146話 恐れ
特別号が出てから数日が経った。
俺は色んな派閥の人間からいつも以上に敵視され、関係あるかわからないがこちらに向く視線が増えた気がする。
鷹峰の方も予想通りの展開になった。
連日熱心な勧誘を受けているようで、本人はとても疲れているようだ。
こんなのがいつまで続くのかわからないが、鷹峰の方は早く収めた方がいいだろう。
「大丈夫か……」
そして現在、鷹峰と一緒に中庭のベンチで休んでいた。
「まぁ……はい……ちょっとびっくりしただけなので大丈夫です」
その言葉を吐きながらも疲れた顔をする鷹峰。連日バレー部の生徒から熱烈なアプローチされてるんだから無理もないか。
「ほんとに困ったら今の部活に忙しいって言っとけ。バレー以外のことをしたいって言っておけば諦めるかもしれない」
「そうですね、諦めるかは怪しいですけどやってみます」
なにげない受け答えをしながらも、鷹峰はこちらをじっと見てなにか言いたげだ。どうしたんだろう……?
「……なにも聞かないんですね」
「どうしてバレー部に入らないのかってことか? 」
「まぁはい……」
鷹峰がバレーの凄い選手ってことを知ってたら確かに聞くな。本人としても突っ込まれると思ってたんだろう。
「聞かないよ。だって、鷹峰の顔を見たら安易に踏み込んじゃいけないことがわかるし」
「そんな深刻ですか? クラスの人は結構聞いてくるんですけど」
「俺も苦い過去があるからわかりやすいってだけだよ。鷹峰は多分上手く隠せてると思うよ。最初に会った時以外は」
最初に会った時からバレーのことは聞くべきじゃないってわかっていた。彼も同じキズを持っているんだろうと。だから聞かなかった。
「そうですか……」
「まぁだから無理に話す必要ないよ。いつか心の整理がついたら話してくれればいい」
こういう問題は焦ったら駄目だ。ゆっくりゆっくり解決に向かっていくしかない。
「……えと、先輩が苦い過去を経験してるなら話してもいいです。というか聞いてほしいくらいです」
「いいのか? あの時の顔からして深刻そうだけど」
「問題ないです、話します」
覚悟を決めた鷹峰の顔は真剣そのものだった。まさかこんなに早く聞くことになるとは……ちょっとびっくりだ。
「なにから話せばいいのか迷いますけど……僕は中学の頃エースでした。小学生の頃から続けてきたバレーで大事な場面を多く任せられる状況になって、ヒヤヒヤすることもあったけどみんなの期待に応えられていて楽しかった……
自分がエースである自覚を持つようになってから、よりバレーに熱中することができて実力もメキメキ伸びていったと思います。
そして、中学最後の大会で全国大会まで進むことができました。あの時はとても嬉しくて楽しかった」
真上の空を見つめながら語り始める。俺はなにも言わずにただ黙って聞く。
「でも、そんな気持ちはすぐに離れていきました。全国の相手はみんな上手くて、苦しい戦いを強いられました。
当然僕はマークされて、思うように決められなくて……ついにはあと1点で負けてしまうところまで追い込まれました」
彼の視線はどんどん下に下がっていく。本人も辛くなってきたんだろうな。
「そして、最後に僕にトスが上がりました。みんなの最後の期待の乗ったあのトスを僕は……決めきることができなかった。
その時ですかね……バレーが怖くなってしまったのは。今までできたプレーができなくなって、自分にトスが上がると足がすくんでしまうようになってしまいました……」
「そっか……そんなことが……」
イップスってやつか。あとは、精神的なものも。
これは前に進ませるのがとても難しい。言葉だけじゃどうにも効果が薄いし……
「きっかけは小さいです。たったワンプレーでのミスです。でもそれが僕にはどうも大きく感じてしまいました」
「全国大会だったし、そうなっちゃうのはしょうがない気がする。鷹峰は人一倍誰かの期待に応えたかったんだろうし」
俺には鷹峰のような経験がない。大きな舞台でプレッシャーに晒された経験も、そこで期待に応えられなかった自分に失望した経験もない。
「だからさ、そんなに辛いならバレーから遠ざかってもいいと思う。
鷹峰がバレーを好きかどうかはわからないけど、好きでも嫌いでも続けて辛いなら一旦休憩していいと思う。それで、またやりたくなったら再開すればいいよ」
だから俺にはこんなことしか言えない。これはバレーを知る必要があるな……
「だから勧誘は断っていいよ。しつこかったら俺を呼べ、無理矢理にでも断る」
「……あはは、そうですね、まずは一旦休憩してみます」
鷹峰は少し考えた後にそう告げた。
よし、鷹峰が休憩してる間に俺は俺で行動しよう。まずは千華に頼んでみるか……




