30話 スマホ
まだまだ暑いが穏やかな休日、こんな日は家でゆっくりしたいところだ。
だが、そうはいかず、午前中はティタニアとアンヘルの頼みである場所に行っていた。
出かけてから帰ってきた現在まで、ティタニアは目を輝かせて、時折ぴょんぴょん跳ねたりしている。ティタニアはもちろんだがアンヘルもとっても嬉しそうにみえる。
というのも、
「これがスマホですか~かっこいいです!!」
今日行ってきたのは携帯ショップだからだ。2人のスマホを買いに出かけていたのだ。
なぜかというと、転校初日にティタニアと連絡先を交換しようとした時、彼女とアンヘルが携帯を持っていなかったということが判明したからだ。今の時代携帯を持っていないとなにかと不便だろうということで買いに行った次第だ。
ティタニアは目を輝かせながらスマホを色んな角度から眺めている。かなり気に入っているらしい。
「先輩、ありがとうございます。大事に使いますね。」
アンヘルは大事そうにスマホを抱いて笑う。
「そうしてくれると助かる。」
「和人くんありがとうございます。」
ティタニアもちゃんとお礼を言ってくる。
「和人くん、この初期設定?っていうのをやってもらえますか?」
「あぁいいよ。アンヘルのもやるから貸して。」
「よろしくお願いします。」
2人のスマホを受けとると、初期設定をする。
「__あとはこうして……終わったぞ。ほいっどうぞ。」
設定が終わると2人にそれぞれスマホを返す。
「そこからは自分の好きなようにしていいからな。パスワードを設定するのもアプリを入れるのも自由な。」
「わかりました。そうだ、みなさんと連絡先交換しないとですね。電話とメールと……あとlineも交換したいです。」
「そうだな。アプリをダウンロードするんだったらこれをタップして、こうするとできるぞ。」
アンヘルのスマホで説明しながら操作する。
「そうやってやるんですね。それじゃあ私もやります。」
ティタニアも見よう見まねで操作していく。
「えっとこれがこうなって……和人くん~なんか変な画面が出てきました(泣)。」
ティタニアが泣きついてきたので、その画面を見てみるとすごいことになっていた。
「お前これ、開発者向けオプションじゃん。よく出せたな。」
開発者向けオプション、それは通常は表示されないもので、ある操作を行うと出てくる項目だ。それを使えばより細かいところを設定可能だ。
「これ設定画面だからな。アプリストアはこっち。」
「そうなんですか?確かに押したと思ったんですけど……」
しょっぱなから困り顔のティタニア。まだ慣れてないだけだよな……きっとそうだ。
「あら、ティタニアたちスマホの設定終わったの?」
「あ、千華さん。連絡先交換してください。」
「えぇ、いいわよ。」
「私もお願いします。」
ちょうど来た千華に2人は寄っていく。アンヘルはぎこちないながらもしっかり使えている。あれなら問題なさそうだな。
「あれ、また変な画面になっちゃいました。」
問題があるとすればこっちか。まぁまだ慣れてないだけだと思いたい。
連絡先を一通り交換し終えると、2人は色々操作し始める。
「ゲームなんかも入れられるんですね。面白そうなのいれようかな。」
「えっとこれをこうすると……おぉ、動画が見れました。すごいですね。」
2人とも慣れてきたようで少しずつ上手くなっていた。これには俺もホッとする。
「2人とも楽しそうね。」
「そうだな。」
「そういえば葉月って今日どこか行ったの?朝から姿が見えないんだけど。」
「葉月なら朝早くから出かけたよ。知り合いと遊びに行った。」
「そうなのね。」
葉月は朝から千歳さんとどこかに遊びに行ったのだ。なんでも「久々にお姉ちゃんと予定があったから遊んでくる」らしい。
「私もなにかアプリをいれよう。確かここだったはず……なんか電話かかっちゃった。」
ティタニアはアプリストアにいこうとして俺に電話をかけてきた。
「なぁティタニア、もしかしてお前って機械音痴だったりする?」
これまでのことを振り替えって、もしやと思ったことを聞く。
「あっはいそうですよ。姉さん機械音痴です。」
答えたのは本人ではなくアンヘルだった。
「アンヘル、私機械音痴じゃないよ!」
「でも姉さん一時期携帯を持ってたとき操作間違えることが日常化してたよね?メール開こうとしてカメラ起動したり、電話しようとして地図開いたり……他にも色々やってたよね?」
「うっ……それは……」
「あと孤児院でも洗濯機壊す寸前のことしてましたし……機械音痴です。」
「まじか……」
目を反らして固まるティタニアを見る。その兆候はあったので、もしかしたら程度で思っていたが当たっていたらしい。
「ていうかティタニア携帯持ってたのね?」
「はい、3ヶ月位持ってたんですけど……通学途中に転んで、その拍子に携帯を川に投げて流しちゃいまして……壊してしまいました。」
「……そうなんだ。」
「あはは」と苦笑しながらティタニアは話す。俺も千華もひきつった笑いを浮かべるしかできない。
「姉さんは可愛くてスタイルいいですし、性格も明るくていいところはいっぱいあるんですが、それと同じくらいに危なっかしいところがあるんですよね。方向音痴ですし機械音痴ですし、ドジっ子なのでいつもハラハラしてます。」
「なんかごめん……私は駄目な姉だね。」
しょんぼりするティタニアをアンヘルは柔らかく笑って、
「でもそれがあっても姉さんのことは好きなので一緒にいたいって思います。」
そう話す。ティタニアはその瞬間アンヘルに抱きついて「私も好きだよー!」と話す。アンヘルは抱きつくティタニアをあやす。
それから数分後、笑顔に戻ったティタニアはアンヘルにスマホの操作を教えてもらっていた。
「いい?最低限lineと電話とメールの操作は覚えようね。この3つは特に使うものだし。」
「ふむふむ……」
ティタニアは言われたことをメモにとる。その光景は微笑ましかった。
「ふぅ……いいお湯だった。」
あのあとは、特になにも問題なく楽しい時間を過ごし、今に至る。お風呂からあがると和人が入りに行った。
(それにしてもあいつのスマホの中見たことなかったな……)
まだ火照った頭でそう思う。私について変なことを呟いてないだろうか……2次元の女の子の画像が大量にあったりしないだろうか……そう思ったら無性に確認したくなってきた。
チラリとテーブルの上に目をやると、彼のスマホが置いてあった。
「あいつほんとに不用心ね。スマホをテーブルの上に置いとくなんて。誰かに開かれても知らないわよ。」
そんなことを言いつつ、無意識にスマホを取って中を見ようとしていた。
「って、人のスマホを勝手に開くのとか流石に駄目よ、落ち着け私!」
ぎりぎりで踏みとどまりなんとか自分の欲望を抑えようとする。
「でも……あいつの好みの女性像がわかるかもしれないし……」
そう考えてしまったら見たい気持ちに拍車がかかってしまう。
私は一度深呼吸をして心を落ち着かせる。
「よし、私はあいつの好みの女性像を知りたいだけ……決してやましい気持ちはないわ。」
自分にそう言い聞かせ、この行動を正当化しようとする。
そして、意を決して彼のスマホを開く。まず始めに目に飛び込んできたものは私と撮った自撮りの写真だ。これは同棲を始めた日に撮った写真で、私も彼も嬉しそうで幸せそうだ。
「……あいつもこの写真ロック画面に設定してたのね。」
私もこれと同じ写真をロック画面に設定してたのでおそろいなのだ。ちょっと嬉しい。
「さて問題はパスワードよね。あいつが設定しそうなものは……」
そう考えてはっとする。
「私関連な気がする。試しに誕生日をうってみよう。
えっと、私の誕生日は7月30日だから、0730っと……あっ開いた。」
あっけなく開いた画面に拍子抜けする。あいつわかりやすいパスワード設定してるのね。
「さて、まずは画像フォルダから調べよう。」
まずは彼の好みを知るために画像フォルダを開く。そこには特に怪しい画像もなくてびっくりする。でも私関連の画像はたくさんあった。
「高校生ぐらいになるとそういう画像のひとつやふたつ出てくると思ったんだけど。あいつってそういうの見ないのかな。」
ついつい考え込んでしまう。男だったら溜まるわよね……そういうの。それにあいつは私たちがいる環境で過ごしてるわけだし絶対溜まる。
「あいつってどうやって発散してるんだろ?まさか動画とかかな……」
ぶつぶつと話しながら画像をどんどん調べる。2次元のものもないな……
「どうしよう……これじゃああいつのタイプがわからない。」
画像からは彼のタイプの子を特定できずお手上げ状態になる。
「トーク履歴、からは違うか。検索履歴を一応みてみよう。」
低い可能性だが検索履歴になにか情報が残ってることを信じて見てみる。
「やっぱりない。これは流石にお手上げかな……」
得たかった情報が得られず、諦めたその時、
「千華~一緒にお菓子でも食べない?」
突如として葉月がふすまを開けてきたので、びっくりしてスマホを取り落としそうになる。
「びっくりした……急にやめてよ。」
「えっ、そんなに?千華テレパシーあるんだしびっくりしないと思った。」
葉月は驚いた様子でそう言う。まぁ確かにテレパシーあるけど、集中してるときはひろえる範囲が狭くなるのよね。
「あれ、和人のスマホでなにしてるの?」
「えっあのっ、これは……」
まずい、この状況を見られてしまった。どうにか対処しないと。
どう対応しようか考えていると、葉月はにやっと笑って、
「もしかして和人がエッチな画像とか持ってないか調べてたの?」
ニアピンの答えをもってくる。
「えぇ、そうよ。あとついでにあいつのタイプの女ってどんな子かなって調べてたわ。」
「あーなるほど。でも和人ってそういう画像持ってないからなー本人に直接聞くのがいいんじゃない?」
「そうなの?」
「うん、だって変わり始める前は千華も知っての通りの状態なんだから、そんな画像持ってるわけないんだよ。まぁ少し溜まってたかもだけど。」
「あー」
「確かに」と思ってしまう。以前の彼にあっち系の画像を集めるのも見るのも難しいだろうことはわかっているからだ。
「ひとまず聞いてみた方がいいよ。あっでも私はひとつタイプのことわかるよ。それはね……」
(えっ……!?)
葉月から耳打ちされた内容に私は驚愕する。
俺は風呂からあがるといつものように部屋に戻る。あとは千華と話して寝よう。
そう思いながら部屋に入ると千華が顔を赤くしながらこちらを睨んでいた。なぜか猫耳に猫のしっぽを着けて。
「えっと……なにを?」
「見てわかんない?あんたが好きだっていう獣娘だけど。あんたこんなの好きなのね……この変態!」
なぜか身に覚えのないことで罵倒された。
「ちょっと待て、俺別に獣娘好きなわけじゃないぞ?」
「はぁ?それじゃあなんで葉月はあんなことを自信満々に言ってきたわけ?」
なんか読めた気がする。
「うん、たぶんそれからかっただけだろうな。」
「えっ……あっ//」
俺の言葉に冷静になったのか、改めて自分の姿を認識して羞恥の顔になる。
「もう死にたい……」
千華はひどく落ち込んだ様子でテーブルに突っ伏す。
「猫姿の千華も可愛かったし、気にするな。」
そんな彼女の様子を苦笑しながら見る。まぁ気持ちはわかる。
「それにしてもなんで俺のタイプの女性なんて聞いたんだ?」
「だって、あんたの理想に近づきたくて。」
「そういうことか。」
可愛い動機だった。俺はとても嬉しくなる。
「俺のタイプはさ、千華なんだよ。内面も外見も一番好きだ。」
そう言って千華に笑いかける。彼女は少し顔を赤くしている。
「だから今のままでいいんだよ。」
「ふっふん、それだったら早く言いなさいよ。あんたのせいで恥ずい目にあったわ。」
千華は安心したのか平常運転に戻る。
そうだ、俺は千華のこういうところが好きだ。素直じゃなくて怖がりで、優しいところが。
「そろそろ寝ましょうか。」
「そうだね。」
電気を消して、温かい布団の中に入る。
「ねぇ、今日から仰向けで寝ない?」
「いいのか、千華は恥ずかしくないか?」
「恥ずいに決まってるでしょ?でももっと近くであんたを感じたい。」
そう言って後ろでモゾモゾ動く千華。どうやら仰向けになったらしい。
それなら俺も抵抗しない。
「これからもよろしく、千華。」
「えぇ。」
「思ったんだけど、仰向けより抱き合って寝た方が近い気がするんだけど。」
「ばっ、それはまだ無理よ。恥ずかしくて死ぬ。」
慌てた様子の声を耳元でうけ、ついつい微笑んでしまう。
俺は彼女ともっと一緒に過ごしたい、そう思った夜だった。




