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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
2年生編①
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4話 PSY部と風紀委員長 ~前編~

 __と____和人!

 地面に傷だらけの状態で倒れている俺を屈強な体の男が呼ぶ。

 その男は見るからに厳しそうな人で、歳は三十代後半だろうか。

「なにをしている!早く起き上がれ!!」

 俺は厳しい言葉を飛ばしてくる男を意識がもうろうとしながら見る。身体中が痛く、息が苦しい。体が酸素を欲している。

 もうこのまま寝ていたい。だが、

「………はい…」

 俺の体はそれを許さなかった。このまま寝ていたらどうなるかはわかっていたからだ。

「よし、続けるぞ。」

 俺が立ち上がると、男は構えた。その構えに隙はなく、もともと強かった威圧感と存在感が増大したように感じられた。

 この後はいうまでもなく地獄だった。いや、この生活全部が地獄だ。

 この生活がいつまで続くか分からなかった。終わらない悪夢を見ているようだった。

 あぁ、いつになったらこの悪夢は終わるのだろうか。





 朧気な意識がだんだん覚醒していく。外ではスズメが囀ずっている。

 いつもより重い瞼を開け、体を起こす。そして開口一番、

「くっそ嫌な夢見た。」

 まだボーッとしている頭で考える。

(いつもより体が怠いな。あの夢見た後じゃしゃあないか。てかさっきから心拍数ヤバイし。)

 とりあえず荒ぶる心臓を抑えてから時間を確認するためにスマホをひらく。現在時間は5時20分だ。どうやらいつもより10分早く起きたようだ。

「………着替えて弁当作るか。」

 特にやることもないので布団を片付けた後、着替える。

 だが、あの夢のせいだろうか?俺の視線は上半身にある痛々しい傷跡にあった。俺の体にあった傷は数ヵ所に及んでいる。傷跡は切り傷とあざだ。

 普段は気にしないようにしているこれらの傷跡だったが、今日に限ってはそこに視線がいってしまった。

(チッ、昔のことを思い出しちまったな。)

 これを見て思い出すのは昔の嫌な思い出だ。

 辛くて、苦しくて、痛かった、そんな思い出。

 本当なら今すぐにでも忘れたい記憶なのにいつまでたっても忘れられない。

(……まぁ、とりあえず弁当作るか。いつまでも引きずるのもあれだし。)

 俺は若干の気だるさを感じつつもキッチンに向かった。


 キッチンに行き、弁当を作り終わった俺は朝ごはんを作って食べていた。

 ちなみにまだ葉月は起きてこない。あいつが起きてくるのは大体7時だ。

(今日は午後から雨降るみたいだし電車で行くか。)

 そんなことを考えながらご飯を食べていると廊下から足音が聞こえる。どうやら葉月が起きてきたようだ。

「おはよー和人。朝ごはんなに?」

「ご飯と味噌汁とだし巻き玉子だけど?」

「なんか質素。」

「当たり前だろ。うちは金持ちじゃねぇからな。」

「まぁそうだよね。和人の親の遺産とバイトでやりくりしてるもんね。」

 そうなのだ、うちの親は先に死んでしまい、俺だけが取り残された。なので、バイトと親が残してくれた遺産(株や為替で稼ぎまくった金の入った通帳など)をうまく使っている(主な収入源がバイト代なので気を抜くとヤバイことになる)。

「いただきまーす。和人、ふりかけ取って。」

「へいへい。」

 葉月はだし巻き玉子を頬張って幸せそうにしている。

「そうだ和人、今日は風紀委員長を見に行くからね。逃げないでよ?」

 その言葉を聞いた俺は嫌そうな顔をする。面倒ごとに巻き込まれたくないんだけど。でも約束したしなー。

「はいはい、わかってますよー。」

 とりあえず棒読みで返しておく。

 今日はまた大変そうだなぁと思いながら俺は葉月を見つめた。

 ご飯を食べ終わると片付けて学校に向かう。今日は電車なので葉月と一緒に登校する。

 家から駅までは徒歩10分圏内なのですぐに着く。

 駅で切符を買い、電車に乗り込む。

 座る席を探していると見覚えのある銀髪少女が居た。

「おはよう冬、偶然だな。」

 俺はその少女、冬に声をかけた。冬は本から俺に視線を外し、ペコッと頭を下げた。おはようって意味だろうか。

「隣いいか?」

『いいよ』

 冬から承諾をもらうと隣に座る。

(なんであんたがいんのよ。)

 隣に座った瞬間そんなことを言われる。

(別にいいだろ千華。)

 そんなことを返して冬の右隣に座っている千華を見る。

 千華はいつもと違い眼鏡をしていた(俺の前では眼鏡をつけていないため)。

(珍しいな、お前が眼鏡なんて。)

(別にいいでしょ?こっちの方が集中できるし。てかいつもつけてるでしょ?)

 そう言う千華は英単語帳を開いていた。勉強中だったんだな。

(もしかして伊達眼鏡か?)

(少し度は入ってるわよ。てか冬に近づかないでくれる?)

(お前な……。てか葉月はどこ行ったんだ?)

 いつの間にかいなくなっていた葉月のことを思い出す。

(あぁ~それなら大丈夫。いつものことだから。)

(そうなのか?)

(そうよ。今葉月は他の柏崎生と話してるわよ。)

(あぁ~なんか納得したわ。)

 あいつは人気あるからな。他の奴と話しててもおかしくないか。

『珍しいね、和人が電車なんて。』

「あぁ、今日は雨の予報だしな。」

「だから和人くんは今日電車なんだね。」

(死ね。)

(直球だなおい。)

 この冬好きの変態は容赦ないな。

『和人、今日は一緒に帰ろ?』

「うん、もちろんいいよ。」

 冬がトークアプリで誘ってくれるのは正直嬉しい。なんか特別な感じがするからね。

(爆ぜろくそ和人。)

(怖っ!)

 ふと千華の方を見ると今にも誰かを殺しそうな目でこちらを見ていた。

(一回落ち着けよ。)

(あんたをボコボコにしたら落ち着くかも。)

(それはやめろよ。)

『そういえば和人、今日は大変そうだね。気を付けてね。』

「あれ?そうなのか?」

『うん、今日の朝予知した。和人は風紀委員長とひと悶着ある。』

「まじか……」

 それ絶対今日風紀委員長を見に行くことが原因だろ。

 この後は冬たちと談笑?しながら目的の駅に着くまでを待った。

 柏崎駅に着くと、そこで降りる。ここから学校までは徒歩8分程度だ。

「和人、どっか行っててごめんね。」

「別に大丈夫だぞ。」

「おはよう冬ちゃんに千華。」

「おはよう葉月。」

「………」ペコッ

  現在俺達は葉月が合流し、四人で登校している。いつものメンバーなのでどことなく安心感はある。

 葉月と千華は楽しそうに話している。俺はたびたびその会話に混ざるが基本的には無言。冬はいつも通りの無表情を崩さず、ひたすら無言だ。俺と冬との間の会話はない。

(さすがに今話しちゃうと冬は歩きスマホしちゃうし危なそうだから自重しないとな。)

 さすがに外での歩きスマホは危ないし、なにより冬にケガをさせるわけにはいかないので今はかなり気を張っている。前やったことは反省しております。

 さて、特に何事もなく学校に着き教室へ向かう。自分の教室に着くと冬と千華と別れる。

 その後はいつもの通り平凡な生活をする。




 さて、あっという間に放課後になってしまった。これから風紀委員長を見に行くとかいうなんとも面倒ごとに巻き込まれそうな気がすることをしないといけないわけで。自然とため息が出てしまう。

「和人、部室に荷物置いたらすぐ行くからね。」

「へいへい。わかってますよ。」

 すごくうきうきしている葉月がいるが気にしないでおこう。

 ふと窓を見ると予報通り外は雨が降っていた。

(よし……行くか。)

 俺は若干の抵抗を覚えながらも部室へ移動する。

 部室に着くと既に到着している葉月と暇そうにしている花火がいた。

「先輩お疲れ様です。」

「あぁ、お疲れ。」

「そういえば私も噂の風紀委員長を一緒に見に行くのでよろしくっす。」

「いやお前も来んのかよ。」

 すっごい不安だ。平和に終わってくれるといいんだが。

「てか見に行くのはいいんだが場所わかってるのか?」

「ふっふっふ、大丈夫だよ和人。そこはきちんと調査済みだからね。」

 こいつ変なところで仕事早いな。

「今の時間ならおそらく特別棟にいるはずだよ。」

「うんじゃあここの校舎じゃん。すぐ見つかりそうだな。」

 いい忘れていたが、PSY部は特別棟の2階にあるのだ。本校舎もそうだが特別棟もなかなかの規模で、いろんな部活があったりする。

「それじゃあまずは三階の風紀委員室に行こうか。」

「まぁそうだな。」

 三階に向かうべく部室を出ると千華と冬と鉢合わせる。

「あっ、ちょうど良かったよ。これから風紀委員長見に行くから千華たちお留守番よろしく。」

「ふふっ、わかったわ。任せて。」

(てことは今の部室には私と冬だけ。つまりはなにをしても許され…)

(許されねぇよ!)

 急に千華の本音が流れてきたので思わずつっこむ。

(てかなんで俺の脳内にながしてんだよ。)

(いや気を抜いてたからかな?てかなんで聞いてんのよ消えろ。)

(お前が繋いだんだろうが!)

 俺と千華は脳内でいい争いをしながらお互いに軽い挨拶をして通りすぎる。すっごい冬が心配なんだが。

 冬のことを心配しつつも三階にある風紀委員室を向かって進む。

「なあ葉月、その風紀委員長を見つけたとしてどうやって能力者だと判定するんだ?もしも能力者だとしても人前で使わないだろ普通。」

「そこら辺なら大丈夫だよ。和人が風紀委員長と人気のないところでタイマンすればいいんだから。」

「いやアホか!!」

「そうっすよ葉月先輩。和人先輩じゃ瞬殺されますよ。」

「それもそうだけど、たとえタイマンでも能力なんてださないだろ。」

「そこはほらっ、和人がなんとか交渉してさ………がんばっ!!」

「がんばっ、じゃねぇー!!」

「それにほらっ、和人は昔合気道やってるって言ってたじゃん。それでなんとか。」

「て言ってもその風紀委員長めちゃくちゃ強いんだろ?俺じゃ勝てなそうにないんだが。」

「和人先輩合気道やってたんですか?驚きっす。」

 俺と葉月の話を聞いた花火は驚いていた。

「まぁ二年ぐらいやってたよ。あんまり言いたくないけど。」

「そうなんですね。」

「そうそう、和人はそのお陰で喧嘩になっても涼しい顔していられるんだよ。」

「別に涼しい顔ではないぞ。」

 喧嘩になると内心ちょっと焦ってるんだけど。

「そういえば柔道部の権堂先輩が和人先輩に負けたって言ってましたね。」

「そういやそうね。なんで喧嘩したの?」

 葉月は不思議そうな顔を俺にして聞いてくる。

「いつものことって言えばわかるよな。」

「あぁ私達関係か。」

「?、なんですかそれ?」

「いや和人と私と千華と冬は一緒の部活でしょ?そのせいか私達のことを推してくれている派閥がたびたび勝負を挑んでくるのよ。」

「そっ、二年の男子には主に三つの派閥があんだよ。それが葉月派と千華派と冬派。俺はその三人と結構接点があるらしくよく決闘みたいなのを申し込まれるんだよ。」

「なんか大変っすね。」

「想像の10倍は大変だよ。なんか急に勝負は挑まれるし葉月達の連絡先教えてくれとか言われるし。」

 まぁ葉月達はうちの学年では三大美少女とか言われてるぐらいだししゃあないんだろうけどな。

「でさ、今のとこ通算でどのぐらい勝負挑まれたの?」

「通算56回だな。そのうち勝負したのは4回だよ。」

「あれ?案外少ないですね。もっと勝負に応じてるものかと思いました。」

「そんなに頻繁に喧嘩してたら風紀委員に目をつけられるだろ。」

 俺はジト目で花火を見る。花火は納得していた。

 さて、雑談しながら歩いているといつの間にか風紀委員室の前に着いていた。

 そういやここからどうすんだ?と思っていると葉月がいきなりドアを開けて

「すみません、風紀委員長いますか?」

 と言った。いや堂々としてんな。

「委員長なら今は不在だ。今はおそらく校内の見回りをしている。」

「ありがとうございます!」

 葉月は元気よく言うと、ドアを閉めてこちらに戻ってきた。

「よし、校内を探そうか。」

「いや急に突っ込むなよ。びっくりしたわ。」

「堂々としてましたね。すごかったっす。」

「あはは……ごめん。」

 でもこれで情報を得ることができたのでよしとしよう。

 俺達はとりあえず校内をブラブラする。たまに階段ダッシュしているサッカー部とすれ違う。

 風紀委員長の姿は今のところ確認できない。

「どこいんだろうな?」

「もう帰っちゃったんですかね?」

「むむむ……見つからないね。」

 俺達は校内を一通り探したので、休憩がてらに図書室に来ていた。図書室には何名かの生徒が読書や勉強をしていた。

 俺達は空いてる席を確保するとそこに座り込む。

「いや~ここってそんなに来ないからたまにはいいね。」

「そうですね~。なんか静かで落ち着きます。」

「花火はそんなにここは好まないと思ってたんだが。案外好きなのか?」

「漫画あるんで好きです。」

「あっうん。」

 なんか容易に想像できるな。

「それにしてもホントどこに行ったんだろうね噂の風紀委員長は。」

「確かに。今日くらいひとつの所にとどまっていてほしいですよね。」

 突如葉月と花火はなんか愚痴のようなことをいい始めた。

「せっかく風紀委員長の強さを見たかったのに。」

「そうですよね。和人先輩と喧嘩させたかったですよね。」

「いや俺はやらないからな。なに勝手に俺がやることになってんだよ。」

「いやだってあんた以外にやれないし。」

「お前な……。」

 こいつもしかして俺に喧嘩させるために連れてきたんじゃないんだろうか。

「あーあ、ここに風紀委員長来ないかな~。」

「来るわけないだろ。」

 俺は呆れたように言った。すると葉月達は諦めたのか雑談を始める。

 だがその時、

「……呼んだか?」

 不意に声をかけられた。恐る恐る首を声の方に向けるとそこにはがっしりとした筋肉質の体型の男がいた。

 その男は学ランをしっかりと着ていて、その腕には風紀の腕章がついていた。

(ご本人来ちゃったー!!)

 いやこれどうすんの!?俺は戸惑いながら葉月達に目配せするが葉月達も俺と同様に驚いていた。

「えっ!?もしかして風紀委員長さんですか!?」

 花火は少し興奮ぎみだった。やっと会えたからなのだろうか?嬉しそうだった。

「……そうだが、何か用か?」

 風紀委員長さんは淡々と聞いてきた。

「はいっ、ちょっと部室でお話聞かせてもらってもいいっすか!?あとあとっ、お名前も!」

 テンション高めの花火がそんなことを言う。てか部室で話すのかよ。大丈夫かな……?

「とりあえず移動しましょうか。」

「……あぁ。」

 あまり図書室に居すぎるのも迷惑になりそうなので移動を開始した。

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