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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
2年生編②
35/171

35話 練習とクレープ

文化祭のリハーサルを1週間後にひかえたある日、俺たちは本格的に音合わせをしようということで練習スタジオに来ていた。


スタジオの中は音響設備がしっかりとしていて、ちょっと緊張してしまう。


「さぁ、今日はしっかり音合わせしようか。」


元気そうな葉月が笑顔で言う。


「こういうとこで演奏するのって少し緊張するな。」


「なに?あんたこんなことで緊張してんの?だっさ。」


「そんなこと言いつつ、手震えてるのはなんなんだよ千華。」


「はぁ?別に緊張とかじゃないし。武者震いよ。」


「あんたらなんで緊張してんの?観客いないのに。」


俺が千華とそう話していると、葉月が不意にそう問いかけてくる。


「別に緊張はしてないし。」


「なんかちゃんとしたところで練習するのが初めてで、ちょっとな。」


「まっそういうのは音合わせしてればなれるよ。じゃっ、早速始めよ。」


葉月の音頭でみんなが準備を始める。今まで頑張ってきたんだし大丈夫……だと信じたい。


「あんたそれ本番前に思いなさいよ。」


「うぐっ、別にいいだろ。」


「ほらやるよー。3、2、1、ハイッ」


俺たちは、楓さんの作ってくれた曲の『道標』を演奏する。冬と睦月はもう完璧に演奏できるようになっており、とても綺麗な音色を奏でていた。俺たちはまだまだで、なんとかついていく感じだった。


千華の歌声はとても綺麗で、低音も高音も上手く歌っていた。あの時の自信なさげな様子はどこへやら。


サビに入ると一気に盛り上がる。千華の歌声はかっこよく、聞いていてとてもしびれた。




「……はいっお疲れ!千華めっちゃ上手いじゃん!」


「確かに、いい声だったよ。」


「そう?それならいいんだけど。」


「睦月と冬ちゃんもよかったよ。もう完璧だった。」


「ありがとうございます。」


「それならよかった。ホッとしたよ。」


「あとは……私たちはもっと練習しないとだね。」


「だな、結構間違えたし。」


俺と葉月はお互いに見合って難しい顔をする。要所でもたついたし変なミスしたし。


「ねぇ、次2曲目いく?」


「あーうん、そうだね。流れはつかみたいから2曲目いこうか。」


反省の頭から切り替えて2曲目に集中する。


2曲目は『翡翠蘭』、これも楓さんが作ってくれた曲で、バラード曲だ。


『道標』に比べるとゆったりした曲調なので、もたつくことはないはず。この曲では葉月も途中で歌う部分があり、千華とのデュエットはかみ合っていて素晴らしかった。





「……よーし、いい感じだね。」


「でもデュエットのところもうちょい練習したいわね。合わなかった部分あるし。」


「確かに、演奏に問題はないけど、やっぱデュエットの部分がちょっと駄目だったね。もっかいやろ、その前の部分から。」


デュエットの部分が納得いかないということで、もう一回やる。




「よしよし、さっきよりよくなったね。」


「でも葉月、歌うことに集中しすぎてギターが疎かになってなかったか?」


「和人だって音外した場面あったじゃん。」


「あれは間違えたんだよ!千華の歌聞きすぎただけです!」


「演奏に集中しなさいよ。それ本番でやったらぼこぼこにするからね?」


「右に同じく。あとジュース奢らす。」


「それはひどくね!?てか本番は変なことしないから大丈夫だよ。」


「まぁ、先輩はしっかりやると思うのでだいじょぶだと思いますよ。」


「さて、じゃあ次は全部通してやってみよう。」


こうして、練習はまだまだ続く。全部を通してからは「なんかギター遅れてないか?」とか「サビでベースがもたついてる」とかでやり直しをする事1時間、


「疲れた……ちょっと苦しい。」


「大丈夫か?」


荒い息を吐く千華に飲み物を渡しながら問いかける。


「大丈夫。ぶっ続けで1時間は流石にきつい。」


「ずっと歌ってたもんな。のど飴舐めるか?」


「えぇ、貰うわ。」


千華はのど飴を口に含む。


「あんた最後の方かなりよかったわね。ベースの音綺麗だったわよ。」


「ありがとな。千華もすごく歌上手かったよ。」


「最後の方バテて雑になったけどね。」


千華は、息を整えたのか、落ち着いた呼吸で話す。


「睦月と冬ちゃんお疲れ!どっちも凄かったよ!」


「……ありがとう。最初は難しかったけど、30分もしたらバッチリ弾けるようになったよ。」


「そう言ってもらえてよかったです。この前久しぶりにドラムを出したんですけど、昔の勘をすぐ取り戻せました。」


「うわぁ……この天才2人なんなの……」


「言うな……わかりきったことだろ。」


葉月の言葉に冷静に合わせる。この2人の天才具合はもうわかってたことだしな。


「そろそろここ出るよ。もうすぐ時間だし。」


「はいよ。キーボードとドラムは送っちゃうか。」


「そうだね。」


冬はドラムとキーボードをそれぞれの家に送る。


「私たちはそのままもって帰るの?」


「そっちの方がいいだろ?怪しまれないし。」


「だね~」


そんな会話をしながらスタジオを出る。


「今日はお疲れ様、今度合わせるときはリハーサル前だね。それまで練習しといてね……主に私と和人。」


「あぁ、そこは痛いほどわかってるよ。」


「それじゃあ解散!」


俺たちはスタジオ前で別れると、それぞれの家路につく。


「スタジオだと音がよく響いたね。かなりいい練習ができたのがよかったよ。」


「スタジオを使っての練習は貴重だし、いい練習だったのは確かね。」


「あっそうだ、帰りにみんなでクレープでも食べに行かない?」


葉月が目を輝かせて提案をする。その様子はとても無邪気に思えた。


「いいわね。練習終わりで小腹すいたし、甘いものでも食べに行きましょうか。」


「俺も食べたいしついてくよ。」


「よーし、それじゃあ出発!」


葉月は笑顔で腕を振り上げて叫ぶ。周りの人が見てるからやめてくれ。


俺たちはスタジオから徒歩10分にあるクレープ店に足を運ぶ。そこは人気店のようで、若い男女が列をつくっていた。


「ここのクレープ美味しいって評判なんだよね。一回来てみたかったんだよね。」


「あーわかる。前に雑誌で取り上げられてたし、私も行ってみたいと思った。」


「へぇーそんなに人気なんだな。知らなかった。」


俺は盛り上がっている2人においていかれた。こういうのあんまりわからないんだよな……


俺が目移りしていると、いつの間にか最前列にいっていた。


「いらっしゃいませ、ご注文はなんでしょうか?」


「私はいちご+アイスで。」


「私はチョコバナナで。あんたは?」


「えっと……」


千華に言われて考え込む。メニュー表を見ると、色々な味が載っていてなにを選んでいいのか迷ってしまう。


「じゃあ俺もチョコバナナで。」


悩んだ末に、俺は千華と同じ味を選んだ。


注文から数分、出来上がったクレープを受け取り、近くの座れる場所に移動する。


「いただきます……美味しい!やっぱり当たりだ。」


「結構いけるわね。……それにしても、なんであんたは私と同じ味を選んだわけ?」


千華は不思議そうに聞いてくる。やっぱりそこは疑問なんだな。


「千華と一緒の味のものを食べたかったからとしか言えない。なんて言うんだろう、好きな人と一緒の味を共有したいから選んだって感じ。」


「ふーん、そっ、聞いた私が馬鹿だった。あーなんか熱くなってきた。」


顔を赤くした千華が手でぱたぱたと扇ぐ。その顔は嫌そうだったが、多分照れているんだろう。


「ていうか、その理由があってもあんたまで同じもの選ばなくてもいいでしょ。……別に一口ぐらいならあげるし。」


「そうなの?千華ってそういうの嫌かと思ってた。」


「私たち付き合ってるんだから別に気にしないわよ。……恥ずかしいからやってないだけで(ぼそっ)。」


どうやら千華は「一口ちょうだい」についてはは気にしないようだ。まぁ、でも人前でやるのはちょっと勇気がいるから俺にはまだ無理そうだ。


それにしても、千華は最後の方なんて言ってたんだろう?ぼそぼそ言ってて聞こえなかった。


「どうしよう……2人の甘々なやりとり見てたらクレープがさらに甘くなった。」


「おい待て葉月、俺らそんなことしてた?」


「自覚ないの?2人ともかなりラブラブで甘々な会話してるんだけど。そのせいで私、今口の中めっちゃ甘ったるい。私そこの自販機でお茶買って来るからごゆっくり~。」


葉月はそう言うと、自販機にお茶を買いにいってしまった。


「俺らそんな会話してたか?」


「してたわよ、カップル相応のやつ。」


「そうなのか……」


確かに思い返すとカップルっぽいやりとりしてたかも。


「ふぅ、ごちそうさま。」


「食べ終わったならゴミ捨ててくるよ。」


「悪いわね、ありがと。」


「ついでにお茶も買ってくるよ。甘いもの食べたあとだし、口の中リセットしたい。千華はいる?」


「えぇ、お願い。というか、ついていくけど?」


「いいよ、大丈夫。そこで荷物見張っててくれ。」


俺はそう言い残すと、その場をあとにする。





(どうしよう……1人になってしまった。なんか暇だな……)


彼の背中を見送ったあとは、退屈さが私を支配する。


(あいつ早く帰ってこないかな……)


私がぼんやり目の前の景色を見ながらそう思っていると、不意に視界に青い布が映る。


「!?、なにこれ?」


青い布は私の膝に着地する。それをとって確認すると、それはハンカチだということがわかる。


「すみません、そのハンカチ私のです!」


なんでこんなものが飛んできたのかわからずに呆けていると、声とともに女性がこちらに駆け寄って来る。


「はいっ、どうぞ。」


私はできるだけ柔和に対応する。


「ありがとうございます、風で飛ばされちゃって。……よかった。」


女性は私に感謝の言葉をいうと、ハンカチを抱き締めて安堵する。そんなに大事な物なんだな……


「はーちゃん、先行くなんてひどいよー。」


安堵している女性の後ろから、がばっと抱きつく女性。


「ちょっ、急に抱きつかないでください。人前ですよ。」


「えーいいじゃん、姉妹なんだし。」


えっ、姉妹……この2人が?私は驚いてしまう。


それもそのはず、ハンカチを持っている方は黒髪なのに対し、抱きついている方は金髪だ。でも、染めたと考えれば納得いく話だ。髪色以外はどことなく似ているし。


「この人が拾ってくれたんです。」


「あっ、妹のハンカチを拾ってくれてありがとうございました。」


姉の方も礼儀正しく、しっかりお礼を言ってくる。


「いえいえ、無事に戻ってよかったです。」


「はい、それではまたどこかで。今日はありがとうございました。」


姉はそう言うと、妹を連れてその場を去る。


「それにしても、なんであんな男からもらったハンカチを大事にするわけ?そんなものなら私がいくらでも買ってあげるのに。」


「あんな男呼ばわりはやめてください。あいつはちゃんといい人なんですから。」


「いい?男なんてみんなけだものなの、だから油断しちゃ駄目だよはーちゃん!」


「あいつはけだものじゃないですよ、雪ねぇ。」


去り際にそんな会話を残して。……急にびっくりした。


「おまたせ千華、お茶買って来たよ。」


「あぁ、ありがと。」


ちょうどいいタイミングで帰ってきた彼と葉月。私は彼からお茶を受けとる。


「荷物はだいじょぶだった?」


「えぇ、だいじょぶよ。でも、ちょっとびっくりしたことがあって……」


私はさっきあったことを2人に話す。2人は様々なリアクションをとりながら聞いてくれる。


私たちは、帰り道に話の花を咲かせて、家へと向かった。


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