144話 特別号〔2〕
購買にたどり着くと、そこはいつもとは違う空気をはらんでいた。
購買の横に設営された特別号の販売コーナー。その前に並ぶ多くの生徒たち。
「なんですかあれ? 」
「発売を待ってる奴らだ。ちなみに整理券が発行されてるのに、ある程度後ろの並んでる奴らの番号ごちゃごちゃだぞ」
「なるほど……整理券の意味が薄れますね」
並んでいる生徒たちに目を向けると、皆そわそわしておりしきりに時間を確認していた。
今は12時40分前、発売開始までもう少しだ。
「さて、早くお昼買って教室に戻った方がいいぞ。直に荒れる」
「えぇ……整理券とグループ分けで順番を決めているはずですよね? どうしてそうなるんですか? 」
鷹峰の疑問は最もだと思う。でもそうもいかないことを去年、一昨年で知っている。
「それでは時間になりましたので、柏便り特別号の販売を始めたいと思います! 」
新聞部の生徒がそう告げた途端、並んでいた生徒たちの目の色が変わる。
「「うおぉぉぉぉ!! 」」
「俺が一番の漢だ! 」
一番前に並んでいた男子が叫びながら特別号を掲げる。
そして列の後ろに並んでいた生徒がそれを奪い取ろうと襲ってくる。
「いや、どういうことですかこれ!? 」
「なぜだかこいつら他の生徒から奪おうとするんだよな。頼むから大人しく待ってくれって思うんだけど」
一気に購買の周りが荒れる。次々と買われる特別号、そしてそれを奪い取ろうとする整理券の番号が後ろの生徒。
待ってれば買えるんだから大人しくしててくれ……
「はいはい大人しくしてください生徒会です」
俺は近くで暴れていた男子生徒を腕を掴んで注意する。その場にいた風紀委員の生徒たちも暴れる生徒を取り押さえていく。
「柊てめぇ……いつもいつもいい思いしやがって! 一回死ね!! 」
「なに、柊だと!! 」
俺の存在を認知した途端、その生徒含め複数の生徒が標的をなぜか俺に変えてきた。
「なんでそこだけ団結してくるんだよ!? 」
「「理由は簡単羨ましいから!! 」」
俺は相手に極力怪我をさせないように気をつけながら無力化していく。
転ばせていなして風紀委員の時間をかせぐ。というか理由が酷いな。
「俺たちも参戦するぜ!! 」
「なんかまた増えた!? 」
なぜかこちらの方に敵がなだれ込んでくる。もうこいつらの考えよくわからん。
「流石に多すぎるしプランBだ」
予め蒼と立てていた作戦を決行する。
俺はとりあえず廊下だと危ないので外に出てグラウンドまで走る。
「逃がすなー! 」
「追え追えー! 」
その後ろを当たり前のように追いかけてくる男子たち。いやもう大人しく特別号買ってくれ。
グラウンドまでの道中まで行くと見知った顔が大勢の風紀委員と一緒に待ち構えていた。
「あと任せた」
「えぇ、じゃあ終わらせて」
「「嵌められた!!! 」」
俺を追いかけて来た男子たちは、もれなく全員風紀委員に捕まる。
「ご苦労さま。後は販売所だけど、そこはさっき収まったみたい」
蒼は手に持ったスマホを見せる。そういえば元風紀委員だし、連絡の取り合いもスムーズなんだよな。
「とりあえずこれで半分だな……」
「えぇそうね。また放課後に変なことになるだろうし、もう一回囮よろしく」
「はいはい……」
目に入っただけで絡まれたもんなんだよなあれ。
「おぉ、ここにいたか和人! 」
この声はと思い振り返ると、やっぱり朧月がいた。
「君はもう特別号を見たか? いや〜3年目で傑作ができて僕も嬉しいよ。あっちなみにこれ、色々特典付きの特別号なんだけど和人にあげよう。
楽しんでくれ!! 」
そう言って渡されたのはよくわからない特典の付いた特別号だった。なんだこのCD……
「ちなみにそのCDは今回の全ての取材で得た音声データだ」
「いらんわ!! 」
すっごい変なの押し付けられた。後でデータ消すか。
「じゃあ僕はこれで。フハハ、」
「逃がすわけないでしょあなたを」
「は……? 」
朧月の肩に手を置いたのは、ゴミを見るような目つきをした蒼だった。
「こいつもついでに連れてって。またもや主犯だしきっちり絞りましょう」
「了解! 」
蒼の言葉に嬉々として応える風紀委員たち。まぁこうなるよな……
「えっちょっと待って……これから僕は一体なにをされるんだ? ちょっと和人、見てないで助けて!! 」
「一回ほんとに反省してくれ……」
「くっくそーーー!!! 」
抵抗しながらも風紀委員に引きずられていく朧月。次会う時は少しでいいから人の話を聞いてくれますように……
「ふぅ、清々したわ。で、その本だけど……」
「欲しいならあげるけど? 」
「いえ、流石にいらないわ。検閲はしてるから大丈夫だと思うけど一応見せて」
断る理由もないので蒼に本を渡す。
「……問題ないわね。いえ問題だらけだけど……」
「とりあえず検閲内容と一緒みたいだな」
でも変なことたくさん載ってるみたいだ。
「はぁ……変なのは彼の性格上仕方ないとしても、どうしてこの表紙が私なのよ……」
この特別号、表紙は蒼の写真が使われているのだ。
「生徒会長なんだし代表ってことなんじゃない? 確か耀音さんも2年前のやつには表紙かざってた気がする」
「でも去年は緋色さんじゃなかった? 人気ある人間を置いてるみたいだし、私じゃなくてもいい気がするけど」
「普通に蒼って綺麗だし人気出ると思うよ。というか今はもう出てると思う」
「……」
蒼がジト目でこちらを見て黙り込む。なんか不味いこと言ったか……
「はぁ……柊くんってほんとアホよね」
「えっ……」
「いや、この場合は言ってない私もアホか……」
蒼はブツブツとなにかを言いながら考え込んでしまった。急にどうしたんだろう。
「……まぁいいわ。さっ、お昼を取らなきゃだから解散しましょ」
「あぁ、そうだな……」
「私は生徒会室で食べてるから、なにかあったら来なさい。じゃあ放課後もよろしく」
そう言って蒼は足早に去っていった。結局あの言葉の意図がわからないままなんだけど。
「……とりあえず部室行くか」
このまま考えても結論が出ないので、一旦頭の隅に置いておくことにした。
それよりも放課後のこと考えなくちゃ……




