41話 文化祭2日目~後編~
残り5分というわずかな時間のなかで、逆転しようと奮闘する睦月たちとそれを阻止しようとする楓さんたちの攻防はこの場の誰もを魅了していた。
4人の、そのなかでも楓さんと睦月のプレイを食い入るように見つめてしまう。ハイレベルな攻防は時を遅らせる程の濃密さであり、瞬き厳禁といっても過言ではないくらいの貴重さも兼ね備えていた。
細かいタッチのドリブルで敵陣に切り込んでいく睦月。残り時間も僅かなので、守備を捨てた攻撃を展開する。
対する楓さんは、冷静に自陣を固めて簡単に通さないようにする。
「残り2分だー!!これを決めれば延長に突入できるぞー!頑張れ『秋月』!!」
観客はそれぞれ『秋月』コールと『日陰隊』コールをする。いよいよ盛り上がりもクライマックスだ。
おそらく、楓さんと睦月は集中しすぎて実況の声も周りの喧騒も聞こえていない。今みえているのは必要な情報のみ。
「っ!」
睦月が秋穂とのワンツーで抜け出し、なんとか1対1の状況をつくりだす。
会場の温度はあがり、睦月はシュートを打った。
入るか?という期待と、止めるか?という期待の2つが交錯する。この2つは表裏一体のものであった。
2つの期待を孕む会場で決定的瞬間がおとずれる。
ガンッ、睦月の打ったシュートはポストに嫌われ弾かれる。そのボールを晴哉さんがクリアして、その瞬間、終わりを告げる笛の音が現実を突きつけるように長ったらしく鳴る。
結果は楓さんたちのチームである、『日陰隊』の勝利だった。
「ふぅ……久しぶりに疲れた……」
気力を使い果たしたのか、睦月は力なく椅子に全体重をあずける。その目は自分が負けたことが信じられないと言わんばかりの色をしていた。
「ナイスファイト、見ててすごい楽しかった。」
俺は睦月の所まで行くと手を差し出す。
「それならよかった……とは思いませんけど、でも、楽しかったです。」
睦月は俺の手をとって立ち上がる。
「睦月ごめんね、私がもう少し上手ければ勝てたかもしれないのに。」
「いや、秋穂のせいじゃないから大丈夫。それにしてもここまで強い人がいるなんて、世界は広い。」
「そう言うあなたもなかなかよかったわよ。再戦は暇な時ならいつでもうけるわ。」
楓さんはそう言うと、睦月に握手を求める。
睦月は優しい笑顔で楓さんの手を握る。
「次は負けませんから。」
不敵ともとれる言葉を添えて。
「えぇ、私も負けるつもりはないから。次も楽しみましょうか。」
心から楽しそうな2人を見て、俺はついつい微笑んでしまった。
「なんか俺、終始空気じゃなかったか?」
eスポーツ大会が終わり、外に向かうための廊下を歩いていると晴哉さんが呟く。
「あーそうだね。相手の子とヒッキーが目立ちすぎて晴、空気ぎみだったよ。」
「だろうな。2人すごかったもんな。」
「あのね、いくら空気でも晴に助けられた場面多かったんだから、私の中では目立ってたわよ。」
「私も、晴哉くんは目立ってたと思うよ。だってずっと見てたけど、晴哉くん上手かったし。」
「そう言ってもらえると嬉しい。ありがとう、仁美、あとヒッキーも。」
晴哉さんは朗らかに笑う。
「ねぇヒッキー、あとは屋外ステージ見るだけでいいよね?葉月たちも歌うみたいだし。」
「まぁそうね。千華の歌、期待しながら待ってるわ。」
「そう言ってもらえて光栄です楓さん!私頑張りますね。」
「私もお姉ちゃんたちを驚かせられるように頑張ろ。ちゃんといいものにしないとね。」
「和人も頑張るんだぞ、ちゃんと応援してるから。」
意気込んでいる葉月、楓さんから応援されてとても嬉しそうな千華、楽しそうに談笑している晴哉さんと仁美さん、笑顔の千歳さんと楓さん、みんなとても楽しそうで今日の祭りを堪能してるように思える。
無論、それは俺も同じだ。今の時間は幸せで楽しくて、この時間が永く続けばいいと思ってしまうほど愛おしい。
今日この場にこれてよかった……つくづくそう思った。
外に出た俺たちは、屋外ステージ付近を通りかかる。
すると、そこには生徒の運営する屋台がでていた。なかなか盛況のようで、その周りは生徒たちで賑わっていた。
「いらっしゃいませー!『fruit cats』のグッズはここでしか買えないよー!!」
そこはただの屋台ではなく、俺たち『fruit cats』のグッズを売っていた。もうグッズ化してたんだな、早すぎないか?
「すごいね、面白そう!ヒッキー、買いにいこ!」
「ちょっ、引っ張らないでよ!」
千歳さんは、すぐさま楓さんの手を引いて屋台に向かって走っていく。
「私たちも行こうか。どんなのあるか気になるし。」
「だな。」
俺たちも興味本位で屋台に近づく。
グッズのラインナップは個人のイメージカラーのケミカルライト、イラスト化された俺たちの缶バッジにラバーストラップなどなど、色々なものがあった。
「1日でこんなに揃えられるんだな。ファンの本気を見た気がする。」
「確かに、どれもクオリティわりかし高いし素直に感心しちゃうわ。」
「どれか買ってこうかなー?」
「俺も2人の、いや、3人のを買うかな。和人と彼女さんと葉月のグッズ。」
「うん、是非買ってよ。ラバストとかおすすめだよ。」
「私も千華ちゃんのグッズ買うね。」
「ありがとうございます仁美さん。」
「あっ、先生、また会いましたね。」
「先輩、ここにいたんですね。」
「友恵ちゃんに秋穂、また会ったな。」
「もぐもぐ、あっ和人くんたちだ。ようやく合流できました。」
「みなさん、ここにいたんですね。また会えてよかったです。」
「あっ……みんな楽しそうだね。ここでなにしてるの?」
「ティタニアにアンヘル、冬までここに来たんだな。」
俺らが屋台でグッズを見ていると友恵ちゃんたちと、今まで食べ歩いてたのだろう、ティタニアたち、あと柔らかな笑みをたずさえて冬が合流してきた。
「おおー、和人くんたちのグッズがたくさんありますね。私もなにか買おうかな。」
商品の前で考え込むティタニア(焼きそばやから揚げなどの食べ物の入った袋を提げながらだが)。
あれを見る限り、ティタニアはアンヘルと一緒に食べ歩きをしたようだ。
「姉さんは今日、ここにある食べ物系のお店は全部まわったんですよ。なんというか、改めて姉さんの食欲に驚かされました。」
「まぁ……お疲れ、1日中ティタニアの世話は大変だったよな。任せっきりでごめんな。」
「いえいえ、慣れてるので大丈夫です。」
「なんかティタニアがペットみたいな扱いうけてる。」
「いいんじゃない?実際犬みたいだし。」
「和人くん、Tシャツがあったのでみんなの分もあわせて買いませんか?私はみんなが集合してるやつ買いました。」
「買うの早くないか!?」
「いいね〜面白そう!私たち3人はそれぞれ自分のやつ買って、アンヘルはティタニアとお揃いにすればいいんじゃない?」
「それは素敵ですね。それじゃあ私も買ってきますね。」
「えっ!?」
「よし、私も行こ。2人も早く来なよ?」
「決断早いな。もう買うことが決定してるし。」
「いいんじゃないの?いい記念になるんだし。」
「……そうだな。」
俺は先に行く葉月たちに追いつこうと千華の手をとって歩いた。
やがて、フィナーレの時間がやってくる。俺たちのライブの時間だ。
屋外ステージの観客席は満員で立ち見していた。
観客の半分程度はこの学園の生徒で、もう興奮した様子でいた。
よくよく見てみるとティタニアとアンヘルはもちろん、友恵ちゃんや花火、秋穂、晴哉さん、仁美さん、千歳さん、楓さんがケミカルライトを持って応援に来てくれた。
ありがたいな……そう思っていると、葉月が話し始める。
「みなさん、今日はご来場ありがとうございました!!残りは私たちの発表だけとなってしまいましたが楽しんでください!!」
学園中に響き渡りそうな通りのいい声が人の間を駆け抜ける。
「それではお聞きください、『道標』。」
こうして、柏崎学園文化祭最後の演奏が始まるのであった。
「疲れたー!!打ち上げやろ!!」
あのあと、きちんとライブを成功させ閉会式、片付けをしっかりやった俺たちは、疲れたからという理由でなぜか部室に集まっていた。
俺の理由としては、葉月のことだからなにかやるだろうと思ってしまったからだ。他のみんなもほぼ一緒の理由だろう。
また、俺は落ち着くし、特別な場所だから来たかったというのもある。ここではたくさんの思い出ができたから。
案の定、ソファでぐったりした葉月から打ち上げの提案がされる。
「打ち上げか……それならファミレスでやるか?」
「そうだね、ここでやっても下校時刻すぐきちゃうし近くのファミレスでやろうか。」
葉月はソファから立ち上がり、大きく伸びをする。
「一応確認だけど、打ち上げいく人〜」
葉月の確認に、全員が手を上げる。
全員疲れはあるが、このメンバーで打ち上げに行きたいという気持ちは等しく持っているようだ。
「はい、確認終わり。うんじゃあ移動しよう。」
「私はハンバーグとパスタが食べたいです。頼んでもいいですかね?」
「あぁいいよ。お前たくさん食べないとお腹空いたーって言うから。」
「うっ……言いませんよ!こどもじゃないんですから!」
「いや、あんた言いそうよ。」
「えぇ〜千華ちゃんまで酷いです〜!」
俺たちは話しながら部室をあとにする。
部室を出る際に電気を消す。明るい廊下から暗い部室を振り返って数秒間暗闇を見つめる。
「和人なにしてるの?早く行かないとみんなにおいてかれるわよ。」
俺が部室を見つめていると千華が話しかけてくる。
「……そうだな、早く行こうか。」
部室を閉める。ここでの思い出を振り返るのはまだ早いな。
「千華、今日は楽しかったな。改めて千華の事が好きになったよ。」
「はぁ!?あんた急にどうしたの?」
「いや、今日は楽しかったからつい……な。」
「……私もあんたの事がますます……」
千華は頬をほんのり赤くしてごにょごにょ話す。後半なにを言ってるのかわからなかった。
「おーい、2人とも早く来なよ!おいてくよ!」
葉月が呼びかけてきたのですぐに行かなきゃな。
「わかってるよ!で、なんて言おうとしたの?」
「それは……なんでもないわよ!」
千華は濁した言葉を言いたくないのかそう叫んだ。
「……気になる。」
「うっさい!早く行くわよ!!」
まだまだ赤い顔で俺の前を歩く千華。いつか聞ければいいんだけどな。
暗い外の中を明るい声とともに歩く。
ここから打ち上げでまた思い出がつくれる。
今のこの時間はとても貴重だ。
この時間は絶対大切にしたい……




