163話 初芽〔4〕
梅雨に入り、ジメジメした日が続く。せっかくの休日もあいにくの雨だ。
私は姉の知り合いに話を聞いてもらうために集合場所に来ていた。
「ほんとにここでいいのかしら……」
相手から指定された場所はなぜか柊くんの家だった。私の前には大きな日本家屋が建っていた。
少し不安だが、とりあえず呼び鈴を鳴らしてみることにした。
「いらっしゃいクール系美少女!! 」
呼び鈴を鳴らしてすぐに目的の人物は出てくる。目がギラギラしてて無意識に後ずさりをしてしまう。
「卒業式の時から思ってたけどやっぱり可愛いね! ちょっと寝室にいかない? 可愛がってあげるから! 」
なんだかテンション高いわね。
「千歳さんなにやってるんですか……蒼が迷惑してるのでやめてください」
口説いてくる不審者の後ろから柊くんが出てくる。もしかして本人がいるところで相談するのかしら……それはもう相談じゃないと思うのだけれど。
「えっと、いらっしゃい。とりあえず中に入って」
「えぇ、お邪魔します」
私は彼の家に入った。玄関には彼と、不審者の靴以外の靴があった。誰か他にも来ているのかしら……
そして、玄関から進んでいき、居間に通される。
「お茶入れるね」
「えぇ、ありがとう」
彼は台所でお茶の準備をし始めた。それと同じ頃、静かだった不審者が口を開き始める。
「で、和人をおとす方法を聞きたいんだよね! 」
「……」
「うわ、なにその顔……」
不審者の言葉に思わず顔をしかめる。もう少し言葉を選んでほしかった。
「はい、お茶。とりあえず俺は席を外した方がいいですよね」
「えっなんで!? 一緒に聞くに決まってるじゃん! 」
「いや、話しにくくないですか……」
やっぱりそうなるのね。これ相談じゃないわね。
「私だけにしたら変なこと教えるけどいいの? 」
「やっぱり同席します」
不審者過ぎない……? この人に頼むのは不正解のだったかしら。
「まず和人のどこが好きなの? 」
「それ言う必要あります? 」
「まぁまぁいいから……」
目の前の彼女は目をキラキラさせている。面白半分よねこれ。
「強いて言うなら、寄り添ってくれるところですかね。一度落ちた私の手を諦めずに掴んで、引っ張ってくれたところが高評価です」
「なんかレビューみたいになってない? 」
人の好きなところって話すのが難しいのね。上手く言語化できなかったわ。
「まぁいいや。それなら和人はおとしたいよね、優良物件だし」
「まぁそうですね」
「人を家みたいに言うのやめてください……」
藤崎さんと話していると彼からのツッコミが入る。実際にそうなのだし、仕方ないと思うのだけど。
「それなら千華ちゃんに勝たなきゃいけないわけだけど……脱ぐか」
「させませんよ……」
藤崎さんの言葉に彼は鋭く反応する。まぁ、2人の時ならそれは考慮してもいいわね……
「他だと和人がドキッとする行動をとるぐらいだけど……距離感をグイグイ縮めにいかないと不味いな」
「ボディタッチを多めにするとかですか? 」
「いや、性行為」
その瞬間柊くんはお茶を吹き出してむせる。
「いやなに言ってるんですか!? 駄目に決まってるでしょ!! 」
「蒼ちゃん罵倒上手そうだから、耳元で囁きながらすれば和人興奮すると思ったんだけどな〜」
「千歳さん、お願いなので真面目にやってくださいよ……」
おちゃらけた藤崎さんに、柊くんがため息を漏らす。
「はいはい、わかってるよ。とりあえず、グイグイいかなきゃいけないのはほんとだよ。ボディタッチ、連絡回数を増やしたり、距離感近いのを意識させる行動はおすすめ」
藤崎さん、急にまともなこと言い始めたわね。
「あとは言葉で特別なのを伝えられればベスト。濁す感じだとこいつ気づかないかもだから、伝える時ははっきりとね」
「そんなに鈍いですか俺……? 」
「……」
「蒼ちゃんの顔が答えだよ」
彼は私の顔を確認すると、「そうなのか……」と言って落ち込む。
「色々と参考になりました、ありがとうございます」
「うん、今度お姉さんとデートするから気合い入れてアドバイスしてみた! 」
元気に笑う藤崎さん。姉の方はご愁傷さまね……
「よし、じゃあ次に行こうか! 」
「えっ……次って……」
「千華ちゃんへの宣戦布告。やっておかないと後味悪くなるし呼んでくるね」
そう言うと、藤崎さんは居間を出ていく。
「もしかして、今日雪原さんも来てるの? 」
「うん、まぁそんな感じ……」
彼はどこか歯切れ悪く答える。なにかあるのかしら……
とにかく、やらなきゃと思っていたことだ。しっかりと雪原さんに伝えないと。
私はゆっくりと呼吸をして心を落ち着けていた……




