165話 招待
蒼から千華に対しての宣戦布告があった数日後、俺は理事長室に呼ばれていた。
「失礼します」
いつも通りに入ると、天夜さんが柔らかい笑みを浮かべて迎えてくれた。
「急に呼び出したりしてすまないね。今日は君たちにいい話を持ってきたんだ」
「いい話ですか……? 」
天夜さんから出たいい話という言葉に首を傾げる。
「そう、実は8月にフランスの方に用事ができてね。せっかくの機会だから和人くん一家も招待しようと思ってたんだ」
「一家って言われても変な感じなんですけど……でもそれっていいんですか? 迷惑になるんじゃ……」
「大丈夫、用事の相手はティタニアさんたちの実家の『サンドロット教会』だからね。快く受け入れてくれるよ」
ティタニアたちの実家に行くのか……あいつらは喜びそうだな。
「『受け入れてくれる』ってことは教会から部屋を貸してもらえるんですか? 」
「うん、そうだよ。相手方にはもう確認はとってあるし、あとは和人くんが意志を示せば問題ないんだけど……どうかな? 」
みんなで行けるのはありがたいし……好意に甘えさせてもらおう。
「はい、じゃあよろしくお願いします」
「うん、それじゃあ詳細は追って連絡するね。じゃあ緋色さんと雪原さんにもよろしく」
「はい、失礼します」
俺は用事が済むと、速やかに部屋を出た。
部室までの道のりで少し考える。そういえば、スカルのこと、なにかわかるかもしれないんだよな。
あの時彫られたメッセージをあとで調べたらフランス語だったし。
「でもわかるのかな……聖書にも載ってないやつだし……」
ティタニアの持っている聖書にも、インターネットの検索でもスカルの情報はなにもなかった。
自分がどうしてあんなものを見たのか少しでもわかると良いんだけど……
まぁ、観光目的で楽しむか。勉強の合間の息抜きってことで。千華とも行けるし、ちゃんと思い出にしよう……
「えぇ、ほんとですか!? 」
その後、部室でフランスに招待されたことを話す。するとティタニアが興奮した様子でこちらに顔を近づけてくる。
「ほんとだよ、天夜さんの用事のついでに連れてってくれるんだって」
「和人くん、私は嬉しいですよ〜!! こんなに早くみんなに会えるとは思っていなかったです!! 」
ティタニアは嬉しくなった勢いで抱きついてくる。
「わかったから離れてくれ。千華とアンヘルが凄い目で見てるから」
抱きつくティタニアのことを、2人は少し怖い目で見ている。説教入るなあれ。
「ふぇっ……ごめんなさい……」
ティタニアは危険を察するとしょんぼりして謝る。
「全く……この子の無自覚な行動はなんなのかしら……」
「姉さんはどうして私の好きな人にそういうことをするの……」
2人ともティタニアの方を見てため息をつく。そういう反応にはなるよな……
「うぅ……ごめんなさい、抱きつくなら和人くんじゃなくて2人に抱きつくべきでした」
「「うん、そういうことじゃない……」」
ティタニアの少しズレた反省に、またもやため息をつく2人。
「えぇ、違うんですか!? 」
「当たり前でしょ! 私たちはそもそもむやみやたらに人に抱きつくなって言いたいの」
「えっどうしてですか? 私は和人くんやアンヘルにはたくさん抱きつきたいです。弟ですし、妹ですし」
「いや、和人は違うでしょ……」
まぁ確かにそうだけど、ティタニアの中では弟認定されているらしい。弟って思っていいよってどこかで言った気がするから、俺はやめろとかは言えない。
「……とにかく、ティタニアは自分の破壊力を考えて行動した方がいいわよ。正直身体はいやらしいし」
「ふぇっ、そうなんですか!? 」
ティタニアは驚いたようにこちらに視線を飛ばしてくる。なんでこっちを向く。
「まぁ……そうだと思うよ」
なにも言わないのはさすがに良くないので、返答はする。ここで変に濁さないのは濁した方がめんどくさいことになりそうだったからだ。
「っ!! 和人くんはそんな風に思ってたんですね……不埒です、良くないです!! 」
「行動はあなたから起こしてるんだから、ティタニアも悪いわよ」
じりじりと後ずさるティタニアに千華がツッコム。
「うぅ、それはそうかもですけど……そうかもですけど……」
「姉さん、これからは先輩に抱きつくのは控えてね。私も毎回ヒヤヒヤしてるし」
「努力はしてみるんですけど……嬉しい時とか凹む時とか、そういう時って自然に和人くんに抱きつきに行っちゃうんですよね。
どうしてでしょう……? 」
そうだったのか。でも本人にもわからないんじゃ俺らにもわからない。千華とかは推定できそうだけど。
その後、ティタニアはうんうん唸りながらずっと考えごとをしていた……




