21話 占い
時刻は正午を過ぎ、1時になろうとしていた。
気温はまだ上がりそうで日なたにいるのがとても嫌になる。
電車はどんどん駅のホームへと向かっていく。もうすぐ着くみたいだ、降りる準備しないと。
大きな金切り声がホーム内に響き、電車が止まる。
俺は足どり軽やかに改札前に向かい、通り抜ける。
(さて、千華と冬はいるかな?)
周りを見回して茶髪女子と銀髪女子を探す。探して約5秒、特に苦労もなく二人を見つけて合流する。
「ごめん、待った?」
「待った、かなりね。」
「私は今来たところだから大丈夫だよ。」
不機嫌そうな千華と嬉しそうな冬。反応が正反対なんだが。
「千華っていつ頃来たの?」
「……30分前。」
「早くね?」
「うっさい!そんなことより早く行きましょう?」
少し頬の赤い千華は話題を変えようとする。
「うん……早く行こっか。」
距離感の近い冬にそう言われる。千華はそれを見てあからさまに機嫌が悪くなる。目が怖いよ……今日生きて帰れるかな……?
さて、駅近くのビル内にある占いの館に到着すると、人の多さに驚く。全員占い目的らしく、その大半がカップルであった。
俺たちも長蛇の列にならび始める。これ1時間はかかりそうだな。
「すごい人気だな。」
「これは予想外だわ。」
「すごいね……私たちも頑張らないと。」
冬は笑って俺の腕に抱きついてくる。
「えっ!?あの、冬どうしたの?」
「ふふ、別にどうもしないよ。ただ近くにいたいだけ。」
満面の笑みでそう言われ、戸惑う。嬉しいんだけど、千華が呪詛を全力でおくってくる。
(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。)
(いや怖えーよ。)
やばい、片方はすごい幸せそうなのにもう片方はすっごい不機嫌だ。これどうすればいいんだろう。
(ただでさえこの場にカップルが多くて聞きたくもないこと聞かされてるのに、あんたは冬とイチャついてるんじゃないわよ!)
(別にイチャついてるつもりはないんだけど。)
「和人、のどかわいてない?かわいたら言ってね……飲み物あるから。」
「うん、ありがとう。」
「和人くん、私も持ってるからいつでも言ってね?(日焼け止めあるからいつでも飲んでいいわよ。)」
(殺す気か!?)
この子怖いんだけど。人も多いからいらついてるのかな?
俺たちは雑談をまじえながら長い時間を過ごす。人の列はどんどん前に進んでいく。
やがて俺たちの番になり、占い師のいる部屋に通される。その部屋はよくみる占い部屋で、部屋の真ん中には机の上にのった水晶玉と椅子に座った占い師の女性がいた。顔はベールで覆われていて目元しかわからない。
「次の方は……3人ですか。どのような占いをご希望で?」
「私は今の恋愛の行方を占ってほしいです。」
「分かりました、ではそちらの方は?」
「俺は今決断しようとしていることのアドバイスがほしいです。」
「なるほど……最後にあなたはなにを占いますか?」
「私は今後の運勢でいいです。」
「分かりました。それではまずは銀髪の方から占っていきましょう。」
占い師の女性は水晶玉を見つめる。
「あなたの恋には強力なライバルが現れていますね?そのライバルは最近あなたの想い人とかなり親密になっています。
この先の約束の日には波乱がおき、そこで想い人が重要な決断を下すでしょう。
ここからはアドバイスですが、ここからは出来る限り想い人にアタックするのがよいかと。気持ちを少しでも自分に傾けさせるのが恋を成功させる秘訣ですよ。油断しているとライバルにもっていかれますから。」
「なるほど、ありがとうございます。」
冬は占い師の女性に微笑んでお礼を言う。最初の方当たってるな。にしても波乱ってなんだろ?
「次に黒髪の方ですが……決断するべき大事な事をかなり迷っていますね。きたる日まで時間はもうありません。だからといってあせる必要もありません。
なぜならあなたの中で少しずつ答えが出始めているのですから。だから安心してお進みください。」
占い師の女性はニコッと笑いかけてくる。
「アドバイスとしては、決断に関わる人と交流を増やしてみては?そうすれば自分の答えを自覚するはずです。」
「な、なるほど……」
占い師って不思議だよな、この人に関しては本物だっていうのが分かる。占い師に多いのは相手の反応を見ながら悩みを分かるふりをして、受け取り方の広い事を聞いていく。でも、この人の場合だと、俺らの事を全部分かってる感じがするんだよな。
「最後に茶髪の方ですが……今後の運勢は右肩上がりになりそうです。ある人物のお陰で悩みの種から解放され、楽しい日々をおくれるみたいです。
アドバイスですが、もう少し素直になってみては?今一番信頼している人に頼り、自分の本音を話して下さい。そうすることが幸運への鍵ですよ。」
「は、はぁ……?」
「それではこれで占いを終わりにします。みなさんに幸福が訪れるのを祈っています。」
千華と冬が外に出ようとしたところで俺も動き出す。
すると、占い師の女性に呼び止められる。
「すみません、最後にあなただけに助言を。あなたが決断を強いられる時、あなたの底から湧き出る気持ちにしたがって下さい。ただ獣のように。」
「えっと、覚えておきます。」
「はい、頑張って下さい……私と同じ方々の幸運を祈ってますよ♪」
「あの、それってどういう……」
占い師の女性の言葉が引っ掛かって問いかけようとしたが、「次の方どうぞ~」の声に遮られる。早く出ないと駄目か。
「遅いよ和人くん。何やってたの?」
「まぁ、ちょっとな。」
部屋から出ると、冬たちと合流する。
「このあとどうしよっか?冬は行きたいところある?」
「うーん……あっ、私あそこに行きたい、小物ショップ。」
「あーいいかもね。私も小物みたいし。」
冬の提案で小物ショップに行くことになる。ここから1階下がったところにあるのですぐに着く。
店内は可愛らしい雰囲気で、お客さんも女性が多かった。
「なぁ、俺場違いじゃない?」
「そんなことないよ。確かにここには女性向けの小物が多いけど、男の人だっているし。」
「うん……でもそれ彼氏だよね……」という言葉はのみこんだ。今の冬はかなりうきうきしてるから気分を下げちゃいけないし。
「和人くんも少し見てみたら?可愛いのたくさんあるし。」
「まぁそうだな。」
とりあえずインテリアやハンカチを見てみる。
「へぇーこんなのあんだ。」
「あ……それ可愛いね。」
冬は俺が持っている猫の置物を見て言う。
「冬って猫好きなの?」
「うん、好きだよ。」
「冬の部屋には大きな猫のぬいぐるみあるもんね。ゆるふわな可愛いやつ。」
「そうなんだな。千華は好きな動物っていないのか?」
「うーん私も猫かな。気まぐれなところが好き。」
(なんか猫と千華って似てる気がする。)
(どこがよ?全然似てないでしょ。)
(いやいや、そっけない感じだけど、たまに甘えてくるところとか似てるぞ。)
(私がいつ甘えたのよ!)
(風邪ひいたとき。)
(あんなのノーカンだから!あんたがおせっかいやいただけでしょ!!)
(そういうことにしておくか。)
心のなかで苦笑してインテリアに視線をおとす。
「そうだ、ハンカチでも買っておくか。葉月のハンカチ新しくしときたいし。」
「葉月の分買うの?それなら私も選ぶの手伝うよ。」
「それじゃあ私も手伝うからね。私と冬で選べば良いのも選べるし。」
「二人ともありがとな。」
「それじゃあしっかり決めようか。」
二人の協力のもと、葉月にあげるハンカチを決める。二人の意見を取り入れながら葉月が喜びそうなものを選ぶ。
「それじゃあ、これを買ってきちゃうな。二人ともありがとう。」
「うん、全然大丈夫だよ。」
選んだのは葉月のイメージに合う色の明るいハンカチだった。葉月喜ぶかな……
「今日はありがとな、楽しかったよ。」
「うん、私もすっごく楽しかった。また遊ぼうね。」
「私も楽しかったよ。今日はありがとう。」
俺は、千華と冬の家の最寄り駅の金岡駅まで同行すると、軽いあいさつをして別れる。
そこから、電車で一駅進むと、家の最寄り駅の西園駅に着くのでそこから家に帰る。
「ただいまー」
「おっかえりー」
葉月が犬のように嬉しそうに駆け寄ってくる。
「今日のご飯何にするの?」
「帰ってきてそうそうそれか。まぁ、今日は唐揚げにでもするよ。」
「そっか~……ってその包みなに?」
葉月は俺が持っているハンカチの入っているラッピングに目を向ける。
「あぁこれか?これは葉月へのプレゼントだよ。」
「うぇ!?あんたどうしたの急に……惚れそう。」
「いや、そういう冗談はいいから。」
「なはは、冗談はこのくらいにして、ありがと和人。大事にするよ。」
葉月は俺から包みを受け取って開ける。
「おおー可愛いハンカチだ。これ絶対千華と冬ちゃんに選んでもらったでしょ?」
「よくわかったな。」
「だって和人じゃこういうのなかなか選べないと思ったから。」
「あーそういうことね。」
「まぁ千華たちと一緒に選んだとはいえ、嬉しいことには変わりないからね♪」
「喜んでくれたならよかったよ。すぐ夕飯作っちゃうな。」
「お腹空いたから早く頼むね〜」
葉月は鼻歌を歌いながら居間へと向かう。ご機嫌そうでよかった。
(今日の占い師のあの言葉、ずっと引っ掛かってるけど……今はご飯作っちゃうか。)
約束の日までもう時間もないので、今あの言葉に構っている時間はなさそうだ。
1週間後には約束の日だ。そこまでには答えは出ているんだろうな……今は全く分からないんだが。




