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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
3年生編①
160/171

160話 初芽〔1〕

放課後の校庭の風景を私はじっと眺めていた。あの時と同じように。


「……」


あの時と同じことをしているが、気持ちは沈んでいなかった。むしろよくわからないくらいに高揚していた。


「まだかしらね……」


私は生徒会室で柊くんを待っていた。理由はもちろん2人で話をするためだ。


まだ確信に変わっていないこの気持ちを確かめるために……


部屋の時計をちらりと見る。彼はまだ来ない。


彼のことだ、今頃ティタニアさんや雪原さんとなにか話しているのだろう。いや、もしかしたら他の人と話をしているのだろうか。


そう考えるとなんだか寂しくなる。心はざわついて五月蝿いぐらいだ。


「蒼、来たよ」


不意に彼の声がして体がビクッとなる。素早く声のする方に顔を向けると、いつもの彼が立っていた。


「来てくれてありがとう、2人だけで話がしたくて呼んだの。なにから……話したものかしらね」


いつもとは違う緊張感に思考は鈍くなる。


私は紡ぐ言葉を考えているうちに、自然と昨日のことを考えていた……



「蒼、今なにやってるの? 」


私が勉強をしているところに姉がお菓子を持ってやって来た。


「勉強中だけど、なにか用なの? 」


私は問題集から目を離して姉に問いかける。


「ちょっと話でもしない? 休憩も兼ねて」


断ろうかとも思ったが、休憩にちょうどいい時間なのと、姉からの好意を無駄にするのは気が引けたので、問題集を閉じた。


「最近学校はどお? 楽しくやれてる? 」


姉はココアを渡すと、優しく問いかけてくる。


「別に……普通かしら」


「そっか、じゃあ生徒会は? 今どんなことやってるの? 」


「……今は秋の体育祭の準備をしているわ。柊くんのおかけで当日のプログラムや配置についてはスムーズに決まったわ」


「そっかそっか。柊くんとは他になにかないの? 」


私がココアを飲もうとしていた手が止まる。それと同時に姉のことを睨みつける。


「なんでそんなこと聞くの? 別に柊くんとは普通の関係よ」


「世間一般の普通じゃないでしょそれ」


「どういうことよ……? 」


姉は少し笑って口を開く。


「だって最近柊くんの話が多いから。無意識みたいだけど、たくさん話してたよ」


「別に……それは生徒会で関わるのだし当然でしょ」


「柊くんが同じ大学志望ってわかった時、蒼口角上がってたよ。珍しく」


「それに、」っと姉は続ける。


「たまたま見ちゃったんだけど、自習用のノートに柊くん用の解説作ってたよね? あれはどう説明するの? 」


「同じ大学受けるみたいだし、教えてくれって頼まれたし、それは普通でしょ。それに、ティタニアさんの分も作ってたし」


私がいくら反論しても、姉は笑みを崩さない。


「確かに他の人のも作ってたけど、柊くんの分だけやたら凝ってて量も多かったように思えたんだけど? 」


「それは気のせいよ」


こういう話をしているせいなのか、いつもよりもココアが甘く感じてしまった。


「蒼、素直になっていいんだよ? 卒業式から思ってたけど、あなたの柊くんに対する気持ちは多分恋だと思うよ」


姉からのその指摘を受けた瞬間、胸がズキズキ痛くなる。


自分でも前に思った……だけの冗談のような気持ちが、この瞬間は一気に現実味を帯びてしまった。


「まずは心の整理をつけてみなさい。そして、それでも恋だって思ったら、ちゃんと伝えなさい」


姉は優しい笑みと声色でアドバイスをくれる。


「それは無理よ……」


私は弱々しく首を横に振る。痛みの正体はなんとなくわかる。


「彼には恋人がいるわ。私なんかよりも素敵な人が。伝える意味はない……むしろマイナスよ」


遅すぎたことへの後悔だ。あの時微かに抱いた憧れが、多すぎるほど抱いた嫉妬が、その一部が変化した嫌悪が……好意に変わった。


もっと早ければ、あの瞬間がもっと早ければこの気持ちは伝えられただろうか……


「そんなことないよ……」


一瞬でたくさんの痛い気持ちと向き合った私を姉は優しく抱きしめる。


「そんなことないよ……その気持ちを伝えることがマイナスだなんて……そんなわけないよ」


姉の声は少し震えていて、私の気持ちを察してくれているのがわかる。


「たとえ柊くんに恋人がいたとしても、蒼がその気持ちを伝えちゃいけないなんてことはないよ。

確かに駄目なことなんだろうけどさ、でもそれをして一番辛いのは蒼でしょ?

煮え切らない想いを抱えたまま前に向ける? その気持ちを引きづったまま進み続けちゃうよきっと……

だから……伝えよう? あなたの初恋を棘の刺さったままで終わらせないためにも。痛かったのも辛かったのも全部私が聞くから……」


私はぎゅっと姉を抱きしめて答える。姉は私の分まで泣いてくれた……


その後、目を真っ赤にした姉は涙ぐんだ声で「頑張ってね……」と言うと、自分の部屋に帰って行った。自分で持ってきたお菓子とココアの片付けも忘れて。


私は姉の代わりにそれを片付けると、すぐに布団に入った。


が、どうしても眠れない。眠れないので、一旦自分の気持ちを整理して彼のことを考えてみる。


……心拍数が多少早くなるのを感じた。


それと同時に体が軽くなる感覚を覚え、不思議な気持ちになる。


「これが恋なのかしら……」


暗い天井をじっと見るが答えなど出そうにもなかった。それなのにいつまでも考えてしまっていた。


この日の夜は案の定、あまり眠ることができなかった……

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