169話 睦月
レースゲームの結果は僅差で睦月が勝った。鷹峰は悔しそうにしながらも、どことなく楽しそうにしていた。
「ふぅ……少し休憩するか」
あの後、俺たちは自販機でジュースを買って休憩をしていた。
この短い時間で2人は思った以上に仲良くなったようだ。ちょっと安心した。
「いやぁ白熱した勝負の後の冷たい飲み物はいいですね。先輩、もし良ければこの後勝負しませんか? あの時のリベンジをしたいです」
「嫌だよ、問題起こしたくないし」
好戦的な笑みを浮かべる睦月に対して、はっきりと断っておく。ちょうど受験期でもあるわけだし。
「なんだ、つまらないですね。それなら受験が終わった後にでもやりましょうか。それなら先輩も思いっきりできますよね? 」
「やらないからな……? 」
なにがなんでもやる気だなこいつ。俺はやりたくないんだけど……
「和人先輩、もうすぐ忙しくなっちゃうんですね。僕はあんまりPSY部には行けないので、会える回数ほんとに少なくなりそう」
「まぁ、忙しくはなるけど部室にはちゃんといるし、暇な時に来てくれれば会えるよ」
勉強には忙しくなるけど、別に部室に来なくなるわけじゃないから会える機会は全然あるんだけどな。
「まぁでも、先輩の邪魔はできなくなるんで少し寂しくなりますね」
「邪魔を楽しいみたいに言うのはやめろ」
「ははは、先輩限定ですよ。でも、先輩が一番大変みたいなんで邪魔できなくなっちゃうんですよね」
他のメンバーの進路状況を考えてみる。葉月の志望校は現状受かる可能性が高い。千華は心読めるしなんとかなりそう、冬は地頭いいから試験受けても余裕。ティタニアは俺と同じところだけど、推薦で受けることになってる。
「あれ、ほんとだ。一番俺がやばいな」
「なので、先輩にあまり絡めなくなっちゃうんですよね。先輩にはちゃんと合格してほしいんで」
睦月がみせる珍しい優しさ。ちゃんと考えてくれてるの嬉しいな。
「じゃないと俺が先輩と戦えないので」
「あっそういうこと……」
俺のことじゃなくて自分のこと考えてた。俺の感動返せ。
「でも先輩に受かってほしいのはほんとです。俺にとっては大事な先輩ですから」
「初めてできた尊敬できる人ですし」と睦月は続けた。
「睦月にそういうこと言われるとなんだか嬉しいな」
睦月にそう思われたのは素直に嬉しい。俺ただのいい喧嘩相手みたいに思われてるんじゃとか思ってたことあったし。
「まぁ初めて負けた相手ですし尊敬は当然ですよ。後は、先輩のおかげで退屈せずにすみましたし」
「後半は俺のおかげじゃない。それ大体葉月」
突飛なことで問題起こしたのはあいつだ。俺はただ巻き込まれただけ。
「でも先輩の近くにいると退屈はしないですけどね。色々と面白いことが降ってくるんで」
……それ言われても嬉しくないな。
「先輩、俺は中学まで退屈だったんですよ。特に痺れる出来事もなければ、能力のせいで親からは避けられる……喧嘩に明け暮れるぐらいしかなかったです」
「今までの言動から喧嘩してたのは何となくわかってた。でも、親からも避けられてたんだな」
能力持ちはなんでこうも親関係のいざこざが多いんだろ。
「えぇ、まぁ最低限の会話はしてますけどね。
それはともかく、中学までずっと退屈だった日々に先輩が現れて、PSY部に連れられて、一気に退屈が裏返りました。先輩と最初に喧嘩したあたりからそれはもう一気に。
だから、合格したらまたやりましょう、喧嘩」
「うん、最後の一言で台無しだよ」
睦月の過去が少し知れて良かったけど、最後まで俺との戦いに拘るのやめてほしい。
「睦月先輩と和人先輩の喧嘩って……出会った当初そんなこやったんですか!? 」
「まぁ……こいつが暴れてたからな。仕方なくとっちめた」
「あれは3年の奴らが悪いですよ。年上だからって偉そうにしてたのが悪いです」
出会った当初のことを話す。睦月は全く悪びれる様子もなく、爽やかな笑顔で話している。
「偉そうにって、ちょっと注意されただけだろ。それだけでボコボコにするなよ」
「ひぇっ……」
「別にいいじゃないですか、死んでなかったんですし」
睦月の何気ない一言に鷹峰の顔が青くなる。仲良くなった数時間が一気に無駄になった気がする……
「じゃっ、まだ時間あるし遊びましょうか。もちろん鷹峰もな」
「帰りたいです……」
「あの時に比べて大人しくなってるから大丈夫だ……俺もいるし、怖がらなくていいから」
笑顔の睦月に顔面蒼白の鷹峰、対照的な2人の表情を見てまた不安が積もるのであった。




