34話 看板とティタニア
千歳さんと楓さんの訪問から数日、俺たちはいつもより忙しい生活をおくっていた。
今はホームルームの時間だ。この時間はクラスのみんなが慌ただしく作業している。看板を作ったり内装を考えたり、衣装を作成したりしている。
2年A組では、カフェをやることになったのでその準備中だ。
「菊地くんは坂田くんと一緒に飾りつけの作成お願い。三宅くん、さぼらないの。勉強はあとにしてね。あっ先生、ちょっと買い出し行ってもらっていいですか?」
やはりというか、葉月を中心にして準備が進んでいた。
で、俺はというと、
「ティタニア、ちょっと離れてて。釘打つから。」
「はいっ、わかりました。」
ティタニアと一緒に看板作り中だ。本格的な看板を作ろうということで、自作でスタンド看板を作ることになった。
なので、工具を借りてきての作業になっている。
俺は、木の板どうしをピッタリとあわせて釘を打つ。賑やかな教室の一角でトンットンットンッと音がなる。ティタニアは目を輝かせてその様子を見ていた。
「和人くん、私もやってみたいです!」
ひとつの木の板を完璧にあわせて次へ、というときにティタニアがそんなことを言ってきた。
「いいけど、大丈夫か?気を付けないと怪我するぞ。」
「わかってます。でも、私も手伝いたいですし、なによりかっこいいのでやってみたいです!」
ティタニアはずいっと顔を寄せてくる。なんか目を輝かせてるな~って思ったら理由はそれか。
「いいよ、やっても。意外に上手いかもしれないし。」
「……すっごい怖いけど」その言葉は人知れずのみ込んだ。なにかあったらフォローしよう。
ティタニアは俺から道具を受けとると、わかりやすいうきうき顔で構える。
「それじゃあいきますね。」
「ちょっと待て、どっから振り下ろそうとしてるんだよ!」
俺の言葉にティタニアはきょとんとする。今の彼女の構えはとても怖い。
なぜかというと、金づちを持っている手は頭よりも上で、持ち手の場所がかなり下だからだ。あの状態だと、ただの凶器を持った学生にしか見えない。
「金づちは肩より上には持つな!できるだけ肩より下、あと、持ち手はできるだけ上の方がいいぞ。そっちの方が動かしやすいからな。」
「なっなるほど……」
ティタニアは注意を受けてすぐさま直す。
「今度こそ大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だな。俺も抑えるの手伝うからやってみ。」
緊張した面持ちで金づちを扱うティタニア。
「ゆっくりでいいからな。あと、綺麗に釘を打ち込みたいのなら、金づちの中心を使って打つのを意識するといいらしいぞ。」
「そうなんですね、わかりました。」
最近読んだ工具の本で得た知識を伝える。どこかで使えるかなと思って読んだけど、この場で役に立ってよかった。
ティタニアは少しずつコツを掴んできたらしく、顔にも余裕が表れてきた。
「どうですか?綺麗に打てたと思うんですけど。」
「おぉ、すごいな。ちゃんと打ててるぞ。」
「えへへ、ありがとうございます♪さぁ、どんどんいきましょう!」
ティタニアは釘打ちにハマったのか、楽しそうに作業していた。手際が最初と比べてよくなっている。
「釘打つの楽しいですね。しかもなかなか簡単です。」
「ちょっ、手元から目を離すと危ないぞ。」
そう言ったところで「バキッ!」っと音がする。遅かったか。
見ると、現在取り付けていた木の板が真っ二つになっていた。
「あぁ、ごっごめんなさい!どどど、どうすればいいんでしょうか!?弁償ですかこれ!?」
「落ち着いて、木の板ならたくさんあるから大丈夫だよ。」
慌てふためくティタニアを落ち着かせる。ティタニアは「ごめんなさい、ごめんなさい!」と平謝りをしていた。
「まぁ、まだ全然時間あるし、ゆっくり作ればいいから。」
「和人くん、ありがとうございます~(泣)」
ティタニアは半べそ状態で俺に抱きついてきた(金づちもって)。怖いので腕を掴んで止める。
「金づち置いてから抱きつけ、怖いわ!」
「あっ、ごめんなさい。」
「あと俺、彼女いるんだから軽々しくそういうことしないの。千華に怒られる。」
「そうですね、すみません。」
「さっ、気を取り直して作るぞ。」
「そうですね、今度は失敗しません!」
やる気充分なティタニアと再び看板作りを始める。
時間は過ぎて、もうすぐホームルーム終了に差し掛かった時、
「なんとか完成だな。」
「はいっ、とてもいいものができました。」
看板をなんとか完成させた。カフェでよく見るようなスタンド型だ。
「あとはカフェの名前を書けばいいんですよね。私が書きます……できました!」
ティタニアは嬉々として、自分で書いたものを見せてくる。
「うん、よく書けてるな。」
「そうですか、よかったです。」
「おっ、ちょうどこの時間終わるな。道具片付けてお昼にしようか。」
「そうですね。早くお弁当食べたいです。」
俺たちは、金づちなど、この時間に使った道具や材料を片付ける。看板は先生に預ける。
そして、チャイムがなり、4時間目の終わりを告げる。みんなは「疲れたー」と口々に言い、伸びをする。
「ごっはっんー♪ごっはっんー♪」
ティタニアは呑気にそんなことをいいながら弁当を取り出す。俺もいつもの場所に行くか。
さて、俺はいつもの場所に行き、そこで昼食をとる。いつもの場所である部室には、千華と冬がいた。
「いや~みんなで食べるご飯は美味しいですよね。」
いつもの光景と思ったらティタニアが珍しくついてきた。
「珍しいなティタニア、ここでお昼食べるなんて。」
「だって和人くんがお昼にしようかって言ったので、ついてきました。」
「あぁ、そういうことか……俺はそういうつもりで言ったわけじゃないんだけど……楽しいしいいや。」
俺は千華の隣に座り、ティタニアは冬の隣に座る。
「お疲れ和人、ドジっ子の世話は大変そうね。」
「ドジっ子って私のことですか?ひどいです千華ちゃん。」
「いや、実際そうでしょ。前の時間に木の板バキバキにしてたし。」
「なんで知ってるんですか!?」
「だって、あんたの心の声がめっちゃ聞こえてきたし。」
「うぐぅ……」
「ティタニア、ドジな部分は直せるよ。だから頑張れ。」
「冬ちゃん……ありがとうございます、私、頑張りますね!」
「……いい子ね、私には眩しいくらい。」
「ティタニアの事か?確かに純粋で眩しいよな。危うさもあるけど。」
「どっちもよ。冬もティタニアも、どっちも眩しくてひん曲がってる私とは大違い。」
楽しそうに話すティタニアと冬に羨ましげな視線をおくる千華。
「そうか?千華はひん曲がってないと思うけどな。ちょっと素直になれないだけなんだし。」
「はぁ?あんた目と耳腐ってんじゃないの?」
「辛辣だなぁ。」
千華とそんなやり取りをしながら弁当を食べる。
「そういえば葉月ちゃんは他の人と食べてるんですか?」
「そうだな。あいつ人気だからここにはめったにこれないぞ。いつも誰かと食べてるからな。」
「毎日色んなメンバーで食べるとか私には無理だわ。」
「千華がそんなことしたら毎日精神抉られてそうだしね。」
「確かに。」
冬の言葉に思わずうなずいてしまう。千華の事だから2、3日したら顔色悪くなってそう。
「なぁ、話は変わるんだけどさ、文化祭でB組はなにやるんだ?」
「私たちのクラスは縁日をやるわ。ミニゲーム3つくらい用意してそれぞれで景品出す感じ。」
「なるほど、面白そうだな。」
「景品ってなにが貰えるんでしょうか?」
「今考えてる物だとお菓子とか文房具とかね。」
「お菓子……はっ、すみません。」
お菓子と聞いた瞬間のティタニアの顔はとても幸せそうだった。
「そっちはカフェだっけ?」
「そうだよ。室内ってこともあって簡単な物しか作れないけど。俺キッチン係になってる。」
「正直それはわかってたわ。あんた料理上手いし。」
「俺も葉月に言われたときにですよねって思った。」
「私は接客担当になりました。」
「……大丈夫?私すごく心配なんだけど。」
ティタニアが接客担当ということに、千華は信じられないといった様子で問いかける。ティタニアはショックを受けていた。
「確かにティタニアはドジするけど、葉月や他のみんなもフォローにまわってくれるから大丈夫……なはず。」
「和人くんまでひどいです!うぅ、私なんて。」
俺の言葉が追いうちになったのか、ティタニアはさらに落ち込む。言い過ぎたかな……?
「まぁ、健闘を祈るわ。頑張りなさい。」
「そうそう、一生懸命やればいいんだよ。」
千華と冬がすぐさま励ましにかかる。2人の優しい言葉にティタニアは徐々に元気を取り戻していく。
「頑張ったら和人が美味しいご飯作ってくれるから、元気だしなさい。」
「はいっ、頑張ります!美味しいご飯のために!」
ティタニアは、今まで落ち込んでいたのが嘘のように吹き飛んでいた。ご飯に釣られてって、それでいいのか……ティタニア。
「やる気出させるためだしいいんじゃない?」
冬は微笑んで俺に話しかける。そういうことにしておこう。
「そういえば、ベースの調子はどお?」
「まずまずかな。今は簡単な曲をすらすら弾けるようになって、次に進んだところ。そっちは?」
「バッチリだよ。もうコツはつかんだから、あとは課題曲待ち。」
「そっか、すごいな。俺も頑張らないと。」
冬はもうキーボードをかなり弾けるようになっているようで、こちらも焦る。もうちょっと練習しないとな。
文化祭まではもう1ヶ月をきっていた。




