22話 祭り
お祭りは昔から好きだ。美味しそうな匂いを漂わせる屋台が並ぶあの光景も、人が蟻の大群のように集まりごった返す光景も好きだ。
なぜなら、私にはきらびやかな世界に見えるからだ。騒がしくもとても楽しそう……そう思ってしまう。
私が親とお祭りに行ったのは4歳の時の一度きりだったが、あのときはとても楽しかった。今では親となんて一緒にいたくないけど。
今日は友達とお祭りだ。浴衣に着替えて髪型を整える。しきりに鏡で変なところがないか確認する。
「よし……だいじょぶそうね。」
今日は彼も一緒だからなのか、いつもより準備に時間をかける。
今日は夏一番の思い出ができるといいな……
初めて祭りに行ったのは中学3年生の時だった。それまでは父親のせいで祭りはおろか、外出も満足にできない状況だったからだ。
初めての祭りは感動の連続だった。葉月に連れられて来たとき、人の多さに感動した、屋台の食べ物の美味しさに感動した、空に咲く大きく色とりどりな火の花に感動した。
その日を境に、毎年祭りの日がくるのを密かに待ち遠しく思っていた。
今日ぐらいは浴衣でも着ていこうかな……
「おーい和人、準備終わった?」
浴衣姿の葉月がひょこりと顔を出す。
「あぁ、終わったぞ。」
「和人浴衣だ~新鮮だね。」
「今日ぐらいは着ようかなと思ってな。」
「似合ってるよ。さっ、早く行こ?約束の時間に遅れちゃうし。」
「そうだな。」
俺たちは急いで玄関をでて、駅へと向かう。
「あっ、先輩たちこっちです~」
集合場所の神社へ着くと、俺たち以外のメンバーがそろっていた。
「ごめん待った?」
「いえいえ、全然。みんなさっき集まったところですし。」
「それならよかった。」
「早くいきましょう葉月先輩!私チョコバナナ食べたいっす。」
「よーし秋穂に花火、色々食べに行こう。」
「「おおー!」」
3人は子供のようにはしゃいで先に行ってしまった。これって7人で行動するんじゃないのか。
「……行っちゃったな。」
「私たちも行きましょうか。」
「先輩、金魚すくいやりません?」
「あーいいかもな。やるか。」
俺たちも行動を開始する。
まずは睦月と一緒に金魚すくいをやる。睦月はやはりなんでも出来るようで、余裕の表情で次々すくっていた。
「すげーな睦月。なんかコツとかあるの?」
「コツって言われても特にないですね。なんとなくやったら出来るって感じです。」
睦月の返答に俺は苦笑する。やっぱ天才ってすごいな。
金魚すくいの結果は俺が5匹で睦月が20匹だった。すくった金魚は持って帰れるので家で飼おう。
「和人、ひと口食べる?」
金魚すくいが終わった俺にわたあめを持った冬が聞いてくる。
「いいのか?ありがたくもらうけど。」
少し戸惑いながらもわたあめをひと口もらう。口のなかで甘さが広がり、すっととける。
「ありがとう……これで間接キスだね。」
冬は俺がさっき口をつけた箇所にかぶりつく。その表情は嬉しそうで、頬に赤みがさしている。俺は思わず口元を押さえてしまう。
「へっへぇ……よかったね和人くん。」
千華はひきつった笑顔でこちらを見ている。わたあめを持っている手には力が入っているのか、手はぷるぷると震えている。動揺を隠しきれてないぞ千華。
「そうだ和人、一緒に射的しない?」
「俺もやりたいです。一緒に行きましょう。」
てことでみんなで射的をすることにする。
「なあ……千華、お前大丈夫か?」
「ん、なにが?」
笑顔ではあるが、見るからに怒っている千華が心配になる。完全にさっきの間接キスのせいだよな。
睦月は射的でもすごくて、5発で景品を3つとっていた。冬は5発使って2つとる。二人とも上手いな。
俺は、少しずるいがアナライズを使わせてもらう。すると、射線と景品の当てるべき弱い場所が見えるようになる。これを使えば確実に景品がとれる。
結果は5発で5つの景品をとることができた。屋台のおじさんは驚きのあまりポカンと口を開けていた。
「よし……儲かった。そっちはどうだ?」
気分よく千華の方へ向く。
すると、
(ちょっ、なんであれ倒れないのよ!おかしくない!?)
かなり苦戦中であった。残りは1発のようだ。どうやら千華は小さい的を狙っていたようだ。小さい的を倒すと特賞らしく、豪華な商品の中から1つ選ぶことができるようだ。
だが、小さい的は隅の方に配置されてるうえに、距離が遠い。これ普通にやったんじゃ倒れないな。
「あれ欲しいの?ちょっと貸してみ。」
千華から射的用の銃を借りると、構える。射線を微調整しながら確実に的が倒れるように撃つ。
「あっ、倒れた。」
「ありえね~!」
千華の驚く声と、屋台のおじさんの悲鳴が響く。おじさんは頭を抱えて落ち込んでいた。
「うんじゃ……こっから好きなの選んでいいよ。」
「はい、ありがとうございます。」
特賞ってゲーム機なんかもあるんだな。千華は何を選ぶんだろ?
「それじゃあこれで。」
千華が選んだのは『転生エルフ』の限定版だった。なんでそんなのあるんだ。
「いや~よかったわ。まさかこんなところに『転生エルフ』の限定版があるなんて思わなかったから。」
「その限定版ってどういうのなんだ?」
「これはね、日陰蓮さんが今年の夏コミに出したものよ。ここでしか見れない短編が3話+蓮さんが描いた『転生エルフ』のキャラのポストカード付きなのよ!しかもどっちにも直筆サイン入り!」
千華はかなり興奮した様子で説明する。
「なるほど、それは千華には嬉しいものだな。」
「しかもこれまだ開けられてないからそこもよかった点ね。あのおじさん夏コミでとってたみたい。」
「そうなのか?」
「えぇ、それでこのお祭りで一商売やった後は転売するつもりなんだって。」
「まさか……それが分かってたからあの的狙ってたのか?」
「もちろんよ。ファンとして見過ごせないからね。」
千華は「ふふん」と得意気に鼻をならす。満足してるみたいでよかった。
「にしてもあんた射的上手いのね。びっくりしたわ。」
「能力のおかげでもあるんだけどな。射線見えたり、どの当てかたすれば倒れるのかとか解るからな。」
「アナライズってそんな使い方もできるの?結構便利なのね。」
「葉月の方がやばいけどな。射的だとほぼ無敵だし。」
俺が射的における葉月の強さを説明しようとした時、後ろの方でどよめきがおきる。
何事かと振り替えると、葉月が射的をやった後だった。
「すげーあの子、特別賞の的4つ倒した!」
「何者なんだあの子!?」
「……ありえね~……」
顔面蒼白のおじさんが今にも失神しそうな顔で呟く。てかあいつやりすぎだろ。
「じゃあゲーム機とソフトもらって行きますね。」
葉月はホクホク顔でゲーム機の入っている箱とゲームソフトを両手に持つ。アホ毛は葉月のテンションに比例して動きがよくなる。
「和人みてみて~たくさんもらってきた。」
「葉月、お前やりすぎだろ……」
「えっ、なんでそんなにできるの?」
「それがな……葉月は歪曲を使ってコルク弾に銃弾みたいな回転を加えて威力と安定性をあげてるんだよ。そのせいであんな芸当が出来るってわけ。」
「……狡すぎでしょ」と呟く千華。わかる、俺も何度思ったことか。
「あっ、冬ちゃんこれ私の家まで飛ばしてくれない?」
「いいよ。」
葉月はりんご飴を食べてる冬を呼び、人気のない所まで移動すると、冬の瞬間移動で荷物を自宅へ送る。
「いや~お祭りは楽しいね。もうすぐ花火の時間だし、楽しみだね。」
「花火といえば、ここのお祭りの花火にはジンクスがあるんだよね?」
「そうそう!」
冬の話に葉月が食いつく。俺はここのジンクスってなんだろ?と首をかしげる。
「最後にあがる大花火を二人っきりで一緒に見た男女は結ばれるってやつ。そういうのっていいよね~私は好きだわ。」
「へぇーそういうジンクスがあるんだ。」
「和人くん知らなかったんだ。結構有名なジンクスなんだけど。」
「ほんとそれ。学校でも夏休み前はこの話題は必ず一回は出るんだけどね。」
「まじで聞いたことなかった。」
そんなに有名だったんだな。
「ねぇ和人、ちょっと二人っきりで話さない?」
冬に不意打ちされる。ついにこの時がきたか……長かったような短かったような。
「あぁ、いいよ。」
もうちゃんと答えは出ているからこそ、臆せずしっかり冬を見つめて返す。
「それじゃあ行こっか。」
俺と冬は人気のない場所へ移動する。
着いた先は屋台がある場所の近くの茂みの奥の広い場所だ。ここはしんと静まり返っており、別世界のようであった。また、この場には月明かりしかなく、ぼんやりとした夢のような場所だった。
「お祭りはやっぱり楽しいね。あそこにずっと居たくなっちゃう。」
「それはわかる気がする。人混みすごいけどそれすらも魅力に感じるしな。」
他愛のない会話が少しの間続く。今日の祭りのことや2学期のこと……話せることはたくさんあった。
だが、この状況は長話を許してはくれなかった。
「和人、あの時の返事をちょうだい。」
冬の真剣な瞳が俺の瞳をのぞく。この場の緊張感は一気に高まる。
「私は和人の事が大好き。ずっと一緒に居たいって思う。和人は、私の隣に居てくれる?」
「ありがとう、すごく嬉しいよ。」
冬にたいして正直な気持ちで向き合う。そのなかであの日の事に思いをはせる。
~3日前・夜
「あと3日か……」
約束の日まであと3日と迫った夜、俺は二人の事を思っていた。
なぜなら、今なら答えがでそうだったからだ。二人と遊んでから数日がたち、少しずつ自分の気持ちをじわじわと自覚してきたからだ。
冬と一緒にいると、あたたかい気持ちになって知らず知らずのうちに笑顔が増える。
千華と一緒にいると、体の無駄な力がすっと抜け自然体で接することができる。
「自分の底から湧いて出る気持ちに従えか……」
俺はふと、あの占い師が言っていた事を思い出し目を閉じる。すると、彼女の顔がちらつき無性にドキドキする。
その瞬間、じわじわと自覚してきた選ぶべき相手が決まった。
どうやら、俺が自覚した恋心の相手はやっぱり彼女らしい。最近ずっとそうだ。ふとした瞬間に思い出し、夢にもでてくる。笑顔の彼女とこれまた楽しそうな自分の姿だ。
「……答えはでたな。」
誰に伝えるでもなくひとりでに呟く。あとはちゃんと伝えるだけ。
「よし、頑張るか。」
決意をひめた瞳で握った手を見る。
祭りの日は晴れるといいな……
「改めて、冬からの告白は正直すっごく嬉しい。冬みたいな可愛い子に好かれるなんて思ってなかったから。」
少しの間をおいてから喋り出す。今度は絶対逃げない。
「やっぱりそう言われるのは嬉しいな。」
頬を赤くした冬は、照れたように言う。それと同時期に花火が上がり始める。
自分がだした答えをちゃんと伝えようとゆっくり呼吸をする。花火の音が遠ざかっているような感覚におそわれる。
「俺は__」
俺は自分の気持ちを伝えるべく口を開いた。




