40話 文化祭2日目~中編2~
そうして始まったゲーム大会は、うちの生徒から教員、他の学校の生徒、一般客と多様な参加者によって進行していく。
「『チーム教員』2回戦進出!」
司会の先生の元気のよい声とともに勝ち上がったのは五十嵐先生ともう一人、理科の田中先生だった。田中先生は楽しそうなのだが、五十嵐先生はなんで自分がここにいるのか疑問の様子だ。多分出たくなかったところを無理やり……なんだろうな。
五十嵐先生を見て「あの人も大変だな〜」と思っていると、突如歓声が噴火のような勢いであがる。
「こちらでは『日陰隊』が2回戦進出だー!」
「すげー誰だあの人、めちゃくちゃ上手いぞ!」
「角度のない場所からどうしてあれが決まるんだ……?」
「それだけじゃねぇ、あの2人すごく息があってるから攻撃も守備もスムーズなんだ!こりゃ優勝はあの2人で決まりじゃねぇか!?」
観客たちが盛り上がっている声の中心には楓さんと晴哉さんがいた。やはり優勝候補No.1の実力は皆を驚かせたようだ。
「いや、待て!こっちにもすごい奴がいるぞ!」
ある1人の男性の声に大多数が声の方向を向く。
そこにはついさっき勝ち上がった2人が座っていた。対戦相手の生徒はとても悔しそうにしていた。
スクリーンに映されていたスコアは6-0、楓さんのところが7-0なことを考えるとこちらも凄腕の実力者だということがわかる。
で、その2人というのが、
「秋穂と睦月じゃねぇか。2人とも参加してたんだな。」
後輩の秋穂と睦月だった。
「あっ、先輩方こんにちは。睦月に誘われて出ることになりました。」
「なんというか暇つぶしです。でも、」
睦月は楓さんをチラッと見て続ける。
「今回はとても楽しめそうです。応援よろしくお願いします先輩。」
「あっうん、頑張れよ。」
睦月と秋穂は元の席へと戻っていった。
「へぇ……中々やる子がいるわね。これは私も楽しめそうだわ。」
「おぉ、ヒッキーが燃えてる。これは面白そうだわ。」
「ヒッキーが燃えるのなんて世界大会ぐらいだと思ってたけど、あの子相当上手いみたいだな。」
「そうですね、睦月は天才ですから。なんでも余裕そうにこなす奴ですよ。」
「ふーん、それは楽しみね。そして対決が決勝なんて、いい演出じゃない。」
不敵に笑う楓さんを見て、俺は新鮮な感情を抱いた。今の時間この人生き生きしてるな、いつもはすっごい怠そうなのに。
「晴、次も勝つわよ。」
「はいはい、俺はサポートに徹するから思いっきりやってくれ。」
「えぇ、頼りにしてるわよ。」
「私ヒッキーにそんなこと言われたことないんだけど。晴ばっか狡くない?」
「それは多分、普段の行動のせいだと思うぞ。」
「えーなにがいけないんだろ。 」
「私へのセクハラ行為にナンパ行為、急に私の部屋に突撃してくるところ、あとその他もろもろよ。」
「えー私セクハラしてないよ、ヒッキーとスキンシップとってるだけだよ。」
「だからそれがセクハラなのよ。いい加減自覚しなさいよ。」
ひょうひょうとしている千歳さんに、楓さんはジト目で毒づく。
「でもさ、ヒッキーの部屋に突撃するのはよくない?毎回ヒッキーのお母さんから感謝されてるんだけど。楓と仲良くしてくれてありがとうって。」
「だからって急に来るのはやめてよ。来るなら連絡ぐらいよこしなさいよ。」
「わかったわかった、これからは連絡してから襲いに行くね。」
「いや襲いには来ないでよ……」
「ハハッ、千歳は相変わらずだな。」
「今日ぐらいはあんたにパスするわ。存分に振り回されろ。」
「えっ、晴は駄目だよ、ひとみんがいるんだから。それに私はヒッキーとイチャつきたいからやだ。」
「だってさ、ヒッキー。まぁ、俺もフォローはするよ。」
「解せぬ……」
晴哉さんたちは楽しそうに会話していた。その様子を仁美さんが微笑んで眺めていた。
「お兄ちゃんたちほんとに仲いいよね。」
「だな。なんか見てるだけで楽しくなるな。」
「あのっ、お久しぶりです。」
賑やかなこの場に似つかわしくない子に声をかけられる。
声の方を振り返ると、夏休みに家庭教師で担当した友恵ちゃんがカブリエルを抱いて立っていた。
「友恵ちゃん、久しぶり。あれから調子はどお?」
「はい、先生のおかげで勉強面はバッチリです。あれから先生にスマホでわからないところをたびたび教えてもらえたので、少しずつ実力がついてきました。」
「そっか、それならよかったよ。」
夏休みが終わってから、友恵ちゃんとはLINEを使ってやりとりをしていた。直接会ってはいないが、間接的に勉強の指導を続けていた。
「それで、今日はお姉ちゃんの応援に来たんですけど……1人じゃ心細いので一緒に観戦してもいいですか?」
「うん、もちろんいいよ。」
俺が快く返事をすると、友恵ちゃんの顔はぱあっと明るくなる。
「ありがとうございます先生!」
友恵ちゃんは花のような笑顔をさかせる。
「JS生徒と家庭教師のイケナイ関係……いい話が書けそう。」
「あっ、私もそれ興味ある。」
「お前ら和人でネタを作るなよ……彼女さん困ってるだろ?」
晴哉さんの言葉通り、千華がまゆをひそめてこちらを見ていた。多分「デレデレしたら殺す」と言いたいのだろう。
「あっでもどこに座れば……席ないですし。」
「あー確かにそうだね。それなら俺の席に座っていいよ。」
「いえっ、先生に譲らせるわけにはいかないので、それは遠慮します。」
「そっか、それなら膝の上に座る?これなら2人とも座れるからいいと思うけど。」
「ひっ膝ですか!?……本当にいいんですか?」
友恵ちゃんは顔を真っ赤にして素っ頓狂な声をあげる。
「いいんだよ、おいで。」
「ロリコン。(ぼそっ)」
「ちょっ、俺はロリコンじゃないよ千華。」
千華の呟きにすぐさま反応する。
「和人って晴以上のたらし(天然)なのでは?」
「どうなのかしらね?私にはわからないわ。でも、最低でも晴と同等なのはわかるわ。」
「えっ、なんでそこで俺が出てくるんだよ?」
「……失礼します。」
晴哉さんたちの会話を遠くに感じながら友恵ちゃんを膝にのせる。
友恵ちゃんは少し下を向いていて、顔は茹でだこのように真っ赤になっていた。さらにはプルプル震えていたがまぁ、大丈夫だよな。
「友恵ちゃんだっけ?顔真っ赤だけど大丈夫?」
「えっ!?だっ大丈夫です!お気遣いありがとうございます。」
友恵ちゃんはあたふたしながらもちゃんと受け答えする。今のところ千華たちを怖がっている様子はみられないのでホッとしている。
「私は雪原千華、気軽に名前で呼んでね。」
「はっはい、よろしくお願いします千華さん。」
頼れるお姉さんの顔で友恵ちゃんに接する千華。友恵ちゃんは目を輝かせて千華を見ていた。
(なんかすっごい見られてるんだけど。)
(大丈夫か?)
(えぇ、変なことは思われてないからいいんだけど、その逆のこと思われてるのよね。「美人」とか「優しそうな人」とか「憧れるなぁ」とか色々思われてるからこそばゆい。)
(それはそれでいいんじゃないか?こんないい子に憧れられるのも悪くないと思うし。)
(そうなのかしらね……)
「ねぇねぇ友恵ちゃん、お菓子あるけど食べない?」
「あっえと……」
友恵ちゃんは視線をグルグルさまよわせたのち、俺の方を見る。
「もらっていいと思うよ。葉月は変な人じゃないし。」
「そうなんですね……それでは、いただきます。」
友恵ちゃんは葉月から恐る恐るお菓子を受け取る。
「やっぱり可愛い〜見ていて癒されるわ。ねぇ、ちょっと抱きしめていいかな?」
「(ビクッ)!!」
「葉月、あんまり友恵ちゃんを脅かすなよ。友恵ちゃん警戒心強いんだからもっとソフトに接してくれ。」
「あんたは友恵ちゃんの親かなにかなの?」
友恵ちゃんを守るようにやわらかく抱きしめる俺を見て、葉月は苦笑する。友恵ちゃんは顔を真っ赤にして目をグルグルさせていた。
(あんた友恵ちゃんに変なことしてんじゃないわよ。)
(変なことしてないよ。ただ守ってるだけだ。)
(あんたって無自覚でそういうことやるから嫌なのよね。……天然たらし)
(酷くね!?)
俺そんなにたらしじゃないと思うんだけどな。確かに友恵ちゃんに対しての言葉のチョイスを間違ったことはあるけど。
俺が考え込んでいると、葉月が口を開く。
「あっ、2回戦が始まったよ。お兄ちゃんたちの応援しよう。」
「あぁ、そうだな。」
こうして大会はどんどん進んでいく。会場としては大きくない視聴覚室で、白熱の試合が行われる。
3回戦、準決勝と進んでいき、それと同時に観客のボルテージもどんどん上がっていた。
「やはりというべきか、『日陰隊』が決勝進出だー!!」
「「わああぁぁぁぁ!!」」
準決勝をダブルスコアで勝ち上がった楓さんたちは、油断せずに次の試合について話し合っていた。
「こちらも予想通り、『秋月』が決勝進出ー!!」
『秋月』とは秋穂と睦月のチーム名だ。やはりというか、1回戦でみせた実力通りのところまできた。
「これによって、決勝は『日陰隊』VS『秋月』の注目の1戦となりました!」
「やっぱりきたわね。楽しめそう。」
「俺もです。期待はずれ、だけはやめてくださいね。」
楓さんと睦月の間で激しい火花が散る。観客も皆湧いていた。
「すごいですね……お姉ちゃん、頑張れ。」
目移りした様子の友恵ちゃんは秋穂にエールを送っていた。それを見て微笑ましい気持ちになる。
「あっそういえば先生、重くないですか?私ずっと乗っちゃってたんですけど。」
「んっ?全然重くないよ。だから気にしないで。」
「……はいっ、」
「それでは決勝戦を始めます!」
司会の先生の声とともに試合が始まる。
まずは楓さんたちのボールから始まる。
「まずは先制点いただくわね。」
楓さんの言葉の通り『日陰隊』は、開始から絶妙なコンビネーションでゴール前まで運び、最後は楓さんのキレのある個人技でゴールを奪う。
明らかに余裕そうなプレイに、睦月は挑発と受け取ったのか「上等」、といった顔つきに変わる。
「すぐに取り返しますよ。」
睦月は負けじとほれぼれする様な攻めを繰り広げる。
が、
「甘い!」
攻撃をよんでいたのか、楓さんはインターセプトをして、そこからカウンターをする。
カウンターはスムーズに決まりシュートまでいったが、キーパーがいい仕事をしたために点は取れなかった。
「くっ、強い。」
「当たり前、ゲームで私に勝てると思わないことね。」
試合はどんどん進んでいく。
途中で睦月が意地をみせ1点を取ったが、楓さんの実力は凄まじく、『秋月』は押されていた。
「なっ、あの隙間を素早いダブルタッチでぬいただと!?」
「すげぇ!あの人ほんとに何者だ!?まさかプロだったりするのか?」
「対戦相手の人たちも上手いけど、実力差が目にみえるな。」
「あぁ、これは点取られるのも時間の問題かもな。」
観客の言う通り、楓さんと睦月の間には実力差があるので、そろそろ点が取られそうだと思ってしまう。
「あっ、これ絶対決まる。」
うまいこと攻撃に緩急をつけた楓さんは、それによってできたスペースにボールを出してシュートを決める。
「うおっ、シュートコースえぐっ!!対角線ギリギリに決まった!」
「すごいな、こんなハイレベルな試合が生で見れるなんて、今日は来てよかったぜ。」
「……すごいな。」
「だね、思わず言葉を失っちゃうぐらいには見とれてた。」
「楓さんってやっぱりすごいのね……あれで小説書けるんだもん、ほんとにすごい人だわ。」
「千華ちゃん目輝いてるね。そんなにヒッキー好きなの?」
「それはもちろんですよ!likeの方ですけど。」
「大丈夫、それはわかってるから。千華ちゃんには和人って大事な彼氏がいるもんね?」
「それはあんまり言わないでください。」
「あーごめんごめん、あんまり言われたくはないよね。」
「えっ……先生と千華さんって付き合っているんですか?」
「うん、実はそうなんだ。」
「そう……なんですか……」
友恵ちゃんは絶望した様子でこちらを見ていた。友恵ちゃんには悪いことをしてしまった。
「大丈夫、友恵ちゃんなら和人よりいい人がきっと見つかるから。」
「千華さん……」
落ち込む友恵ちゃんを優しく励ます千華。フォローありがとう千華、あとでなにか奢ろう。
「おっ、残り時間あと5分みたいだよ。」
「もうすぐ決着つくみたいだね。どっちのチームも頑張れ〜!」
クライマックスは熱気のこもった声援が響いている。『日陰隊』も『秋月』も全力をだして戦っていた。
あと5分でスコアは2-1、『日陰隊』が勝っていた。
でも、まだまだ試合はどうなるかわからない。
俺はドキドキしながらこの試合の行方を見守っていた。




