3話 中間試験やらなんやらで頭痛くなってきた
さて、五月も下旬になってくるといよいよ梅雨の気配がしてくる気がする。
まぁ梅雨の前に問題があるんだけどな。
その日の俺は放課後、部室に直行し、勉強道具をテーブルに広げた。
そのときは、早速勉強を始めようかと思っていたのだが………
「…………」
「…………」
部室の中は珍しく沈黙につつまれていた。そして、俺の前には顔を青ざめて震えている秋穂と花火がいた。
うるさい二人にしては珍しく静かだ。
それもそうだ、なぜなら……
「で?もう一度聞くけどお前ら中間試験大丈夫か?」
「「全然駄目です!!」」
もうすぐ中間試験があるのだ。日数にしてあと四日。……うん、駄目だね。
「お前らわかってるか?四日しかないんだぞ。時間もないし、赤点とったら補習だぞ。」
「だから助けてくださいって言ってるんじゃないですか先輩~!」
花火は半べそで俺に泣きついてくる。
「私は補習なんて嫌なんですよ!遊びたいのに~。」
「つってもあと四日しかないぞ。………てか花火お前引っ付くな!」
俺は現在後輩二人から助けを求められていた。
「先輩!可愛い後輩がピンチなんですよ!シュークリームあげるんで助けてください!!」
秋穂はどこからか持ってきたシュークリームを俺に渡す。てかこれ賞味期限きれてるんだが。完全に押し付けてきたな。
「俺じゃなくて睦月に教えてもらえよ。」
「睦月はもう帰りました。」
俺はため息をつく。睦月の気持ちもわかるけどさ………。
「そういえば先輩の赤眼かっこいいですよね。それに黒髪もいい感じですし。」
「わざとらしいな。やるならもうちょっと自然にやれよ。」
「うわーん!先輩~!!」
花火はさっきから俺に引っ付いて離れてくれない。てか結構胸があたるんだが。こいつ胸でかいのに無防備なところあるのはなんでだ?
元気な後輩二名に拘束されること二十分、俺はめんどくさくなって言った。
「だあ~!わかったよ。教えてやるよ!!」
「せぇんぱい~ありがとうございます~!!」
「やるときはやると思っていましたよ先輩。」
二人はとても希望に満ちた顔をしていた。単純だな~。
「とりあえず聞くけど、お前らどこがわからないんだ?」
「ほとんどわかりません。」
「ほぼ全部です先輩。」
「お前らな………」
二人のあまりの勉強のできなさに俺は頭痛くなってきた。
「うんじゃあ各教科のテストがどんな感じかを教えるから、それに沿って勉強しようか。」
「おおー!頼りになりますね。」
「まずは国語からいくか。国語のテストは漢字の読みと書きが合わせて10点分でてくるんだ。まぁ漢字は範囲が広いしやらなくていいけどな。この前なんか一問だけ漢検一級の問題出てきてたし。」
「ほうほう、それじゃあ残りの90点で勝負ですか?」
「基本的にはそうなる。あとの問題は授業でやったことが基になってくるからな。ワークと、特にノートは見とけよ。」
「ワークだけ見るのは駄目なんですか?」
「駄目だな。確かにワークから問題が出るけど、半分ぐらいは問題と答えを少し変えてくるからノート見といた方がいい。どんな風に読めばいいのかなんかが板書されてるしな。ちなみにノートからも問題は出るぞ。あと応用。」
「うへぇ、大変そうだな~」
メモをとった花火がぼやく。
「えっと……英語はどんな感じなんですか?」
「英語は英検みたいなもんだな。スピーキングはないけど。ちなみに記述式な。」
「「駄目だ終わった!!」」
お馬鹿な後輩二人は頭を抱えて叫んだ。
「そんな深刻にならなくても大丈夫だよ。でてくる問題に使われる文法なんかはほとんど習ったものだから。」
「そうは言っても難しいんですよ!終わった~( ;∀;)」
「こんなテストは間違ってます!中間試験は体育の実技テストにしましょう!」
「それお前が有利なだけだよね?」
「まぁそうですけど………」
「とりあえず勉強方法っていえば教科書やらワークを見て、単語の意味や文法なんかを覚えておくぐらいだな。」
「うへぇ、めんどくさいです。」
「めんどくさがらないでやろうな。」
テーブルに突っ伏す秋穂はうぅ~と唸っていた。そんなに嫌か?構文や熟語、プラスアルファを覚えろと言ってないだけましでは?
その後も社会、数学とテストの出題形式を教えたが、二人はとても嫌そうな顔をしていた。これほんとにヤバいな、全教科赤点あり得るぞ。
「もうダメです。なんか赤点とる気しかしないんですけど。」
「勉強嫌っす。運動したい……。」
「まぁ……頑張れ。最後に理科の形式教えとくぞ。」
撃沈している二人を見ながら最後の教科である理科を教えようとしたとき部室が開き、冬と千華が入ってきた。
「あれ?冬達勉強しにきたのか?」
「まぁそんなところ。」
(なんで和人がいるのかしら。邪魔だから帰ってくれる?)
(別に居てもいいだろ?)
(えっやだ不愉快。)
こいつほんとに俺に対してあっさり毒を吐くな。
「千華先輩助けてください~。」
「どうしたの秋穂ちゃん。」
「中間試験赤点とりそうなんです。」
「あぁ~そうなんだ。それは大変だね。」
(和人パス。)
(早いなおい!)
(いや私勉強しないといけないし。)
(いや俺も勉強しないとなんだけど。)
後輩の話を親身になって聞いている千華の本音はとてもめんどくさいだった。てか俺に押し付けんな。
「うう~………ところで先輩方は成績どのぐらいなんですか?」
「確かに、気になるっす。」
「あぁそれなら、」
俺は一呼吸おいて続ける。
「前回の試験では俺は9位で千華は5位だ。」
「なっ!?和人先輩が9位!?もっと下かと思ってました。」
「お前ほんと俺の事舐めてるよな。」
「千華先輩もすごいですね。ところで冬先輩は何位なんですか?」
「あー冬なら、」
俺は視線を冬に向ける。冬は俺の隣で読書をしていた。その表情はいつもと変わらず無表情だ。
「なんですか?もしかして私達と同類ですか?」
言葉を詰まらせる俺を見た秋穂はそんなことを言っていた。目をキラキラさせるな。
「……冬なら1位だよ。」
「へぇー1位なんですね………って、えぇぇぇぇ!!」
秋穂はなんともお手本となるようなリアクションをしていた。こいつ案外面白いな。
「ちなみに入学から今までのテストの点は全部100点だ。」
「次元が違うっす。頭いたくなってきました。」
「そりゃそうだろ。だって冬は紛れもない天才だからな。例えば外国語では英語はもちろんイギリス語、フランス語、ロシア語、ポルトガル語、アラビア語、その他諸々できるからな。」
まぁ、運動は出来ないんだけどね。俺はその言葉を飲み込んだ。千華がいるしね。
「冬先輩凄すぎます!」
(いやそれは当たり前でしょ。冬は完璧なんだから。)
(別に完璧ではない気が。)
(ほんとに和人は冬のこと分かってないわね。いい?冬はまず勉強できるしとっても可愛いの。それに案外表情が豊かだし。あと、あの娘は運動ができないけどそれすらも可愛いの!!わかる!!?)
なんかこいつヒートアップしてきてないか?
(冬はただでさえ小柄で可愛いのにそこに運動できないことがプラスされて可愛さが∞になってるの!頑張って走ってる気だるげで疲れている冬とか可愛すぎるの!!あと汗だくになった冬のエロさときたらもう!!!!………失礼、取り乱したわね。)
(いや、取り乱したとかのレベルじゃねぇぞ。)
(うるさいわね、消えてちょうだい。)
(お前冬に対してそんな変態的なこと思ってたのかよ。)
(何!?思ってちゃ悪いわけ!!?汗だくの冬の腋舐めたい!!!!)
(開き直りやがった!!あとド変態じゃねーか!!)
やべぇよ、こいつ冬に対してド変態だ。
あぁ、こいつが俺に毒を吐く理由がようやくわかった。俺に対する冬の好感度が100なのが気にくわないからだ。でもなんで冬の好感度が100なんだろう?そこが謎なんだよな。
「あっ!それよりも先輩!理科のテスト形式はどんな感じなんですか?」
「あぁ悪ぃ。理科はだな…………」
俺は気を取り直して秋穂達に理科のテストのコツなどを教え始めた。秋穂達は熱心に聞いてくれた(自分達がかなりヤバいことに気づいたのだろうか?)
「……てな感じだな。何か質問は?」
「あのっ、先輩。なんで最後の問題はとばしていいんですか?」
花火が不思議そうに聞いてきた。
「それなら答えは簡単だ。最後の問題はマジで解けないやつだからな。」
「えっ!?そうなんですか!?」
「あぁ、最後の問題は理科の論文から出題されるんだよ。しかも本文無し。それにでてくる論文はかなり昔の物から最近のものまで様々だからな。あれはマジで解けない。」
「あれ?でも冬先輩は100点なんですよね?なんでですか?」
「それはだな……なんか見たことがあるから解けた、だそうだ。」
「……すごいですね。」
「俺もそう思った。」
「ていうか理科のテスト問題つくってる先生性格悪くないですかね?」
「結構いじわるだとは思うな。多分途中からやけくそだろうけど。」
毎回毎回難しい問題をつくってるのに冬にあっさり解かれて悔しかったんだろうなとは思う。
にしても秋穂達はよくこの学園に入れたな。どうやって入ったんだろう?
「なぁお前ら、どうやってこの学園に入ったんだ?」
「むう、なんか唐突ですね。私はあの素晴らしい制度、特別推薦制度で入りました。いや~ほんとにラッキーでしたよ。」
「……まじで?」
「まじですけど?」
えっ!?こんなやつが特別推薦制度うけられたの?信じられない。
ちなみに特別推薦制度とは、柏崎学園から中学校に欲しい人材を推薦してとれるというものだ。また、特別推薦制度の試験内容は面接のみだ。
「まさか花火も特別推薦制度で入ったのか?」
「ん?まぁそうっすね。どこ行こうか悩んでた時に来たんで良かったです。」
こいつもか………。
「そういう先輩こそどうやって入ったんですか?」
「俺も特別推薦制度だよ。ちなみに葉月も一緒だ。」
「あれ?和人くんもそうなの?私と冬も一緒なんだけど。」
(うわーこいつと一緒の制度で入ったとか恥だわ。)
(やめてくれるかなそういうの。)
千華とテレパシーで会話しつつ考える。この部の大体が特別推薦制度を使ってるのか。たしか睦月は一般で入ったはず(一応特別推薦制度の通知はきたようだ)。なんか異常だな。
てかそもそも、普通こんだけの人数を特別推薦制度でいれるか?たしか推薦よりもとる人数は下で、推薦でも五名だったはず。わかってる範囲だと二年で四名、一年で二名か。
「あの、そろそろお開きにしましょうか。」
「えぇ、そうしようか。」
皆は帰る支度をしていた。現在時刻は17時だ。俺もとっとと帰って晩御飯作らないとな。
ピロン♪
『バイバイ和人、また明日♪(o・ω・)ノ))』
俺はスマホに送られてきたメッセージを見ると、スマホから冬に視線を移す。冬は少し、ほんの少しだけ笑っている感じがした。
「冬、また明日な。」
俺は笑顔で答えて帰路に着く。
「ただいまー。」
俺は自転車で家に帰ると晩御飯を作るためにキッチンへと向かった。ちなみに家は結構大きめの敷地をほこる和風住宅だ。
「あっ和人お帰りー。」
俺はリビングでテレビを見ている赤毛少女に声をかけられた。葉月だ。
なんで葉月が家にいるのかというと、俺が中3の時のある日、葉月が家に来て、これから住ませて?、といったのが始まりだ。また、家はキッチンとリビングが同じところにあるのだ。
俺はエプロンをすると、早速料理を作り始めた。今日の献立は鶏肉のソテーにモヤシとハムのサラダ、野菜スープでいいや。作るものを頭の中(冷蔵庫の中身とも相談してきた)で決めると、すぐさま調理に取りかかる。鶏肉の余分な脂身とかは切っとかないとな。俺は手際よく進めていく。
「和人お腹すいた。」
「もうちょいだから待ってろ。」
俺はサラダとスープを作り終えて、ソテーの仕上げに入った。冷蔵庫で眠っていたレモンを使い、ソースを作り、かけていく。よしっ、美味しそうだ。
「できたぞ、葉月。」
「わーい、やったー!」
俺たちは料理をテーブルに並べていただきますをし、食べ始める。
「んぅ~、やっぱり和人の料理は美味しいね。」
「まぁ、それは良かったよ。」
「にしても和人はほんとに家事能力高いよね。料理も裁縫も掃除も洗濯もできるしね。」
「当然だろ?俺は能力者だし一人で生きれるようにしとかないと駄目だからな。」
「まぁ能力者は普通の人と違うから生きるの大変なのはわかるけどね。」
「普通の人から比べたら俺たちは異質だ、普通とはかけ離れているからな。もし能力者であることがバレたら嫌悪や偏見、恐怖の眼差しを向けられて周りからは避けられ、確実に生きづらくなるだろうな。」
「でも能力者どうしでグループ作ったり、結婚したりすれば良さそうだけどね。」
「言っておくが能力者なんてほんとに少数なんだよ。柏崎学園にあんだけいるのは奇跡に近いんだよ。その意味では俺たちは幸運かな。」
「でもさ、なんであの学園には能力者が沢山いるの?」
葉月がお茶をすすった後、頭の上にハテナを浮かべて言う。
「そこはわからない。けどなんかあの学園はおかしいんだよ。なぜか特別推薦制度によって能力者が集められてるんだ。花火や冬はともかくとして、なんで秋穂や俺達が選ばれたんだ?たしか特別推薦制度の基準はかなり高かったはずだ。」
「確かにそうだよね。なんでなんだろう?」
「それは学園のお偉いさんじゃないとわからないだろうな。」
「偶然っていう可能性は?」
「あるかもしれない。でも話を聞く限り俺ら以外に選ばれたやつはいなさそうだ。あとそれだと秋穂が選ばれないだろ?あいつのすごいところはサイコキネシスだけだろうし。」
「そっか~じゃあさ!能力者を集めて殺し合いをさせるのが目的とか?」
「漫画とかによくあるやつだな。なんかほんとにありそうで怖いんだが。」
「それだったら非日常感がすごいわね。」
「ほんとにそれだったら非日常で嫌なんだけど。俺は普通の日常を過ごしたいのに。」
「てことは今はどれだけ考えても結論は出ないってこと?」
「まぁそういうことだな。」
食事を終えると食器を片付けて部屋に向かう。少し勉強でもするかな。
「和人~、いい忘れてたことがあった!」
勉強道具を開いて勉強を始めようとした時、急に葉月が勢いよく部屋に入ってきた。
「なんだ?てか急に入ってくんな。」
「ごめんごめん。」
葉月はえへへ、っと笑っていた。
「言うの忘れてたんだけどさ、三年生にとっても強い人がいるんだって。見に行かない?」
「行かんわ!俺を面倒事に巻き込むな!」
「えぇー、だってその人風紀委員長なんだよ?しかもめちゃくちゃ強いから能力者かもしれないんだよ?」
「それだったらなおさら行かねぇよ!」
「えぇーいいじゃん。」
「お前引っ付くな!」
葉月は俺に引っ付いてくる。こいつめ。
「だあー!もう、わかったよ!一緒に行きゃあいいんだろ?行ってやるよ!」
「やったー!和人って案外優しいよね。」
葉月はぴょんぴょん跳んで喜んでいた。面倒事が増えて頭痛くなってきた。まぁでもその前にテストを頑張らないとね。
俺はこれからくる厄介事に頭を痛くしながら、秋穂達の心配もするのであった。
after
心配だった秋穂と花火のテスト結果だが、それぞれ、どうにか四教科は赤点を免れ、残りの一教科は赤点だった。
「英語が赤点でした~、うわーん!」
「私は数学でした( ;∀;)」
「まぁ……お前らにしちゃよく頑張ったよ。赤点ギリギリだけど。」
「「勘で当てました。」」
「あっはい。」
どうやらこいつらは運ゲーに勝ったようです。期末はどうなることやら。