149話 小休憩
それから俺は千華に教えを受けながらバレーに励んでいった。
基本のプレーに慣れてきたら複雑なプレーを混ぜていく。少しでも鷹峰の力になれるようにできることを増やしていく。
「お疲れ様」
今日もたくさん練習して下校の時間になった。千華から差し出されたドリンクを受け取って飲む。
「千華もありがとな。毎日付き合ってくれて」
「私にはこんなことしかできないんだしいいのよ。後輩の為にもなってるみたいだしね」
かなり上達してきたが、千華の協力がなければここまでこられなかったと思う。
「お疲れ様です和人先輩」
鷹峰はあの後、部活の見学の為に体育館をなんども訪れており、そのことでなぜかバレー部部長から感謝された。
鷹峰はほぼ自分で前を向いただけなんだけどな……
「鷹峰くんに柊、少し話があるんだがいいか? 」
帰る準備をしていると、バレー部部長の石原に話しかけられる。
「どうしたんだ? 」
「実は来週末に練習試合をすることになったんだが、鷹峰くんに出てもらえないかと思ってね」
「急すぎないか? 鷹峰はまだ見学の段階だし、プレーさせるのは反対だ」
どのくらい動けるのかわからない中で練習試合は酷だと思った。飛べない可能性もあるわけだし。
「……いえ、僕はやってみたいです」
鷹峰の口からは意外にも「やってみたい」が出てきていた。
「ほんとに大丈夫か? 無理はしなくていいぞ」
「いえ、無理はしてないです。ただ、和人先輩のバレーをしてる姿を見て、僕も無性にバレーをやりたくなってしまったんです」
鷹峰の奴、ほんとにバレーが好きなんだな……
「わかった、じゃあ参加するってことでいいか」
「ありがとう! よーし、そうと決まったら明日から一緒に練習しよう!! 」
「ええと……お手柔らかにお願いします……」
目をキラキラ輝かせる石原に若干引き気味の鷹峰。というか俺も練習試合出れるのかな……
「お疲れ様です」
帰りの支度が済むと、3人で駅まで歩く。
「今日も疲れたな……今日はバイトがなくてよかった……」
「先輩ってなんだか大変そうですよね。バイトって何個ぐらいかけ持ちしてるんですか? 」
「うーん……主なやつは2つだな。居酒屋と家庭教師」
「家庭教師はまだ続けてたのね。確か友恵ちゃん中学生になったわよね? 」
「いや……なったんだけどさ、本人から『まだまだ教えてください』って言われちゃって。それで続けてるんだよね」
友恵ちゃんのことを話すと千華の視線が冷たくなる。なんか不味いこと言ったかな。
「少しは警戒しなさいよ……その子に好かれてるんでしょ? 」
「好かれてはいるけど強引なことはしない子だから……」
「それで襲われたらどうするのよ!? こっちの身にもなりなさいよ! 」
千華の一喝に萎縮する。返す言葉もない。
「はぁ……この女難の相持ちの彼氏どうしたらいいのかしら……」
「いや、女難の相は言い過ぎでは? 」
「いや普通何人もの人間からアプローチとか貰わないから。特に彼女持ちなのに」
「和人先輩を見てると時々羨ましくなりますね。たくさんモテてるのいいなってなります」
「ほら、後輩もこう言ってる。モテすぎだと女難の相よ普通に」
そういうものだろうか……より気をつけた方がいいんだろうな。
「あっ、僕はこっちの方向なので、先輩方お疲れ様です」
「うん、お疲れ。気をつけてな」
いつの間にか駅まで着いており、鷹峰と別れる。
そして電車に乗って家まで帰っていく。
「先輩、おかえりなさい」
家に帰ると、アンヘルが笑顔で出迎えてくれる。
「ごはんは作っておきました。姉さんたちは先に食べているのでお2人もどうぞ」
「いつもありがとなアンヘル」
俺はアンヘルの頭を軽く撫でる。アンヘルはとても嬉しそうにしている。
「……そういうことやめなさいよ! 」
「えっ、あっごめん! 」
千華が少しの間をとってアンヘルを撫でる手を掴み取る。
「いいじゃないですか、ご褒美貰うくらい」
アンヘルは不服そうに千華を見つめる。
千華は警戒心MAXでアンヘルを見つめる。
「まず和人は私の彼氏なんだから、こういうのは咎めて当然でしょ! ご褒美なら他のにしなさい! 」
「じゃあキスとかでいいですよ? 」
「悪化してるじゃない! 」
「えっと……2人ともとりあえずごはん食べないか? ずっと玄関にいるのもあれだし」
2人を宥めようとするのだが、段々とヒートアップしてきてしまった。
「千華さん、私だって本気なんです。本気のアプローチに先輩の何気ない行動で応えてほしいんですよ私は 」
「それやられると心配になるのよ! ていうか不公平! 」
「じゃあ千華さんもやってもらったらどうですか? 」
……これは話しかけても聞こえないやつだな。少々心苦しいけど先にごはん食べていよう。
「あれ、和人くんアンヘルはどうしたんですか? 」
「千華と揉めてる」
「あー和人も大変だね〜」
事情を察した葉月がニヤニヤしながらこちらを見てくる。ちょっとムカつくなこいつ。
「アンヘルも千華ちゃんもどっちも和人くんのことが大好きですからね。どっちも譲れないんでしょうね」
「ほんとティタニアの言う通りだね。ちゃんとそこはわかった上で接しないと駄目だぞ」
「わかってるよ……」
自分は重い立場にあるんだなと、改めて実感した今日の日だった。
ちなみに、千華とアンヘルの口論は割と長く続いた。




