32話 結成
10月にもなると文化祭が近づいてきて少しずつやることが増えてくる。
クラスで出し物はなにをやるか、それぞれの担当はどうするかなど、ホームルームの時間を使って話し合いをする時間が増えた。
クラスだけではない。生徒会が有志団体のステージでのパフォーマンスを募集し始め、クラス内外で話し合いが広がっている。
俺としてはクラスでしっかりと役割をこなせればいいと思っているので有志団体には参加しないつもりだ。俺にステージ発表とか無理だし。
「和人、私と一緒にバンドやろ!」
そう思っていたら葉月から不意打ちをうけた。こいついっつも唐突に来るな。
「バンドって、俺なにもできないぞ?やったことないし、ギターとかももってないし。」
「大丈夫!ギターとかは借りられるし、まだ時間あるから練習もしっかりできるんだから。」
ずいっとこちらに顔をよせてくる葉月。その顔はやる気マンマンで断れなさそうだ。
「わかったよ、協力するよ。どこまでできるかわからないけど。」
「ありがとう和人。あっあんたベースね。」
「なに、その早さは事前にメンバー決めてるの?」
「もちろん!和人がベースで私がギターで、千華がボーカルで、冬ちゃんがキーボードで、睦月がドラムの予定。睦月にはもう確認とったよ、オッケーだって。」
「仕事早いな……というかティタニアいないんだな?」
「ティタニアはその~丁重に断られた。私じゃそんな大層なこと出来ませんって。」
「そうなんだ。それじゃああとは千華と冬だよな。確認とりに行かないと。」
「そうだね。それにしても惜しいなーもうちょっとで千華とティタニアのダブルボーカルができそうだったのに。」
葉月が悔しそうに唸る。ティタニアボーカルで使おうとしてたんだな。
俺は葉月と一緒に隣のクラスに行く。隣のクラスでは千華を中心として生徒のわができていた。冬は少し離れたところでスマホをいじっていた。
「あっいたいた、千華と冬ちゃんちょっとこっち来てー。」
葉月が呼び掛けると2人ともすんなりとこちらに来る。
「どうしたの、2人揃って?」
「2人にお願いがあって来たんだ。実は__」
葉月が文化祭にバンドをやるので一緒にやらないか?という旨を伝えると、
「うん、いいよ楽しそう。」
冬は即答だった。俺よりも早い。少しも渋らない感じが積極性の塊な感じをかもしだす。
千華の方はというと、少し考え込んでいた。
「ねぇ……なんで私ボーカルなわけ?」
「えっ、だって千華いい声だし。前カラオケ行ったとき歌うまいかったしね。」
「そんな理由だったのね……私にボーカルは無理な気がするんだけど。葉月の方が向いてるんじゃない?」
「私ギター弾きたいからやだ。まぁ少しは歌うかもだけど。」
「まじ……?はぁ……しょうがない、やってあげるわよ。せいぜい感謝しないさい。」
険しい顔をしていた千華であったが、ため息をつくと、諦めたのか承諾してくれる。
「ありがと千華。これで5人揃ったね。バンド名はあとで考えるから候補考えといてね。それじゃあ私、この紙すぐ出してくる。」
そう言って葉月はダッシュで行ってしまった。
「台風みたいな子ね。」
「それには同感かも。」
「千華も和人も一緒に頑張ろうね。」
「そうだな。千華の歌声今から楽しみにしてるな。」
「あんまハードル上げないでくれる?」
この日、俺たち5人はバンドを組むことになった。
放課後、いつものように部室に行くと部室の中にはキーボードとベースがあった。
「これどうしたんだ?」
「バンド部から借りてきた。余ってたやつ。」
葉月はご機嫌そうで、いつもよりアホ毛の動きは活発だった。
「すごいな。あとはドラムとギターだよな、どうするんだ?」
「ドラムは睦月が私物を持ってるからだいじょぶなんだって。ギターはもちろんだいじょぶ、あてがあるから。」
「そっか、それなら大丈夫そうだな。」
俺がホッとしていると他のみんなが来る。来たときには皆一様にいつもの部室にはない物に驚く。
「すごいですね葉月先輩、すぐに借りてきちゃうなんて。」
「でしょ~もっと褒めてくれていいんだよ。」
「舞い上がってるわね葉月。そんなにバンド組むことが嬉しいのかしら。私は少し抵抗あるんだけど。」
「学生でしか体験できないからじゃないか?有志団体のステージ発表でバンドやるなんて人生に1回あるか無いかだろうし。」
「まっそうなのかもね。」
千華と一緒に勝手に納得する。葉月は面白いことが好きなので、バンドを組むことにも抵抗はないのだろう。しかもそれが貴重な体験ということならばなおさらだ。
「冬と和人はこれで練習してね。まずは基本ができなきゃ話にならないからね?」
「うん、任せて。」
「はいはい、頑張ってはみるよ。」
「睦月は私物があるみたいだからだいじょぶだとして、」
「そうですね、俺は小さい頃からやってたので問題ないですね。」
「千華はのど大事にしなきゃね。マスクとのど飴は欠かせないよ。はいっこれ。」
葉月はそう言って千華に大量のマスクとのど飴を渡す。買ってきてたんだ……
「えっえぇ……ありがと。」
千華の顔は明らかにひきつっていた。
「さて、あとは練習時間と衣装とバンド名とかだけど……バンド名以外はあとで連絡するね。」
「バンド名は今決めるのか。どんなのがいいかな……」
「メンバーが個性的だし、名前も個性的にする……?」
「さすがにそれはやめておきましょう。葉月が変なのつけそうだし。」
「ちょっ、ひどくない千華。私だってそんなことはしないよ。」
「うんじゃあ今まで考えてたバンド名の候補言ってみて。」
「えっと、『千華たんwith P』とか『歌姫とその奴隷』とかかな。」
「「やっぱり変だった(でした)。」」
予想通りの展開に、葉月を除く一同で声がそろった。
「いやー個性的にした方が印象に残ると思って。」
「だからって今のはないだろ。」
「バンド名から私をあげなくていいから。というかあげないで。」
「ふーむ、それならみんなはどんな案だしたの?」
葉月の問いに睦月がいち早く答える。
「『ユートピア』とかどうですか?音楽の楽園ってことで。」
「おぉーいいね。じゃあさ、みんなの名前をとって『ちーかーはーふーむー』は?」
「なんか呪文みたいだからやめろ!」
「無難に部活の名前でいいんじゃないの?」
「それじゃつまんないよ。ここは『フレスベルク』で。」
「もう意味とか関係なく語感のよさで選んでるだろお前。」
「『セイレーン』とかどうかな?千華の歌すごい上手いし。」
「それ個人をさしてるから駄目だな。」
「和人はなんか案ないの?」
「そうだなー……『閃光』とか。」
「なんか中二っぽい。」
「ネーミングセンス悪っ。」
「悪かったな!」
葉月と千華にボロクソ言われる。確かにネーミングセンス悪いのは認めるけど。
「そろそろまじめに決めよ。ティタニア、なにかある?」
「ふぇっ?」
急に話をふられて、ティタニアは戸惑う。
「えっ、え~っと……『パクパク倶楽部』っとかどうでしょうか?」
「パクパクって、バンドと関係ないわね。」
「さすがに食べることに固執しすぎじゃない?」
「この案はもちろん却下として、どうしようか?」
「うぅ、わかっていたこととはいえ、辛いです。」
辛辣な言葉の数々にティタニアは涙目になる。今のはかわいそうだ。急にくるんだもんな。
「ドンマイ。今のは同情するわ。」
「和人くん……ありがとうございます。」
ティタニアを励まし、葉月たちの方に目をやる。こちらでは話し合いが続いていた。
「『ヨルムンガンズ』、『スペアリブ』、『サイキックメモリー』!」
「最後以外ふざけてるとしか思えないわよあんた!」
「ここは『Wolfs & Cats』でどうしでしょう。」
「あーいいかもな。」
「うんうん、いいと思う。でもそれを少しアレンジして……『fruit cats』でどお?みんなのイメージを果物と猫で表現できるし。」
「猫必要かは知らないけど、いいんじゃない?」
「そっちで良さそうですね。」
「私も意義ないよ。」
「俺もだ。かなりいいと思う。」
反対意見は出ずに、バンド名は『fruit cats』に決まる。
「よしっ!そうと決まったらイメージカラー決めようか。衣装にも加えたいし。」
葉月はそう言うと、ノートを開く。イメージカラーって、ガチだな。
「まぁ、まだ時間あるしいいか。」
「それじゃあまずは睦月から、睦月は黒でいいか。」
「やけにあっさり決まりますね。」
「いやだって……ねぇ……?」
「睦月って表面上は優しめでも、実際真っ黒な気がするし。」
「気がするじゃなくて実際そうでしょ。」
「まぁ、否定はしないんでいいんですが。」
睦月のイメージカラーは黒ということに決まり、葉月がノートに書き込む。
「次に私は、」
「赤だろ。」
「赤でしょ。」
「赤だね。」
「赤ですね。」
「だよね、わかってた。」
葉月といえば髪色のせいもあるかもだが、赤のイメージがあるのだ。明るくて誰にでも分け隔てなく接して笑顔を振りまく、温かい人だといえた。
「うんじゃ次!冬のイメージカラー決めよう。」
「冬かー……緑とかあってるわね。落ち着いてて優しいし。」
「だねー次は和人だけど青だね。それも少し明るめの。」
「なんかわかるわ。こいつって寒色系の中でも少し明るめな方だし。色でいったら青になるのよね。」
「それじゃあ、あとは千華だけだね。どうしよっか?」
「表向きだと薄い黄色だよな。」
「裏向きだと?」
「うーん、紫。」
「そうなの、なんで?」
「表だとみんなの中心ってイメージあるけど、裏だと毒吐くから。」
「ほぼあんたにしか吐いてないでしょ。」
「うーん、でも総合的にみて黄色じゃない?黄色って毒舌と明るいのが共存してるし。」
「まぁ、それでいいわよ私は。」
「よしっ、これで全員分決まったね。あとは、」
「イメージフルーツも決めときましょうか。バンド名にもなってるわけだし。」
バンド名にもなってるということで、イメージフルーツも決めていく。
「千華はレモンで、冬はメロンで、私はりんごで、和人はブルーベリーしかないとして、睦月はどうしよっか?」
「黒いフルーツだと黒いちじくがあるぞ。」
「うんじゃっ、それ採用で。」
葉月はノートにどんどん書き込んでいく。今日決めることはもうないかな。
「よしっ、今日のところはこんなもんでしょ。あとは自由時間にしよー。」
そう言ってぐでぇっとする葉月。俺たち4人も各自でリラックスする。
「ティタニア、お菓子ある?」
「はいっ、ありますよ。一緒に食べましょう葉月ちゃん。」
「俺はもう帰りますね。お疲れ様でした。」
「おぉ、お疲れ睦月、また明日な。」
睦月が帰り、ここには俺たち2年組だけとなる。ちなみに花火と秋穂は今日、バナナジュース飲みにいくとかで休みだ。
「はぁ……ボーカルとかやれる自信ないんだけど。」
千華は俺の肩にもたれ掛かってぼやく。
「俺だってベースやれる自信ないよ。でもやるからにはベストは尽くそうな?」
「……まぁ、そうね。」
「俺も千華のためにできることはなんでもやるから。」
「ふーん……まっ、ほどほどに期待しとくわ。」
そう言う千華の表情はいつもよりやや嬉しそうな感じがした。
俺たちは文化祭でバンドをやることになった。
葉月の行動力には驚きつつも、少し感謝してる。彼女が誘ってくれなかったら、俺はみんなとバンドを組むなんて出来なかっただろう。
最初は乗り気じゃなかったが、今では少し楽しみだと思えた。自分が人前に立ってなにかをやるなんて、前の自分じゃ考えもしなかったからだ。
まぁ、俺なりに頑張ろう。




