえているからだ。
「よーしそれじゃあ今から自由行動の班決めをしてもらうぞ。」
2年A組の教室では五十嵐先生の指示で当日の自由行動の班を決めることになった。
「前にも話したが、班は男女混合で最低4人、最高7人で決めてくれ。」
「「はーい!」」
みんなはそれぞれに仲のいい人とペアを作っていく。
「三宅、一緒に班組まないか?」
俺は仲のいい隣人の三宅に話しかける。
「あぁ、もちろんいいぞ。」
三宅は快い返事をする。その様子を見てホッとしてしまう。これで孤立することはなさそうだ。
「あとは女子2人入れればいいだけだな。」
「そこが問題だな。僕は柊以外のやつとあまり関わったことがないから、誰と組めばいいのかとかよくわからない。だから柊の方でおすすめのやつと組んだ方がいいと思うんだがどうだ?」
「そうだな、そういうことなら任せてくれ。って言っても俺も女子で関わりのある人は少数だけどな。」
「いや、それでも助かる。」
「とりあえず1番おすすめなのは葉月だな。話しやすいし。」
「だが緋色は人気だろ?僕たちの班に入るとは思わないんだが。」
三宅の意見に思わず頷いてしまう。確かに、あいつ人気だから俺らの班に入れない気がするな。
「和人〜私たちと一緒に班組も〜!」
どうしようかなと思っていたら葉月がティタニアを引き連れてやってきた。俺も三宅も困惑する。
「いいのか?お前ら結構声掛けられてるだろ?」
「あーいいのいいの、私たちは和人と組みたいんだし。」
「……それならいいけど……」
自由な幼なじみ見て他のみんなに恨まれないか不安になる。
が、まぁそんなこと考えても今更なので気にしないことにする。
「それじゃあ2人ともよろしく!」
「よろしくお願いします和人くん、三宅くん。」
「あっ、あぁ。」
三宅は少し戸惑った様子で返答する。彼自身、緊張もあるのだろう。
俺は三宅の気持ちが少しわかる。いきなりクラスの中心人物からフレンドリーに話しかけられたら戸惑うよな。
「よーしお前ら班決めは終わったな。それじゃあ次にやることを説明するぞ。」
ひと通り班決めが終わると五十嵐先生が口を開く。
「次は自由行動の時の予定をたててもらうぞ。何時にどこへ行くか、そこへどうやって行くかを事細かに決めてくれ。」
「それじゃ、早速決めていこうか。」
「そうですね、確か沖縄に行くんですよね?」
「そうだね、飛行機乗れるから今から楽しみなんだ。」
「いや子供か。」
「えぇー飛行機よくない?空からの景色とかわくわくするんだけど。」
「それはわかるけど、だからってそこまでうずうずしないだろ。」
「……とりあえず決めないか?」
「あぁ、そうだな。話が違う方向にいっちゃったし修正しないと。」
俺は本来の目的である自由行動の予定を決めにはいる。
「まずは行きたいところを決めようか。パンフレットやネットの情報から候補を何個か出そう。」
「そうですね……」
ティタニアはパラパラとパンフレットを見ながら考える。その目はキラキラ輝いていた。
「あっ、私ここに行ってみたいです、今帰仁城跡。」
「あーいいかもね。見た感じ自然がすごいし、歴史的建造物だしね。」
「遠いけどタクシー使えば行けるし大丈夫だろう。」
俺はノートに候補として今帰仁城跡を加える。
「あとこことかどお?」
「わぁ、いいですね。それにこことかよさそうですよ。」
葉月とティタニアは2人で盛り上がる。行きたい場所の候補はどんどん増えていく。
俺と三宅は置き去りだった。
「この2人はすごいんだな。僕たちを置き去りにして2人でどんどん候補が決まっていってる。」
「まぁいつもの事だから俺は慣れたよ。」
目の前で繰り広げられる女子2人のマシンガントークに、三宅は驚きを隠せない様子だった。
「あっ、和人はどこ行きたい?」
「俺は自然公園に行きたいな。ゆっくりできそうだし。」
「ほうほう、それもいいかもね。」
いきなりの質問をぶつけられたことに対してすんなり答えた俺を、三宅はビックリした様子で見る。
「……いきなりくることもあるんだな。」
「そうだな、こいつら急に振り返ってキラーパスぶち込んでくるから意見は持っといた方がいいぞ。」
「なるほど、参考になる。」
いきなり葉月たちの相手をつとめるのは、三宅には辛いところだからちゃんとフォローしよう。その上で慣れてもらえればいいかな。
「じゃあ三宅くんはどこか行きたいところある?」
「そうだな……僕はこことかに行きたいな。」
「確かにいいな、俺も行きたい。」
俺は三宅を葉月たちに慣れさせようとフォロー主体で頑張った。
話し合いは終始いい雰囲気で進んでいった。
「だいぶ決まりましたね。」
ホームルームが終わり、休み時間へと突入した。
ティタニアはご機嫌な様子で予定の書いである用紙を眺めていた。
「あとは細かい時間を決めるだけですね。」
「そうだね。これが決まったら買うものとかも決めちゃおうよ。」
「いいですね!」
「この2人、休み時間になっても話が尽きないのか。」
「そうなんじゃないか?」
家でも話しまくってるしな。
言い忘れていたが、今は6時間目前の休み時間だ。これからまたホームルームがあり、そこでバスの席順なんかを決める。
「そういえば三宅、葉月たちはどうだ?なんか不便な点とかないか?」
「そうだな……柊と比べたら話しにくいが、話しやすい部類だと思うぞ。基本こっちは聞き専門になれるし。疲れとかは感じないな。」
「そう感じてくれたのならよかったよ。こいつらたくさん話しちゃうから、聞くのに疲れたらどうしようと思ってたんだ。」
「私らってそんなに話すかな?」
「普通……な気がしてました。」
「いやどう考えても喋る方だろお前らは。」
思わずつっこんでしまう。
どこ行っても賑やかだからなこいつらは。そういうところが楽しかったりするんだが。
三宅たちと話しているとチャイムがなる。6時間目の授業の始まりだ。
「班の予定を決めてもらっているところ悪いが先にバスの席順を決めてもらうぞ。」
五十嵐先生は黒板に席を書き出していく。
「基本的には自由だが、被った時は要望通りに行かなくなるかもしれないからそこはわかっていてくれ。」
五十嵐先生はひと通り話し終えると、みんなに作業を促す。
次の瞬間、十数人が一斉に前に走り出す。教卓は一気に戦場とかした。
「なんだこれ……?」
目の前の光景について、一番最初に出てきた感想はそれだった。
「バスの席ごときでここまで熱くなるとは……理解不能だ。」
「まぁ、絶対座りたい席とかあるんだろうな。」
俺は教卓にいるクラスメイトに圧倒されて、自分の席に座ったままだった。
そういえば葉月たちはどうしたんだろう……そう思って視線を彷徨わせると、彼女らは最前列にいた。
あいつらあそこにいたのかよ。
「私たちは前の席にしよ、ここらへん。」
「そうですね、書いちゃいましょうか。」
ティタニアはチョークで空いてる席に名前を書いていく。
「和人、あんたの席も書いといたわよ。」
戻ってきた葉月にそう言われる。
「どこら辺だ?」
「ティタニアの隣。」
「なんでだよ!?」
「えーだってティタニアの隣に誰もいないから寂しそうだと思ってさ。」
「そうなんです、葉月ちゃんはもう相手が決まっていたのでこのままだと私が1人になっちゃうんですよ!話し相手になってください。」
「わかったよ。どうせティタニアにはおもり役が必要だしな。」
「危なっかしいし」、その言葉とともに了承する。
「私は危なっかしくないですよ!」
「ワンワンワン」っと犬ならば吠えてるであろう様子でティタニアはプンスカする。
「まぁ、でも2人はなんだかんだ相性いいんだよね。私や千華ほどじゃないけど。」
「そういえば葉月ちゃんって和人くんといつからの付き合いなんですか?」
「私と和人は保育園からの付き合いだよ。」
「うわぁ、ということは結構付き合い長いんですね。」
「そうだよ。当時和人って私ぐらいしか友達いなかったからね、一番付き合い長いよ。」
「へぇー和人くんの事だからたくさん友達いると思ってました。なんか意外です。」
ティタニアには俺の過去を話していないせいか意外そうな反応をされる。
「そんなに意外か?俺あんま友達いなかったぞ。」
「はぇーそうなんですね。」
「よーしお前らバスの席は決まったなー。」
しばらくして、五十嵐先生が黒板に書いてある席順を写真に撮る。
「うんじゃあ当日はこれをもとにバスに座ってくれ。
それじゃあ、あとは引き続き班行動の予定を決めてくれ。」
五十嵐先生がそう話すと、教室内はより賑やかになる。
そして__
「今日もお疲れ様です先輩方。」
1日を終えて部室へ行くと、睦月が迎え入れてくれる。
「早いな。秋穂たちはどうした?」
「秋穂たちはもうすぐ来ますよ。」
「そっか。」
俺は荷物を置いてソファに座る。
「そういえば和人くん、今週末修学旅行用のお菓子買いに行きませんか?」
「わかった、みんなで行こうな。」
「それと雑貨も買わないとね。足りないものもあるし。」
「そういえば先輩方はもうすぐ修学旅行なんですね。少しつまらなくなりそうです。」
睦月は今から残念そうにしていた。
「なんで残念そうなんだよ。」
「だって先輩がいなくなったら面白いことが起こらないですし。」
「いや待て。俺がトラブルメーカーみたいな言い方やめろ。」
「でも先輩って巻き込まれ体質ですから、そのせいか先輩の周りで色々起こってますよね。」
「それは主に葉月のせいだろうな。」
台所でお茶の準備をしている葉月をチラ見する。
葉月って千歳さんの影響かなり受けてるんだよな。面白そうな事は色々と持ってくるところとか特に。
「なにはともあれ、楽しんできてください。あとお土産まってます。」
「言われなくても買ってくるよ。可愛い後輩だしな。」
「そうそう、みんなの分はちゃんと買ってくるから安心していいよ。」
葉月は俺の言葉に賛同する。
「それでさ、睦月はなに買ってきて欲しい?今のところお菓子の予定なんだけど。」
「あーそれならでかでかと文字の入ったTシャツが欲しいですね。よくお土産屋さんで売ってるやつ。」
睦月が提示したのは意外なものだった。
「それでいいの?睦月のイメージからは逆いってる気がするんだけど。」
「はい、意外に思われるかもしれないですけど集めてるんですよ。部屋着で着たりとかしてますし。」
「想像できねぇ。」
「睦月くんにもギャップ?っていうのがあるんですね。私なら絶対お菓子なんですが。」
はむはむとお菓子を頬張りながら話すティタニア。お前は想像通りだな。
「よし、わかったよ。現地で買ってくるね。」
「ありがとうございます。」
「おつかれさまです!」
「乙っす、来ましたよ!」
睦月と話していると、元気な声とともに秋穂と花火が部室に来た。
また、その後ろから千華と冬も来た。
「おーみんな揃ったね。それじゃあ今日も始めよう。」
みんなが揃ったことで葉月が元気に部長として話し始める。
「今日の活動はね__」
そして、今日もPSY部の活動が始まる。




