170話 フランスへ
夏休みの日にちが経つのは早く、もう8月の上旬になっていた。
「葉月、忘れ物ないか? 」
「うん、ないよ」
で、今日は朝からバタバタしている。というのも、今日から1週間、フランスに旅行? するからだ。
天夜さんの仕事のついでに連れてってもらえることになり、宿はティタニアの実家に泊まらせてもらえることになっている。
「さぁ早く行きましょ! みんなに会いたいです!! 」
ティタニアは1週間前からこんな感じでうきうきしている。浮かれすぎて変なことしないか心配だ。
「和人、戸締り終わったわよ」
「ありがとう千華。じゃあ後は、ラムレーズンおいで」
俺は座布団で昼寝をしていたラムレーズンを呼ぶ。ラムレーズンは『なんだ? 』という表情でこちらに来る。
「俺たち1週間いないから別の人のところに預けるけど、ちゃんといい子にしてるんだぞ」
「にゃー」
俺の言葉にラムレーズンはちゃんと返事をする。
「じゃあ籠に入ってな」
「にゃー……」
ラムレーズンを籠に入れると、纏めた荷物と共に家を出る。
「じゃあ早速出発です!! 」
「姉さん先行っちゃ駄目だよ迷うんだから! あぁもう……」
花のような笑顔を咲かせるティタニアはどこかへ走っていってしまった。その後をアンヘルが追う。
「これ私たちも行った方が良いやつだね。行こう千華ちゃん」
「えぇ、そうね。和人は先にバカ猫預けるのよね? だったら先に駅に行って待ってるわね」
「うん、ティタニアのことよろしく頼む」
葉月と千華も少し遅れてティタニアを追いかける。迷子になりそうだなあいつ。
俺はラムレーズンを預けるために、予め決めておいた集合場所に向かう。
家からの坂を降り、商店街方面へと歩く。目的地は商店街を入ってすぐ左にある駄菓子屋さんだ。
目的地に着くと、見慣れた人が駄菓子を咥えて待っていた。
「おぉー和人、来たな」
ぶかぶかのパーカーを羽織った銀髪の少女、千聖が俺を見るなり手をひらひらと振る。
「急に猫の世話頼んで悪いな」
「まぁ和人の頼みだし問題ないぞ。俺の仕事に付き合ってもらったのもあるし」
千聖は籠の中にいるラムレーズンに視線を移す。次の瞬間、千聖の顔が少し強ばる。
「なぁ……その猫ってまさか訳ありじゃないよな? 」
「訳あり? 」
千聖の言葉に首を傾げる。
「いや……こいつ気配が普通の猫じゃないんだよな。なんか猫又っぽいぞ」
「実は……」
ここまで気づかれてるなら言ってもいいか。実際千聖は特殊な人間っぽいし。
俺はラムレーズンのことを手短に話す。千聖は『うわぁまじか……』と呟きながら話を聞いていた。
「よく手なずけられたな猫又なんて。弱っちいのに」
「なんか成り行きでな。で、事情を知ってるなら話は早いな、そういうことだから変身したりしてもあまり驚かないでやってくれ」
「変身できんだなこいつ、面白そう」
千聖は目を輝かせて籠の中を覗く。ラムレーズンは警戒してるのか、しっかりと威嚇をしている。
「とりあえず預かるぞ、餌はまぁなんでも食うだろ……」
「ちゃんと猫用のあげてくれ。猫の時は猫が食べられるものしか食べれないらしいから」
なんか人型の時はなんでもいけるらしい。出発の前に予めラムレーズンから直接聞いた。
「うぇっそうなのか……面倒だな」
「にゃー!! 」
「わかったわかった、ちゃんと用意してやるよ。じゃあ預かるな」
千聖は俺からラムレーズンを受け取ると、「フランス旅行楽しんでな」と言ってその場を立ち去る。
あいつら仲良くやれるかな……
「それよりも急がなきゃな」
俺はティタニアたちの待つ西園駅へと急いで向かった。あいつらちゃんと着いてるかな……
「和人くんお疲れ様です! 」
駅に着くと、ティタニアがたこ焼きをほうばっていた。無事に着いてたみたいでよかった。
「先輩、姉さんが浮かれすぎててすみません」
「あーうん、大丈夫。アンヘルが謝ることじゃないから」
ティタニアを見てため息を着くアンヘル。ほんとにどっちが姉なのかわからなくなってくるな。
「よし、みんな揃ったことだし、じゃあまずは空港までしゅっぱーつ! 」
葉月の元気な掛け声と共に動き出す。
初めての外国に不安と緊張はあるが、それ以上に楽しみな感情があった。
__夢を見る、あれはいつかの黄金色の記憶。
彼と見た無数の景色。強くて優しい彼と過ごした大切な時間。
「……」
目を開けると、それはいつもの薄暗い檻の中。気持ちは一気に現実に引き戻される。
「……」
退屈で陰鬱な檻の中、私は目覚めた時からずっとここにいる。
彼のいない世界を生きていく……




