135話 謎少女
2年生が終わり、次はいよいよ3年生となった。
4月、桜が咲き誇るいい季節。明日から3年生として学校生活が始まる。
今日は、千華と一緒に家から徒歩15分の距離にある商店街を歩いている。
始まってすぐに入学式や部活動の勧誘など、忙しく動くことになるので、今日はデートをして充電することにした。
「それにしても、ここの商店街って賑わってるわね」
千華の言葉に俺は反応する。
「あぁ、うちの商店街は歴史としては長いし、常連も多いからな。あとは結構サービスもしてくれるし」
俺自身もここで買い物することは結構ある。
また、母さんの知り合いが多いので、たまに短期のバイトをすることもある。
「おー和人、今日は彼女とデートかい? お熱いね〜」
「こらあんた、和人ちゃんをからかうんじゃないの!! ごめんね和人ちゃん、今度野菜サービスするから」
「あーいえ、お構いなく」
よく知る八百屋さんの夫妻に話しかけられる。この2人とは昔から母さんの付き添いで接点がある。
「知り合い多いのね」
「昔から母さんと一緒に買い物に来てたからな。その分話したりしたんだよ」
母さんは人に好かれやすい性格なので、そこに俺も引っ張られた形だ。あの頃が懐かしいな……
「あれ……? 」
俺がふと見た場所には、知らない店があった。
その建物は2階建てで、1階の揚げ物屋さんは知っていたが、2階に万事屋ができたのは看板を見て知った。
「こんなところに新しい店ができてたんだな」
「万事屋なのね。気になるなら入ってみる? 」
千華の言葉に俺は頷いた。少なくとも3月まではなかったし、そんな店ができるなんて聞いたことなかった。
なにか怪しい……
俺たちは階段を上がってすぐの扉を開ける。中は清潔感のあるオフィス空間だった。
簡素なテーブルとソファが部屋の中央部に置いてあり、その奥には豪華なデスクとイスがある。
「おーお客か」
高そうなイスにもたれかかった人物がこちらを見て立ち上がる。
その人物は、幼い印象の顔立ちにボサボサの銀髪の少女だった。丈のあっていないパーカーを着ているせいで、手が袖から出ていなかった。
歳は俺よりも2個ぐらいしただろうか……
「いらっしゃい、とりあえず座れ。茶は出してやる」
その少女は手招きしてソファに座るように促す。なんというか、すぐに帰るのは失礼なので、ひとまず話でもしようと座る。
「俺は銀千聖、最近ここで万事屋をやり始めた。金さえ積めば基本的になんでもやるぞ。まぁ、一線踏み越えた依頼は考えるが」
千聖と名乗った人物はそう語る。なんか……色々経緯とか聞きたいな。
「えっと、一応聞きたいんですけど歳は? 」
「んっ? 15だぞ、今年16だ」
「で、学校は? 」
「行ってない」
これどうすればいいんだろう。親とかに連絡入れた方がいいのか?
「見たとこあんたらの方が年上だし、ため口でいいぞ。まぁ、俺も敬語使わないけど」
「そういうのはどうでもいいんだよ。なんでこんなとこで店開いてんだ未成年が! 親とかはどうした!? 」
「親はいないぞ。仮にいたとしても外国だしな」
一体どういう経緯で来たんだこの子。ふと隣を見ると、千華も目を白黒させている。
「ちょっと副業で始めてみたんだ、なにか困ってることがあるなら聞くぞ」
「本業なんだよ……」
「んー秘密だ。言ったら上の奴に怒られる」
謎だ……
「で、なんか困ってることないのかよ。大抵のことはすぐに解決してやるぜ」
「て言われてもな……」
最近困っていることはないのでなにを相談すればいいのか……あっそういえば一つあったな。でもあれを相談してもいいものなのかどうか……
「話を聞くだけならタダだからなにか言ってくれ。まだ開業したばかりだから客が全然来ないんだ」
つまらなそうにする千聖。そのままソファに横たわってしまった。
「うんじゃあ一応言ってみるけど……約2ヶ月前、こんなのが届いたんだ」
俺は千聖にスマホの画面を見せる。
見せたのは葉月の件で動いている時に突如送られてきたメールだった。
「ふーん……これ単純な暗号が重なってるタイプじゃねーか? 法則を見つけるのに時間がかかりそうだけどよ、見つければすぐだと思うぜ」
千聖はソファから身体を起こしてスマホの画面を見る。
「それの解読、やってもいいぜ。あんたが望むのならな」
「ただの悪戯のせんもあるけど……」と続ける。
「そういう部分もあるから、俺は頼まないつもりだよ。でも、」
俺は少しだけ千聖に期待する。まだ開業したばかりで未知数だけど、さっきの反応はよかったと思う。
「ある人物の捜索、できるんだったら頼みたい」
俺は前のめりになって千聖の目を見る。彼女は目を見開いて口元を緩ませる。
「いいぜ、なんでも頼んでみろよ」
そう言う彼女の顔は新しい玩具を買ってもらった子どもの様だった。




