20話 そわそわ
「ふぅ……今日も疲れたな……」
私は今日も1日バイトをしていた。今は帰ってきてお風呂とご飯を済ませたところだ。
ベッドに脱力して倒れこむ。
(明日はバイト休みなんだよな……何しよう。)
一回風邪をひいてから、店長も心配してか1週間に一回は必ず休みをくれるようになった。休みが増えても家にいたくないから気持ちとしては複雑だ。
(ひとまず明日の事はおいといて、勉強でもしようかな。)
そう思い、眼鏡をかけて勉強机に向かおうとした時、スマホの通知音がなる。
私は素早くスマホをとり、ロックを解除する。通知を見ると友達からメッセージがきていた。
その瞬間私はため息をついた。
(って!私は何を残念がってるわけ!?別にあいつからの連絡が待ち遠しいとかじゃないし!)
最近彼と連絡を頻繁にとるようになってから何かがおかしい。スマホの通知音がなる度に何かを期待してスマホをひらいてしまう。
とりあえず友達に返信をし、スマホをとじる。
(バカらしい……勉強しよ。)
復習しておきたい箇所があるので早くやってしまおう。スマホは勉強の邪魔にならないところに置き、ノートと教科書を開く。
すると、また通知音がなる。
私は反射的にスマホをとり、ロックを解除する。今度は彼から連絡がきていた。
なんだろう?とドキドキしながら確認しようとして踏みとどまる。これじゃあ勉強できないじゃない!
「あいつからの連絡はこれが終わったあとに見ればいいじゃない。なにも優先して見るものでもないし……」
別に、私と彼の間柄なので返信が遅れても問題はない。
だが、いくら自分に言い聞かせても駄目だった。手は勝手にスマホを操作して彼からの連絡を見ていた。
『千華、明日って暇かな?暇なら俺と冬と一緒に出掛けないか?』
彼からは遊びの誘いがきていた。しかも明日。
私は嬉しくなって速攻返信する。
『暇だし、やることないからいいわよ。』
すると、すぐに既読がついて
『分かった。それじゃあ明日は13時に柏崎駅に集合してくれ。』
と送られてきた。どこに行くんだろう?
『わかったわ。それにしてもどこに行くわけ?』
『それはな、占いの館に行くんだよ。冬が前から行きたいって言ってたからな。』
『ふーん、そうなんだ。』
なんでか分からないがすごくもやもやする。
『てかなんで私をそれに誘ったわけ?冬と二人で行ってくればいいじゃない。』
もやもやしてるせいか、ついつい衝動的に送ってしまう。どうしよう……嫌われたかな……?
『ごめんな、千華は占いとかに興味あるかな~って思ってさ。そう思ったら一緒に行きたくなった。』
……そう思ってもらえるのは嬉しいわね。
『それじゃあまた明日な。おやすみ。』
『おやすみ。』
彼とのやり取りが終わると、私は勉強道具をしまってクローゼットの前に立つ。
「明日の服を準備しないと。勉強してる場合じゃないわ。」
クローゼットを開けて明日着ていく服を選ぶ。
「これとかどうだろ……いやこっちかな……」
いつもはわりとすぐに決まる服選びもこの日に限ってはなかなか決まらない。
「これを着たらあいつはどんな反応すんだろ……ってなんであいつの反応を考えなきゃならないわけ!?そんなこと別にどうだっていいじゃない!」
自分が自然と彼の事を考えて服選びをしていた事に戸惑う。なんか最近おかしくなってきた気がする。
「私疲れてるのかな……早く寝た方がいいかも。」
顔に手を当ててため息をつく。
とっその時、スマホが「ブーッブーッ」となり、私はあわてふためく。
「えっちょっ、なによ!?」
慌ただしくスマホをとり何事かと見てみると、彼から電話がかかってきていた。
私は心がまだバタバタしている状況を、深呼吸をひとつおくことで落ち着かせ、電話に出る。
「もしもし、どうしたの?」
いつもの声で応答できたことにホッとする。
「もしもし、ごめん起こしちゃったか?」
「まだ寝る前だから大丈夫よ。」
髪を指に巻きつけて、髪をもてあそびながら応じる。
「それならよかった。明日のことで伝え忘れたことがあってな……明日行く占いの館はとても人気らしくて結構並ぶみたいなんだ。あと、お客の多くがカップルみたいだから、俺ら3人は特に浮いちゃうかもなんだけど……大丈夫か改めて確認をとりたくて。」
「なに、そんなことで連絡よこしたわけ?だいじょぶに決まってるでしょ。つまんないことでいちいち連絡しないでよね?」
ツンツンした態度で返すがその内心は、
(わあぁぁぁぁ!!私なに言ってるの!?和人はただ心配してくれただけなのに!!これじゃ嫌われる~!!!)
このように酷いものだった。
「……そっか、余計だったよな。ごめんな、もうすぐ寝るってところに電話かけちゃって。
それじゃあな、おやすみ。」
「えっあの、ちょっと!?」
私が訂正しようとしたときにはもう遅く、通話は終了した。
「もう……寝よ……」
私はへこみすぎて寝る以外の選択肢が思いつかなかった。服は明日決めればいいや……
次の日の朝、そわそわしながら髪をとかす。いつもより入念にとかした後はいつもの髪型にする。
「えーっと持ち物はっと……」
簡単に持ち物の確認をする。財布忘れたら嫌だし。
「よし!服も変なとこないし持ち物もちゃんと持ったし、いつでも出れるわね。」
あっちには10分前につければいいや……そう思っていたのだが、
「……早く着きすぎてしまった。」
家にいると親に色々言われ、イラついたのでついつい早く来てしまった。
時間を確認すると今は11時だ。あと2時間なにしてよう……
「本屋さんにでも行こう……」
ずっと改札前にいるのもあれなので、時間がつぶせそうな本屋さんに歩を進める。
改札から徒歩30秒、規模としては小さい本屋さんに着く。ここなら時間つぶせるはず。
「なんか面白そうな本ないかな。」
漫画やラノベ、日本文学のコーナーを転々とし掘り出し物を探す。気になったのものは少し読んでみる。
(ふーん、わりと面白そうね。)
気になった作品をためし読みしていると横で大きな音がする。
びっくりして音の方向を見ると、女性の近くに本が散乱していた。どうやら買う予定の本を落としてしまったらしかった。
「大丈夫ですか?」
この状況で見てみぬふりもできないので拾うのを手伝う。本は5冊程度あり、参考書が大半だった。
「あぁ、ありがとうございます!すみません……本当に。」
女性は慌てて私の拾った数冊の本を受けとる。
(うわぁ綺麗な人……)
その女性は綺麗な黒髪を肩までのばしていて、穏やかな印象をうける美人だった。見たところ私より年上かな?
「ほんとにありがとうございます!よければお礼がしたいのでこのあと空いてますか!?」
ずいっと前のめりになって女性は言う。
「……あぁ、すみません急にこんなこと言っても迷惑ですよね……初対面なのに。」
「あ、いやそんな……私はこのあと空いてますけど。あと迷惑ではないですよ。」
「それならよかったです……お礼の前にこの本すぐ買ってきちゃいますね。」
女性は笑顔でレジへと向かっていった。綺麗なうえに可愛いって反則でしょ。
私たちは本屋さんから移動して、すぐ近くのカフェに来ていた。二人とも紅茶を頼む。
「お礼としてここは私が奢るので安心してください。」
「いえいえそんな……悪いですよ。」
「あーいいんですよ……本を拾うのを手伝ってくれたお礼です。」
女性はニコニコと笑う。ほんとに綺麗で可愛い人だな……
「私は村田仁美です。今は大学生です、よろしくお願いします。」
仁美さんは礼儀正しくペコッと頭を下げた。
「私は雪原千華です。高校生です、よろしくお願いします仁美さん。」
「えっ、千華さん年下だったの!?すごい大人っぽいから年上かと思ってた。」
「さん付けしなくていいですよ仁美さん。……そんなに私大人っぽく見えます?」
「あ、ごめんね。千華ちゃん第一印象からしっかりしてる感じだから大人っぽく見えちゃった。」
学校のみんなからの印象だと優しいとか可愛いとかだからこの反応は新鮮だな。
「仁美さんは落ち着いた大人の女性って感じがしましたよ。」
「えっ!そっそうかな?私の友達は大人っぽい子が多いから、その子たちに比べたら私なんてまだまだだよ。」
「そうなんですね。」
私は紅茶を一口飲む。美味しい……リラックスできるわ。
「千華ちゃんは今日はなにしにここに来たの?」
「私は友達と占いの館に行こうかと思って来ました。」
「あっ私と同じだ。私も今日は占いの館目当てで来たんだ……その、彼氏と。」
仁美さんは頬を赤らめて恥ずかしそうに言う。同じ女性でなんでこうも可愛いげに差がでるんだろ?
「仁美さん彼氏いるんですね。どんな人なんですか?」
まぁ、確かにこれだけ可愛い人なら彼氏ぐらいいるよね。彼氏もかっこいい人なんだろうなと思ってしまう。
「うぇぇ!?そっそれは……」
仁美さんは顔を赤くしながらあわてふためく。両手の人差し指をくっつけたり離したりしている。
「とってもいい人だよ……優しくてかっこいい自慢の彼氏なんだ。」
仁美さんの話を聞いて率直に羨ましくなる。私は彼氏とかできなさそうだしな。
「千華ちゃんは彼氏いないの?いそうなんだけど。」
「いえいえ、いませんよ。」
「そうなの?千華ちゃんすごく可愛いからいると思ってた。」
仁美さんから意外そうな顔をされる。私って別に可愛くないと思うんだけど。
「そうだ、千華ちゃん連絡先交換しよ?私もっと千華ちゃんと仲良くなりたい。」
「はい、いいですよ。」
私としても仁美さんとの関係をこれっきりにしたくないので快く応じる。
「ありがとう千華ちゃん。それじゃあ私そろそろ時間だから出ようか。」
もう時間らしいのでお会計を済ませると、仁美さんと別れる。
現在時刻は12時か……どこかでご飯を食べれば問題なさそうね。
私はもうすぐ冬と彼に会えると思うと嬉しくてたまらない。忙しい夏に友達に会えるのはありがたい。リフレッシュできるし楽しい思い出はできるしね。
さて、ご飯食べながらゆっくり待つとしましょうか。




