152話 信頼
あの時の感覚をまた思い出してしまった。
みんなの期待に応えられなくて、なにかが崩れて身体の力が抜ける……そんな感覚。
完全に僕のせいで形勢逆転してしまった……速攻が使えなくてもせめてフェイクとしてはやるべきだった。
でも……いざ助走に入ろうとするとあの時の感覚が強く足を引っ張る。
「お前はどうせ役に立てない」、そんな言葉を自分に失望した自分が口に出す。
「入りとしては悪くないんじゃないか? 」
僕が暗い顔をしていると、和人先輩が声をかけてくる。
「変な励ましはやめてください……僕は相手を調子づけるきっかけを作ってしまった」
「それはそうかもだけど、ちゃんとプレーできてるじゃん。何ヶ月もバレーから離れていたのにちゃんと戦力になってるよ鷹峰は」
「いえ……そんなことは……」
この結果を見て戦力になってるとは言えないだろう。僕が入ってなかったらストレートで勝ったかもしれない。
「はぁ……背負い込みすぎ」
先輩はこちらをじっと見つめる。僕の視線も先輩に吸い寄せられる。
「個人競技じゃないんだよ、だから自分のせいだなんて思うな。チーム全体のせいだよ」
「うわ、柊手厳しいな。バレー部じゃないのに」
「後輩に対してのフォロー不足は事実だし、そこは改善しないとだろ? 次のセットの後半、出るからな、よろしく」
「よかったな鷹峰、一番下手な奴が次出るぞ」
他の部員と先輩は1セット落としたというのに明るかった。いや、僕が考えすぎなのか……
次のセットどう戦うか考えないと……
3セット目が始まる直前、俺は鷹峰に声をかける。
「俺が出た時は俺を信じてほしい」
鷹峰は意味を汲み取れていないのか、首を傾げる。
「えっと、もちろんです」
「じゃっ、思いっきりやってこい」
後輩の背中を叩いて送り出す。後はプレーで押すしかないな。
3セット目が始まった。勢いに乗っている星稜に対して、柏崎は落ち着いて対応する。
「うちの奴らはちゃんと対応できるからな。びっくりタイムは終わりだ」
監督の言う通り、相手の直観的な行動にもしっかりと対応する。
そのお陰か、ややこちらのリードで試合が進む。
「柊、そろそろ行くぞ。22からでいいか? 」
「3点分の時間貰えるならありがたいです。本来なら2点分の時間で何とかしようとしてましたし」
俺はウォームアップをしながら試合を見る。できるだけ足を引っ張らないようにしないと。
そして、先にこちらが22点に乗った。それと同時に選手の交代が行われる。
「はい頼むぞ」
「了解」
俺はやや緊張しながらもコートに入っていく。
「とりあえずレシーブミスるなよ。トスは多少ズレても大丈夫だからな」
「善処するよ」
確かに相手のスパイクを拾えないのが不味い。て言っても今はセッターだし、そんな場面はそこまでないと思いたいけど。
「あっ、そうだ鷹峰」
「どうしました? 」
俺は鷹峰を呼び近くに来てもらう。
「えーっとだな、今の状況から早くて3点で試合終わるだろ? だから監督から3点だけ貰った。上手く行けば試合は終わるけど、多分終わらない。
俺はこの3点をお前の背中を押すのに使うからな」
「えっと、それって……」
「やればわかるよ。とりあえず信じてくれていい……俺だって信じてるからな」
話が終わると配置に着く。
今俺は後衛、てことは前衛3枚使えるのか。今の状況からすると関係ないけど……
俺は他のメンバーにハンドサインを送る。どの攻撃に入ってもらうのかを指示すると、鷹峰は驚いた顔をする。
その顔になるのは想定内。後は入ってくれるかだな。
こちらのサーブからプレーが始まる。
相手はしっかりとレシーブすると、速い攻撃に繋げてくる。そこはしっかりと俺以外が対応する。
「ナイスレシーブ! 」
俺は素早くボールの落下点に入ると、トスを上げる。
速攻に使う速さのトスを鷹峰へと送る。だが、鷹峰は飛べない。
ボールはそのまま床に落ちて、相手チームのポイントになる。
「すみません! 」
「大丈夫、惜しかったよ」
俺は鷹峰に駆け寄って声をかける。
そして、もう一回同じサインを目の前で出す。
「うわ……鬼畜……」
「本気ですか……? 」
「本気だよ、これしかやらない。今ので相手もぎょっとしただろうけど、これで鷹峰の速攻はないって判断しただろうな。でもむしろ打ちやすくなったから大丈夫」
「いや、でも僕には速攻は……」
「打てるって俺は信じてる。余計なことは考えなくていいよ」
俺から伝えられる言葉なんてこれくらいしかない。
賭けではあるけど、今はこれくらいしかできない。このイップスは荒療治じゃないと多分治らないだろう。
頼むから、応えてくれよ……




